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2話 チャンス

 樹海にある細くデコボコな道


 二人は凛太郎の住んでいる伊岐一族の村に向かっていた。帰路にはポツンポツンと家が建っているがそこにはだれも住んではいない。理由は伊岐を庇ったとして殺された人がおり、それを恐れた人々が引っ越していったのである。


「この風景を見るとやっぱりいい気はしないわね」


「でも俺の一族のために戦った人には感謝しているんだ。かっこよくねえか」


「かっこいい? ……そうかもね」


 かっこいいという表現がぴんと来なかった千春だが当の本人が無邪気な笑顔で言っているので納得することにした。


 二人は伊岐一族の村に着いた。殺風景な景色の中ポツンと家が一軒建っている。小さな蛍光灯が目立ち、門もあり結構大きい家ではあるが鎌のようなものでヅタヅタに傷をつけられていた。さらに門には「死ね」と書かれている紙が貼ってあり凛太郎は紙を丸めてポケットにしまった。


「いつもこの壊れた門を見るとちょっとだけ嫌になるよな」


「そうだよね。人間も嫌なことするよね。魔法使いもだけど」


 凛太郎は千春の言葉を聞いて少し黙った後、意外なことを話し始めた。


「でもさぁ、人間たちには感謝しているというか偉いと思うところもあるんだ。昔、楓から聞いたけど昔の人間たちは差別されていたらしいんだ。体はかすり傷でも一日はかかるし、体はすぐに衰えるしね。魔力をもった俺たちは少しのキズだったらすぐに治るだろ。でも人間たちは使えないなら作ってしまおうということになって科学技術を発展させたんだ。家の明かりもね。まぁうちにはないけど電話とかテレビとかね」


 それを聞いた千春は複雑な顔をしている。同意してくれると思っていたからだ。


「でも、それでも不満が出る人間がいるんでしょ」


「そうだよ。そう言う人間たちがうちにやっかみに来るんだ。魔法使いを襲うことはできないからさ。俺の家は持って来いと言うことだよ。楓にはそういう人も救ってほしいと俺は思っているんだ」


「何かカッコつけていない?」


「……いいじゃんか」


 二人は玄関を開けて中に入った。歩くと床がきしむ音がして障子も穴だらけである。二人は玄関から一番近い部屋に入って行った。そこには何もするわけでもなく天井を見ている凛太郎の父親がいた。無精ひげも生え顔に覇気がない。服は何日も着ているのかしわくちゃで部屋は少し匂っている。


「父さん、またボーっとしていたのかよ」


「……凛太郎、それに千春ちゃん生きていてよかった」 


 その言葉に父の威厳はなかった。そんな姿を凛太郎は見たくはなく早く自分の部屋に行きたかった。


「よかったじゃなく、働けよ。俺たちは向こうにいるから。それに父さんはこの環境を変えたくねーのかよ。誰も俺たちを虫けらみたいに思っているんだぞ!」


「何をするんだ? 戦うのか二人で、無理だろ。それにお前と同じことを思っていたお前の兄は死んだんだぞ。お前には兄みたいになってほしくないんだ」


「……。千春行くぞ」


「う、うん」


 凛太郎はいつもバカで明るいが父とはなすときはイライラしていた。


 凛太郎と千春が部屋を出ていくと父はポツンとつぶやいた。


「どうせお前の時代で伊岐一族は終わりだ。もう月一族の言うことはたくさんだ。疲れたんだ。悟もいなくなったんだ」


 父のこの言葉は正しいところもある。伊岐一族はもう父と凛太郎しかいないのだ。凛太郎の兄の悟がいたが父の代わりに夜見の世界に行った時に魔物に殺されてしまったのである。


 数分後、凛太郎と千春は風呂に入っていた。


「凛太郎早く上がってよ。私も洗いたいんだから」


 千春は脱衣所で凛太郎が風呂をあがるのを待っていた。服を脱いで体にバスタオルを巻いている。


「じゃんけんで負けたんだろ。それにお前はもっといつもは長く入ってんだ」


「そうだけどさ~」


「そうなの、だから俺はゆっくり入る。何なら入ってきてもいいんだぜー」


「バカ言わないでよ。あんたとはいったら何されるか分かったものじゃないわ」


 千春は怒ったが、凛太郎がさっきまでと違って冗談を言ってくれて安心した。凛太郎がこのような状態でも笑っていられるのは性格的なものもあるだろうが楓の存在もあるからだろう。毎日父親と口論しているのもあきらめないのも楓の存在が大きい。二人は風呂から上がると疲れていたためすぐに寝てしまった。


 そのころ楓は月一族の木造の城にいた。


 楓は広い和室で正座をしながら目の前に仁王立ちで立っている男の話を聞いていた。男は紋付き袴を着ている。この紋付き袴は月一族の正装で戦うときにも着衣している。


「楓あいつらに会うのはやめろ。学校は卒業したお前はもう子供ではない立場を考えろ。次は父に言うぞ」


 相手は楓の兄・卓光(二十歳)月一族の次期族長であった。バレていないと思っていたが兄にはバレていた。


「兄さん。兄さんは何も知らないからそう言えるんだ。兄さんはもっと世界を知るべきだ」


「知る必要はない。そんな知識」


「……やっぱり兄さんとは合わない」


 楓はそういうと部屋を出ていった。止めようとした卓光の言葉には反応せず静かになった部屋で卓光は決心した。


「……あいつは俺をなめているな。俺が今までお前に甘いのをいいことに。でも俺は将来とお前なら将来をとるぞ、楓」


 翌日、楓は父の月一族族長 月三四郎に呼ばれた。隣には腕を組んだ卓光もいる。


「お前はまずこの地平の世界を統治している月一族であることを自覚しないとな」


 父の声は低く迫力があり楓は苦手であった。


「でも僕は」


「でもではない。お前はなぜそこまでしてあいつらに会う?」


 楓は父の迫力に押されかけたが正直に話し最後にこう言った。


「この国を変えたいと再認識できるからだよ。そう思えるんだ」


 まっすぐな迷いのない瞳に父は頭を抱え、仕方がなくある提案をする。それは兄弟にとって思いもしない提案だった。


「お前がそこまで思っていたとは……。ならこうしよう、後継者にお前も加えてやる。それならどうだ。ここで世界が変えられるかもしれんぞ」


 卓光は驚き、声が大きく言った。


「どういう事だよ。父さん! 後継者は俺だろ!」 


 楓も父の提案に目を見開いた。凛太郎と千春には言っていなかったが楓は卓光がいる限り族長になれないのである。月一族の族長は歴代の中でも長男が受け継いでいる。この提案は楓にとってもチャンスであった。


「本当ですか?」


「本当だ。だが条件がある」


 三四郎はにやりと笑う。


「条件?」


 その言葉は卓光も注目している。


「あいつらには今後会うな。そしたら加えてやろう」


「それは……」


 楓は言葉が続かなかった。頭の中で考えが巡っている。


「父さん、面白いよ」


 卓光は笑っている。卓光の笑い声で止まっていた考えが頭の中にめぐりこう考えていた。


(二人に会えないのは寂しい…… でもこれはチャンスなんだ! 二人は未来を僕に託している)


 楓は正座して畳をじっと見ていたが顔を上げ三四郎の顔を見る。


「その条件をのむ。でも手紙を書かせてくれ。それを最後に僕は会わない」


「よかろう。これからはこの家で族長になるために精進することだな」


「分かりました」


 楓は頭を下げて部屋を出た。


「卓光、お前には悪いがこれしかなかったからな」


「父さん、いいよ別に。最初は驚いたけど僕じゃなく一族にとってはこれがベストだよ。伊岐一族に会うことは許されないんだ。あの一族は()()()()()()だからね。父さん俺も族長になるために精進してくるよ」


 数時間後、楓は手紙を書き終えた。手紙は要約すると卒業してこれからは族長になるために勉強しないといけない。忙しくなるから会えなくなるけど二人との約束は守るよと書かれていた。楓にとって大きなチャンスが巡ってきた。

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