恥ずかしいからなかったことに
05
「そ…そうだったんですか…。
えと…なんかごめんなさい…」
「い…いや、謝ってもらうことじゃないさ。
眠ってる女に手出したら、下手をすれば性犯罪だしね…」
克己は昨夜の記憶をたどりながら(覚えている限りで)説明していく。
思い出せた限りでは、昨夜あったことはこうだ。
何軒もはしごしたがまだ飲み足りず、すっかり悪のりした2人は克己の部屋で飲み直そうということになった。
コンビニで買った酒とつまみを拡げながらゲームをしている内に、完全に出来上がった2人は負けたら脱ぐというルールを決めてしまった。
やがて2人とも生まれたままの姿になってしまう。
酒に飲まれていても、男女が裸で一つの部屋にいれば変な気分になってしまう。
酒で理性が麻痺していた克己と瞳は、そのまま体を重ねかけた。
が、そこで2人とも酔いが回って寝オチしてしまったのだ。
「な…なんか恥ずかしいですね…。酔った勢いでしようとして…。しかもうまくいかなかったなんて…」
「ま…まあ…。酒の勢いでしちゃったらそれはそれで問題だし…。いいじゃないか…」
気まずい空気の中、瞳と克己は耳まで真っ赤になる。
(しかし、これ彼シャツってやつか…きれいで可愛いよな)
恥ずかしさときまずさでどうにかなりそうになりながらも、克己は瞳の姿に目を奪われる。
男もののYシャツとショートパンツの組み合わせはかなり大胆な感じだし、妙に色気がある。
なによりノーブラだから、雄大な胸の膨らみを全く隠せていない。
(やっぱり最後まで行けなかったのはもったいなかったかな…)
克己は瞳の美しさと色気にすっかり魅了されていた。
気がつけば、こみ上げる衝動を抑えられなくなっていた。
「その…酒の勢いじゃなくて…。
ちゃんと夕べの続きしないか…?」
「ええ…?
で…でも…」
克己は瞳の眼を覗き込みながら近づいていく。
瞳も強く抵抗しない。
克己は衝動が命ずるままに優しく瞳を床に押し倒していた。
が…。
ぐ~~
瞳の盛大な腹の虫が部屋に響く。
全てをぶち壊しにする響きに、2人のセックスの衝動は急速にしぼんでしまう。
「えと…なんかごめんなさい…」
「いや…そう言えば腹が減ったね」
克己はゆっくりと瞳から体を離したのだった。
気がつけば時刻は午前11時。
空腹になるのも当然だった。
瞳のズボラ飯でお腹を満たすことにする。
冷凍庫には作り置きのご飯がある。
冷蔵庫でザワークラウトを発見。
台所にはコンビーフとインスタントの味噌汁もある。
「完璧です」
瞳はさっそく料理に取りかかった。
炊飯器でご飯を温め、電子レンジでコンビーフを熱する。
温かいご飯の上にほぐしたコンビーフを乗せて、好みでケチャップやマヨネーズで味を調整。
コンビーフ丼のできあがりだ。
「うん、うまい」
「でしょ?」
ボリュームがある割りにはしつこくないのがいい。
丼の他はザワークラウトと味噌汁だけでも、かなり満足感がある。
瞳と克己は、舌鼓を打つのだった。
「簡単なのにこれだけ美味しいってのもすごいね。
さすがだよ瞳さん」
「はは。特技がズボラ飯ですから」
そんな会話をしつつ、食事は進むのだった。
「その…。係長、夕べのことはお互い忘れましょう…」
「そうか…だめかな…?」
コンビーフ丼を平らげ、お茶を飲みながら切り出した瞳に、克己は残念な様子になる。
「恥ずかしいんですよ…。いい大人が酔った勢いでしようとした挙げ句、うまくいかなかったなんて…」
「まあ…確かに…」
瞳の言い分には克己も同意する。
処女と童貞の高校生ではないのだ。
分別を持っているべき男女が、泥酔してことに及ぼうとした結果寝オチして未遂に終わった。
思い出すだけでも恥ずかしく、気まずいことではある。
「でもさ、俺ではだめかな?男として見てもらえない?」
克己は思いきって聞いてみる。
夕べと今朝、2度に渡ってうまく行かなかったが、それでも諦められないのだ。
瞳の美しさと色っぽさに気づいたからとくに。
「その…なんというか…。
係長はイケメンだしいい感じだって思ってます…。
でも、私男の人と付き合うならちゃんとしたいと思ってるので…。
なんていうのか…エッチがきっかけっていうのは…」
耳まで真っ赤になって視線を泳がせながらそんなことを言う瞳。
これはだめだ。仕切り直すしかないな、と思いながらも、克己は瞳にさらに魅了されていた。
(くそ!可愛いじゃないか。犯則!)
今の恥じらい戸惑う姿と、酔ってたがが外れていた時とのギャップがたまらないのだ。
そこで、妥協案を申し出てみることにする。
「わかった。
今回は諦めるよ。
その代わり、ひとつお願いを聞いてくれないか?」
「お願いですか…?」
克己の言葉に、瞳は視線を泳がせるのを辞めて目を合わせる。
克己は言葉を選びながら“お願い”を切り出すのだった。
いいムードを腹の虫でぶち壊しにした負い目もあったから、瞳はお願いを聞くことにする。
だが、この時は予想もつかなかった。
この“お願い”が良くも悪くも非日常の始まりになることを。