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12話 決着

 砂漠街


 夜見の世界の人々が自分たちで作った街の事を言う。規模は少数の所から多いところでは千人規模の大きな街もある。それぞれ独自の規律が存在している。


 そして千春はその一つの砂漠街で水を求めてやってきた。家が20軒くらいあり比較的小規模の砂漠街である。千春は着いてから一軒一軒回ってきたがなかなか水を分けてはくれない。配給制である水は人数分+仕事量で決まるので無駄な水はないのである。そのことは夜見の世界で生活している千春はよくわかっているのであるが、初めて魔法使いに頼まれたことを何としても達成したかった。そして凛太郎の所から離れて20分、15軒目の家に着いたときもう次で何としても決めると決心した千春はある行動を思い浮かべていた。


「あのーすいませーん」


 返事があり家から出てきたのは60歳くらいの優しそうな頭の薄いおじさんだった。千春の望んだ年齢よりだいぶ上だったが男性であり、そこはほっとした。


「なに用かね、……はうっ」


 千春はおじいさんに近づき手を両手で包むように握り、上目づかいをする。ぼろの着流しは少しはだけている。


「あの、お水を少し、少しだけ分けてほしいんです。コップの半分くらいでもいいんです」


 その愛らしい顔におじいさんの心はすぐに決まる。


「分かった、あげるよ。水筒いっぱいに……ね」


「あ、ありがとうございます」


 そう言うと抱き付き、おじいさんは「うっ」という小さい声をだし家の中に入っていきすぐに水筒いっぱいの水を持ってきた。その顔は笑顔だった。


「ありがとうおじいちゃん。これは走りやすいよ」


 笑顔満点な顔を見せる千春は誰が見ても可愛い女の子である。もし地平の世界の魔法学校に通っていたのなら学年一の美人と言われているだろう。


「かわいかったな」


 しみじみと言い、何故か照れている爺さん。その様子を玄関から見ているお婆さんがいた。その顔はにらみを利かせ完全に怒っていた。


「爺さんやちょっと来なさい」


「は~い」


 おじいさんは笑顔でお婆さんについて行った。家の中で何か鈍い打撃音がしたが、千春はそんな音が聞こえる前に砂漠街を出ており凛太郎の場所に向かっていた。時間は25分経過していた。



 その頃、反乱軍の基地では倉蔵がニヤニヤしながら炎に包まれる凛太郎を見ていた。凛太郎の服は所々焼け破れていた。それは魔力が少なくなっていることを意味している。魔法使いの防御の基本は魔力を纏うこと、この魔力を厚く纏えば防御力を増す。だが厚くすると魔力のコントロールが難しくかえって防御力が減ることがある。凛太郎はそのことを知らず多くすれば防御力が増すと考えていた。伊岐一族、独自の学びで魔法を考えることが弊害している。


「おいおい、もう二十分立ったぞ。そろそろ新しいアイディアを出さないとまる焦げになるんじゃないのか?」


 鬼畜な倉蔵は凛太郎のそんな姿に興奮が収まらなかった。その興奮は性的欲求に似ており、倉蔵にはもう苦しむ凛太郎の顔しか映っていなかった。


「……」


 凛太郎は黙っていた。それは無駄な力を消費したくないからでその場に立っているだけである。そんな凛太郎に倉蔵は面白くない。動かず、叫ばない対象は何も興奮しないからだ。悲鳴が聞きたい、この後10分間の間火の玉や火の渦の範囲を狭めるなどの攻撃をし続けた。その火の攻撃をうけて凛太郎の体力と魔力は限界に来ていた。そのことも倉蔵は知っていた。倉蔵は数多くの魔法人にこのようなことをしていたからだ。


「もうそろそろだな。はぁはぁはぁ」


 倉蔵が絶頂に達しようとした時、遠くの方から千春の声が聞こえた。


「凛太郎くーーーん。持ってきたよ水」


 千春が息を切らしながら帰ってきた。その姿を見られるものは倉蔵と十字架に縛られている道長だけ。駆け足で来たが凛太郎の姿はなく火柱が立っている。そして道長が気絶している状況に息をのんだ千春。その顔を見て倉蔵はまた不気味な笑みを浮かべる。


「小娘。やっと来たかこの中に凛太郎はいるぞ。もう少しで死ぬんだ」


「え!?」


 びっくりして火柱を見る。この中に魔法人がいるなんて想像していなかった。だが必死で火の中に向けて凛太郎の名前を叫んだ。


「あー、声が聞こえるよ、千春ちゃん。水もってきてくれた?」


 いつもとは違い元気のない声だが、その声に笑みをこぼす千春。持って来たと伝えるがこの炎の中では渡せないかという凛太郎。


「大丈夫だよ。水筒に入れてくれたから」


「それは運がいい」


 投げ入れようとするが倉蔵が喋りだす。


「待て小娘。俺はお前が来ることを待っていた」


「何、それ?」


 ニヤリとする倉蔵。


「今から小僧を燃やしてしまおうと思う。黒こげになった小僧でも見ているがいい。火術・火の柱・業」


 火柱はさらに上が20メートルになり、そして火はだんだん凛太郎の体に近づいてくる。


「絶望の顔は私が一番好きな顔だ。火柱の中の顔は見えないから仲間の顔を見たいんだ」


「千春! 水をくれ!」


 わかったと言い水筒を火の中に投げる千春。届いたかは不明で不安が広がる。


「そんな少ない水どうするつもりだ。魔力増量させもっと火力を上げるぞ」


 火柱が全体を包む。その火の威力と熱量は離れている千春にも伝わっている。この炎の渦に巻き込まれたら自分ではひとたまりもないと。そう考えたら叫ばずにはいられなかった。


「凛太郎くーーーん」


 千春に叫び声が響き渡る。その叫び声に反応したかのように火の柱の中から違う音が聞こる。


「なんだ!?」


 火柱が小さくなり蒸発し始め、その内側から水に柱が噴水のように湧き上がっていた。そして中から凛太郎が現れる。その光景に倉蔵含め全員が驚いている。


「凛太郎君!生きてた!」


 涙が出そうになっている千春。


「あー危なかった。もう少しでまるこげになるところだった」


 さっきまでの顔とは違い何か自信のある顔をしながら出てくる凛太郎。手のひらからは水があふれていた。それをごくごく飲んでいる凛太郎。


「どういう事だ小僧。お前の魔法は木のはず、なんで水の魔法が使える!?」


 さっきまでの顔と違い驚いている顔をする倉蔵。性的興奮は収まってしまった。


「教えてやろうか。どうせお前は俺に倒されるのだから」


「ガキが調子に乗りおって」


「も、もしかして触れたものを能力にできる魔法なの凛太郎君」


「千春ちゃん正解よくわかったね。そうそう言う魔法」

 

 凛太郎はびっくりする。能力を一発で当てられるとは考えもしなかったからである。倉蔵と道長は能力を分かってもまだ不思議そうな顔をしている。魔法人の魔法は一つしか使えない、それがいま覆されている。


 そうはいっても凛太郎の魔法は一つである。千春が言った通り触れたものを能力にできると言う一つの魔法である。伊岐一族の特有の能力と父から教えてもらったこの魔法は凛太郎の自慢であった。


「だけど魔法を変えちゃうとその魔法しか使えないのが厄介だけどね」


 能力のストックはできない。変えればまたその物を触らなければ使えない。


「そんな魔法あってたまるか」


 倉蔵は火の球を放出し凛太郎に攻撃する。いたぶるのが好きと言っていたが凛太郎の能力を見て早く殺さなければと思ったのかその火は巨大で直径1メートルは超えていた。だが凛太郎はその火の球に逃げることなく右手を出して止めようとする。火の玉が凛太郎の手に接触すると大きな爆発音がして蒸気が発生する。


「やっぱりこの水は最高だな。あの火の球を打ち消してしまうのだから」


 その光景を見た蔵造は初めて額に汗をかいて動揺していた。だが動揺が収まるのを凛太郎は待ってはくれない。


「おっさん、俺も正直疲れたから30秒でお前を倒す!」


「なに!?」


 凛太郎は鉄の見張り台に乗っている倉蔵の足に水の魔法・水鉄砲を当て空中に投げだした。炎の魔法では受け身が取れずに地面にたたきつけられる倉蔵。


「さっきまでとは立場逆転だな」


 倉蔵が見上げるとさっきまで自分の見張り台に凛太郎の姿がある。そして自分に向けて手のひらを向けて魔法を発動しようとしている。


「この光景、今まで俺が焼け焦がしてきた魔法人たちが見てきた光景か」


「水魔法・激水流」


 手のひらから円柱状の水が勢いよく放出される。それが倉蔵の体全体に勢いよく当たりどんどん地面にめり込んでいく。時間にして20秒、倉蔵の声は聞こえなかったがその威力は水が収まった後の顔を見ればすぐにわかった。


「わりいな、水は初めて使うから制御できなくてな。それはそうと、宣言通り、倒し……た」


 凛太郎は見張り台の上に倒れこんだ。


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