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17 アンドレ・ヘルグレーンという男。 9

アンドレ視点、ここで修了です。


「イルヴァ、どうした?」

「アンドレ様・・・お帰りなさいませ。」


久しぶりに見るイルヴァは、夜の女神の様だ……が、何かが違う。

こちらを見る表情の無い瞳か、ギュッと引き結ばれた口許か。


「あ、ああ・・・イルヴァ、ただいま。」


イルヴァをソファに促し、自分も隣に座る。


大切な話というのは、何だろうか。

バートが先程話していた事も気になる・・・


「イルヴァ、大切な話というのは?」

やはり、イルヴァはあの不快な噂を知っているのではないか…?

イルヴァの隣に座り見つめる私の方を一度も見る事無く、その伏せた睫毛が頬に影を落としている。


イルヴァは俯き、沈黙したままだった。


部屋がシーンとした静寂に包まれ、世界から音が消えた様に物音ひとつしない。



「はい、大切な話というのは・・・アンドレ様、離縁致しましょう。」

長い沈黙の後、イルヴァは突然そう言った。


離縁・・・?

頭が真っ白になる。


「なっ・・・・何を言っているのか、分かっているの?イルヴァ。」

混乱したまま絞り出した言葉は、みっともなく掠れた声。


「重々承知しております。アンドレ様が証明書まで作って下さった、私との婚姻条件を破棄された事も。相手が元婚約者候補筆頭の方だという事も。他にもありますが、口にしたくありませんわ。」


「・・そこまで分かっているのか。でも、何故そこで離縁になるのだ?証明書を破棄する事ということは、私が浮気をしたという事だろう?」


「まさかアンドレ様、浮気では無く本気だからとおっしゃいたいのですか?」


「そんな訳ないだろう。本気ではない。絶対にないよ、イルヴァ。」


イルヴァはやはり噂を知っていて、それを真実だと信じている。

想定した中で一番最悪の話だ。それでも全部自分が招いた事だ。イルヴァに説明もしないまま、何もしてこなかった。


どうすればいい?何といえば納得して貰えるのか信じて貰える?

今ここで真実を全て話すべきだ。しかし…皇太子命令の話だ。勝手に話せない…

先程バートに話した内容を今説明するべきか?今話して信じて貰えるのか?


頭の中が話すか話さないかでぐるぐる回り混乱する。

今までの経緯を話したとして、そんな状況下とはいえどイルヴァを放っておいたのは事実だ。

愛想を尽かされていてもおかしくはない。

イルヴァは贅沢な暮らしを享受出来れば文句のない女とは違う。

彼女は男女の情は夫婦だけだといった。愛し愛される関係を望むと。

第二王子とあの女に振り回されて居たとはいえ、出来た事はあった。

気不味かろうが、隠し事をしている罪悪感があろうが、夫婦の寝室で共に寝るべきだったのだ。

まだ何の絆も信頼も築いてない二人だったのだから。


押し寄せてくる後悔で頭がいっぱいになり、愚かにもただ時間稼ぎのような質問をしてしまう。


「イルヴァ、そもそも、どこからが浮気になるんだ?」

「接吻か?抱擁か?手を繋いだ事というのか?それとも供も連れず逢うだけで浮気なのか?」


取り留めもなく話し続ける。

――――ダメだ上手く話せる自信がない。


時間稼ぎをしている自覚はある、そしてイルヴァはそれに気付いてる。

くだらない言い訳に思われてる気がする…ああ今、舌がもつれそうになった。


「それら全てをされたという事ですか?」

冷たい目でイルヴァが問う。


「違う!どこからが浮気になるのか明確には分からないから聞いている。」

――――こんな事が言いたい訳じゃないのに。


「可愛らしい事をおっしゃったりしないで下さいませ。接吻でも抱擁でも手を繋ぐでもありませんわ。かつて婚約を結ばれる直前まで行かれた令嬢。あの頃の話を聞くにアンドレ様はとても気に入っていらしたとか。そんな方と・・・二人っきりで、男女の休憩場と呼ばれる宿の一室に入室されたとか。そう・・・それだけのことです。」


そこまで調べられている中、一階の飲食店の個室で女を引き留めていたなどと、信じて貰えないだろう。

そういう逢瀬に使われる部屋が二階にあるのだ。

焦った男の言い訳に受け取られるだけな気がした。


殿下の許可を取り全てを話しても信頼して貰えない時は、殿下をイルヴァの前に引きずり出してでも、証人になって貰おう。

信じて貰えるまでどんな証拠でも揃えてみせる。



「・・・・離縁を了承する。とは、言いたくない。私達の間に証明書がある事は分かっている。が、縋らせてくれ。償いはする・・と、言ったら?」


イルヴァの瞳が傷ついた様に揺れた。

ああ…イルヴァ、違うよ。傷つけたい訳じゃない。

――――何て言えばいいのだ。

第二王子と隣国王女の話とあの女の話、それから女に言い寄られていて…

ダメだ。結局、殿下の話抜きにして語れない。


「今の私には聞く気もございませんが・・・聞くとしたらこう返すでしょう。婚姻後すぐのあの日々に居た私は、今朝亡くなったのです。妻とは死別されたのですから、アンドレ様も時を待ち再婚なさいませ。と。」


「何を言っている・・・生きて今私の目の前に居るではないか。取り乱している…のか?」

こんな会話を続けるだけ離縁が近付く。

イルヴァは話す度に離縁への意志を固めていくように感じた。


今、ここで、このまま話し続けるのは、絶対に悪手だ。間違いない。


「イルヴァ、夜も深い時間に大事な話をすると朝の光で後悔すると言う。また明日、昼間に時間を作る事にする。その時に、これからの事を話し合おう。いいね?」


尤もらしい風に話しはしたが、頭の中はぐちゃぐちゃだった。

イルヴァは何も言ってくれなかったが、否定はされなかった事に安堵した。


手取り扉前までイルヴァを連れていった。

「イルヴァ、寝室まで送るよ。」


「いえ、大丈夫ですわ。プリメラが近くで待機してると思うので。」


「そうか。ならここで‥イルヴァ、おやすみ、いい夢を。」

イルヴァの手を引き寄せ、手の甲にそっと唇を寄せた。


「はい、おやすみなさいませ。」


去って行くイルヴァを見送りながら、拗れた糸は全てを明かすまで元に戻りそうにないと痛感した。


翌日、早朝に王城に向かい、殿下に話す許可を求めた。

あっさり許可が下りて肩透かしをくらった。


許可を取る際のアンドレの恐ろしい雰囲気に、身の危険を感じた皇太子は今日だけはアンドレをすぐ帰した。

逸る気持ちのまま急いで屋敷に戻れば、イルヴァは二人の侍女と共に居なくなっていた。

情けないアンドレを書きたかったですが、ただの小うるさい男に仕上がった気がする……


誤字報告いつも有難うございますヾ(。>﹏<。)ノ゛✧*。


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