年下の義兄
龍国には“王家の食卓”と呼ばれる有名な龍王家の習慣がある。
王家ともなると夜会でもない限り各自で食事を取るのが常識なこの世界において、龍王族は定期的に皆が食卓に集う機会があった。それがこの“王家の食卓”。
絆が深いとされる龍人族を象徴する習慣として知られている代表的な伝統だった。
「といっても、ただ皆で朝食とるというだけなのだけど」
「……ただ、ではございませんよメイリアーデ様」
「……やっぱりまだ緊張する?」
「前進はしていると、思うのですが。4度目にしてようやく味を感じることに成功いたしました……」
「うーん、前途多難」
ナサドの王宮入りから約1ヶ月、朝食後の廊下でややげっそりとした様子のナサドが空笑いをしている。
どうやらこの習慣にまだ慣れてはいないようだ。
この王家の食卓、頻度はおよそ週に一度ほどで内容もそれほど堅苦しいものではなく、単に互いの近況を話しながら雑談するだけの簡単なものではあるのだが。
それでもナサドにとっては恐ろしくハードルの高い慣習だったらしい。
現在ナサドはメイリアーデとの婚約式を10日後に控えている。
正式な立場は未だ番候補だが、龍王の宣言があり龍王族入りが確実となっているため王族としての扱いを受けている状況だ。
そのため公務もお披露目も未だなされていないナサドはこの“王家の食卓”が所謂初めての王族としての行事となっていた。行事というほど大それたものではないが。
そしてナサドにとってそれまで主君と崇めてきた龍人族と共に食事を取るという行為は、どうやら畏れしか生み出さなかったらしい。
一度目の時はたしか顔を青ざめさせ石のように固まりひたすら食事を喉に通す作業に没頭していた。ちなみに極度の緊張から解放された後、消化不良を起こし数時間立ち上がれなくなってもいる。
それに比べれば、たしかに進歩したとも言えるだろう。
ただここまでナサドが緊張するというのはメイリアーデにしても少々意外だった。
何でもそつなく表情さえ変えなかった専属時代の彼を知っているから尚更だ。
「ナサドでも緊張するのね」と笑ったメイリアーデにナサドは苦笑しながらも「当然ですよ」と即答する。
「従者としてと婿としてではまるで訳が違いますから。それも王族の皆様が集う中でなど、平静でいられるはずがございません」
「まあ貴方は特別忠臣だったものね。けれどラン兄様とは日本にいる時も普通に食事できていなかった? それと同じようなものと思えば少しは」
「そ、れは……それも、正直なところかなり時間がかかりました。が、イェランがあまりに恐ろしい形相で怒るので無理やり慣れたのです。……数か月かかりましたが。胃も何度も壊れかけましたが」
「……どちらに同情してどちらに呆れれば良いのかしら私」
普段イェランと仲良く気安いやりとりをしているナサド。
しかし根底にあるのは主従の感情であって今でもたまに跪きたくなる時があるといつだか言っていた。
付き合いの長く気心知れたイェラン相手でもそうなのだ。
そう思えば他の龍王族がいる場所でナサドがこういった状況になるのも無理はないのかもしれない。
共にいられる時間が増えて初めて知ったことではあったが、ナサドは案外不器用だ。
気持ちの切り替えにいつも苦戦している。
一度切り替えてしまえれば何とも上手に立ち回れるというのに、切り替えるまでに時間がかかる。
特に主と定めた龍人族に対しては不敬など働けないという感情が強く作用して、どうにも緊張してしまうようなのだ。
龍貴族としては真っ当な考え方で、ナサドはきっとその中でも厳格に育った方なのだろう。
そして元来生真面目で頑固な一面も持つというのも大いに影響を受けているに違いない。
それでも何とか慣れようと努力してくれているのが分かるから、メイリアーデはナサドに寄り添い彼の手を拾い上げた。
ナサドのこんな不器用な一面もとても愛しく思えるのだ。
「ありがとう、頑張ってくれて。辛かったらいつでも寄りかかってね、私に」
いつものごとく冷え切った手を包んで熱を分ける。
少し強めに握れば、途端に柔く笑ってくれるその顔がメイリアーデは大好きだった。
「……大丈夫だよ、メイ。ありがとう」
緩く握り返し小さく零してくれるのは、最近ようやく増えてきた素の言葉。
ふとした時、本当にたまにしか聞けない彼のため口だ。
思わず嬉しくなって、慰めなくてはいけないはずなのに満面の笑みで喜んでしまうメイリアーデ。
「うんうん、仲が良くて結構結構」
しかしその緩い空気は一瞬のうちに崩れることとなる。
唐突に響いた陽気な声に、メイリアーデもナサドも咄嗟に手を離し振り返った。
その視線の先にいたのはいつもと変わらず穏やかな笑みで腕を組む一人の龍だ。
「ムト兄様!? い、いつからそこに」
「たった今だよ、メイ。すまないね、番との甘い時間を邪魔して。けれどそういうのはこんな往来では無くてお互いの部屋ですることをお勧めするよ」
「……申し訳ございません、アラムト殿下」
「何を謝るのかな、ナサド。僕は何も怒ってなどいないよ。というより君がここまで打ち解けてくれて少し嬉しさも感じるくらいだね」
「それは、いえ……申し訳ございません」
衝撃が強かったのかナサドが固まり動かなくなっている。
直角に近い角度で頭を下げたまま固まるものだから、声の聞こえない位置に控えている従者達がこちらを見て困惑していた。アラムトは面白そうに笑いながら様子を見守っているが。
照れ臭いのか、恐れ多いのか、いたたまれないのか、ナサドの感情は今どれだろうか。
そんなことを考えたメイリアーデは、「いえ、全部ね」とすぐに答えを導きナサドの背に手を添わせる。
「ナサド、落ち着いて。大丈夫だからとりあえず顔を上げましょう」
「も、申し訳」
「謝らなくて良いから。というより、所かまわずふやけた私がいけなかったわ。昨日ラン兄様にも叱られてしまったというのに」
「へえ、ラン兄上からお叱り受けたんだメイ。あはは、その場面見たかったなあ、ラン兄上の私情入り乱れたお説教」
「……ムト兄様、からかわないでください」
昔からアラムトはずっと変わらない。
歳が一番近く、一番仲の良い兄で、そして一番メイリアーデのことを理解していた。
何を言えばメイリアーデがどのような反応をするのか、承知の上でからかってくる節があるのだ。
おそらくメイリアーデの今の反応も全て想定済みだろう。
何だか面白くなくてつい大人げなく拗ねた表情を見せれば、案の定アラムトは満足げに笑った。
「ごめんごめん。幸せそうな君達を見るのが楽しくてついついね」
「私達はムト兄様のオモチャではないですよ。もう、ムト兄様いつもからかってばかり」
「オモチャのつもりなんて無いけどね。仲の良い姿が見れて嬉しいだけだ」
「うう、ムト兄様はずるいです。いつもそうやって私の気持ちを底上げするんだから」
結局今日もメイリアーデはアラムトに白旗を上げることとなった。
アラムトはよく人をからかいはするが、人を傷つけるようなからかい方はしない。
自分に非があると思えばすぐに謝り人の心を軌道修正するのが上手だ。
メイリアーデの扱いを完全に心得ているアラムトを見て苦笑したのはナサドだった。
思わず自然とこぼれたそれにアラムトの目も緩む。
「ようやく僕達の前でも笑顔を見せられるようになってきたね、ナサド」
「は……」
「まあ焦ることでも強要されることでもないけれど。義兄としても少し安心したよ」
どうやら妹カップルをからかうためだけに声をかけたわけでは無かったらしいと気付くのはここにきてようやくのこと。
ナサドより20歳ほども年下の義兄。
軽薄そうに見えながらも、アラムトは今日も思慮深く頼もしい。
ナサドに対しても義兄であろうと、そう思ってくれているようだ。
「……ありがとうございます、アラムト殿下」
「どういたしまして。すぐにとは言わないけれど、いずれは僕に対してももう少し気安くしてくれると嬉しいな」
「善処、いたします」
「うん、結構。あ、何なら義兄上って呼んでくれても良いよ」
「……そ、れは、大変恐れ多いですが、ご遠慮させていただきます」
「ええ? 即答?」
言葉遣いは以前と変わらないながらも会話の繋がりは決して重くはない。
アラムトが出す気さくな空気にナサドも肩ひじはらず返せている。
これではどちらが年上か分からないなとナサドが苦笑してしまうのはすぐのこと。
言葉にせずとも伝わったのかアラムトはにやりと笑って頷いた。
「覚悟しておくと良いよ、ナサド。メイの番となって末の義弟となった以上、僕は君を徹底的に甘やかすつもりでいるから。いつか兄上と呼ばせてみせようか」
「堂々と言うことではないでしょうが、私は相当手ごわいですよ?」
「知ってる。けれど残念だね、僕も相当しつこい」
気遣い上手な者同士通じ合うものがあったのかもしれない。
歳も比較的近ければ、本好きなところや陰から人を支えるその気質も2人は似ている。
共通点の多いアラムトとナサドはどうやら相性が良さそうだ。
楽し気にすらみえる空気にメイリアーデはそれ以上口を閉ざし微笑ましく見守る。
しかしその沈黙は長くは続かなかった。
「というわけで早速親睦を深めようか。メイ、ナサドを借りるよ」
「え」
「……アラムト殿下?」
「善は急げと言うしね。って、これはラン兄上から聞いた言葉だったかな。まあいいか、さあナサド行こう」
「行こうって、ムト兄様一体どこに」
「ああ、メイはついてきてはいけないよ。男同士の会話だからね」
メイリアーデの前からアラムトとナサドの姿が消えたのは瞬く間のことだ。
有言実行にも程があるスピード感にしばらく呆然としてしまうメイリアーデ。
「お、追いかけましょうか、メイリアーデ様」
「う、ううん……後を追うと何故だかものすごく後々厄介なことになりそうな気がするわ。野生の勘かしら」
「……王宮育ちの方が野生の勘というのも不思議なお言葉ですが、否定できません」
「貴方、最近しっかり物言うようになってきたねスイビ」
「ナサド様の影響です」
しかしまあ、アラムトならば悪いようにはしないだろう。
そう判断し、結局追いかけることはせず自室に戻ることにした。
「すまないね、少々強引な手を使ってしまって」
「気を遣っていただいたのですね。ありがとうございます、アラムト殿下」
「……まったく、君は本当聡いね。気付かれるとは恰好つかないじゃないか」
一方、互いに苦笑しながら椅子に腰かけるのはアラムトとナサドだ。
アラムトの自室へと案内されてすぐに部屋から人が払われ今この空間には2人しかいない。
それまでの愉快そうな笑みを途端にしまい込み大人びた表情を見せる第三王子の様子に、何ともアラムトらしいとナサドは思う。
豪快な手法と軽口を得意とするアラムトは、しかし決して強引な人ではない。
まだ王宮に入って日の浅いナサドに下手な気を遣わせないようわざと主体的に動いて2人で話す機会を作ったのだということにナサドは気付いていた。
誰相手であろうと上手に距離を掴み接することのできる人付き合いの器用な王子だとそう思う。
アラムトは降参とばかりに両手を上げ息を吐き出す。
「君と正式に兄弟となる前に君としっかり話してみたくてね。思えばメイやラン兄上を挟まず君と会話したことがなかったからさ」
「……はい。ありがとうございます、アラムト殿下」
「礼を言われるようなこと言ってないけどね」
「そのようなことはございません。私のような者に歩み寄ろうと思って下さる時点で私には本当にありがたいことです」
表面上だけの付き合いをしようと思えばきっと出来るだろう。
アラムトはその辺り徹底して上手だ。
しかしナサド相手にはそうせず、きちんと名実共に兄になろうとしてくれている。
ナサドにとってはそれが畏れ多くも嬉しいことだった。
こんな訳ありの過去を抱えた自分を受け入れてくれたのだから。
しかしアラムトは顔を曇らせ首を振る。
「そう自らを卑下することはないんだ、ナサド。いや、そうさせてしまったのは僕達だろう」
「……アラムト殿下?」
「君がメイの番になると決意してくれて、正直ほっとしたんだ。君をこのままにしていいのか自問しながらそれでも何も出来ない時間があまりに多かったから」
「それは」
「しかし知らぬ存ぜぬで君と家族になれるだろうか、メイが君に見せた行動を前に僕が知らぬふりをしていることを僕自身が許せはしなかった」
アラムトが席から立ち上がりナサドを見つめる。
つられるように席から立てば、身長差でアラムトはナサドを見上げる形になった。
「長く苦労をかけて申し訳なかった。僕達が為さねばならないことを、立場の弱い君に全て背負わせてしまった。そしてオル兄上とラン兄上を支え敬ってくれたこと、メイリアーデの気持ちを受け入れてくれたこと、君の献身に心から感謝する。ありがとう」
まっすぐと深く頭を下げたアラムト。
ナサドはただただ驚き、そして慌てる。
「そのような。アラムト殿下にそのようなお言葉をいただくようなことをした覚えは私にはございません。どうかお顔をお上げください」
そうすれば途端に顔を上げ苦笑するのが何ともアラムトらしいとナサドは思った。
必要以上に人に気を遣わせず、しかし言うべきこと為すべきことはきちんとこなす。
あまりに自然にやるものだから気付かない者も多いが、それはアラムトが龍人族としてやるべきことを必死に探し続け努力してきた結果だ。
「まあ君はそういう反応かとは思っていたけれど。でもけじめは必要だろう? それを本人に付き合わせるというのも勝手な話だけどさ」
「……いいえ。殿下のそのお気遣いにはいつも驚かされてばかりいます。私は……上手く出来なかったものですから」
「そう? そんなことは無いと思うけど。君に学んだことは多いよ、僕」
「恐れ多いことにございます。しかし私は結局多くを混乱させ苦しめました。下手だったのでしょう……、上手い下手で分けるものでもありませんが」
「……うん。君が独りであろうとしたことを改めてくれたのならば何よりだ」
独りであろうとしたことを改める。
それはきっとアラムトだからこそ気付き言えた言葉だろう。
ナサドの事情を把握してなければその言葉は出てこない。
他の王子やメイリアーデよりも関わりが少なく情報だって得にくかっただろうに。
王太子、才の龍、女龍と特別な龍を家族に持ち陰に隠れがちな第三王子ではあるが、その心は誰よりも強く柔らかい。
人の噂や評価に流されず、自分の目で確かめ、成すべきことを成す。
しかし決して人々の心を無視することもない。
アラムトはそういう王子だとナサドは思う。
他の龍と変わらず強く太い芯が見えるのだ。
だからナサドは龍に対して尊敬の念を抱かずにはいられない。
これが生まれ持った龍の本能というものなのだろうか。
自分との違いをいつだって龍から感じた。
畏れ多いという言葉の意味を、龍人と接するたびに感じる。
……なれるだろうか、自分に。
目を閉ざしナサドは自問する。
頭に浮かぶのは自分にこの道を定めさせてくれた少女の笑顔だ。
「……ひとつだけ、お聞きしてもよろしいでしょうか」
「うん、何かな?」
「アラムト殿下は、いつからご存じでしたか。私の正体を」
「……驚いた。君からその話題が上がる日は来ないと思っていたよ」
そして話題に出すのはそれまでひたすらにナサドが隠し続けてきた自身の秘密。
アラムトが察していると確信したのはメイリアーデから話を聞いたからだ。
ナサドの秘密に辿り着くため手を貸してくれた人物の名にアラムトがあった。
メイリアーデがきちんとナサドの秘密を知り向き合えるようにと裏から手を貸してくれたと聞き、アラムトのそれまでの言動や性格を思い返し、辿り着いたナサドの答え。
アラムトからの返答を聞き「やはり」と内心で思う。
そのまま気付かないふりをすることも出来た。
おそらくアラムトは何も知らないふりを続け周りに合わせ笑い続けてくれただろう。
しかしナサドにはどうにもそれが出来なかった。
今のアラムトからの“けじめ”を聞けばなおのこと。
畏れ多いと思いながらも、家族になりたいと、そう思う心もあるのだとナサド自身気付く。
「いつだったかな。君が急にラン兄上と親しくなり、一時期ユイガ家の図書館に通い詰めていたことがあっただろう? その時に一体何を調べているのか気になってね」
「……それほど前から」
「知った時は流石に驚いたよ、全く聞いたこともない話だったしね。そして同時に納得もした。ユイガ家が王族と親密になりすぎない理由、変わり者という名目でその実誰に対しても公正であり、そしてあの巨大な図書館をいつだって開かれた場所にし続けてきた理由を。いつか現れるかもしれない龍に気づきを与え守るためだと」
「っ、やはり、ユイガ家は」
「ああ。彼等はフレディ公の秘密に触れ彼を守り続けた臣下の末裔。君達を影の龍と呼び、その存在を代々龍王に伝え影の龍にまつわる秘密とその人生を守る役目を担った一族だ」
だから秘密に触れた僕の元にユイガ家の跡継ぎが付いた。
アラムトはそうナサドに教える。
薄々感じていたことではあるが、中には当然知らない事実もありナサドは驚く。
まさか自分のような存在を守る一族が存在していたとは知らなかった。
ユイガ家は決して自分を責めたり貶めたりするような真似はしてこなかったが、必要以上に接触することもなかったから。アラムト曰く「それが彼らの守り方」なのだそうだ。
基本的に影の龍の意志を尊重し、理不尽に虐げられないためにしか動かないと。
「……私は、守られていたのですね。ずっと。それに気づけず独りよがりな決断をしてしまった」
「ナサド、それは違う。君は」
「殿下。私もずっと殿下に言わなければならなかったことがあります」
珍しくナサドがアラムトの言葉を遮る。
瞠目したアラムトの前に膝を付きナサドは頭を垂れた。
「ナサド、何を」
「……最後です。もうこの先きっと私は臣下の礼を取ることはなくなるでしょう。しかし、これは臣下として伝えねばならぬことですから」
おそらく臣下のままでは決して伝えることはなかっただろう言葉。
何とも言えない矛盾を抱えながら、それでもナサドは膝をつくことに躊躇いがなかった。
アラムトが“けじめ”をくれたように、自分にもきっと“けじめ”が必要だったのだ。
臣下としての自分を終わらせ、龍人として歩むための覚悟が。
ナサドの言葉に何か感じたのか、アラムトは「分かった」と姿勢を正す。
「長く私を見守って下さりありがとうございました。何度も差し伸べていただいた手を払い続け、そのお心を蔑ろにし申し訳ございませんでした」
「……謝られたいわけではないんだけどね」
「それでも、これはけじめですから」
「うん、君も僕と同じだ」
「……はい。これからは逃げずに生きていきます、龍の名を背負って。メイリアーデ様のお傍で」
龍の名を背負う。
尊敬し見上げるばかりではもういられないのだ。
龍王の言うように、この先はもう逃げられない。
自分が憧れ崇め続けてきたこの気高き龍人達と肩を並べていかなければならない。
そのための覚悟と心構えが、やっと出来たようにナサドは感じた。
「……うん。よろしく、ナサド。これからは兄弟として」
「はい、アラムト殿下のこともお支えできるよう精進してまいります」
「あはは、固いなあ。だから義兄上でいいって」
立ち上がり差し出された手。
ナサドは笑んでその手を強く握る。
じわりとかすかに滲むアラムトの目尻には知らぬふりをして決意を改めた。




