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龍の約束  作者: 雪見桜
本編
60/74

エピローグ


綺麗な青空が広がっている。

雲一つない、絶好の龍誕祭日和だ。



「ナサド様ー!!」


「黒龍様、きれいっ」


「カッコいいねえ、まさか生きている間に黒龍様を見られるとは思わなかったよ」



溢れ返る声達に耳を傾けながら、メイリアーデは空を見上げる。

目に映るのは、ただただ広い空の中を悠々と飛ぶ夫の姿だ。

生真面目なその性格からは想像できないほどにゆったりとした羽ばたきに、思わずメイリアーデは見惚れてしまった。


ナサドの龍型を見るのは何度目だろうか。

数えることが少々面倒になる程度には見てきたその姿。

十数年。共に生きると誓い合ったその時から、すでにそれだけの時間が経過していた。



『……緊張してきた。本当に俺で大丈夫なのか』


『大丈夫だよ、皆ナサドの龍姿楽しみにしてると思うな』


『いや、しかしまだまだ半端龍だしな……』


『自信持って! 私もずっと見てるから』


『そ、れは……逆効果な気が』



ふと思い出すのは今朝の会話。

ナサドが手を冷たくさせるほどに緊張していたのをメイリアーデは覚えている。

手に手を重ね熱を分けてもなお冷えて仕方なかったナサドの手に2人で苦笑したのはつい先ほどのことだ。

しかしそのような気配など微塵も感じさせずナサドは堂々と勤めを果たしている。

思わずふふっと笑みが零れた。




「幸せそうな顔しちゃって。相変わらず仲良しだねえ、メイ」


「ムト兄様……えへへ」


「はいはい、ご馳走様」


「……顔緩みすぎだろ」


「だって嬉しくて。ナサド気持ちよさそうで良かったなって。ラン兄様もそう思いませんか?」


「……知るか」


「イェラン、そう苦い顔をせず笑ってやれ。大事な友人の晴れ舞台だろう」


「…………友と妹の生ぬるい空気に居たたまれぬ故、ご容赦下さい兄上」




兄達と横に並び他愛ない話をしながら龍のナサドを見上げる。

この光景を見るために、本当に長い年月を費やした。

やっと、1人空を飛ぶことが許されたナサド。

それは龍として、父や兄達と並び立つ存在として、公に認められたという証だ。


初めの頃は圧倒的に多かったナサドを不安視する声も今ではだいぶ薄まり、メイリアーデ達のいるバルコニーにまで届くほど歓声は大きくなった。

2人でひとつずつ蒔いてきた種は少しずつそれぞれは小さくとも確実に実になってきている。

こうして声となって表れる程には。

それがメイリアーデはたまらなく嬉しい。


龍国の龍人として、手を取り合い生きていく。

そう決めた自分達にとって、この声は何よりの指標なのだ。





「それにしてもナサドもだいぶ慣れてきたよね。当初はメイにさえすっごく遠慮して臣下の姿勢を崩さなかったのにさ、この間なんて中庭で2人」


「え、ま、まってムト兄様! そ、それ、まさか……っ」


「ふふ、見ちゃった」


「ん? 何を見たというのだ」


「だ、だめっ! オル兄様興味持たないで! ま、まさか見られてたなんて……うう、忘れて下さいー!」


「えー? いいじゃない、夫婦円満の証でしょう?」


「……ムト、やめろ。それ以上話すな。こいつらの惚気は聞きたくない」




やや糖度高めの明るい会話は、国民達の歓声に混ざり溶けていく。

複雑そうな顔をしたまま黙り込む龍王に、その様子を微笑ましく眺める王妃や王子妃達。

主の様子に苦笑したのは、誰の従者だったか。

やがてそれらは広がり、誰かが吹き出すように笑い声をあげたかと思えば弾ける笑みへと変わっていく。


陽気に溢れる龍王宮。

その様子を知ってか知らずか頭上では目を緩ませ何とも幸せそうな顔で空を飛ぶ黒龍がいたわけだが、それを知る者は誰一人としていない。


龍国末姫の恋愛譚は、こうして今日も穏やかに続いていくのだ。








これにて完結です。

最後までお読みくださりありがとうございました!

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