52.共に生きる覚悟(side.ナサド)
自分の体に異変を覚えたのは、いつのことだったろうか。
あの日の記憶は未だナサドの脳裏に焼き付いて離れない。
唐突に無性に、抗いがたい感情が体を支配した瞬間を今でもはっきり覚えている。
「な、んだ……これ……っ」
逃げ込むように走り込んだ林の中、突如勝手に光り出した体。
説明のつかない感触が恐ろしくて体を丸めた次の瞬間、その身は人ではなくなった。
黒い鱗に、いつもの何倍も高い視線。
訳が分からず、混乱も困惑も極致を越えて石のように固まってしまう。
「……どういうことだ、リガルドの嫡男」
その声が聞こえるまで、周りのものなど一切目に入らなかった。
慣れない体でぐるぐると体を見回せば、そこにいたのはこの国の第二王子。
言葉も発せなかったとナサドは記憶している。
ナサドがそうして龍人になったのは、24歳を越えたあたりのことだった。
通常の龍にしてはあまりに遅い覚醒で、龍貴族としては有り得ない進化でもある。
言葉少なくぶっきらぼうで人付き合いが上手とはいえない第二王子イェランは、それでもナサドのことをいたずらに騒ぎはしなかった。
戸惑うナサドに人型への戻り方を教え、知られるのが怖いと呟いたナサドを思いやって周囲に何も言わず黙する。
そうやって守ってくれた。
ナサドはその後この身に起きた謎の現象を知りたくて図書館に通い詰めることとなる。
イェランもまたナサドの存在が龍王家に与える影響を考え、共に調べてくれた。
自身のため、王家のため、そんな利害の一致から始まった関係。イェランとナサドが正式に主従となったのはこの頃だ。
その絆が徐々に主従の域を越えていったのはいつからだろうか。
少なくとも探し続けた答えに辿りつく頃には、特別な関係性が出来上がっていたと思う。
友人と呼ぶことはあまりに恐れ多く、しかしただの主とも言い難い、ナサドにとってイェランはそんな存在となる。
不器用だが優しく優秀だが繊細なこの王子の力になりたいとそう思うまでに時間はかからなかった。
だから尊敬する兄との関係性に悩み、自身の力を憎み、苦しむイェランの姿を見ていられなくなったのかもしれない。
「イェラン様、国を出ましょう」
「何を言ってるんだ、頭でもおかしくなったか」
「私はもう貴方がこれ以上傷つく姿を見たくない。イェラン様、昨日森の奥深くで何をなさっておいででしたか。その腕の傷は」
「っ、なぜ知っている」
「主の苦しむ姿を黙って見守れるほど私は肝が据わっておりません。失礼ながら、後を追わせていただきました」
「……龍型になったのか」
「まさか。制御の方法を私はまだ知りません。が、耳鼻目は効くらしく」
「…………そうか」
王の継承問題に苦しむイェランと、龍の身となり徐々に周囲の人間達と見た目の差が表れ始めていたナサド。
タイミングが良かったのか悪かったのか、今でもナサドには分からない。
ただ龍国の閉鎖された世界で生きていくことに2人とも限界を感じていたのは事実だった。
ナサドが取った手段は強引だったかもしれない。
しかしそうでもしなければ踏ん切りがつかなかったのだろう。
国内の王位継承問題は広がりを見せ、国内の龍貴族の勢力争いも増している。
その中で上位貴族であるナサドが実は龍人と知られればどうなるか、分からない程ナサドも子供ではなくなっていた。
龍人の地位を脅かさず勢力争いに余計な波風を立てずいるためには、ナサドの身に起きた秘密を守るのは必須だ。となればいつかのフレディー公のように国から離れ誤魔化すしかない。寿命が違うのだから国内で隠し続けられる秘密ではない、いつか必ず露見する。そうなる前に、国を出なければならないとそう思い至るのは自然な流れだった。
しかしそこまで分かっていてなお踏ん切りがつかなかったのは、それが生きる目的を失う行為に思えてならかったからだ。ナサドは他の龍貴族と同様、龍人を愛していた。龍王族の役に立ちたいと努力し続けてきた今までも、家族や主達の傍に生きる権利も、自分から捨てる覚悟を持てなかったのだ。
いっそ自分が罪人となり龍国に居づらい環境になったならば。
ここから去るしかない状況になれば諦めもつくのではないか。
そんな思いが頭をかすめた時点で愚かだったと、今なら思える。
しかしそれほどに余裕がなかった。
時を同じくしてイェランが国内の声や兄への罪悪感に苦しみ追い詰められている。
イェランを救い自分に1人で生きる覚悟を持たせるためには何が必要なのか。
もし自分のそれまでの人生やこれからの可能性が犠牲になったとしたって、敬愛する龍人をそれで救えるのならば一人で生きることにも意味が生まれるのではないか。
自分勝手な大義名分が生まれた瞬間だった。
「イェラン様、フレディー公の文章を覚えていますか? この世界には可能性が広がっている、必死に生きれば縁が見つかると。諦めるのは、その言葉を否定できるだけの世界を知ってからでも遅くはないでしょう?」
「しかしそんなことをすれば」
「……お願いです、イェラン様。私ももう限界なのです、龍国の外で生きる可能性を考えたい」
「っ」
泣き落としのような、かなり卑怯な手を使った。
自分勝手な理屈で、自分勝手な大義名分でイェランを振り回した自覚はある。
こうして頼めば決してイェランが断れないことも分かってナサドは頼んだのだ。
イェランはナサドがイェランの分まで罪を被ったと言う。
しかし違うのだ、ナサドはやはり自分が負うべき罪なのだとはっきり断言できる。
結果的にイェランが番を得て生きるきっかけを掴んだのだとしても、ナサドがイェランの苦しみを利用したことに変わりはない。
主として敬うべき存在に許されない不敬を働いたことは、間違いないのだから。
そしてそこまで自覚していても、やはりナサドは日本で過ごした時間に後悔がない。
あの世界で過ごした日々を何一つ否定したくない。
だからなおのこと罪深いと、そうも思った。
イェランが才の龍の力を使い渡った先は、龍のいない世界。
初めは戸惑った。いくら才の龍の力といえど世界線まで変わるほどの転移は異常だからだ。
しかも転移した瞬間からその国の一般常識がなぜか頭の中に入っている。
何もかもが疑問だらけで、不思議なことは他にも起きた。
例えば期限。なぜか日本で過ごせるのは5年限りと初めから知っていたのだ。
その他にも転移した先で自分達には職業が割り当てられ、高校の教師という立場を得ていた。
高校が何かも教師というものがどういうものかもその時まで知らなかったというのに。
何かに強制されるよう始まった日本での生活。
しかし、そこでの暮らしは思いのほか幸せに満ちたものとなる。
龍の身になってから一度だって空を飛んだことのないナサドは、日本で初めて空を飛んだ。
飛行機という技術の粋を集めて作られた乗り物で雲の中を初めて目にした日のことは忘れられない。
空を飛び海を越え、世界を見て回る。
見たことのない景色、建物、道具、見るものすべてが新鮮だった。
この世界には可能性が満ちている。人々は日々新たな可能性を求め技術を磨いている。
数千年変わらず保守的な考えが圧倒的だった龍国で生まれ育ったナサドにとって、この国の価値観やあり方は衝撃的だった。
このような世界もあるのかとそう何度も思ったほど。
「津村芽衣です。これからご迷惑をおかけしますがよろしくお願いします」
「ああ、よろしくな。君のことはご両親からも聞いている、何かあったらすぐ来るように。我慢はしないこと、良いね?」
「はい」
そしてナサドがその人物に出会ったのは日本に辿り着いて3年目の春のこと。
可能性に溢れるこの世界でもまだ完治が不可能とされる難病を抱えた少女だった。
「先生! 先生の好きそうな本見付けてきましたよ、本屋で見かけてついつい買っちゃったんです」
「……おい、お前な。大事な小遣いを学校の先生のために使う奴がどこにいるんだ」
「ここにいます」
「即答するな、自分の為に使え。が、ちょっと読ませてくれるか?」
「あはは、結局見てくれるんじゃないですか」
よく笑う少女だった。
その身に重篤な病を抱えているとは思えないほど、楽しそうに笑う普通の少女。
ナサドのことを先生先生と慕い、ナサド自身を見て嬉しそうに笑う。
「この世界には可能性が溢れている」
病にくじけ苦しむ少女にそんな言葉が心から出てきたのはいつだったか分からない。
諦める必要はないのだと、いつか不可能をも可能にする力がこの世界にはあるのだと、そんな励ましをナサドは繰り返していた気すらする。
少女は、津村芽衣は、そのたび「ありがとう」と笑って病と闘った。
不可能を可能にするのだと、先生に元気な姿を見せたいのだと、強く優しく必死に生きていたのだ。
可能性の見えない将来に絶望し孤独になる未来を思い苦しんでいたナサドにとって、日本での生活と芽衣の存在がどれほど救いになったことか。
同時に自分の力で必死に逞しく生きる人間達の姿に自分が情けなくもなった。
自分の犯したこと、逃げ回り先延ばしにし続けただけの今を恥じる日々を何日続けたことか。
その時初めて自責の念が生まれたのかもしれない。
しかしそんな情けないナサドを芽衣は慕い、笑んでくれる。
「先生!」
いつしかそう呼ばれることを心待ちにしている自分がいた。
保健室という場所柄ここには来ない方が良いというのに、その姿をいつも探してしまう。
苦しそうにしていればその手を握り傍にいたいと思う。
元気に笑えばそれだけで幸せな気持ちになれる。
そうやって日常に色が生まれた。
「……番」
ナサドは異界の地で初めてその言葉の意味を知った。
龍が人を愛するということがどういうことなのかを理解する。
長い人生を共に過ごしてはくれないだろうかと、そう思う気持ちを抑えることが難しい。
激情と、そう言っても良いほどの感情に何度かのまれかけた。
芽衣がナサドに好意を抱いていると分かっていたからなおのこと。
しかし芽衣に伸びかけた手は、いつもあと少しのところで止まる。
病を抱えた芽衣を龍国に連れて帰るわけにはいかない。
ナサドの番となり半龍となったからといって病が治るという根拠はどこにもなかったからだ。
医療技術の整わない龍国で芽衣の病の治療法など分かるわけもない。
そもそもナサドは国に帰れば間違いなく罰せられる身だ、そんなことに芽衣を巻き込みたくないのも本心だった。
取り繕うように教師の仮面を被り、大人ぶって芽衣を諭し見守る。
芽衣の笑顔が見たくて、その顔を曇らせたくなくて、ナサドも必死だった。
理性が切れれば間違いなく自分は芽衣を自分の人生に引きずり込んでしまうだろう。
それだけは避けなければならないと、必死に理性を抑えるため何とか教師と生徒の距離を保ち続けた。
そうして理性と闘いながら芽衣の笑顔を見守る日々は、眩しいほどに幸せだったとナサドは思う。
離れたくない、傍にいたい、番になって欲しい。
無理やり抑え込み、この世界でも不可能なものは不可能なのだと自分に言い聞かせ、そうしてナサドにとって日本の生活は幕を閉じる。
別れる直前、津村芽衣がナサドに与えてくれたのは生きる糧だった。
「私は絶対、また先生に会いに行きます。どんなことをしてでも絶対です。そしてもう一回言ってみせますよ、笑顔で大好きって! だから、その時は立場も事情も何もかも忘れて本当の先生の気持ちを教えてください。心のままの気持ちで応えて欲しいんです」
不可能だと分かっている。文字通り住む世界が違うのだ。
それでもその一言は、ナサドにとって未来に繋がる希望となった。
その約束に縋っていたのはナサドの方だ。
いつかもしかしたら本当に芽衣が会いに来てくれるかもしれない。ナサドを何度も揺らした笑顔で「大好き」と言ってくれるかもしれない。
そんな有り得ない可能性が、ナサドを生かした。
縁と呼べるものかもしれない。そう思ったのだ。
……まさか本当に叶えられるなどと思わなかったが。
不可能を可能にして、目の前で奇跡を起こしてくれるなどと誰が思うだろうか。
もう、抗うことが出来なかったのだ。
たとえ巻き込んでしまうと分かっていても、傍にいたい。
これ以上離れることを考えられない。
必死に何度も何度も自分の過去を思い返し自分の立場を言い聞かせ抑え込んできた理性がぽっきりと折れてしまった。
結果、国を出ると自分で決めた期限を越え今もナサドはこの国に留まっている。
もう国外へ出るという機会はないだろう。
完全に自分の心が決まってしまった、どれだけの苦難があろうとこの国で生きて死ぬのだと覚悟も出来た。
そして長くかかった治療はようやく終わりを見せ、ナサドは平民居住区へと戻ってきている。
メイリアーデは王宮内に部屋を用意すると言ってくれたが、断った。
まだ報告すらしていない身でその言葉に甘えるわけにはいかなかったのだ。
それに王都の街並みや人々の反応をもう一度理解しておきたかった。
「……おい、あいつまた帰って来たみたいだぞ。死んだかと思ったのに」
「ばか、聞こえるよ。イェラン殿下と仲が良いんだろう、最近では姫様までたぶらかしてるって言うじゃないか。目をつけられたらシャレにならない」
「もう止めろよ。あの人がここの住民達に害になるようなことをしたことないだろ。一方的な暴言は俺嫌いだ」
「私、前に迷っていた所を助けてもらったよ。あの人過去に何したか知らないけど、悪い人には見えなかった」
龍の体を持つナサドには小さな噂話も耳に入る。
ナサドが罪を犯してから21年、ナサドの評価は今日も高くはない。
少しでも擁護してくれる声があるだけまだ良い方だ。
過去に起こした罪はそう簡単には消えない。
人々から警戒され、距離をおかれ、嫌われる日々は変わらず続いている。
自分は良いのだ、そうなっても当然のことをしたと思うから。
ただそれをメイリアーデにも背負わせてしまう、それだけが辛かった。
しかしそれでも、自分の過去も全て含めて今の自分なのだ。
メイリアーデに共に生きると誓った覚悟を、もう曲げることはできない。
自分の醜さを認め、過去と向き合いながら、それでも前を向いて歩いていくしかない。
この声を変えてみせるくらいの心構えと努力を惜しむ気はもうないのだ。
グッと手を握りしめ顔を上げる。
脳裏に浮かぶのは、共に生きると決めた人の笑顔。
思い出すだけで小さく笑みが浮かぶ。
無意識に浮かんだ柔らかな笑みに周囲がざわついたことなど本人は気付かない。
「答えは、見つかったようだね」
ふとナサドのもとに声が届いた。
この街中で罪人としても元龍貴族としても有名なナサドが声をかけられることはそうない。
だから驚いて振り返れば、そこにいたのは見知らぬ少年だ。
いや、少年なのだろうか。
目深にフードを被っているから分からない。
背丈や声からそうではないかと推測できる程度だ。
瞬間、こちらに向いていたはずの住民達の視線が一斉にどこかへととんでいく。
まるで急にナサド達に興味を失ったかのように誰もナサドを見なくなった。
そこまできてようやく少年はフードを取る。
その髪目の色にナサドは息をのんだ。
「神子様、でいらっしゃいますか」
そう、見事なその赤はあまりに有名だ。
数多くの文献で伝説のように語られている、神の眷属。
神から直接生み出され幾度となく転生を繰り返し、神の力を使うことのできる神聖な存在。
この世界における最上位の人物。
慌ててナサドはその場に跪こうとするも、何かよく分からない力に阻まれて膝が曲がらない。
神子は笑顔のまま「堅苦しいのは嫌いでね」と言った。
「僕はリアム、フィレス山脈の奥の方でのんびり隠居生活している神の子だ。神の我儘に付き合い今回は君達に最後の審判を下しに来た」
「最後の審判、とは」
「なに、そう堅苦しく考えることないよ。格好つけて大層な名前を付けたけど、つまるところ君達の意志を確認しに来ただけなんだ」
さらりとナサドには少々理解の難しい言葉を並べる神子。
笑ってはいるがその赤い目で見つめられると、どうにもナサドは落ち着かない気持ちになる。
何もかも見透かされているような、そんな気になるのだ。
最後の審判。その意味するところは分からない。
しかし時期を考え、神の眷属の知識を頭で巡らせ、彼らが何かを確かめようとしているものにはメイリアーデが関わっているのではないかとそう思い当たる。
考えてみれば転生などという考え自体、神の眷属以外ありえないのだ。
「そう、君はやはり中々察しが良い。説明の手間が省けて助かるよ」
神子は嬉しそうに笑う。
何も言葉を発していないナサドは、それだけで冷や汗をかいた。
心の中まで見透かされていると分かったからだ。
才の龍と仲が良いくらいなのだからナサドは超常現象に慣らされている方だと自覚している。
しかしそれでも神子のその力と存在は人間離れしすぎた何かを感じた。
すぐにでも跪いて許しを請いたくなるほどに。
しかし神子はそれを許さない。
簡潔に端的に彼からされた問いは、意外なものだった。
「ねえ、ナサド。君は津村芽衣とメイリアーデのどちらを愛しているのかな」
……一体どこまで神子がメイリアーデの事情に絡んでいるのか分からない。
その答えを聞いてどうしたいのかも分からない。
しかし実際に神子はここまでやってきてナサドにその問いをぶつけている。
神子の仲間である防人はメイリアーデを助けてくれた。
明らかに神の眷属はメイリアーデに対し何らかの関わりを見せていると分かれば、それ以上ナサドが彼らの事情を問うのも野暮な気がした。
それよりもこの問いによって自分が何かを試されているのならば、真剣に答えねばならない。
そう思い目を閉ざし少しの間思案する。
が、出てくるのは結局ひとつの答えだけだ。
「どちらもです。津村もメイリアーデ様も、どちらかを私の中から切り捨てることなどできない。津村芽衣の想いも抱えメイリアーデ様は私を番にと仰って下さいました。それが全てだと思っております」
「けれど津村芽衣はもう死んだんだ、彼女の人生は終わったんだよ。今メイリアーデとして生きる彼女の中から津村芽衣の記憶が閉じる日はそう遠くないかもしれないとしても?」
神子から提示された可能性に、ナサドの肩が一瞬ぴくりと反応する。
メイリアーデから津村芽衣の記憶が失われる日が近くくるかもしれない。
いや、ここまで彼が言うということは来るのだろう。
そう告げられ何の動揺もないかと言われれば否だと思う。
しかし思ったよりも衝撃は少なかった。
冷静に切り返しができる程度にはダメージもなかったのだ。
「仮に、いつかメイリアーデ様の中から津村の記憶が消えるのだとしても、彼女が前世津村芽衣として生きた事実は消えません。津村芽衣の人生を経て今のメイリアーデ様があるのだとすれば、それだけで全てが愛しく思える。あとはメイリアーデ様のお心のままに、私はそれに寄り添いたいと思っております」
声に出してみて、改めてナサドは自分の想いを知る。
もうナサド自身、津村芽衣が好きなのかメイリアーデが好きなのか分けることなどできないのだ。
彼女がどちらの姿であってどちらの心を持っていたとしても、愛しくてたまらなくなるのだと確信している。
彼女の核となる部分はどちらも同じで、そんな彼女をナサドは愛した。
きっと何が起きても揺らがないと思えるくらいに。
「うん、そうか。ちゃんと辿り着けたんだね、君たちは」
神子は満足そうに笑い、右手を掲げる。
ぱちんと音が鳴った瞬間、その姿はどこにも見えなくなった。
ナサドは訳が分からないなりに何となく空を見上げ、小さく笑う。
辿り着けた。
その言葉が今は嬉しい。
願わくばずっと求め続けた夢が崩れることのないように。
そう覚悟をまたひとつ決めた。




