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02

ヘルグレーン公爵家とハルネス侯爵家という上位貴族同士の婚姻は、互いの権威や財力を見せつける様に豪華に盛大に執り行われた。


宣誓式を執り行う大聖堂での誓いの婚姻は王家が主で、その次に高位である公爵家は四家しかないことで、この十年の間だけでも一度程度しか使われていない。

殆どは年に二度ある実りを祈祷する豊穣祭、実りに感謝を捧げる収穫祭を教会主催で行う時に使用されるくらいなのだ。

この大聖堂での婚姻の誓いは貴族の中でも特に高位でなければ婚姻式は挙げられないということだ。


今回はヘルグレーン公爵の跡取りと、侯爵家の中でも一際資産を持つハルネス侯爵家の令嬢イルヴァ・ハルネスとの式という事で、権力と莫大な財力での根回しで、婚約から三ヶ月で婚姻式という異例の速さであった。


――――静謐で神聖な空気に満ちた大聖堂は、招待を受けた貴族達でひしめいていた。

ヘルグレーン公爵家嫡男であり跡取りでもある、アンドレ・ヘルグレーンは見目麗しい姿を白い礼装に包み、花嫁の瞳と同じ金色を襟元と袖口に刺繍を施し、それがアクセントとなっている。


花嫁も白い華やかな純白のプリンセスラインのドレスに身を包み、身につける装飾品は文句の付けようもない程に豪華だ。

公爵家に代々受け継がれたブルーサファイアの大きなネックレスが首元でキラキラと存在を主張する。

イルヴァの頭上に輝くティアラも同じく公爵家のブルーサファイアのティアラだ。

「イルヴァ侯爵令嬢は公爵家に望まれて嫁いできたのだ」と内外に示された。


現世では結婚式に指輪交換をする慣習はない。

教会で誓いの言葉を述べ、婚姻証明書へ互いにサインをし、誓いの口づけで婚姻が成立する。


指輪交換の慣習はない・・・今までの転生者はそういう方面には気を回さなかったようだ。

下手に新しい事をすると目をつけられるかもしれない・・・が、もうイルヴァは子供ではない。

まして公爵家に嫁いだのだ、探りを入れて怪しんだとしても、どうにも出来ないだろう。


アンドレと前世のように指輪交換がしたかったイルヴァ。

そこでイルヴァは、普段会話など必要にかられない限り一切しない父に、商売のチャンスをぶら下げて、実家の侯爵家が営むハルネス商会を使い前世の様に結婚式で使う結婚指輪をアンドレの分と一緒に作って貰った。

アンドレの瞳の色のグレーダイヤモンドとイエローダイヤモンドを、プラチナリングに対の様に並べたシンプルな指輪だ。

――――後にこれがハルネス商会に莫大な利益をもたらすのだが、それは別のお話。


イルヴァは喜び勇んでアンドレに話した。

「私達の結婚式で指輪交換なる儀式をしたいのです。特別な指輪です。アンドレ様是非お願い出来ませんか?」と。アンドレは喜んで快諾してくれた。



教会で誓いの言葉を宣誓し、婚姻証明書にサインをする。

ハルネス商会に作らせた、指輪をそれぞれが左手の薬指に嵌め合うと、誓いの口づけを交わした。

前世からすると久しぶりで、現世では初めての口づけでは、緊張でプルプルと唇が震えてしまった。


唇を軽く触れる程度の優しい口づけの後、アンドレ様は、私の震える唇と頬を安心させる様にスッと撫で、

「大丈夫だよ。披露宴前に一度衣装替えの時間がある。

少し多めに時間を取っておいたから、心が落ち着くハーブティーを飲んでから、ゆっくり準備しておいで。」

とおっしゃってくれたのだった。


思いやりに溢れた言葉を貰い、私はきっとこの人に恋するのだろうと思ったのだ。


あの時の貴方は幻だったとでもいうのだろうか。



初夜の夜、長い披露宴に疲れた私にアンドレ様はこう言った。


「今日はとても疲れているだろうから、このまま眠ろう。初夜だけど、何も行為をすることだけが夫婦ではない。まだ婚約から三ヶ月の私達は、お互いに知らないことも多いだろう。ゆっくり進めて行きたい。ゆくゆくは愛し愛される夫婦になりたいのだよ。」


私を胸に引き寄せて優しく抱きしめるアンドレ様。

私の下ろした腰まである長い黒髪を優しく梳きながら、囁くように「私と同じ黒髪でも、君の方の髪の方が青みがかっていて艷やかで綺麗だな。」と褒めてくれた。


寝室は愛の予感に満ちていて、私達はまだ始まったばかりなのだから、ゆっくり進もうというアンドレ様の提案に賛成したのだった。



今となっては「最初から私とする気だったのですか?」なのだけれど・・・

あの時の私は幸せに包まれていて、その幸せが増えることはあっても、なくなることなどないと思っていた。

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