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エピローグ2

「いてて……。ハァ。普通、病上がりであんなバリバリ訓練するのか? ライラを師匠としたのは、少し早計だったかもしれないぞ……。鬼師匠だありゃ」

 場所は同じく中庭。ライラは日立が完全にダウンすると、絶対零度の視線で見下ろし、その後森の奥に行ってしまった。どうやら残り時間は自分の鍛錬に使うらしい。相変わらずの鍛錬中毒ぶりである。

 日立はというと、痛みに呻きながら中庭で大の字になって寝転がっていた。



「あー。熱い。お空が青い」



 魔界は今、夏らしい。魔界の空も日立がいた世界と同じく、輝く恒星が空に一つだけ浮かんでいる。

 そんな視界に突然、別の物体が映りこんだ。

 柔らかそうで、肌触りがよさそうな布地。それが包み込む純白のフトモモ。

 つまり、パンツとフトモモだった。



「の、のわぁぁあああ!?」



 魔王は痛む体に無理をさせ、なんとか起き上がった。彼には刺激が強すぎたのである。どんな良薬も、適量でなければ毒になる。彼にとってのパンツもそうだった。彼にとっては、パンもろは完全に毒だ。パンチラ位が適切であろう。

「あれ? 日立。どうしましたか?」

 そこには魔王の側近、ペトラルカがいた。事態を飲み込めていないのかキョトンとしている。



「い、いや。何でもないぜ。なはは!」

 日立は誤魔化した。「パンツが見えたぜ!」と素直に言ってもいい事はなさそうだ。

「ふーん。そうですか。変な日立」

「虫。そう、虫だ! 虫が突然噛みついてきやがった! あーあの虫どこかな?」

 日立は床にいる虫をさがす。勿論、そんな虫はいない。



「所で日立? また私の能力を忘れたようですね?」

 『嘘看破』。ペトラルカに嘘は通用しない。日立は突然の事でそこまで頭が回っていなかった。

「あー!」

「日立。どんな嘘を私についたんですか? 嘘は辞めて下さい。私は嘘が嫌いなんですから」

 ペトがほほ笑む。しかしその笑顔の裏には強い圧力があった。

 日立は勘弁した。また嘘を言ってもばれる。

(畜生。なんで神はこんな奴にその能力を与えたんだ!)



「――んつ」



 日立は呟くが、声量が足りない。

「ん? なんと言いましたか? 聞こえませんね」



「パンツ! パンツだよ。パンツが見えてしまったんだ! これで満足か!?」

 今度は声が大きすぎる。しかし魔王が大声で「パンツ!」と叫ぶのは誰得なのだろうか?



「ああ。なんだ、そんな事ですか」

 ペトの反応は魔王の予想とは違った。怒り出すと思いきや、シレッとしている。 

「そ、そんな事?」

「ええ。だってあれはわざとですから」

「わざと!?」

「日立は今回、最終的には私の指示通りに動いてくれましたからね。それに対するご褒美みたいな感じです。どうです、お気に召しましたか?」

「どうって……。その、イイ感じだったぜ。いいパンツと綺麗な足だった」

「……。そうですか」



 その場を、微妙な空気が支配した。



 日立としては、ペトに嘘を言うのは無理なので泣く泣く本音の感想を言ったのだが。その結果として、何故かペトはそっぽを向いてしまった。髪から覗く耳が赤い。

「あの、ペトラルカさん……?」

「言っておきますけど、今のは冗談ですからね? わざと見せた訳ではありませんから。私がそんな女の子だと誤解しないように」

「恥ずかしがる位なら、初めからそんな事言うなよ!」

 日立は呆れた。相変わらず、この側近は嘘つきである。



「ただ見られるだけではしゃくではないですか。……ふん。もうこの話はいいです!」

 ゲシゲシ。日立の足が踏まれる。お手本のような八つ当たりだった。

「お前なぁ……」

 日立は更に呆れた。しかし今回は痛くないので許容する。



「とにかく! 今回はお疲れ様でした。無事、生き延びる事ができましたね」

「いや、それは俺のセリフだよ。全部お前のお蔭だぜ、ペト。治療もしてもらったし、世話になりっぱなしだよ」

 日立は言う。その全てが本音だった。



「日立は私の大事な傀儡ですからね。まだまだ元気でいてもらわなくてはいけません」

「俺はそれでもいいよ。ペトが幸せになれるならさ」

「……。日立は当たり前のように恥ずかしい事を言うのですね。……これから私は貴方に答え辛い質問をします。嫌なら、返事はしなくていいですから」

 彼女には分かる。日立の発言に嘘偽りがないことを。だから少し、いらない事まで聞いてみたくなってしまった。



「うん。いいよ。なんでも聞いてくれよ」

 日立は当たり前のように頷く。

「日立は私を怒らないのですか? 私は日立を騙しましたし、かなり痛めつけました。これからもいいように使いますよ?」

 言ってから、ペトは日立から視線を外した。

 彼女には本音がわかるのだ。だからこそ、他者の発言は彼女にとってより多くの意味を持つ。ペトは自分から聞いたくせに、日立の返答が少しだけ怖いようだった。

 答えない、という逃げ道まで用意した。言葉を聞かなければ、確定はしないのだ。



「怒ってなんかないさ。そりゃ、あの時はむかついたけど。寧ろ今は感謝をしてる位だ。あの時乱暴だったのは、馬鹿な俺の目を覚ますためだろ? また俺が弱気になったり、馬鹿になったりしたら、容赦なくやってくれ。俺には、お前みたいな側近が必要だよ。いなかったら、初日で死んでるさ」



「――!」



「お前の事情はまだ知らないけどさ。これからもよろしく頼むぜ、相棒」

 最後の方になって、日立も流石に恥ずかしくなったのか頬をポリポリと掻く。どこまでもしまらない魔王だった。

 でもペトラルカは、そんな魔王を見て笑う。



「ふふふ。本当に貴方は甘ちゃんですね。甘すぎて――そんな貴方を、私は大嫌いですよ」

 しかし、その笑顔は。言葉とは裏腹に。今回ばかりは、嘘偽りのない笑顔だった。



 あんまり透き通るような笑顔だったので魔王は見惚れてしまう。元々、真っ白な肌に、真っ白な髪のペトラルカ。彼女がそんな風にほほ笑むと、今にも目の前から消えてしまいそうな程に儚かった。

 儚い程に――美しい。

「大嫌いって……。流石に傷つくぞ?」

「わかって言ったんです。ちゃんと傷つきましたか?」

「確信犯!?」

 その後、二人は示しあわせたように同じタイミングで笑った。

(ああ。平和だなぁ。この平和が何時までも続けばいいのに)



 魔王は見事なまでにフラグを立てた。

 すると、ペトの肩に一羽の青い鳥が降り立つ。ペトの使い魔だ。青い鳥は通常、幸せを運ぶと言うが――。



「おいおいおい! 嫌な予感がするぞ!?」

 小鳥がペトの耳元でさえずる。それに彼女はほうほうと相槌を打った。

「魔王様。どうやらまた、そのお命を狙われるようですよ? 至急、対策会議を開きましょう」

「ち、畜生ー!」

 どうやら、入れ替わり魔王の生存戦略はまだまだ続くらしい。

 

 

これにて完結です。

処女作で、自分としても反省点の多い作品でした。

最後まで読んでくれた方、本当にありがとうございました!

感想やレビューなんかをしてくれると嬉しいです。まじで喜びます。


余談ですが、次の作品も近いうちに投稿を予定しております。

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