8話 修行
天上の世界にいける空間を開きはじめてから18時間が過ぎ、翌朝の朝10時になっていた。凛太郎と千春は森の中にある闘技場に来ていた。広さが二十メートル円形の闘技場で柵は薪に使う木の棒がつるで巻かれてた簡素な闘技場である。
二人は闘技場に到着するとまず地べたに胡坐をして座り、背筋をピンと伸ばし目を閉じ精神を集中している。ただ精神を集中させているわけではなく魔力を体に纏わせるのだ。
「凛太郎、ちょっと乱れているんじゃない」
目を閉じている千春がいう。千春は他人の魔力を感じるのが得意と自負していてそれは凛太郎も認めている。
「そうか、いつもと変わらないと思うけど。千春が言うならそうかもしれない」
無意識に焦っているのか凛太郎の魔力が波をうっていた。この訓練は保持魔法という体に魔力を纏わせ、攻防のレベルを上げるために必要な訓練である。魔力の厚さを自在に操ることができれば長期戦にも有利になる。二人はこの訓練を一時間続けた。いつもは会話をしながら訓練をやっているがこの時ばかりは口数は少なかった。
保持魔法の修行が終わると二人は闘技場の端と端に立ち向かい合った。そして自分の足元に直径一メートルの円を手で書いた。円を描いたのは二人がすることのルールにこの円から出てはいけないと決めているからである。
「今日こそ凛太郎に勝ってみせるわ」
千春は大きな声でいう。その顔は楽しさと自信が現れていた。
「無理だよ、千春。俺の勝ちだよ」
「やってみないと分かんないでしょ」
二人は両手に魔力を溜め胸の前で手のひらを合わせた。だんだんと魔力は手に留まり光っていく。そして二人は魔法を唱え地面に両手を当てた。
「木魔法 巨大な手」
「岩魔法 巨大な手」
互いの足元から木の腕と岩の腕が現れ相手に向かっていく。互いに拳の大きさが二メートルはある木と岩で形成された魔法である。この魔法の名前は形成魔法と言い、巨大な腕だけでなく魔法で形を作りだすことを言う。また、遠距離の戦いで使われることが多い。
同時に唱えた形成魔法は二人の中心でぶつかり合い押し合っている。始めの十秒は互いに押し合っていたが徐々に凛太郎の木の手が押し始めた。
「ホラね、千春、俺の方が押しているよ」
「むかつくー!」
凛太郎は余裕の表情をしているが、千春は額に汗をかいていて少し辛そうな表情をしている。この押し合いは魔力の強さも関係している。凛太郎は自分の魔力を七十パーセントしか使っていないが、千春は百パーセント使っている。互いに表情が違うのも当然である。
凛太郎を時計で言うと九時、千春を三時とすると押し合っている手は一時から二時の方に傾いていた。もうそろそろで千春の元へ巨大な手が来てしまう。
「これは修行だから千春、そろそろ俺も百パーセントでやらせてもらうよ」
凛太郎の手の魔力が増えていく。
「その言い方むかつくわよ。いつも」
「そんなこと言ってないで、早く避けないと」
そう言うと一瞬で千春の岩の手の根本まで来て潰してしまった。千春は潰される前に後ろに下がっていて円から出ていた。千春の敗けである。
「つ、次は的当てをしましょ。それなら私が勝つから」
千春の言葉により的当てという修行をすることにした。的当ての修行内容は二人一組で行う。一人が的を形成魔法で作り動かし、残りの一人が形成魔法で球や矢を作り出し当てるという修行である。
「千春が当てられないように手のひらサイズでいいや。うん」
そう小さく言うと右手の手のひらを上に向かせ魔力を溜める。そして魔法を発動させる。
「木魔法木盾 薄く小さいバージョン」
手の平から一枚ずつ計5枚の丸い木の盾が出現した。その木の盾は手のひらで浮いている。
「五枚も出して大丈夫なのー。すべて動かせられる?」
「ギリギリのところでやるから修行になるんだよ」
凛太郎は五枚の盾を浮かせて闘技場内に放つ。
「そっか。じゃー私もぎりぎりでやるわ」
そう言うと右手を的のほうに向けて拳銃を扱うように手の形を作り魔力を集中させる。
「千春は本当にその指の形好きだよな。手のひらで出した方がいいと思うのに」
「いいじゃないの。結構狙いやすいのよ。それより始めるよ」
「おう、こいや。今回はいつもより小っちゃいからな」
凛太郎は五枚の盾を三メートル空中で不規則に動かしている。一方千春は指に貯めた魔力を丸くしている。岩の魔法を使わずに魔力で攻撃する。
「岩魔法 岩鉄砲」
狙いを定めた千春の魔力の球は板一枚を打ち抜いた。十メートル離れている直径十センチの的を一発で当てたのだ。
「うげ! まじかよ」
驚いている凛太郎は少し油断してしまい板が四枚止まってしまった。
「すきあり」
その一瞬で4枚を打ち抜いた。
「ふぅー。私ってやっぱりこれ得意だわ。人間だったら射的の有名人になれたかも」
誇らしそうな顔をして千春は言う。
「やっぱり千春はこの修行うまいよな」
「次は凛太郎ね」
凛太郎も同じ修行をするが動いている岩を当てることができずに五十センチの岩の壁を作ってもらって何とか五枚を当てることができた。千春は五秒、凛太郎は一分かかってしまった。
「くっそー。難しいなこれやっぱり」
「私の勝ち! やったね!」
その後、二人は押し合いと的当てを主にして修行を繰り返した。最後は魔力を纏わせて組手をして3時間の修行を一時休憩することにした。二人は地べたに座って持ってきた水筒で喉を潤した。
「あれ千春お前、水の魔法もっていなかたっけ?」
「あれは変えたの。ずっと持っているのも何か変えたいから。凛太郎はずっと木を使っているよね」
「お前は三つ持てるからだよ。俺は一つしか持てないからさ」
「三つの魔法を持つのは大変なんだよ」
二人の魔法は似ていた。その魔法とは他人の魔法や自然の能力を自分のものにして戦える魔法である。違いは、凛太郎は一つしか使えないがその代りその技の高等魔法まで使えるようになる。千春は三つ覚えられるが一つだけの時とは違い三つ覚えるとその技の中級魔法までしか使えないデメリットがある。二人が自然の能力を使っているのは理由があり、奪うことが楽であるからということがある。奪うには相手に五秒間手を当てないといけないからである。戦いの中で五秒はすごく長い時間のため二人はまだ他人の能力は使っていない。
「千春は今、木と岩だっけ? 水と何変えたんだよ」
「ふふふ、それが水に変えてあるものを使えるようにしたの。早速使ってみようか」
そう言うと凛太郎の手を握る。びっくりする凛太郎。
「実は小町さんの回復魔法をもらったのよ。凛太郎にやってあげるから」
だか、うまくはいかず千春は凛太郎を見て気まずそうにわらった。
「小町さんにやられたときは何か温かい感じがしたよ。千春のは感じない」
「意外と難しいのね」
そう言って手を離す千春。
「繊細な魔力が必要なんだよ。千春も結構繊細に使えるけどもっと繊細にやらないといけないんだな」
「私たちにも使えない魔法もあるかもね」
二人はこの後も話していたが自然と会話は楓と天上の世界のことになっていった。
「なんであの時助けなかったの?」
「どう見ても楓の方が強いと思ったんだけど。疲れていても」
「やっぱりそう思ったんだ。私もそう思った」
二人は違和感を覚えたことを話した後、天上の世界に着いてからのことを話した。
「天上の世界のどこに行くかも分からないし、楓の魔力を察知できる場所だといいんだけど。察知はお前が得意だもんな」
「……うん」
「千春なんだ。その間」
黙っている千春は凛太郎を見つめて言う。
「修行しよ。私たちは体を動かしていた方があってる。それに私たちはバカだから」
「そうだなバカな俺たちは考えるより、体を動かすほうがいいな。よし、休憩は終わり。修行しようぜ」
凛太郎は一度空を見上げて修行を再開した。




