10話 対決
楓は契りの崖と呼ばれる名所にいた。契りの崖には二人の男女が杖を抜き対面している三十メートル巨大な彫刻が設置されている。彫刻の間には谷が流れていて崖の下は川が流れている。二つの彫刻は橋でつながっていてその中心部に楓は両腕を縛られて座らさせられていた。両側に二人、後ろに一人と囲まれ、逃げられないようにされ処刑の準備は着々と進んでいた。だが楓の顔はいつもと変わらなかった。
「どうだ、景色は。荒野が広がっているだろう、お前のこの先の人生は荒野のように広がっていたのにもったいないことをしたな」
右側で拘束していた兄の卓光が楓に話しかけていた。しかし楓は冷静な口調でこう返した。
「そうかな? あのままいても広がっていなかったと思うよ」
卓光はそんな態度をとる楓にイラついた表情を見せるが黙っていることにした。イラついても黙っていても未来は変わらないと思ったからである。
「楓兄さん、なんでそんなにいつもどおりなの? また聞くけど」
今度は左側にいる弟の高市が質問した。十二歳の子供だが兄が処刑されることを納得している。兄との別れも悲しんでいなく声も無機質な喋り方である。そんな高市には喋りかける楓であった。
「助けに来てくれると信じているからだよ。本当に」
楓の言葉に兄の卓光は高笑いをした。
「ハハハッ。そんなことがあるわけないだろう。ここは天上の世界だ。来ることはない」
「楓兄さんはよく他人を信じるよね。家族のことは信じないのに」
「卓光、高市、話は終わりだ。楓処刑の時間だ。この対当する巨大な彫刻の中心に太陽が昇ったぞ」
後ろに立っていた父の三四郎がいうと二人の兄弟は楓の両側に立ち、刀を上段に構えた。
「うん、分かったよ」
「やれ、二人とも」
「楓兄さん、バイバイ………………………………でもないみたいだね」
高市はその場からジャンプひとつで離れた。
「何をしている高市!」
「お前も裏切るのか!」
父と兄は眼を鋭くして高市を見るが高市はバカにしたような口調で言う。
「二人ともバカだなー感じないの。こっちに結構強い魔力をもった魔法使い達が向かっているよ。もう見えるでしょ」
高市にそういわれると二人は上空をみる。そうすると大きな魔法鳥に三人が乗り叫んでいる。もちろんその三人とは凛太郎、千春、そして凛太郎の父である。
「楓を殺すなー!」
叫びながら近づき、橋の上に来ると三人は飛び降りて月一族の三人と楓、凛太郎と千春そして父が平行に向き合う構図ができた。距離は十メートル離れている。
「助けにきてやったぜ。楓」
三人の姿に楓は胸が高まり、そして安堵の表情見せる。
「良かった。信じて」
「なんでお前らが来ているんだ!答え――」
卓光の言葉を三四郎が遮り喋りだした。
「そうかお前がいるならここにいるのも納得できる。なぁ松則よぉ」
松則とは凛太郎の父の名前。三四郎が忘れもしない名前である。名前を呼ばれた松則は少し緊張した顔をして喋りだした。
「三四郎さん、則市のことは、今は関係ない。今は楓君を助けに来たんです」
「卓光よ。俺はこいつに恨みがあるこいつを倒してからでも遅くはない。付いてこい、松則」
三四郎は術式で魔法鳥を出し上空に飛んだ。松則も同様に魔法鳥を出して飛び乗った。
「凛太郎そういうことだ。俺はついて行く」
父の顔はなにか決心した表情だと思った凛太郎は拳を父に向けた。
「わかった、親父。親父はやらなきゃいけないんだろ。帰って来いよ」
「分かっている」
二人は拳を合わせた。魔法鳥に乗った父親たちは姿が見えないところまで行ってしまった。そして処刑場には五人が残っている。
「卓光兄さんこの人たちはどうするの?」
「高市、お前は楓を拘束していろ。こいつらは俺が倒す」
「そう、ならよろしく。僕は楓兄さんをもって隠れているよ」
そういうと術式で魔法鳥を出して上空に飛んでいった。
「卓光さんと呼ぶことにしよう。楓を救いにきたぜ」
凛太郎の顔が自信に満ちた顔をしていることが卓光は気に入らなかった。
「……。お前らすぐに殺してやるよ」
卓光は二人に向かって杖を抜き向かっていく。
「千春、影につかまれたら言ってくれ、影の所だけ魔力当てて壊すから」
「分かった」
二人は向かってくる卓光を見る。卓光は凛太郎の方に向かって杖を振った。それを凛太郎は杖で受け止めて、杖同士ぶつかり合う。
「杖に緊張が伝わってこないな。毎日戦っていたことはある」
「あなたたちのおかげでね。まさか友達を助けるのに役立つとは思わなかったよ」
二人がぶつかりあった後、千春は勢いをつけ卓光に杖で攻撃する。
「私もいるっての!」
その攻撃を卓光は後ろに下がり回避し、二人と距離をおいた。
「お前たちは月一族の能力を知っているだろう。対策はしてあるのか」
そういうと卓光は自分の影を二人に対して伸ばした。その影に驚くことなく二人は避けた。やっぱり知っているのかという顔をする卓光。そんな卓光に影を避けた千春が話しかける。
「あなたは能力を知られていて、こっちは二人。どう考えてもこっちが有利。キズを負いたくなければ負けを認めて楓を返してください」
千春は戦力を考えさせ、戦うことなく勝ちたかった。敵とはいえ楓の兄、戦いたくはない。
「知っているといってもこれだけだろ。この技は杖術がうまくならないからあまりやらないようにと言っていたのに、まあ、あいつの得意技だからしょうがないか」
「得意技?」
「そう、影縛りはあいつの得意技で弱い相手には有効だかそればっかりでは杖術の実戦力が身に付かない技なのさ」
「確かに楓の杖術はあまり見たことないな」
「お前たちに見せてやるよ。杖術が身に付くもう一つの影の使い方を」
そういうと卓光は指先に魔力をため、自分の影に流し込んだ。二人は何をしているのかわからず警戒している。そしてその影は浮き上がっていく。影には人と同じように厚みができ、黒い卓光が現れた。
「驚いただろ、俺は一人で二人なんだよ。そっちの女が言っていた交渉は成り立たなくなったな」
「でもその影はあんたの意思で動かすんだろ? 影には目がついてねえ。あんたの後ろで戦えば見えねぇはずだ」
「それはどうかな」
二対二の戦いが始まろうとしていた。
一方の三四郎と松則
父たちは崖から数キロ離れた場所で子供たちの姿が見えない荒野に来ていた。周りを岩で囲まれていた。
「何年振りか。松則?」
二人は収めた杖を取り出さずに会話から始めた。
「十二歳の時ですので三十年前ですよ。三四郎さん」
松則の言葉にはやはり緊張が伝わっている。
「そうか、三十年ぶりか、でも俺はお前の顔を忘れたことはないぞ」
三四郎の言葉には松則とは違い怒りが現れている。
「私もあなたのことを忘れたことはない。そして、則市のことも」
「!」
則市の名が出ると三四郎は杖を抜き、松則に切りかかった。松則はそれを杖でガードした。
「お前からその名を聞きたくはない! お前のせいで死んだんだ!」
三四郎の眼は血走っていた。
「私はこの戦いですべてを吐き出します」
二人は杖を合わせていたが松則の方から離れた。
「吐き出すだと?」
「私は子供たちまであなたと私のような関係になってほしくないんです」
「勝手なことを言うな!」
三四郎は杖の先から影の帯を出して攻撃するが松則は避け、その影を切り裂いた。
「懐かしい技です。よく見ました」
「お前と顔を合わせる時間は少なくしたいと思っていたがやめることにした」
そういうとまた影を操ろうとする三四郎。
「それは見切れますよ」
「違う」
三四郎は自分に影を体に染み込ませるように巻き付けた。巻き付けられた体からは強い魔力が放たれ体も大きく見えた。
「なんか魔力が強くなってきまね」
今まで冷静に対処をしようとしていた松則だったが額に汗をかいた。
「これでお前をいたぶれて殺せる」
そう言うと杖を地面に置いた。
「どういう事です」
「杖だとすぐに終わるからな。拳だと長く戦える」
そう言い松則を睨み付ける三四郎。その眼力に負けないように松則も目を離さない。荒野には風が吹き荒れ、囲っている岩は他の者を寄せ付けないリングのようだった。
一方の子供たちの戦いは倒れた卓光の姿がそこにはあった。




