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5話 楓の魔法

  空間室


「初めてだな。夜見に行くのは。空間魔法異界・開」


  唱えると楓の目の前が光だし2メートルの黒い穴のようなものが目の前に出現した。その光は空間が捻じ曲がったかのような不気味な様子である。


「手が震えている。落ち着け自分」


 手のひらに貯めていた魔力を右手の人差指に移動させ空間の前に出し、人差し指を使って文字を書いていく。現在使われている文字ではなく難しい複雑な字を書いていく楓。


「これでよし、まってろよ。凛太郎」


 すると黒い穴が変化し古い木製の扉が出現した。扉を開けおんぶしている千春が起きていないことを確認し、目の前の5段の短い階段を下りて砂の地面を一歩二歩と歩いていく。楓は夜見の世界に初めて入った。そしてまずは夜見の世界を見渡した。


「……。本当に人が生きられる場所なのか」


 こんな場所は地平の世界には存在しないと思った楓はあっけにとられたが目的を思い出した。


「いけない、いけない。そんな事より精神を集中させてと……南の方に凛太郎の気配がする」


 魔力を持つものは精神を集中させると相手の魔力が分かるようになる。しかしそれは特定できるレベル

ではなく魔力を感じる程度である。


 一方、凛太郎は男たちに囲まれていた。


「本当に月一族は来るのか。まぁ来なくても地平の行き方が分かっただけでもいいか。あいつは殺されてもいい野郎だしな」


 男たち30人は高笑いしながらしゃべっていた。その足元にはボロボロになった凛太郎が体を縛られて地面に横たわっていた。意識はかろうじてあるだろう。


「お頭、こいつもう何も言ってこなくなりましたぜ。どうしやしょうか?なんかにらんでくるのが不気味ですけど」


「まぁ待っとけ。こいつはいずれ死ぬ、そのままにしようや」


「そうですね。あははは……ぎゃぎゃぎゃ」


「どうした急に変な笑いか……なんだ! その黒い帯は!」


 男たちは驚き、その帯が伸びている方向を向く。


「笑っていられるのも今のうちだ」


「誰だ! お前は」


「一応、月一族のものだが」


 そこには切っ先から影の魔法を出している楓がいた。楓の表情は今までしたことが無いくらいのキレた顔をしていた。その表情でお頭と呼ばれている大男を凝視していた。しかし大男はそんな楓を見て笑った。


「本当に来やがったなぁー! しかも一人で! 俺たちをなめてもらっちゃ困るな。でもいい、これで月一族の奴らを殺したと箔がつくぜ」


「そうですね、お頭」


 取り巻き達は一斉に刀を抜き、楓に向ける。多勢体一人であるためその表情からは自信がうかがえる。


「行くぞ! お前ら!」


  男たちは一斉に襲い掛かった。楓は三六〇度囲まれながらも冷静な一言を言った。


「懲りないやつらだ」


「あ、あ……」


 あまりにも一方的な戦いであった。反乱軍がその場から一歩も動かずに一斉に倒れていく。


「安心してよ。みねうちを攻撃しただけだから……と言っても聞こえてないか。みんな気絶しているし」


 楓は杖を腰のホルダーに納め凛太郎に近づいていく。


「やっぱり強いな……。楓は」


「そう? ありがとう」


「影の魔法を最後に見たのは4年前の公園以来か?」


「そうだね。どうだった僕の影の魔法」


 凛太郎は楓の戦い方を見たのは4年ぶりだった。まず杖を砂の地面に刺し、魔力を砂の地面に流し込み魔法を唱える。「影縛り」そう唱えると迫り来ている反乱軍自身の影が異様な形で動き、まるで影が意思をもったかのように反乱軍の足をつかんだ。反乱軍はその場に倒れこみ、影は紐のように変化し腕と足を縛りあげた。「完了っと」そう言うと砂に刺した杖を抜き、反乱軍を一体一体倒していった。杖さばきも中々のもので、その姿に自分にはないスマートな戦い方だと凛太郎は感じていた。戦っている楓の顔は少し目が鋭く、怖さを感じたが戦いとはこういうものだと感じた凛太郎だった。


「本気ではないんだろ? 楓」


 死の恐怖から解放された凛太郎には違う感情が芽生えていた。


「そうだね。3割くらいかな」


 この言葉を聞いて月の竹を統治している月一族の魔法使いであることを強く実感した。楓はこの月の竹を統治している月一族族長の次男。強さと知性を持っていてみんなから尊敬されている一族。そう思って納得しようとしたが悔しいと言う感情は無くならなかった。


「そうか……すげーな」


「それより背中の傷がひどい。今僕が治してあげるから」


「あ、ああ。回復の魔法使えるのか? それともあの時みたいに」


「そう、また式紙を使うのさ」


「やっぱり」


 式紙とは魔法使いが使う手のひらに収まる細長い白紙である。契約した魔法使いを一瞬にして呼び出せる便利なアイテムである。


「契約人 牡羊小町(おひつじこまち)


 紙が光りだしてその光は人の形になった。光が収まるとナース服を着た20歳くらいの女性が姿を現した。前髪はパッツンとしていて少しやる気のない顔に見えるが腕は確かである。


「楓君に呼ばれるとは思わなかったけど、友達がけがをしているようね」


 ショートカットに黒髪の小町に凛太郎は見とれてしまった。


「小町さん、結構な傷だけど平気なの?」


 凛太郎の体には刀の刺し傷が多数あった。


「当たり前よ。もっとひどいのを見たことあるし直す自信があるからね。お友達君、上着を脱いで」


「あ、はい」


 小町は手を背中に近づけて魔力を流す。そして魔法を口にする


「回復魔法 糸縫い」


 右手の指すべてから細い糸が出てきて傷口を縫っていく。


「何かあったかい。痛みが引いて行く」


 1分後には縫い付けて新たな魔法を出す。


「回復魔法 糸引き」


 先ほどの糸を抜くと完全に傷跡がなくなりなおっていた。それを手で触って確認した凛太郎は握手をしてぶんぶん振ってお礼を言う。


「ありがとうございます。小町さん」


「お礼なんていいわよ、私の仕事だし。次はあの気絶している女の子ね?」


 3人は千春に近づき小町が魔法をかざすとすぐに意識を取り戻した。


「楓が倒したの?」


「そうだよ。凛太郎もこの通り無事だよ」


「良かった。この人は誰?」


「小町さんといって、天上の世界(てんじょうのせかい)にいる僕のかかりつけ医なんだ。この式紙に自分の魔力を伝えて自分と契約している人を連れてくることができるんだよ」


 天上の世界はもう一つの世界である。二つの世界よりすべてにおいて()()()()()()()()で、月一族は天上のある一族に頼まれて地平の世界を統治しているのである。


「そうなんだ。私も知らないことがたくさんありそうだね」


 凛太郎が無事だと分かり徐々に千春は不安の表情から普段の表情に戻っていた。


「ありがとう小町さん。これからも頼むます」


「いいわよ。私も忙しいから天上の世界に戻るわね」


 楓が紙を千切ると小町は煙玉のように消えていった。


「そうだ凛太郎。僕たちも結ばせてくれよ、式紙で」


「いいのか。前はダメとか言っていたけど」


「いいんだ」


「お前が言うならいいか」


「式紙のルールは伝えておくよ。式紙は契約した方しか呼び出せないし契約された方はどんなことをしていても呼び出されてしまうめんどくさいところもあるんだ。あっ契約した方は呼び出すだけでなく行くこともできるんだ」


「よくわかんないけど契約してよ」


 凛太郎そういわれ苦笑しながらも楓は凛太郎を契約した。ついでに凛太郎が千春を契約した。


「それと楓はどうするの? ここにいるってことは約束破ったってことでしょ」


「二人が完全に治るまでは僕が面倒をみるよ。夜見の世界にも来て魔物たちを倒すよ。二人とも地平の世界に帰るよ」


「お、おう」


 楓に言いたいことはたくさんあったが楓の雰囲気に違和感を覚えた二人は何も言わずに従った。そして三人はいつも会っている神社にある空間室に移動し凛太郎の家に帰る。いつもは歩いているが楓が魔法鳥を出して帰った。


「楓、俺んちに来ていいのか。俺みたいなのと一緒にいたらもう言い訳できなくなるぞ。それに俺たちの約束話どうなる」


「僕はもう帰らない。約束は違う形で……ね」


 なにかすっきりした表情で楓が言うので凛太郎はもう言い返すのはやめた。凛太郎自身も疲れていたのであれこれ考えたくはなかったのも理由である。


 (なんで俺の周りは家出をする奴らばっかりなんだよ)


 凛太郎はため息をつきながら帰り家に着いた。帰ると父に事情を説明した。


「と、言うわけだ。父さん」


「凛太郎、お前また()()()を」


「女の子?」


 凛太郎は振り向くと楓が女の子になっていた。


「こら楓、女の姿になるなっての!」


 頭を叩いた。


「痛て、ごめんよ。ちょっとからかっただけだよ」


 楓は男女どちらにもなれる不思議な力を持っていた。月一族のものでなく楓特有の力だった。あまり使い道はないみたいだが。


「父さんこいつこんな能力あるから、でも男だからな」


「お、おう」


 三人は凛太郎の部屋に行き、一人になった父。


「月一族の人がここに……何やらかしたんだ。そろそろ俺に動けと言っているのか則市(のりいち)


 父の月一族への拒絶反応は凛太郎が思っている以上だった。そして三人での生活が始まろうとしていた。


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