6話 魔法使いと人間
この世界は昔から魔法と呼ばれる能力を持つものが存在おり、その名を魔法使いという。魔法使いは能力の持たない人間より肉体的に優れており、昔は世界を100%支配していた。しかし、今は違う。50年前に人間達との平和条約が結ばれて以後は共存して生きている。そうは言っても差別されている人間は少なからからずいてその逆の魔法使いもいる。
砂場に座って会話している二人。
「私は凛太郎君と同じ魔法使いだよ。だけど今は魔力がなくなっているんだ」
いきなり衝撃的なことを言う千春。魔力がなくなるということは聞いたことも見たこともない凛太郎は驚き、千春に対してすごく興味がわいた。
「どうして!というかそんなことあるの?」
「私だって聞いたことないけどなっちゃたんだもん」
なくなった理由が分からないと千春が言っても知っていることはすべて知りたくなった凛太郎は質問攻めをする。
「いつからなんだ。結構気になるぞ」
「それは7年前に無くなったの」
この質問から質問攻めが始まり3分が経つ。凛太郎は興味深そうに聞いていたが一方の千春はだんだん回答があいまいになってきて機嫌が悪くなっていた。
「場所は?」
それには気づかない凛太郎。
「いわない」
「はぁ?なんで」
はぁ?の言い方にイライラしたのか千春は凛太郎にむけて機嫌の悪い顔を見せた。
「いーじゃない別に!もううるさい!」
頬を膨らませて横を向いた千春。
「……。じゃー違うことでも聞くかな」
凛太郎は質問が悪かったと思い質問を変えて何かしら聞こうとするが、千春の機嫌が一層悪くなる。凛太郎は家族以外の魔法使いとはあまり出会ったことが無く人の気持ちを考えるのが苦手であった。
「……ねぇ」
「なに?」
「私は話をしたかったの。聞かれるんじゃなくて」
千春が何を言っているのか分からない凛太郎は少しムカついてしまい小さい子供のようなことを言ってしまう。
「そんなの言うなら今度は俺が帰る。お前も家に帰れよ」
「帰るわよ!」
千春も「帰ろ」なんて言われたからむかつき同じことを言った。
「そうか、じゃあな」
凛太郎は歩き出した。機嫌悪そうにどたどたと。
「ちょっと持ちなさい。最後に質問に答えなさいよ。あんたはどこの地区の人なの?私と同じってわけではないと思うけど。あとその杖どこから盗んできたの」
凛太郎は立ち止まり少し嫌味な顔をして答える。
「悪いけど俺は夜見の世界の住人じゃない。月の竹の住人だ。それに盗んだんじゃない俺の杖だ」
その答えにびっくりして目を丸くする千春。だがその顔を見ずに歩く凛太郎。
「あんた月の竹の人だったの!服装がこっちと同じだから。月の竹から来る人はいい服を着ているから」
凛太郎は一般的な着流しを着ているがかなり汚れていて、夜見の世界の住人と同じである。千春がよく見ている月の竹の住人は凛太郎とは地位が違う魔法使いである。
「悪かったな、ボロで。でも本当に月の竹の住人さ」
歩きながら言う凛太郎。しかし後ろから足音が聞こえてきて、またよくわからないことが起きる。
「私も連れてって」
千春が甘い声をだして腕をギュッと握ってきたのだ。びっくりして凛太郎は立ち止まってしまった。
「な、なんだよ。連れててって」
千春の上目づかいで凛太郎はドキッとしてしまった。そして少し柔らかかく甘い香りがした。体は少し細くて凛太郎の好みではないがそれでもテンションが上がる。
「だから私も月の竹に連れてってよ」
ちょっと頬が染まっている凛太郎は照れ隠しで頭をかいて言う。
「じゃあさ。お前の事全部教えろよ」
「なに頬染めて言っているのよ。もしかして私の事気にしてる~」
少し馬鹿にした言い方の千春。先ほど怒っていた千春とは別人である。
「……。帰る」
「分かった、分かった。すべて話すよ。実は……7年前に月の竹に行ったことがあるの。そこで30日くらいいて、また夜見に帰ってきたんだ。そして気づいたら魔力がなくなっていたの」
さっきそれを言えば喧嘩にならないと思った凛太郎である。
「なんで月の竹にいけたんだ?夜見の世界からは出られないはずだろ」
「月の竹の人たちがたまに何かの調査で来るんだけどその時に異空間を開くでしょ。その異空間が閉まる寸前に入ったんだ」
夜見の世界と月の竹は異門と言われる空間を結ぶ道を通らないと行ききできない。それには術式を知っていないといけないので一部の月の竹住人しか行けないのだ。だが一つだけいける方法がある。それが千春の取った方法だ。
「千春ちゃん結構アグレッシブルだね」
凛太郎がそう言うのも無理はない。見つかったら捕まり何をされるかわからないからである。それでも千春は動じない。
「そうかな。でも魔力がなくなったのが原因なのか、家族に何か避けられているような感じがするの。家族は自分の居ない所で何かしているような気がする。被害妄想かもしれないけど……」
「ふーん……」
「だから凛太郎君と一緒に月の竹に行ってその原因を探りたいなと思いって。いいでしょ凛太郎君」
「えー……でも親に言った方がよくない」
「大丈夫よ。もう一か月は帰ってないから」
その問いに凛太郎はびっくりしてどうして生活をしているか聞くが千春は歯切れの悪い答えを言ってはぐらかし今度は凛太郎の事を聞こうとした。
「話を聞かないね、千春ちゃんは」
二人は再び切り株に座り喋りはじめた。
「凛太郎君って16歳なんだよね。私が見る月の竹の人はもっと大人の人達なんだけど、なんで凛太郎君は夜見の世界に来るの?」
凛太郎は少し遠くを見ながら落ち着いた声で話し始めた。
「月一族って知っているか」
「知らない」
「(即答だな……)俺たちの国つまり月の竹で一番権力のある一族なんだけど、俺はその月一族に言われて特別に来られて魔物を倒しているんだ。本来なら17歳からだけど」
「偉い一族なの?凛太郎君は」
「違うよ。逆、逆。底辺の一族なんだ」
「そう……なんだ」
「あれ、見下さないの!」
「わ、私はそんなことしないよ」
「意外といいやつだな千春ちゃんは」
「意外とは余計よ」
二人は前回とは違い楽しく話していた。だがそんな2人を少し離れてみている人物がいた。
「なんだ~あの男は。千春と楽しそうに話しやがって……」
二人には見えないなぜなら人物は砂の中に隠れているからである。