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秋島瞳の休日

02


 話しは少し遡る。

 

 それはありふれた休日だった。

 (今何時…?もうお日様高いだろうけど…起きるのがしんどい…)

 瞳はベッドから起き上がる気になれなかった。

 別段、仕事の疲れが溜まっているわけではない。

 彼女の職場はホワイト企業と言える良い環境で、よほどのことがない限りきつい残業はない。

 二日酔いであるわけでもない。

 瞳は酒飲みではあるものの、何度か酒で失敗している経験からつぶれるまで飲むことはしないようにしている。

 (せっかくの休みだし、いろいろやることはあるのだけど…。

 あー…起きるのめんどくさい…)

 純粋に惰眠を貪っていたい欲求に勝てないのだ。

 天気のいい休日、でかければいろいろ面白いこともあるだろう。

 掃除やら洗い物やら、休日の間にやっておきたいこともある。

 なにより、こうして昼まで寝ていては、人生という限りある時間を無駄にしているのでは、という考えもある。

 (あー…でも、寝るより楽はなかりけり、だわー…)

 そんなことを思いながら、また眠りかけてしまう。

 だがその時、ベッド脇のスマホが光を放ち始める。

 迷惑メール対策のため、夜と休日はミュートにしてあるため、振動さえしない。


 (メールじゃない…電話か…)

 眠気に逆らってスマホに手を伸ばすが、時遅く留守電になってしまう。

 画面を見ると、故郷の母親からだった。

 一応留守電を聞いてみることにする。

 『瞳、母さんです。体調はどうかな?

 お米とお味噌と野菜送ろうかと思うんだけど、どう?

 それと、前に言ってた縁談の話、真面目に考えて見る気ないかしら?

 電話してね。それじゃ』

 留守電の内容にげんなりとした瞳は、がっくりと枕に顔をうずめてしまう。

 「縁談かあ…」

 誰知らずつぶやく。

 大学を卒業してからもつき合いのある同級生や先輩後輩を思い出してみる。

 ほとんどがまだ20代ではあるものの、すでに四割弱が既婚者だ。

 経済格差の拡大や、出産や育児が困難な時世。晩婚化は進む一方であるとはいえ、やはり結婚して家庭を持つことは重要なことなのだろう。

 昨年の友人の結婚式を思い出す。

 (幸せそうだったな)

 結婚する前は、親同士が決めた縁談だと不満げだったくせに、バージンロードでは満面の笑顔でキラキラしていた。

 同じ女としてわからなくはない。

 ウェディングドレスを来て愛を誓うのは、嬉しいし幸せなことなのだろう。

 そういうことに全く興味が無いと言えば嘘になる。


 (しかし…)

 意を決して体をベッドから起こし、自分の部屋を見回してみる。

 アクリルのケースに収まったいくつものガンプラ。

 本棚を埋め尽くすライトノベルや漫画、そして同人誌。

 積み上げられたゲームの箱。(その中のほとんどはR18) 

 「オタクに恋はむずかしい…ってか…」

 瞳は嘆息する。

 今まで恋愛の経験が全くないわけではなかったが、このオタク趣味が理解されずに続かなかった。

 趣味を隠し、自分を偽りながら男と付き合うのは難しい。

 「でも…私には命の糧だもの…ねえ…」

 結局、オタ趣味に理解のある男を見つけることはかなわず、さりとてサブカルチャーから足を洗ってカタギになることもできなかった。

 やがて、無理に恋愛をしなくてもいいか、と思うようになってしまった。

 そして、無理に女らしく肩肘張っている必要がなくなる。

 畢竟、オタぶりが加速する。部屋が同人誌やエロゲーで埋め尽くされる。

 余計に恋愛が困難になる。

 そんな悪循環に陥ったまま、気がつけば彼氏なしのまま28歳になっていたのである。


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