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十四話 貴方は生きてもよいのです

「ペト。わかっただろ? 俺が死ねば全部上手くいくんだ。だからもう、俺の事は放っておいてくれ」

 魔王は自嘲気味に笑う。本来の中身、アルタイルなら絶対そんな表情はしない。

 ペトラルカの反応は待たない。そのまま魔王は森の方角へ足を運ぶ。

(みじめだな、俺は。だからこそ、ひっそりと死にたかった。俺の真意を知られずに死にたかった。魔王のままでいたかった)

 だからこそ、だろう。

 魔王はもうペトと合わせる顔がない。側にいるだけでも苦しい。短い時間ではあるが、ペトは自分に夢を託してくれたのだ。ライラの方が上手くできるとはいえ、その夢を途中で投げ出したことへの罪悪感もある。



「ってうわっぁぁああ!」



 魔王は急にバランスを崩し、頭から地面に着地を決めた。

 脈絡もなしに転んだわけではない。魔王は確かに大バカ者だが、何もない所で転ぶドジっ子属性はない。

 ペトだ。彼女が魔王の脚めがけて、ラグビー部もびっくりな鋭いタックルをお見舞いしたのだ!

 そのまま二人は地面に倒れる。昨日雨が降っていたので、地面はぬかるんでいた。

 だから二人は、泥だらけでグチャグチャ。



「な、なにすんだいきなり!」

「うるさい!」



 魔王は立ち上がろうとしたが、蹴り飛ばされて再び泥地面に。

 再度立ち上がろうとするものの、今度は押し倒されてそのまま馬乗りにされてしまった。



「お、おい! なんのつもりだよ!?」

「炎の礫!」

 抵抗する魔王にペトは至近距離で魔法を放つ。

 『炎の礫』。火属性の低級魔法だが、この至近距離では冗談では済まない威力を持っている。

 それが魔王のむき出しの腹に叩き込まれた。



「い、痛い! おい、やめ――」

「炎の礫! 炎の礫! 炎の礫!」

 今度は三連射。その全てが先程と同じ個所に集中して叩き込まれる。

「ぐぁ! あ、ぐぅ! がぁああ!」

 着弾の度に、魔王の表情が苦痛で歪んでいく。

「も、もうやめ――」

「炎の握撃!」



 『炎の握撃』。こちらは炎の中級魔法。並みの生物なら消し炭も残らない威力がある。だがそれも魔王に零距離で打ち込まれた。



「が――ッ」

 それで魔王は抵抗する気力をすっかりと奪われてしまった。魔王――日立はただの高校生だ。そんな彼には痛み対する耐性は皆無である。例え魔王の肉体の防御によって、実際のダメージは抑えられていても、痛みが日立の心を砕いた。



「なんですか! 貴方の名前はなんですか!」

 ペトが馬乗りのままに、日立を強く揺する。

「お、俺は……。魔王アルタイル……」

「違うでしょう! 本当の名前をいいなさい!」



「日立。俺の名前は……日立だ」



「そう、ヒタチですか。ふーん変な名前ですね」

 言いながら、ペトは日立の顔をつついた。もう日立はペトにされるがままだった。抵抗の気力は、やはり尽きている。

「な、なにをする」

「言いましたよね? 嘘は嫌いだって。約束しましたよね? 一緒に魔界を平和にしようって」

「だから、それはライラの方が適任だって――。グゥ!」

 ペトのつつく指の威力が急にあがり、魔王は頬を思いっきり押された。

「それで私が、はいそうですねーって言うと思ったんですか? 馬鹿ですか? ああ、馬鹿なんですよね? すいません、分かりきった事を尋ねてしまって。日立は自分から死にたがるような馬鹿ですものね。自分から死にたがるなんて蛆虫でもできない事ですよ」



 ペトの表情は嗜虐心に満ちていた。それは今まで純粋無垢な彼女のモノとは真逆だ。彼女は――豹変している。



「や、やめろぅ。お前、本当にあのペトなのか?」

 日立はそんな状態でもなんとか言葉をひねりだした。

「そうですよー。魔王様の優秀すぎて可愛い側近、ペトラルカですよー」

「ペトはそんな事言う奴じゃ……」

「そう思ってくれていたなら、私の目論見通りです。流石私」



 魔王は内心で驚く。彼女の言葉が本当ならば、今までの態度は偽りだったという事だ。日立はそれを全く見抜けていなかった。



「どういう事だよ!?」

「そのままですよ。貴方を騙していたの。ほら、男ってああいう純粋で馬鹿で一途そうな女の子が好きでしょう? だからそう振舞っていたの。案の定、日立も喜んでいたようだけど?」

「は、はあぁ? 何の為にそんな事を?」

「日立に好かれて、日立を思い通りにコントロールする為ですよ。その方が私の夢は実現しやすいですからねー。でもそれも日立のせいで台無しですよ。あんまりにも甘ったれた事を言うので、ついついキレちゃいました。あーもう、今までの私の努力!」



 もうびっくりだった。しかし思い当たる節がない訳でもない。確かに日立の行動は殆どペトの言われるがままだった。言われるがままに勉強し、言われるがままに部下に接していた。



「嘘だろ?」

「嘘なんてつきませんよ私は。今まで一度だって嘘はついた事はないのです」

 それは完璧に嘘つきの発言だ。嘘つきしかそんな事は言わない。嘘を見抜ける彼女は、大嘘つきだった。

「……そうか。でもそうだよな、ある意味、納得だ。俺なんかを慕ってくれるなんて怪しいとは思っていたんだ。俺にはペトに慕われる要素なんてないし」



 すると再び、魔王のみぞおちに拳が叩き込まれた。



「う、うごぅ! 何すんだ!?」

「ええ、そうですよ。私は貴方が嫌いです。だから殴りました。私の傀儡になるべきなのに勝手に死のうとするし。なんなんですか? 大人しく傀儡になって下さいよ。死ぬのがカッコいいとか考えちゃってるんですか?」

「ち、違うわい! 言っただろさっき! 俺が死ねば全部丸く収まるって! その方がお前の夢も確実に実現できるはずだぞ!」



 実際日立はそう考え、それを信じ切っている。

 そんな日立を前にして、ペトはデッカイため息を吐いた。そのまま、日立を可哀そうな子を見る目で見つめる。



「本当にそう考えているのなら本物の馬鹿ですよ? ああ、馬鹿でしたね。そして阿呆でもあります」

「……なんでだよ?」

 日立は気になる。無理もない事だ。日立だって自ら死にたい訳ではない。でも死ぬのが現状では最適だと考えたからこそ、死のうとしている。

 その正しく決死の考えを否定するペトの言い分は、日立には見過ごせない。



「日立はライラが魔王になれば、全て上手くいくと考えていますね? なんでですか?」

「なんでって……。当然だろ。あいつは俺よりも全てにおいて優秀なんだから」

 日立が小さな声で返答する。わかりきった事実であっても、口にすると悲しなるものだ。

「そこですよ。確かにライラは優秀ですけどね。私の傀儡にはなりません。そこが最重要です」

「はぁ?」

「だって強すぎますし。素直になんでもいう事を聞いてくれるとも思いませんし。それに彼女は魔界の風習にどっぷりつかってますから、弱肉強食バンザイでしょう? 平和主義に鞍替えするとはとても思えませんね」



 日立は考える。

 確かに今はそうだが――。



「でもあの子は良い子だよ。頭も悪くない。ちゃんと話せば聞いてくれると思うけど」

「それが買いかぶりなんですよ。百パーセントそうなると断言できますか?」

 そう言われると困ってしまう。日立は言葉に詰まった。

「それにライラを変えられるかも知れないのは、現在一人しかいないんですよねー。そいつは死にたがってますけど」



 意味ありげに、ペトが魔王を見下ろす。



「? 誰だそいつは?」

 日立は全くわかっていなかった。

「はぁ。馬鹿はもういいです。あと一つ、日立の見込みには重大すぎる欠陥があります」

「……教えてくれ」

 日立はもう、そう言うしかなかった。

「そもそもライラは魔王を引き継ぐのですかね?」

「え?」


 日立は完全に虚をつかれた。

(魔王って倒したヤツがなるんじゃないの?)

 日立はそう考えていた。というかそう思い込んでいたのだ。

 アルタイルが先代を殺して、当代の魔王になったことを日立は知っている。しかしその事例しか知らなかったので、勝手に誤解していた。



「はあ。やっぱり何か誤解していたようですね。魔王を殺したとして、その人が魔王になれるとは限りませんよ。魔王になる権利は発生しますが、なるかどうかはその人物の意志次第です」

「マジですか?」

「……その言葉の意味はよくわかりませんけど、まじです」



 日立は完全にがっくりと、肉体から力を失った。命を懸けた計画が、そもそも根幹からして間違っていたのだ。ペトに何度も馬鹿と言われても言い返せない。



「ライラは魔王にはなりたがらないでしょうね。彼女が目指すのは最強であって、魔王という称号ではありませんから。彼女自身も自分が適任だとは思っていないでしょうし。生粋の武人なんですよ、支配者は向いていません」

「そう、だよなぁ」



 日立は悔しいが、ペトのいう事に納得してしまった。



「ハハハ。なんだよ。俺は根本からして間違っていたのかよ、ハハハハ……」

 日立は腕で顔を隠す。恥ずかしかったのだ。

「そうですよ。日立は間違いだらけです。日立が死ぬ必要性はありませんし、死なれると事態が悪化してかえって迷惑です」

 そんな日立にペトは突き放すように言う。

 そして続けた。



「だから、死なないで下さい。日立」



(なんだよ、そりゃ。馬鹿みたいじゃないか……)

 だけどそれでも、日立は泣けてきた。そう、彼だって死にたくなんてなかった。死ぬのが怖くないわけはない。しかし日立はその恐怖以上に、ペトにリーシャに、ライラに幸せになって欲しかったのだ。

 でも今ペトの説明でわかった。自分が死んでも、意味なんかないってことに。

だから、もう日立は死ななくてもいいのだ。



「なんだ、泣いてるんですか」



 ガバッ!

 ペトが力尽くで、魔王が顔を隠していた腕を剥がす。

 そうなってしまえば、日立の無様な泣き顔は丸見えになってしまう。

 大人げなく、もとい魔王げなく泣いて、鼻水で汚れた顔が白日の下にさらされてしまった。



「ば、馬鹿! 泣いてなんかーねからな!」

 日立は急いで顔を乱暴にこする。それでもまだ目元は赤く泣きはらしているし、鼻水で汚い。完全に嘘だが、彼の最後の虚勢だ。虚勢を張れるだけ、日立は回復していた。

「あはは! とても魔王様には見えませんよ、日立! いい光景です!」

「うるさい! いい加減意地悪だぞお前!」

「あら? 元のペトラルカの方がいいですか?」

「演技でもそっちの方がいい! 今のお前はいじめっ子だ!」

「そうですか……」



 ペトは形の良い顎に手をあて、思案している様子だ。それで、日立は待遇の改善を期待したが――。



「でも駄目」

 ペトは綺麗な笑顔でそう言った。でもその笑顔の裏に、悪意が潜んでいるのが日立には分かる。昨日までの日立ならそれは絶対に見抜けなかっただろう。

「お前なー! 性格悪いぞ!」

「ふふ。でもこれは日立のせいですからね。私だって本性を見せたくなかったけど、日立が馬鹿すぎるから思わず素が出てしまったのです」

「……ごめん」



 そもそも、本性を偽るのが悪いのではないか? そう思った日立。

 しかしそれを言葉にしては、また何かされる。日立はとりあえず謝った。



「ん? 本心ではないみたいですねー」

 ペトに『嘘』の謝罪は意味がない。

 結局、日立は頬をつねられてしまった。左右両方を掴まれて遊ばれる。

 それを実行するペトは楽しそうだった。根っからのいじめっ子なのかも知れない。

(理不尽すぎる……)

 日立は心の中で泣いた。



「さて、おふざけはこの位にしておきますかね」

 やっと、ペトが日立から降りた。

しかし日立は解放されるも、力が入らない。精神的にも肉体的にも、疲弊させられていた。主にペトラルカに。



「んぎぎ! ふっ!」

 ダメだ。何度かトライしてもやはり自力では立てない。

「ん? 立てないのですか? しょうがないですね。ほら、私の手に捕まってください」

 ペトが見かねて日立に救いの手を差し出した。その表情には笑顔が張り付いている。実に胡散臭い笑顔だ。



「……そう言って、また何かする気じゃないだろうな?」

 当然日立は警戒心を高める。その様子は、外敵に怯える小さなネズミのようだ。

「言ったはずですよ。おふざけはこの位にしますと。私を信じて下さい」

 今度は笑顔を潜め、事務的な態度のペトラルカ。

「……わかったよ。信じるからな」



 どうせ力を借りないと起き上がれない。日立は堪忍してその手をとった。

 ペトが途中まで日立を引き上げる。そこで止める辺りで、もう日立には悪い予感しかしない。



「ねえ日立、ドキドキしませんか? こうして私のような美女と触れ合えるのだから」

「ドキドキだと? ああするとも! 恐怖でな!」

 日立は必死に抗議をする。確かに、前の時は緊張したものだが。

「うふふ。いい返事ですよ日立。それ!」

「て、てめえ! ぐわぁぁああ!」



 やっぱり日立はそのままジャイアントスイングで放りなげられてしまったのだった。

(この悪魔め……!)

 その感想を最後に、日立の意識は途切れた。



 そして数分後、日立は目を覚ました。

「はっ! なんだか悪い夢を見ていた気がする!」

「お目覚めですか、日立。ところがどっこい、それは夢ではありません。現実なのです」

「そうか、ハハハハ! ……はぁ」

「日立は面白いですねぇ」

「誰のせいだよ!」



 日立はツッコみつつ、勢いよく体を起こした。



「ってなんだ? 体が軽いぞ?」

 そしてそのまま、ピョンピョンと何度か跳躍する。

「私が回復魔法を使ったんですよ。全く、体には気を使って下さい。酷い怪我でしたよ?」

「心配して叱ってる風だけど、やったのはお前だ!」 

「なん……ですって?」

「驚くな! 白々しいぞ!」

「ふふ。そこまでツッコみができるとは。であるならば、日立の体調はかなり良くなったみたいですね」

「俺はツッコみで体調が判別できるのか? それは初耳だぞ?」



 日立は呆れて肩をすくめる。



「……でも確かに、体調はいいよ。ありがとさん」

「あと百回は言って下さい」

「多いよ!? もう少し、いやかなり慎ましくなろうぜ!?」

 ペトがぼけるので、日立はツッコまざるを得ない。彼もまた難儀な性格だった。

「ところで話は変わるのですが」

「なんだよ?」



 日立は後ずさる。完全にペトラルカを警戒しているようだ。

 日立は屈強な肉体を持ち、しかも魔王。ペトは細くて華奢、しかも魔王の側近。

 だというのに、力関係は完全に真逆だった。



「日立。もう死ぬ気はありませんね?」

 ペトが真剣な表情で問う。そこには今までのふざけた空気はない。

(ああ、そうか。こいつはふざけていたようで、俺に気を遣ってくれていたのかも知れない。慰めてくれていたのかも、しれない)



 日立はジーンときた。



「ああ。その気はもうない。俺の死がみんなの役に立たないのなら、犬死にだし。そんなのは御免だ」

 日立はきっぱりと言う。それにペトは薄く笑った。

「そのみんなの為っていうのが、私には気に入りませんね。独善的で、一人よがりで気持ち悪いですよ」

「……そうだな。あれはみんなの為って言うよりは俺の為だった、と思う。でもペト、お前だって魔界の平和なんて夢を掲げているじゃないか? あれは誰の為なんだよ?」



 日立は自分の非を認めつつも、言い返した。それはただの意地であり、思いつきから出た言葉。しかしそれが思わる威力を発揮してしまった。 

「――そうですね。私も、私の為だけに魔界の平和を望んでいます」

 ペトの顔から、表情が消えた。

(な、なんかヤバい!)

 地雷原に足を突っ込んだのが日立にも分かった。今の日立の言葉は予想外にも、ペトのデリケートな部分を刺激したようだ。

 日立はペトの攻撃に備えて、頭をガードするが――。



「あら? 何を怯えているんですか? 私は何もしませんよ」

 ペトの声。ビビりつつも目を開けると、彼女は笑っていた。そこに先ほどまでの緊迫感はない。

「あ、ああ。すまない」

「謝らなくてもいいですから」

 相変わらず、ペトは笑っている。

 日立が地雷原に足を踏み入れたのは確かだ。しかし無事に生還できたらしい。ペトは何故か爆発寸前の感情を自分で押さえつけたようだった。



「話を戻しましょうか」

「あ、うん」

 ペトの圧力に、日立はコクコク頷くしかない。

「日立に死ぬ気がなくても、現在の状況はまずいのは理解していますね?」

「ああ。俺がそう仕向けた訳だけど、ライラはかなり怒っている。今更土下座したって許してくれそうにない」

「ふふ。大丈夫。そんな日立に私が起死回生の策を授けてあげますよ、対リーシャの時のように」

「え? あの時の策は俺が考えて――」



 そこで日立は思い返す。あの時、『不死鳥のアミュレット』を見つけるきっかけを作ったのもペト。そしてあの魔導書を持ってきたのもペトラルカだ。



「あれも全部ペトの策だったのか!?」

「ふふふ。策士ペトちゃんと呼んでください。あ、実際に呼んだら殴りますよ?」

「じゃあ言うなよ……」

「ともわれ。私の策の前ではライラなど雑魚。四天王の中でも最弱なのです」

「そのセリフ、魔界でもあるんだ!?」

「普通、魔王様には四天王いるものなのです。でも全員男だったのでアルタイルが追い出しました」

「可哀そうに」

「ちなみに土の四天王がやっぱり最弱です」

「土はなぁ……」



 どこの世界でもここは同じらしい。

「さて、ではその作戦を話してあげましょうかね」

「ああ。よろしく頼む。俺はまだ死にたくないんだ。魔王として、頑張らないと」

「ふふ。リーシャとライラの為に生きなきゃですものね」

 だが日立はそれをあっさりと否定する。



「それは違うぞ? ペト、俺はお前の為にも生きる。例え傀儡としてだって、魔界の平和なんて素晴らしい夢だし」

「は? え?」

 ペトは驚いて目を白黒させる。彼女からすれば完全に不意を突いた発言だった。

「お? やっと一回やり返せたな?」

「な、なんだ。冗談ですか。私を嵌めるとは、無礼ですね。どっちの立場が上なのか、今一度その体に分からせてあげましょうかね?」

 魔王と側近。どっちの立場が上かは、言うまでもないのだが。



「待て! 俺は別に冗談で言ったわけじゃない! 本心だって!」

「――! ふ、ふん。それでもむかつきます。『炎の礫』!」

「うおぉおおお!」



 不意に放たれた火球を日立はなんとか必死になって躱す。

 だから気づくことはできなかった。ペトラルカの耳が赤くなっていたことに。



「なにすんだコラ! 当たったら洒落にならん!」

「ちっ! 回復させすぎましたか。次からは気をつけなければ」

「次はない! あってはならない!」

「月のない夜には気を付けることですね」

「闇討ち!? 性格悪いよそれは!」

「なるほど。正々堂々、正面からならいいんですね?」

「俺はそんな事いってないから!」

「むむ。日立。ふざけるのはこの位にして下さい。そろそろ日が落ちてしまいます」

 ペトの言うと通り、確かに日が沈みかけている。それは日立に残された時間がもう少ない事を意味している。



「誰のせいだ誰の。……まぁいいよ。じゃあ早くその策を教えてくれ。手遅れになってしまう前に」

 日立はため息をつきつつ言う。

(でもこんなピンチの時、ペトは頼りになるな。こんな本性だとは知らなかったけど、偽っていた時よりかなり頼もしいぜ。こいつの前ではしゃくだから言わないけどな。……ありがとう、ペト)



 日立はなんだかんだ言って、ペトに感謝していた。



「教えて欲しいのですか?」

「え? 今更なんだよ。教えて欲しいに決まってるだろ」

「じゃあ誠意を見せて下さい。うーんそうですね三回まわってワン! と鳴いて下さい」

「お前は鬼か!?」

「何を言いますか。誠意の分割払いを許す私に感謝して欲しい位です」



 ペトがニッコリと微笑む。満点の笑顔だ。



「まさかの分割払い!? それってまだまだ何回も後でやれって事だろ? 完全に悪化してるじゃないか!」

 日立は気力を振り絞って叫んだ。

(前言撤回。こいつに感謝なんて絶対にしてはいけない!)

 結局、策はギリギリになって教えてもらった。

 日立が犬のマネをしたのか? それは彼のプライバシーの為にも秘密である

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