19 リュック・コルトー、転生者管理室の室長。
俺はリュック・コルトー、転生者管理室の室長だ。
名の通り転生者を“管理”する事を仕事にしている。
転生者とは『30年周期でこの世界に生まれ、異世界の前世の記憶を持つ者』の事だ。
異世界の記憶を持つが故に重宝されるのだ。
発展した文明の知識をこの世界にもたらす事で、生まれ落ちた国に貢献してきた。
その転生者が生まれる歴史は、一番古いもので百年前から始まっている。
転生者関連が記された史実の多くは、転生者の素晴らしい知識と貢献は国を栄華へと導いたと締めくくられる。
転生者が所持する前世の異世界の記憶。
異世界にも国名や転生者が生きていた時代がある。
そこは想像もつかない様な高度な文明を持つ場合もあれば、この世界とそんなに大差の無い時もある。
食に貢献する記憶であったり、生活に便利な道具だったり、様々だ。
生まれる転生者の数はそんなに多くはない。
周期は大体判明しているが、生まれた全員が名乗り出る訳でもない。
赤子の時から記憶を所持している場合もあるが、大人になって思い出すケースも他国では確認されている。
転生者は生まれた国で大切に保護され、かなりの厚遇を受ける。
銀のスプーンを持って生まれたと言われるくらいだ。
公にはされていないが、所持している記憶の有用性によっても扱いは変わる。
この世界と大差ない文明の記憶を持っていても、そこまで重宝はされない。
しかし、同じ文明でも有用な知識は所持している場合もある。
そういう場合は、国が平民であっても文官として雇う。
そう“俺”みたいに。
俺は地球のフランスという国の、ここと変わらない文明時代に生まれた。
貴族階級に属していた。今と変わらない前世だ。
何故、転生者だと理解したのかと言えば、幼い頃に既にその記憶があったから。
家庭教師にまず習う事といえば、貴族制度の話からだが、次に習うのが転生者についてだしな。
ああ俺は転生者かも知れないな。ってすぐ思ったぞ。
おまけに自分の体は何もかも幼児サイズで小さいのに、頭の中身には成人男性の記憶もある。
おかしな気分だった。
それを母親に言ってしまったのが転生者としての始まり。
デポー伯爵家の次男に生まれ、転生の記憶を三才の時に思い出した。
母親に話してしまった後、母親は大喜びした。
転生者を持つ家には褒賞金が出る。
王家の使いが来るまで、宝物の様に扱われたよ。
「貴方は特別なのよ。家の為に有益な知識で国に貢献するの。いいわね?」
もうすぐ四才になる俺にそう言った。
母親の皮を被った強欲な生き物だ。なんて女だと思った。
――――まぁ中身は前世含めたら24才になるが、そこはご愛嬌。
そこから有用な知識が無い事が判明し、母親には罵倒された。
「転生者だなんてウソを私についたのね!何て恥知らずなのかしら。褒賞金も支払われないらしいわ。お父様も恥ずかしくて家にお前を戻せないって言っていたわ。貴方はね、勘当よ。」
もう悪魔の家になど戻りたくなかったし、どちらにしても国が帰さないのは分かっていた。
上手く誘導されたんだろうな、親は。
ウソをついていた子供だ、このままだと貴方達は偽証罪で捕まる。
どうする…?この子と関係が無いなら今の内に縁を切る事を勧める。
とまあ、これに近い事でも言われたんだろう。
転生者では無いはずなのに、国が子供を引き取ってやるっておかしいと思わないんだろうな。
頭の弱い奴らだったんだろう。
始めは国も親も憎んだけどな?
でも、あんな親元で育つより、国で保護され最高の教育も受けた。
伯爵家からは除籍されたが、コルトー男爵の地位も与えて貰ったんだよ。
そして、今は国の特別機関で働き、室長職にもなった。全ては転生者だったからだ。
次男だったし、爵位は継げないしな。
それからは、自分と同じ境遇の新たな転生者を管理している。
文官だったり武官だったりはするが、それらの日々の生活などを報告して貰って纏めたり。
新たな転生者が生まれたら調べたり。
そんな仕事だ。
そして…ここまで話したら分かったと思うが、転生者は本当は3人ではない。
この国に“有用性が認められた文明を持つ”が転生者の肩書の前につく。
その知識を持った人間が3人って事だ。
どの国もそんな数え方をしている。
世界共通で、転生者とは異世界の高度な文明の時代に生まれた記憶を持つ者って訳だ。
この話の内容は転生者だった者と国の一部の人間しか知らない。
だから、子供が転生者だと分かった親は、喜んで国に差し出すんだよ。
先程の話にも出たが他国では大人になってから記憶を思い出した者もいる。
という事は、この国で思い出した人間も居る可能性がある。
それを知った人間が「実は自分は転生者だったようです。」と申告する人間が山のように来た。
ほぼ平民だったが、ちらほら貴族もいたそうだ。
調べていけばすぐ判明する……が、質疑応答も時間が掛かって面倒だった。
知恵の回る頭のいいヤツが、真偽が分からないと思って夢物語をさも前世の知識の様に語ったりしてな。
そこで魔道具の出番って訳だ。
転生者の前世には魔法はない…だがこの世界にはある。
その魔法を使用した魔道具で魂の色を調べるんだよ。
異世界から来た魂は、この世界の魂と色が違う。
それで判別出来る。
じゃあ、申告制にしないで全国民を一斉に検査すれば問題ないんじゃないかって思っただろう?
俺も、俺みたいな有用性の無いものを雇うのが面倒だからとか、色々な理由を考えたんだがな。
結局は、魔道具の精度なんだ。
実はその魔道具には特殊な宝石が埋め込まれている。
その宝石は各国に何故かひとつしかないんだよ。
それが各国の転生者を判定する魔道具に使用されている。
調べれば調べる程精度が落ちる様なんだよな。
改良したから魔道具の精度が上がってるわけじゃないんだよ。
大量に検査しない事によって精度を保ってるって感じだな。
表向きには魔道具を改良してって通達してるけどな。
そして、これは本当に一部の人間しか知らない話だ。
――――その宝石はな各国に突然15年前に出現したって事だ。
突然現れ、それぞれの国の王達が「神からのお告げだ。この宝石を使って魔道具を作成せよ。」って言ったらしい。
勿論、うちの国の王も神のお告げを受けて作成の指示をした。
そして、国民全員に・・・と、どの国もなったわけ。
それから調べる度に精度が落ち、最後には真っ黒にしか見えなくなったそうだ。
イルヴァ、お前の話を聞く限りはかなりの高度な文明を持つ転生者だ。
王族並に厚遇されるのは間違いない。
下手したら王家と婚姻も結ばされるかもな?
間違いなく大事に囲って貰える筈だ王家に。
――――だがその実態は軟禁に近いが。
自由は失くなると思っていい。
どうする?イルヴァ。
今は、お前から手紙を貰った俺しかこの事は知らない。
まぁ……昨日の手紙で転生者かもしれない疑いは持たせてしまったろうけど。
あの封蝋を使ったからな。
だが高度な文明まではバレてないから、有用性がないと判断されれば、俺の様に比較的自由だ。
貴族の奥様なら国に雇われるってのはないかもな。
この国の貴族なら国外に行く可能性はないから。
ただ貢献するような内容を思い出したら報告する義務は発生する。
とまあ、俺が話せる転生者の実態っていうのは、こんな感じだな。
それを踏まえて……イルヴァの旦那との問題も含めてだな…
――――――――どうする?




