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9話 ぼろ屋の中で二人は

  諦めない千春に凛太郎はーーー


  千春は凛太郎の腕をつかむ。今度は腕に抱き付く感じでつかまっていて、胸の柔らかさが凛太郎の腕に伝わっていた。わざとやっていると凛太郎は分かっているが体は反応する。しかしそこは平静を装っていた。



「なんで今日じゃなくて明日帰りたいの?」


「心の準部が必要なの。1日だけ一緒にいてよー女の子を1人にするの」


 胸だけだったら我慢したが上目づかいと涙を浮かべた千春を突き放すことは凛太郎にはできなかった。


「分かったよ。1日だけ一緒にいてやるよ。でも1回竹の月に戻るからね」


「1回戻るってどういうこと?」


「それはな」


 理由を尋ねられると父親に今日は夜見で泊まることを言うためと答えた。それを聞くと千春は目をキラキラさせたが千春ちゃんは待っていてもらうと言われると最初はがっかりしたが以外にも素直に従うと言った。


 2人は1時間以上歩き、凛太郎の言う異空間を開けられる場所に着いた。千春はこの場所を知っていた。着いたのは辺り一面に砂が広がっている場所でそこにポツンと古い木造の建物がある。


「この小屋は開かないんだよね」


 好奇心旺盛な千春は何度かここに来て開けようとしたがどうしても開かずにあきらめたということだった。その話を聞くと凛太郎は少し自慢げな顔で言う。


「この戸には封魔がかけられている。理由はここが空間室だからだ」


「空間室!?じゃあここが竹の月と夜見の世界を結ぶ所だっていうの!」


 空間室の存在は竹の月に住んでいる魔法人ならほとんどのものが知っているが使えるものは少ない。凛太郎は空間室を開ける呪文を使って中に入るがそこは何もない殺風景な部屋だった。だがそんなこと千春には関係なく凛太郎に早く扉を開くように即した。


「扉を開ける前にこれをしとかないとな」と言って千春を木の魔法を発動して両足の足首を縛る。


「凛太郎君って木の魔法だったの……じゃなくて何するのよ」


 魔法人は1人1つの魔法を使うことができる。2つ使える魔法人はいない。

  千春は怒るが、凛太郎はいかにも千春が地平に行ってやるって顔が言っているため開く前に縛り上げておこうと思ったとのこと。千春はがっかりするが今魔法が使えない自分がこの木の魔法を解くことはできないと思い観念することにした。


「分かってくれてよかった。今から開くよ」


 凛太郎は人差し指に魔力を溜め空間に何やら古い文字を書き始めた。魔力は蛍光のように光り空中に漂っている。そしてかき終わると空間室は青白く光り空間の穴が開いた。そこが世界をつなぐ空間である。凛太郎はその空間に入っていった。


 そして30分後―――


 凛太郎は空間から帰ってきて千春の縛りをとり、空間室を出て千春と一緒に地べたに座り今夜の過ごし方について話し合うことにした。


「千春ちゃん、どこに泊まるんだ?」


「どこってこの砂の上だよ」


「は!?」


 当たり前だと言う千春に凛太郎は驚く。夜見の世界にはそういう宿泊施設はなくただこの夜見の世界で過ごすだけである。どうするんだと凛太郎が嘆いていると千春は立ち上がり言う。


「しょうがないな、造るか。やっぱり凛太郎君は竹の月の人間だね。貧乏っていうものを知らないよね」


「造るってどうやってどうやってだ。もしかして砂場を固めるとか」


「違うわよ。この世界は魔法だけってことではないことを教えてあげる。木の魔法で長板をだして」


 そう言い凛太郎に魔法で木を出してもらうとそれを使い即席の小屋をものの数分で作り上げてしまった。その速さは職人のようであった。凛太郎はすごいと言うがそれには理由があった。夜見の世界の住人には仕事がある。仕事と言っても月一族に言われて強制的にさせられている内職のようなものだ。家は確保できたそして次は食べ物。


「ご飯はどうなっているんだ。俺持ってこなかったけど」


「1日くらい食べなくても平気でしょ。それにこういう日があるのは当たり前でしょ」


「あたり前じゃないよ」


「この砂場では作物は育たないからね」


「どうやって食べてんだ?」


「竹の月から配食がくるの。家族分の1週間のね」


 配食は仕事をしないともらえない。千春の家では木を使った犬小屋作りであるためちょっとした小屋を作ることは千春には朝飯前なのである。


「そんなこと知らなかった」


「そう、だから地平から来た人には不満なんじゃない。1回竹の月の文化に触れているとなおさら」


「そうかもな。森の中に閉じ込められている俺がこうして驚いているくらいだもんな」


 竹の月の文化は人間たちのおかげでこの50年でずいぶんと発達した。特に電気やインターネットの発明は地平の世界を随分と変えた。その文化になれた魔法使いがこの何もなく発展もしていない世界に来たら不満も溜まるのは致し方ない。


 その後2人は疲れたのか午後7時には眠っていた。


 翌朝 7時


「う~ん」


 千春は目覚めるが何か顔の近くに違和感を覚える。顔を横に向けると涎を垂らした凛太郎の顔が近くにあった。驚くがとても気持ちよさそうな寝顔をしているのできっと寝相が悪いのだろうと思い起こさないでいようとしたが数十秒後考えが変わる。


「ちはるちゃ~ん」と言い、お尻をソフトタッチする凛太郎。


 びくっとして顔が赤くなる千春。そしてだんだんと怒りが込み上げてきた。


「あんたね……」


 起きているのか起きていないのかわからないが千春には関係ない。凛太郎を思いっきり吹き飛ばして壁にめり込ませた。


「な、なんだ? なんか背中が痛い」


 キョロキョロする凛太郎。本能で女の子にセクハラをしていたことを凛太郎は知らない。凛太郎にとっても自分には記憶がないので、このことを知ったらうれしく、また記憶と感触を覚えていないことを悔いるだろう。


「知らないわよ」

 

二人が出会ってから初めての朝はハプニングから始まった。


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