12 アンドレ・ヘルグレーンという男。 05-1
1話が4000文字いってしまったので半分に分けてみました。
長過ぎるの読み続けるの疲れさせてしまうかも・・?と思いまして(´・ω・`)
婚姻後、アンドレは公爵である父親の補佐を本格的にする事になった。
後継として書類の処理だけでなく、実務経験を積ませる事にしたのだ。
アンドレは能力は高いのだが、圧倒的に経験が少ない。
妻も娶った事だ、もっとしっかりして貰わねば。
男である公爵は、新婚の甘い時間を長引かせる事をそれほど重要視しなかった。
長い婚約期間を経てという結婚でなら、甘い新婚時間にそこまで時間を割かずとも問題もなかっただろうが、異例のスピード婚の三ヶ月では、互いの事などじっくり知りようもない。
イルヴァは嫁いで来た側だ。夫との関係の不安と婚家との不安もあった。
そういった不安に、男である公爵が疎く気を回せないのは、仕方が無いのかも知れないが。
一週間程の休みの後アンドレは本格的に仕事に忙殺される事になる。
一週間の間、イルヴァを共に連れて夫婦としての夜会に参加しワルツを踊ったりした。
毎日昼間はお茶を共にし、甘いお菓子の感想と他愛のない話をする。
夜は寝る直前に一緒にハーブティーを飲み静かな時間を過ごし、その後共に同じベッドで眠った。
朝食を共にし、日課になりつつある朝の散歩に婚約関係の頃の様に庭を散策する。
二人の心の距離はどんどん近づいていった。
イルヴァが「毎日が夢の様に幸せ。」と言う。
アンドレも「同じ気持ちだよ、イルヴァ。」と返した。
男であるアンドレはこの幸せがずっと続くと短絡的に思っている。
女であるイルヴァは幸せだから不安だわ。と思っていた。
アンドレの頭は堅物であるが、実際に人と接する時などは、人当たりが良い。
穏やかな話し方から来る公爵家の嫡男というネームバリューを一切使用してこない気さくな対応は、
うっとりするアンドレの美貌も影響して人に与える効果は倍増した。
その事から、他国から来る外交官や商人などの信頼を得やすく、公爵の補佐として交渉の場にも参加する事が許される様になった。
婚姻前より更に増えた仕事と、まだ慣れぬ新しい仕事、初めての事ばかりが続く。
アンドレに余裕が無くなると、中々イルヴァを構ってあげる事も難しくなってきた。
寂しそうに「いってらっしゃいませ。」と見送るイルヴァを心配した頃、イルヴァが婚約時代に話していた事を思い出す。
「私は使用人とは、とても仲がいいのです。貴族からすると有り得ない話かもしれませんが、たくさんの家族の様に思っています。」
と嬉しそうに話していた。
「イルヴァも一人でここに嫁いできたけれど、やはり心細いだろう?実家の侯爵家から使用人を二名程連れてきたらいいよ。侯爵が許してくれるなら。何人でもって思うけど、それは侯爵家から非難されそうだからね。名前を教えてくれたら僕から頼んでおくよ。」
就寝前、ハーブティーを飲みながらイルヴァに提案した。
イルヴァは飛び跳ねそうに喜び、自分の世話係だった二名の名前を告げた。
翌日すぐに侯爵家へ、イルヴァの世話係をこちらで雇用し直したい旨を伝える手紙を送った。
さらに翌日には了承の手紙が届けられた。
イルヴァに提案してから三日後、公爵家へ世話係だった二人がきた。
破顔して喜ぶイルヴァは何と素敵なのだろう。
イルヴァがこんなに喜ぶのなら、初日から連れてくるべきだったなとアンドレは思った。
婚姻当初の頃の様な忙しい中にも一緒に過ごせる時間を作れる余裕が、今は無くなって来ている。
切実なイルヴァ不足に陥りそうだ。
夜遅くに湯浴みを終え、眠るイルヴァの隣に横たわって自分の腕の中に引き寄せて眠れるあの瞬間だけが癒やしだった。
朝食もたまになら一緒にとったりもするが、二人だけではない空間だ。
父も居る中甘い言葉もかけたくともかけづらい。
イルヴァとたまに見つめ合い微笑み合う程度しか出来ない。
―――近くで給仕をする使用人も、アンドレの父も新婚か・・と砂糖を吐く思いでいる。気付かぬは当事者の二人ばかりなり。
イルヴァとの時間が削られる中、慣れぬ仕事に意外にも要領が掴めず手こずっていた。
捌いても捌いても終わらぬ書類は、どこからか作為的に回されてるのではないか?と苛立ちまぎれに思う。
今日も終わらず深夜遅い帰宅の予感に、アンドレは申し訳なく思っていた頃・・・
――――昔、婚約者候補だった伯爵令嬢に再会した。




