8話 凛太郎VS道長
反乱軍
夜見の世界で立ち上がった組織。発足人は分からずどこかしこに分裂し組織を形成している。当初の目標はどうにかして夜見の世界を脱出しようと考え、月の竹から来る魔法人を拘束して交渉材料にしていた。だが現在は違う考えをもった組織も出てきている。
「バトル開始!」
道長は魔力を刀にまとい凛太郎に突っ込んでくる。一方の凛太郎はその場に立ち攻撃を受けようとしていた。その行動を見て道長は腹が立つ、動けないのではなく動かずに攻撃を受け止められると思っている凛太郎の考えに。
「オラ、オラ、オラ!」
口調もだんだん強くなりながら道長は刀を振っていく。だが凛太郎はひらりとかわしていく。そんな凛太郎を見て道長は余計イライラしていた。
「なんでそんなに避けられるんだよ。…………無視かよ」
凛太郎はこの時避けながら考えていた。威勢のいい敵で反乱軍と名乗る少年はどのくらいのレベルなのかを。そしてある考えにいきついた。
(こいつ弱い……)
凛太郎がそんな事を考えているとは知らず、嫌気がさしたのか道長は刀を振るのをやめて再び距離を取った。額には汗をかいている。
「なんで避けてばっかりなんだよ」
少し息を切らしながら道長は再度同じことを聞く。凛太郎は今度は返答した。
「お前、戦ったことないだろ」
ビクっと反応した道長を見て凛太郎は確信した。
「道長そうだったの!私びっくりだよ」
遠くで見ている千春も意外そうにびっくりしていた。千春の様子が気に入らないのか道長は大きな声で言い訳をする。
「うるせー!そうだ初めてだよ。だがそんなの関係ないな、お前を倒すには!」
「そうか、でも戦いのときに刀の魔力を切るとは初心者でもしてはいけないぜ」
ハッとして目を見開いた道長は自分の魔刀を見る。しかし魔力は纏っていた。何言っているんだともう一度凛太郎の方を見るが、その場にはいなかった。
次の瞬間一一一
道長は持っていた刀に違和感を覚えた。それは見ていた千春も同じだった。
「どうなったの。私……見ていたのに」
その瞬間を目で終えていたのはこの場にはいなく、凛太郎は道長の後ろ2メールの所にいた。そして杖を腰の横に納め上半身だけそらし後ろにいる道長を見る。
「何が起こった。俺の……刀が折れて……いる」
道長が混乱して自分の刀を見つめていると凛太郎が道長の後ろから近づき肩をポンと一回叩く。
「これで終わりな、新人さん」
「うるせー」
肩に乗せられた手を振り払い道長は凛太郎に殴りかかる。しかし全力のパンチも片手で止められてしまう。凛太郎の目を見ていると道長は一瞬恐怖を感じた。
「いいか、俺が本気でやっていたらお前は死んでいたんだぞ」
ハッとする道長。凛太郎の目は鋭く本当に殺されると思ってしまった。だが、負けたくなかった。
「へへ、調子に乗るなよ。殺せばいいじゃねえか」
「ここは殺す場面ではない」
道長はこれまでに無い凛太郎の真剣な表情に戸惑い驚いた。そしてこいつは俺とは比べ物にならない経験をしたんだと悟りあることを思った。
「だったら殺さなくていい。拳で俺と戦ってくれ……その目をしている奴の強さを感じてみたい」
男として成長したかった。凛太郎も道長の真剣な表情をみて拳で戦うことを決心した。
「分かった」
夕暮れの景色に打撃音が数十分にわたり響き渡った―――
勝負は意外と長く続いたが道長の完敗だった。道長は血を流してその場に仰向けになって倒れていた。体には魔力が流れていなく力尽きていた。
「お前、意外と打たれ強いな」
凛太郎もさすがに息を切らしていた。拳も赤くなり切れていた。
「へへ、俺の取り柄かもな。いままで戦ったことなかったから知らなかったぜ」
二人はどこか晴れやかで笑っていたがその二人とは違い千春の表情はどこか悲しそうである。千春は二人に近づき話しかける。
「道長、聞きたいことがあるの。いい?」
「なんだ。千春?」
「どうしてそこまで月の竹を恨むの?反乱軍に入ってまでどうしたいの?」
「逆に聞く、お前はどうして恨まない。どうしてだ、魔力もとられてなぜ月の竹を恨まない。俺はお前にチャンスをやろうとしていたんだぞ」
「……そんなものいらないわ」
「じゃあここでずっと生きていくのかよ」
「私は……」
言葉に詰まる千春。完全に恨んでいないとは思っていない。そう自分で思っても他人に何か言われれば心が傾く。
「おい、なんでお前はそこまで怒っているんだ」
凛太郎は言葉に詰まっている千春を見て話しに割り込んだ。
「何もかもむかつくんだよ。魔法使いも人間も」
「むかつくんじゃない。むなしいんでしょ……道長。ここには希望も目標もない。ここは広い刑務所のようなもの」
千春の言葉を聞くと目をそらし薄暗い空を見る道長。
「でもいずれは出られるんだろ」
「そんなことはないよ。私と道長の一族は永久犯罪一族。ここから出られることはできない。罪を犯した先祖の事なんて知らないのに生まれたときからここにいるのよ。家族も同じ」
「お前には分からないだろ……この運命が」
この言葉の後、凛太郎は少し言葉が出ず止まった。だが何かを決したかのように喋りはじめた。
「いやわかるさ……。俺も同じようなものさ。俺が月の竹で何て呼ばれているか知っているか。裏切りの一族って呼ばれているんだ。それで人間たちからも差別されている。そしてここに来ているのは罰で俺たち一族の仕事。魔物を倒す仕事だ」
「……信じられない」
「どっちでもいいが、本当の事だ」
「私は信じる。でもそれでそんなに楽しそうで明るいの。毎日つらくないの?」
「俺には希望を持てる人がいる」
「希望?」
「ああ、希望。希望は生きる糧となる。お前の行こうとしている道は遠回りで悲しい道でしかない」
「俺たちに希望の道はあるのか?」
「ああ、俺を倒したら月の竹にあげてやるよ。これから3ヶ月に1度ここで戦ってやる。勝ったら出してやる。どうだ近い道だろ」
時が止まったかのように千春と道長は感じた。2人が思ったことは「何言っているんだ、こいつ」ということだった。道長に至っては凛太郎が月の竹から来て、しかも差別されている事なんて信じられなかったところに自分を倒したら月の竹に行かせてやると言うものだからこいつはバカだと思いツッコむ。
「もっと信じられるか!」
ツッコまれても凛太郎はいたって真面目な顔をして話を続ける。
「これを見たらわかるかもしれないな。お前何かと頭がいいし」
凛太郎は右手の包帯を取るとある鷹の定紋が現れた。その鷹の定紋を道長は見てあることを思い出した。
「月の竹から来たやつが言っていた。『伊岐』の所でなくてよかったと。その定紋、伊岐一族なのかお前」
さっきまで信じないと言っていた道長の顔が一変した。
「……さすが頭がいいな。そうだ俺は伊岐一族だ」
「その定紋をつけるバカもいねえ。信じるしかねえ……でも、そんなのは言い訳だ。お前には俺たちよりチャンスがある」
凛太郎はその言葉に困惑した。正直同情して終わってくれるかと思っていたからである。
「チャンスがある?どういうことだ、チャンスなんてないだろ俺に」
立ち上がりどこかに行こうとする道長。
「俺にとっては月の竹の世界にいるだけでチャンスだと思っている。それに希望の友達もいるんだろ。その状況で伊岐だの言って足を止めているお前が俺には分からない」
「止まってはいない。俺は友を信じて待っているだけだ」
「それは嘘だ。お前は自分から動くのが怖いだけで自分から変わろうとせずその友達が帰るのを待っている臆病者だよ」
「……」
「道長そこまでいわなくても」
凛太郎は千春の肩に手を乗せて低いトーンで話しかける。
「いいんだ、千春ちゃん」
凛太郎が千春を止めたことで道長は再び歩き出した。今度は道長に話しかける千春。
「どこに行くの?なんで私を誘ったの」
「けじめはつけなきゃなんねえ。それとなんでお前を誘ったかというとな……お前がいないと心が揺らぐ。恋とかじゃなく、一緒な境遇、いや、お前の方がつらいのに」
言われた千春は喋ることができなかった。道長の本音を聞いたのは初めてだった。
「けじめってなんだ」
「反乱軍を抜けてお前とのバトルにかける。そっちの方が速そうだ。伊岐凛太郎、明日忘れんなよ。明日からだぞ」
そう言う顔はどこか穏やかであった。凛太郎はその表情を見て下を向き少し笑い言う。
「当たり前だ。じゃあな」
道長は帰って行き、再び二人になった凛太郎と千春。
「いいけど。それより……」
「それより、なんだ?」
「私を月の竹に連れて行ってくれる約束の返事は?」
千春はまだあきらめていなかった。
「なし!というか千春ちゃんがかってに言っているだけだろう」
言葉と一緒に手をクロスして大きいリアクションをした。千春にははっきり言った方がいいと凛太郎は思った。
「なんで!」
「千春ちゃんは家族の所に帰った方がいいよ。もう一回親と話したほうがいい」
「え~~~、でも~~~」
まだ食い下がる千春。二人の掛け合いは小一時間続いた。