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11話 苦しみ

 卓光は仰向けに倒れていた。羽織もボロボロでもう動けない様子だった。凛太郎と千春は卓光に近づき話をする。


「もしかしてあんたは楓を脅威に感じていたのか。それで殺したかったのか」


 二人は血が出ているものの体力的には余裕がある様子だ。凛太郎は片足をついて少し穏やかな口調で話し始めた。戦いからやはり卓光は()()()()()ことを確信した凛太郎は戦いながらその理由を探っていた。凛太郎の言葉は考えた答えだった。


「そうだと言ったらどうする?俺を軽蔑するか」


 卓光は凛太郎たちを見ずに上空だけを見ていた。平然を装っているが唇が小さく震えている。なぜ震えているのかはわからない。


「いや、しないよ。俺はあんたをそんなことする位の人だと思っているから」


「凛太郎」


 千春はそんな事を凛太郎が言うとは思わずにびっくりしている。


「……そうか。裏切りの一族にまでそんなこと言われるのか」


「……」


「俺はな、あいつが怖いんだよ。どんどん成長していきやがる。体だけじゃない心もだ。一族をまとめられる器がある。俺は楓の成長はどこにあるか後をつけてみた。そしたら、お前たちと一緒にいる楓を見たんだ。そしてあいつに問い詰めてみた。そしたらあいつにはどうしても族長にならないといけない理由があった。このままでは族長に俺はなれないかもしれないと」


「だから、殺そうとしたのか」


 目を閉じ、首を横に振る卓光。


「殺そうとまではしない。いくらあいつでも自分の命がかかったらお前らを投げ出すと思っていたんだ。でもあいつは一向に命乞いをしねぇ。それより、お前たちは助けに来ると信じてやがんだ」


「それが、楓だからな」


「俺は思った。もし本当にお前たちがここに来たら俺は族長を諦めようと、もう勝てないとな」


 三人の様子を上空で見ている高市と楓。


「卓光兄さん負けちゃったよ。でも頑張った方だよね」


「……頑張ったよ。下ろしてくれ高市」


 処刑台に高市が楓を連れて降りてきた。


「お兄ちゃんたち強いね」


 二人は杖を構えるが高市は手のひらを前に出して何もしないという意思表示をした。


「そんな事をしなくても楓兄さんは返すよ。僕はどうでもよかったんだ」


 そういうと楓の紐を解き楓は自由になった。


「高市、お前」


「だって卓光兄さんがやられたんだもん、僕は脅されて解放したってことにしとくから」


 楓と凛太郎はお互いに歩きはじめる。そして拳を合わせた。


「また、こうすることができたな楓」


「ああ」


 その様子を見つめる嬉しそうな千春。


「楓兄さんって変なんだよ。本当にお前たちのこと信じていたんだから」


「でもなぜそこまで信じられたんだ」


 そんなに信じられるのが友情だけでは無理だと凛太郎は思っていた。


「三人を百パーセント信頼して……と言いたいけどそこまで僕は人間ができていない。この救出劇は凛太郎のお父さんの松則さんと決めていたことなんだよ。未来を変えてみませんかと相談したら快諾してくれて実現したんだ」


「えー!」


 その言葉に凛太郎と千春は驚きお互いを見る。


「兄さんが来ることは分かっていた。兄さんの考えることは大体わかる。天上の世界に来ることもね」


 楓は卓光を見るが、ずっと空を見ていた。


「なんでこの作戦にしたんだよ。それと親父が賛同した理由は? あの動かない親父が」


 凛太郎はあの親がそんな作戦に乗るとはどうしても思えなかった。自分が何年も動けと言い続けたのに楓の一言で動くとは信じられなかった。


「それは父さんと凛太郎のお父さんの松則さんの過去に関係があるんだ」


 その言葉を聞いて今まで空を見ていた卓光が楓の方を向き質問した。


「お前、父さんのことを何か知っているんだよな。教えろ」


「兄さんもお父さんに弟の則市さんがいたことは知っているよね」


「ああ。確か一二歳で亡くなったと聞いている」


「その昔、則市さんと松則さんは仲が良かったんだ。森の中で出会い仲良くなったそうだ。僕と凛太郎のようにね」


「そんなことが親父にも。聞いたこともなかった」


「松則さんと則市さんはともに一二歳ですぐに意気投合した。そして則市さんがしていた仕事を松則さんも手伝うようになったんだ」


「それってもしかして、魔物を倒すこと?」


「そうだよ。当時は月の者は子供でも自由に夜見の世界に行けたんだ。二人は名前に則と同じ漢字が使われていて、そこから仲が良くなり密かに魔物を倒していたようだ」


「ひそかに?」


「この時代も伊岐の一族は嫌われていた。だから二人は会っていることは秘密だった。でもそれは長くは続かなかった。僕たちの父さんにばれたんだ。でも父さんは弟のわがままを許した。だがそれが悲劇の始まりで則市さんが魔物に殺されたんだ。その瞬間を見ていたのが僕のお父さんと松則さんだった。その日に父さん同士が初めて会ったと聞いた」


「そんな事があったなんて」


 凛太郎は初めて聞く父の過去を真剣に聞いていた。


「これはおじいさんが則市さんに聞いたことと凛太郎の父さんに聞いたことだよ。父さんの気持ちは分からないけど今の状況を見たらわかるでしょ」


「確かに」


「今の状況を打破できるのは父さん同士を和解させることだ。そのためにも凛太郎のお父さんに勝ってもらわないといけない。父さんたちの所に行こう!」


 凛太郎と楓、千春は父たちの所に向かった。高市もいこうとしたが楓に言われて卓光についていることになった。


 場面は変わり、父たちの対決場所


「どうだ松則。苦しいだろ」


 影を纏った三四郎は松則を圧倒していた。スピードも桁違いで刀を使わず松則を圧倒していた。


「ぐはぁ」


 松則は岩の壁まで吹き飛ばされた。


「なかなか死なないな。あれから三十年ずっと生きているからなぁ。俺が殺してやるよ」


「ぐぐぐ」


「ある日の事は忘れない。血まみれになっていた則市とお前がいた」


 松則の頭には過去のことが思い出されていた。


 森の空間室で血まみれで息のない則市とそれを見て呆然とする三四郎。松則は涙を流していた。


「どうしたんだ」


「お、お兄さん…… 強い魔物に襲晴れたんだ。勝てなかったんだ」


「どうしてお前は死んでいない」


「則市が助けてくれた」


「俺はお前に則市を助けろと言ったんだぞ。月一族を守らなくてどうする。俺はお前を一生恨む。そしてお前は魔物に食われて死ね。毎日ここで戦え」


 二人はこの時初めて会うわけではなく実は一か月前に会っていた。その時に三四郎は会っていることを許してしまった。


 

「俺は松則、お前に自ら命を絶つことを選ばせた。裏切りの血を絶やすために」


 三四郎は松則の首を絞めた。松則は苦しそうだが喋りはじめた。


「俺は死ねなかった。それに俺は生きないといけない。則市に言われたからな」


 そういうと松則は岩に手を当てている。手のひらから魔力が出ているが三四郎は気付いていない。


「俺はお前に則市を守れと言ったんだぞ! 松則!」


「俺は則市のためにも生きないといけないんだ!」


 松則は両手を合わせると、地面が揺れ始めた。


「なんだこれは」という三四郎は反射的に手を離してしまった。


「伊岐一族の能力です」


 そういうとドーム状に岩がなって行き、二人を包んでいった。松則は影を出させないように岩でドームを作った。


「これで影が使えませんよね」


 暗くて見えないが三四郎の影が消えていることは魔力からも感じ取られた。


「糞やろう。どんな魔法使いやがった。」


「私たちは自然、相手の神力をもらい使える能力を持っているのです。だからこうやって能力を組み合わせるのは得意なんです」


「そうか。卑怯者にふさわしい能力だな」


「あなたは則市のために俺を殺したい、でも俺は則市のために生きないといけないんだ!」


 そこから暗い岩の中で二人の男がなぐり合っている音だけが聞こえた。そして数分が経つと音は消え家あのドームが崩れていった。


「三四郎さん」


 崩れた岩の中から松則が出てきて三四郎の上に載っている岩をどけその場に座り込んだ


「なんだ。お前」


「あなたはもっと強いはずだ。でも」


「俺が則市のことを考えていたからか」

 

 一呼吸おいて松則が話す。


「違います。則市の事も少しはあるかもしれないが、あなたは息子たちのことが気になっていた。戦いに意識が向いていなかったのです。息子二人の命がかかっている。いくら装っても動揺は見えていました」


「……」

 

 三四郎は黙っていたままだった。則市よりも今は息子のことが気になっていたことを気づかされた。そのことは恐怖でもあった。自分の中で則市の存在が小さくなっていくことに。


「あなたはもう一歩進んでいたんですね。これから……私も一歩……進んでみます」


 そう言うと倒れる松則。倒れた松則を見た後、空を見て三四郎は小さくつぶやく。


「則市、あいつはお前の命を託す男に少しはなったんじゃないか」


 三四郎はそう言い気絶した。それと同時に月と伊岐の戦いが終わった。


それからほどなくして、倒れている父たちの元に息子たちがやってきた。凛太郎と楓は父に寄り添い心配している。その親子の姿を上空で見ている二人の魔法使いがいた。



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