忙しい人の為の一話
これは一話を簡略化しただけなので、読んでくれた方はスルーして下さい。
平凡な学生である主人公。彼は『世界征服』という痛い夢をもっているにも関わらず、ビビりな小市民である!
そんな彼は、メルカリで買った怪しい本の儀式によって異世界の魔王と入れ替わってしまう!
こうして、彼は魔王になったのであった。
魔王という身分上、『世界征服』は一気に現実的になってくる。彼――もとい魔王はその事実に歓喜し、ぬか喜びをした。
しかし魔王はすぐに現状の問題点に気がつく。
彼は入れ替わる前の魔王がどんな人物なのかを全く知らない。よって、このままでは魔王の中身が別人だということがバレてしまうに違いない。バレてしまえば、どう扱われるかは未知数である。まずは魔王である自分自身のことを知らないとヤバい。
魔王は情報収集のために、とりあえず魔王の自室を探索することにした。
だが結果は空振り。あうのはエログッツばかりであり、分かったことは入れ替わる前の魔王が、オープンスケベであるということだけだった。
他にも『不死鳥のアミュレット』とかいう一回蘇生できるチートアイテムの存在をしったが、これは今あまり役に立つ情報とも思えない。
残った探索場所はクローゼットの中のみ。ここも空振りに終わると、今後かなり厳しい展開になるだろう。
願いを込めて開いてみると――なんと、そこには小さな魔王の側近が眠っているではないか!?
「わ、はわわわ! ま、魔王様。ペトは寝てませんでしたよ! ペトは魔王様の忠実なる側近! 昼寝してお仕事を休む訳ないじゃないですか!?」
(この子が側近なのか?)
(魔王の側近はゲームなんかじゃ、大抵は魔王の次に強くて恐ろしいヤツが務めているもんだ。なのにこの子はどうだ? 一切強そうな感じはない。ただ可愛いだけの少女にしかみえないが……。少し探ってみるか)
「あーペト。お前がそういうならそうなんだろうな。お前の中ではな」
「し、信じて下さい! ほら! 昨日までに回されていた案件は全部処理したんです。徹夜で!」
(徹夜したなら今寝てるのも納得だな)
「うむ。ご苦労。いつもありがとな」
「え、えええ! 今なんとおっしゃいましたか!?」
驚愕の表情で少女は魔王に迫ってくる。
「だから、ありがとうと言ったのだ。お前は働いてくれたんだろ? だから感謝を述べたのだ。……何もおかしくないよな?」
言いながら、後半魔王は自分に言い聞かせるようにした。
「……そうですね。一般的にはおかしくないでしょう」
(それはもう俺がおかしいって言ってるようなもんじゃん……)
魔王は思わずたじろぐ。
「……魔王様。できれば私の処理した案件を確認していただけませんか?」
ズイと目の前に差し出される紙束。それを魔王は反射的に受けとる。
「えっと、後で。後で確認する」
(内容に突っ込まれたらたまらんからな)
魔王は慎重に返事したつもりだった。しかし――。
「魔王様。貴方は誰なんですか?」
ガツンと。少女が発したその言葉が脳を大きく揺さぶる。
「我は、いつも通りだぞ。が、ガハハハッ……」
「魔王様は私にお礼なんて言いません。魔王様は私が寝ているのを許しません。それに魔王様は一切お仕事に関わりません。全部他人にお任せなんです。だから……貴方は魔王様じゃない。それに嘘をついてますね。私にはわかるんです」
少女の深紅の瞳が魔王を射抜く。最初のほわほわした能天気な雰囲気は最早ない。
「えっと……」
(どうする! どうするべきだ! ええい! この際口封じするのもありかもしれん。こんな弱そうな女、どうとでもなるはずだ)
魔王は考える。中々に下種な解決策を。
「もう一度問います。……貴方は誰ですか?」
少女の手に炎が灯る。押し付けられたらとっても熱そうだ。強そうな魔王は弱そうだと先程思っていた少女に脅され、直ぐに両手を挙げる。
「すいません。直ぐに全部話しますので痛いのは辞めて下さい」
彼は強靭な肉体を手に入れても、中身は小市民のままだった。