7話 緊急事態
1週間後
仕事を終えた三人は地平の世界の空間室(神社の境内)にいた。服には青い血がついていて凛太郎と千春の服は古着で気にはならないが、楓の着ている袴が汚れているのはもったいないと思う凛太郎と千春であった。
「それにしても毎日これをやるってきついよな。よく二人はしているよ」
「まぁこれも、月一族の命令なんだけどね」
凛太郎は冗談でイヤミったらしく言うと楓は苦笑いをしていた。
「楓君はよくこの生活にすぐに馴染んだよね。ご飯なんて汁ものと焼き魚だけなのに。そう思うよね、凛太郎」
「千春、それをいうな、悲しくなる。でもまぁあ楓もいずれは帰らせるつもりだけどな、お前も」
「……楓君、早く外に行こ」
「う、うん」
千春は楓の背中を押しながら空間室を出た。一人になった凛太郎はため息をついていたがどこか嬉しそうな顔をして心の中でこう思っていた。
「(でも、このまま三人でいることは悪くはないと思っている俺がいるんだよな)」
そんな事を思っていた凛太郎の耳に楓の聞きなれない怒りの声が聞こえた。
「何しに来たんだ!」
凛太郎が引き戸を急いで開けると楓と同じ服を着た男と楓が話していた。その人物は兄の卓光であった。
「楓によく似ているお前は誰だ!」
卓光はきれいな黒髪をサラッと触った後に腕を組み言う。
「お前とは失礼な奴だな。俺は兄の卓光、月一族に対する敬意を払ってもらわないとな」
二人を見下すかのような目で話す。
「僕は帰らないよ、兄さん」
「それはお前が決めることではない。ただ帰ってきてもどこかへ行くことにはなるけどな」
「……どういう事だよ。それは」
「それはなぁ……楓、お前の処刑が決まったんだ。場所は天上の世界だ」
楓は処刑など考えたことなく、まさか自分がそんなことになるとは思ってもいなかった。
「今からお前を拘束する」
そういうと杖を抜いた卓光。楓も抜き戦闘態勢に入った。
「二人は見ていてよ。迷惑はかけられない」
「懸命だ。どうあがいても俺には勝てない。お前はそこまで馬鹿じゃなかったか」
「影縛り」
「無駄だぞ。自分の影に拘束されるほど俺は弱くない」
楓は影を使って拘束しようとするがすぐに破られてしまった。やっぱりかと言う顔をする楓。理由は自分より魔力の強い者には使えない技であるからと知っていたからである。何よりさっきまで魔法を使って魔物を倒していたため、魔力が少なくなっていた。
「なら、杖術だよ」
楓は杖術で戦っているが卓光の杖さばきは楓より上をいっている。そんな劣勢の楓を見ていた千春は助けに行こうとしたが凛太郎が腕を横に出して止めた。えっという顔をした千春に凛太郎は一言いう。
「楓を信じてみる」
しかし、その言葉の数十秒に戦いの決着がついた。
「驚くほど弱いな、楓。もうやめようか。影魔法・黒帯」
杖の先から黒い帯状の影が出てきて楓は一瞬にして拘束されてしまった。
「グぐぐ……」
凛太郎も千春は見ていただけだった。凛太郎が手を出さなかったのは楓に言われたのもあったが、楓はもっと強いと思っていたからである。囚われている楓に凛太郎は動揺していた。
拘束された楓を見て凛太郎が喋った。
「……楓、何負けてんだよ」
「楓に失望したか、二人とも楓の実力はこんなもんだ。実戦経験なんてない。これから処刑に行くぞ」
「待て!」
凛太郎が動くと卓光は止まる。
「近づくな。楓を殺すぞ」
卓光の影の一部が剣のように鋭くなり、楓の首筋に触れるか触れないかで止まる。凛太郎は動きを止められたが今度は千春が質問をする。
「誰が処刑するって決めたのよ!」
千春は処刑のことで頭がいっぱいだった。それほどに処刑という言葉は心にくる。
「俺たちの父親つまり月一族の族長だよ」
「あなたはそれでいいの?」
「父の言葉を借りると後継者は三人いた。一人くらい犠牲になっても構わない、これで一族も引き締まるとのことだ」その言葉を聞いて二人は唖然として言葉が出なかった。
「処刑は三日後に行われる。その時に天にでも祈っているといい」
そういうと卓光は魔法鳥を出して帰って行った。しばらく二人は動けず、静かに時が過ぎていった。
「どうすればいいんだよ」
空を見ながらそう呟いた。考える凛太郎は分かっていた。いくら考えてもいい解決方法は出ないということを。天上の世界にはどうあがいてもいけないことを。
「凛太郎……。式紙が逆だったら行けたのにね。天上の世界に」
「そうだな……」
一つの選択でこうも未来が大きく変わるのかと二人は痛感した。
「どうすんだ。凛太郎」
声の主は父親であった。凛太郎は久しぶりに外に出ている父親を見た。
「聞いていたのかよ、父さん。どうにもできねーえよ」思わず本音が出てしまった。
「楓くんを助けたいのだろ」
いつもとは様子が違う父親の言葉に凛太郎は耳を疑う。目がいつもとは違い力強さが少し見えた。
「あるのかよ、父さん」
「それがあるんだ」
その言葉に二人は驚いた。以外にも助ける道が開いたのだ。
「本当ですか!」
「ああ、天上の世界に行ける空間術を知っているんだ。昔、俺の親友が使っていたものだけどね。これはずっと使えると言っていた。もしかしたら古いから時間はかかるかもしれないけど」
「なんで友達がいるんだ。空間術を使える人が」
「凛太郎と同じくらいの頃に月一族の子と友達だったんだ。楓君のお父さんの弟で則市という子だ。俺は則市を裏切ったし助けられなかった。すごく後悔しているんだ。楓君のお父さんもそのことを恨んでいるんだろう」
凛太郎は父の昔話を初めて聞いた。父は何か解放されたいのかと思った。
「そんな事初めて聞いたぜ。父さん」
「後悔を二度もしたくないし。お前にもさせたくない。楓君を助けるぞ、凛太郎」
「今はじめて父さんがたくましく見えたぜ。天上の世界の入り口を開いてくれ!」
「よろしく頼みます。おじさん」
二人はさっきまでの顔とは別人である。それは父も同じだ。
「分かった。任せてくれ」
空間室
「久しぶりだな、俺も。2年ぶりか」
「そうだよ、父さん。俺たちきつかったんだからな」
「悪いな。それじゃ、空間を開く術を開始する」
父は指に魔力を溜めて術式を描いていく。書き終わるといつもは直ぐ開くがしばらく開かないので三人は焦ったが、数十秒後に一ミリくらいの空間が開いた。
「良かった、なんとか開いた」
しかし、父は浮かない顔をしている。
「凛太郎、多分期間ギリギリになる。処刑開始の三日後に行くことになる」
「どういう事だ?」
「この術式は相当古いもので空きづらくなっている。今は使われてないんだろう」
「そういうことか。でも間に合うんだろ」
「そうだな。だからそれまでに体調を万全にしといてくれ。必ず助けられる!」
凛太郎は父の言葉に驚きの表情を見せた後、少し笑みをこぼしながら言った。
「最初からそんな親父だったら俺は尊敬していたかもな」
その言葉を聞いた父は照れながらも嬉しそうだった。助ける道が開き凛太郎もうれしく思い、必ず助けると決めた。
二人は三日間、自分たちの体調を万全な状態にするため魔力を整える修行をすることにした。焦る気持ちを抑えながら。




