6話 三人での仕事
伊岐家の玄関
凛太郎たちは一日休んで悪魔を倒す仕事を再開した。誘拐事件や楓の事があったことで仕事は無くなるかと思っていたが続いていた。そのため三人は夜見の世界に行くための準備をしていた。
「楓、その袴着て行くのかよ」
「僕はこれしか持てないから。ほら、突然来たし」
「楓君、いつも思うけどそれって動きやすいの? 凛太郎みたいに袴の下着だけ着てればいいのに」
「ボクも最初思ってたけど着てみると案外軽くて丈夫なんだ。何か改良しているんじゃないかな。僕はよく知らないけど。それに下着だけで歩くのはちょっと」
「いままで俺の服装どう思っていたんだよ。まぁ、でもその家紋の付いた上の服は脱いでをけよ」
「羽織の事かい。分かっているよ。ずいぶんと嫌われているようだからね」
羽織を脱ぐと三人は家を出発し、楓の召喚した魔法鳥に乗り空間室に向かった。その時に楓は一族について二人に話していた。
「そう言えば凛太郎の伊岐一族ってなんで一族として認められているんだろうか?」
楓が何を言っているのか分からない二人はポケーとした顔をして聞き返した。
「何言ってんの、楓。伊岐一族は伊岐一族だろ。なんだ伊岐家って?」
「そうだよ、楓君」
「うん? 二人は一族の制度は知らなかったの。ならいい機会だから教えるよ。でもこれには人間と魔法使いの関係も知っておいた方がいいかな」
「簡単に頼むぞ。俺たちばかだから」
楓は二人に説明を始めた。
「まぁ、関係を簡単に言うと五十年前に人間と魔法使いは平和条約を結んでいるっていうこと分かっていたらいいかな。その条約には武器の製造と使用は禁止になるって書かれている。だから本当は杖なんて持っていてはいけないんだ」
「俺たち持っているじゃねえか」
「うん、そこが一族と家の違いなんだ。まず一族と名乗るにも必要な項目があるんだ。誰でもなれるものじゃない」
「その項目って?」
「いろいろあるけど、一つに血縁関係のある人が法律上に十人以上必要と決められているんだ。そしてその項目をクリアした一族が悪魔を倒したり罪を犯している人物を杖と言う武器を使って倒したり捕まえたりできるんだ」
「俺たちクリアしてねーじゃねえか」
「そうなんだよ。だから不思議に思ってね」
「でもさー楓君。なんで一族になるの? こんな仕事きついだけなのに」
凛太郎は千春の言葉にうなずき肩をポンポンと叩いた。
「二人には言っていないけどこの魔物狩りの仕事は高給の仕事なんだよ。だから二人とも本当は相当な金をもらってもいいと思うけどさ」
それを聞いてびっくりする二人。凛太郎は口を開きすぎて顎が外れかけた。
「凛太郎の顎が⁉」
千春は凛太郎の顎を戻そうとしていた。そんな二人を見ても楓は構わず話をつづけた。
「それはびっくりするよね」
「あーびっくりした。でも高給ってことは倒しにくいってことだろ。杖以外の武器はないってことか」
「昔はあったらしいけど魔法使い側の要請で無くしたらしいんだ。それができるといくら魔法が使える魔法使いでも太刀打ちできなくなり魔法使いの威厳が保てなくなるとかで。まーその条件を飲むことで人間たちは今まで地平と夜見の世界にしかいない存在だったけど天上の世界にまで行けるようになったんだから僕はどちらにもいいことだったと思うけどね」
その言葉に千春は待ったをかけた。
「楓君。それは一部だけだよ。私も家族から聞いたけど昔より悪い奴が増えたって言っているよ」
「それは一族制度のデメリットでもあるよね。一族になると罪を犯すと連帯責任となり、脅迫な犯罪は夜見の世界に送り込まれてしまうからね。地平の世界でも格差は広がって行ったよ」
「楓、もうよくね?」
凛太郎が話を遮った。
「そんな世界の大きい話より俺たちの今が大事だろ。それによくわかんなくなってきた。仕事前に頭が壊れてしまいそうだ」
楓はそう言われて少し笑い一族の話をするのをやめた。話を聞くのが好きな千春は少し残念な顔をしていたが凛太郎の言うことには従う千春であった。話が終わってすぐに三人は空間室に凛太郎着し、凛太郎が術式を使って夜見の世界の入り口を開き入っていく。凛太郎と千春は表情を変えなかったが楓の方は少し緊張をした表情をしてどこか気を引き締めた様子だった。楓は二回目の夜見の世界を見渡した。
「二回目だけど結構違うことに気づいたよ」
一回目は視野が狭くなっていたため、細かくは見られなかったが今回は落ち着いているため色々と気づくことがあった。
「電柱がないよね。それに木は生えているけど全部腐っていて足場は本当にすべて砂なんだね」
「ここでは電気はないよ、楓君」
「そうなんだよ、楓。俺も相当な貧乏だと思っていたけど千春のここでの生活を聞いたらまだましだと思っているんだぜ。それに今夕日のような風景だろ。これがずっと本当に続いているんだぜ」
「凛太郎ちゃん。フフフフフ」
嬉しそうに話している凛太郎に千春は細く怖い目でずっと凛太郎を見つめていた。気が付いた凛太郎は咳払いをして別の言い方をする。
「でも、まー年中過ごしやすい気候だよねー。千春」
「それしか褒めるところがないのね」
そんな会話をしている二人を見て楓はあることを思った。
「二人は仕事前でもこうしてリラックスして話しているのかい?」
その言葉に顔を合わせる二人。
「そう言えばそうだな、千春」
「だね。凛太郎。楓君魔物はそんなに強くはないんだよ。ただ数が多いの」
「魔物の話をしていたら黒い霧。……来たか」
話し声に反応したのか、黒い霧が3人の50メートル前に発生して霧の中から3メートル級の魔物が一体現れた。建物や人のいないただ砂漠が広がる空間に魔物は突然その場に現れる。
「やっぱり黒い霧が現れてからじゃないと分からないな」
この一連の流れの中で魔物の発する魔力のような力が徐々に強くなっていく。そのどこで気づくかが魔物倒しを行う上での強さの指標の1つになっている。
「向かってきたか」
魔物が低い重低音の叫び声を出して向かってくる。30メートルの間を走ってくる魔物は両手を前にだし口からは火の玉を出している。3人は火の玉を避けながら腰にさしている杖に魔力を流しながら攻撃に備え居合の構えをする。居合の構えは魔法を使うのではなく魔力を杖に流し、刀のような切れ味になった杖を使い一刀両断するわざである。
「凛太郎に向かって来ているね」
魔物の標的は凛太郎だ。魔物は10メートルに近づくと火の玉の攻撃をやめて鋭い爪で攻撃するために腕を振り上げる。しかし凛太郎は臆することなくその場に居合の構えをしながら動かずにいた。
「グオオオオオ!」
魔物がその鋭い爪で攻撃できる範囲に入った時、大きな声をだして振り上げていた腕を振り下ろす。
(今だ!)
振り下ろした瞬間動かなかった凛太郎は魔力を纏わせていた杖を横に振りぬき、自身も前に飛び出し一刀両断した。魔物は腰から真っ二つになりその場に倒れこんだ。
「よし、あと99体倒したら今日に仕事は終わりだ」
「そうなのか? ん、こっちにやってくる」
魔物が10体ほど3人に向かっている。
「楓は一回見ていてよ。千春、どうせあいつら俺に近づいてくるからフォローしてくれよ!」
「わかってるよ」
二人は全身と杖に魔力を纏わせて悪魔を待つ。悪魔たちは爪のとがった手を振りかざし二人を襲おうとするが二人は左右に分かれて避ける。
「千春。全員こっち向いたぜ!」
凛太郎が言う通り悪魔たちの体は千春に背を向けている。そしていつも通りに千春は背後から悪魔たちを一刀両断していく。仲間たちが殺されていくのに気づいたのか今度は千春の方を向く悪魔たち。それを凛太郎がすべて一振りで倒してしまった。
「完了っと」
杖を振り青い血を振り飛ばす二人。
「どうだ、楓。余裕だろ」
「すごいね、二人とも。連携が取れていた」
その言葉に二人は嬉しそうに微笑んでいた。二人は楓のいるところに戻ってきた。
「あいつらは単純なんだよ。パターンは決まっているんだ」
「そうなんだ。二つだけ質問させてくれ。なんで二人は魔法じゃなく魔力しか使わないのか。それと凛太郎にだけ近づくということ」
「魔法は使わなくていいよ。魔力の方が疲れないし、魔物に使う必要ない。あと俺にだけ近づいてくる理由はわかんないんだけどね。長年俺が倒してきたから魔物たちの間で噂になっていんのかと思うことにしているんだけどね」
魔法を発動するには魔力を使うことは必須であり、魔力を体に纏わせて体をパワーアップさせるはうが楽なので二人はそうしていた。
「だから楓君も魔力で戦うといいよ。影魔法ではなく杖術で戦った方が楽だよ」
「うーん、僕は影魔法を使って戦うよ。その方が僕は楽だしね」
「そうか、別に強制するわけではないからいいけど。疲れるぞ」
「行こうよ、楓君。まだ一時間以上はかかると思うよ」
二人が進んでいると楓は止まりもう一度二人に話しかけた。
「いいかな…… ちょっと二人とも」
「なんだ?」
「さっきの戦いで思ったけど、悪魔たちの中に悲しんでいる顔をしている悪魔もいたんだけど二人は気付いた?」
何か神妙な顔をしている楓に凛太郎は笑顔を向けた。
「気づいているさ。でもそれは関係ないよ…… 倒さないといけないんだ」
そう言うと凛太郎は前を向き歩いていく。千春はそんな凛太郎をみて楓に近づき一言話す。
「私も聞いたけど倒すだけとしか言わないんだ。しかもちょっと笑顔で言うんだよ」
一言いうと千春は凛太郎の所に走って行った。その様子を見た楓は初めて凛太郎が遠い存在だと思った。楓も遅れて二人に合流してこの後、二時間魔物を倒していった。




