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3話 2人の決意

「君は誰なんだ?」


「まずはそっちからじゃない」


「俺は……」


 伊岐と言うのが怖かった。また何をされるかわかったもんじゃない。


「伊岐の人でしょ。森に棲んでいる」


「なんで知ってんだ!」


「実は君たち一族についてすごく興味があったんだ。()()()()()()としてね」


 月一族、そのワードを聞いて少年の胸ぐらをつかむ。


「俺が何したって言うんだ! 先祖って誰なんだよ! いつの人なんだよ!」


 胸ぐらをつかまれた月一族の少年だが表情一つ変えず答える。


「300年前かな」


「そんな前のことを言っているのか。ここの住民は!」


「そう言うものなんだよ。歴史、世界っていうものは。さっきのおじさんたちは歴史を知っているけどあそこで見ていた子供たちは知らない。けど伊岐一族を攻撃しても大丈夫ということは空気で感じている。歴史の空気なんだよ。君たち一族に何してもいいって言う空気がね」


「だったら僕はこのままなのか。僕たちは前に進んではいけないのか」


 少し涙ぐんで強く握っている着流しにはしわが寄っていた。


「いや、違うよ」


「……何が違うんだよ」


「僕はこの空気を換えようと思っている。それに君たちを前に進めたい」


「信じられない」


「信じなくてもいい、でもこの世界の事は嫌いになってほしくないよ、僕は」


「……」


 無言で森に帰ろうとする凛太郎だが止められる。何をするんだと睨み付けるがそこには手を伸ばす少年がいた。


「言い争っても何もならない。僕がこの月の竹を紹介するよ。月一族、族長の子供である月楓(つきかえで)がね」


 数分後……


「この鳥ってふかふかで気持ちいいな。あったかいし」


 さっきまで怒っていた凛太郎の姿はそこにはなく、テンションが上がっているただの子供である。なぜテンションが上がっているのかと言うと、凛太郎が乗りたがっていた魔法使いの一般的な移動手段である魔鳥(まとり)に乗っているからである。魔鳥とは翼を広げると5メートルはある大きな鳥で、色は赤や青と色々と種類のある鳥である。乗り方は魔力を当てることで安定して乗ることができ小さい子供にも人気で人数も4人乗りのものまである。


「これからいろいろと国をまわっていくよ」


「おう」


 そこから2人は10時間以上かけて色々な施設に訪れて遊んだ。ゲームセンターに映画館、遊園地などどれも鎖国の森では体験できないことであった。


 午後7時


 周囲が薄暗くなり二人は出会った公園に戻りベンチに座った。事件もあり2人以外は誰もいなく蛍光灯の明るさだけがどこか寂しさを演出していた。


「どう、月の竹はいい所でしょ」


「たしかに。でもこれは僕には訪れない非日常なんだ」


「そう言う弱気なことを言っちゃだめだ」


 まっすぐに凛太郎を見る楓。凛太郎は殴られたことがかなり気にしている、そう感じていたのだ。だが、凛太郎の思いは違っていた。


「弱気、そんな事僕は言わないよ。この非日常を手に入れるためこれから自分で働いて強くなるんだって決めたんだ」


「働くってどこで?」


「夜見の世界で魔物倒しを頑張るんだよ。魔物倒しは僕たち伊岐一族の唯一の仕事だって父ちゃんに言われてんだ。だからその仕事を利用して強くなって、強くなったらまたここでリベンジするんだ」

 

  夜見の世界とは地平と空間を分けた別の所にある『異世界』である。そこには比べ物にならないほどの魔物が生息している。


「リベンジってどういうこと。まさか、また戦争?」


「違うよ。今度は戦争が起こったら救世主になって助けるんだ、300年前のリベンジだよ」


「大きい目標だね」


「そうかな?だったらまず、魔物倒しをして魔物をなくすことを中間点におこうかな。魔物をなくしたのは伊岐一族ですって報道されたら僕たちの評価も変わるかもしれない。ヒーローになれば仲間を増やせるかもしれないし」


「ヒーロー……かっこいいよ!だったら僕は何十年も先だけど族長になって凛太郎達への差別をなくす手伝いをしたい」


「僕は待っているぜ」


 握手した2人はその場で分かれた。楓が帰った後に凛太郎は再びベンチに座り夜でもまだ人工的な明かりがともっている月の竹をじっと見ていた。それほど今日の出来事は刺激的だった。その出来事を整理するために約10分の間空を見ていた。


「さて帰るか」


 少し落ち着くと立ち上がり、帰ろうとする。


「んっ」


 凛太郎は動きを止め、目だけを動かし周りの気配を感じ取る。


「まさか……」


 公園に黒い霧が出現して急速に濃くなっていく。


「現れたか……魔物」


 黒い霧の中から黒い人型の魔物が一体現れた。その姿は全長4メートル以上あり、手足は長く爪が10センチ伸びていてひっかかれると異能人は死んでしまう凶器である。全身が黒く顔の形は人間に似ているがパーツは目と口しかない。その目も赤く光りハエのような目をしていて口幅が横に広がっていてとても奇妙である。


「1体か。ならいいや」


 腰にさしている杖を両手で持ち、魔力を体と杖に流しながら攻撃に備え居合の構えをする。


「こいよ、魔物。僕は今この場でお前に殺されるわけにはいけないんだ。目標ができたからね」


 魔物には知能が無く理解はしていないが凛太郎が大声で言葉を発したため凛太郎に向かって両手を前に出し走ってきた。そして腕を振り下ろしたときに凛太郎は動く。


「ここだ!」


  凛太郎は魔力を纏わせていた杖を横に振りぬき、自身も前に飛び出し一刀両断した。魔物は腰から真っ二つになりその場に倒れこんだ。


「魔物倒しの第一歩かな」


 魔物は斬られると天に消えていった。凛太郎は次の日から強くなるため魔物倒しを夜見の世界で行うことにした。救世主となるために。


 それから、四年の月日が経つ。そこには今も魔物倒しをしている十六歳になった凛太郎の姿があった。

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