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幼なじみなだけ

作者: 茶トラ
掲載日:2018/08/05

「大切な人ができたんだ。」


そう言って遠くにいる誰かを探すように目を細めて柔らかく笑った。

物心ついた頃から一緒にいたのに。

過ごした日々は決して短いものではなかったはずなのに。

そんな笑い方は見たことがなかった…。



5年前、突然勇者として、この村から旅立って。

それでも、役目を果たしたら、すぐにこの村に帰ってくると思っていたら。

勇者一行が魔王を倒したって風の噂に聞いても、肝心のアンタは幾ら待っても、便りすら寄越さなくて。


もしかしたら、ケガをして動けなくなってしまっているのでは無いかと、心配をしていたら。

いきなり知らせもなく、フラッと突然戻ってきて、そんな台詞を幸せそうな顔して言うから。

そう言われたら、私は。



「そう。そうなんだ。…おめでとう。」


って笑うしかないよね。


だって、私は、ただの、幼なじみ、だから。




※※※


今や世界を救った英雄となってしまった、幼なじみに対して、村は総出で歓迎し、お祝いの席を設けようとしたけど、幼なじみは「すぐに帰りたいから。」と、一言だけで断った。

帰りたい…か。

ここは、アンタの帰る場所じゃなかったんだ。



「ねぇ、ちょっとだけ、いい?」


幼なじみの大切に思っている人が喜びそうな花が咲いている場所がここにあることを思い出して、わざわざやってきたらしい。

普段王都付近にいるらしいのに、こんな田舎まで、ただの花を摘みにくるなんて、ご苦労なことだ。

面倒くさがりだったアンタがそこまでするなんて、本当に大事な人なんだね。


「…ん。今作業中だから、これ終わってからでいいか?」


ただ、花を摘んでいくのではなく、長持ちさせたいのか、根の部分から掘り起こしていた。

小さいシャベルを駆使して、花を傷つけないよう、真剣に土いじりをしている。

あーあ、汗と土でドロドロになって…。


自分が汚れるのも気にせず、目の前でいそいそと、根っこ付きの花を鉢植えに移し替えて、満足気に微笑む幼なじみを見て。

チクリと痛む胸に気付かないフリをした。


「ごめんな、待たせて。」


振り向きながら、笑顔で私に用件をたずねてきたけど。

あぁ、その笑顔。

子供の頃と同じだね。

上手く隠しているから、一見優しそうに、楽しそうに見えるけど。

きっと、どうでもいいって、思ってる顔。

ただ、その場をやり過ごすための、笑顔。

何事も無難に、輪を乱さず、そこに居るための、笑顔。


でも、私が、恋した、顔。


ふふ、我ながらこれってかなり悪趣味だわ。



「これ、あげる。」


ポケットに忍ばせていたものを取り出し、手の平に乗せて、幼なじみの目の前に差し出した。


「…お守り?」


「そう、アンタが、やっと出来た大切な人にフラれないように、わざわざ買ってきてあげたの。ありがたく受け取りなさい!」


じっとお守りを見つめるだけで、なかなか受け取ろうとしない幼なじみに焦れて、乱暴に幼なじみの上着のポケットにねじ込んだ。


「村一番のモテモテな私からの贈り物なんだから、ご利益バッチリだし。」


「…ふふっ、そうだね。ありがとう。」


腰に手を当て、胸を張って、精一杯高飛車に。

本当のお守りの意味を隠すために。


「じゃ、私はもう用が済んだから、帰るね。アンタももう、行くんでしょ?」


「あぁ、もう帰るよ。」


そして、また遠くを見つめるように目を細める。


…幸せそうな顔。

ただの幼なじみな私には、させられなかった顔。

悔しいなぁ。


「さよなら。大切な人とお幸せにね。それと、この村を、世界を救ってくれてありがとう!」


きっと、もう会えない。

きっと、アンタはもうこの村に帰ってこない。

だから。

幼なじみとして、さよならするね。


…私の恋心は、渡せたから。


今日、渡したお守り。

買ってきたなんて嘘。

あれは、5年前、旅立つ時に渡したかったもの。

旅の無事を祈って、私が手作りしたもの。

渡して告白しようと思ってたのに。

ずっとこの村で帰りを待ってるって言いたかったのに。

なのに幼なじみは、誰にも会わずに、何も言わずに、こっそりと村から旅立ってしまった。


渡せなかったお守りは、しまい込んだ。

自分の気持ちを閉じ込めたまま。

いつか、渡せる日が来るのを信じて。


そして、今日。


幼なじみには、私からの旅の無事の祈りも、帰宅を待つ私自身も必要なんてなかったって、思い知らされたけど。

それでも。

全部無かったことにして、再びしまい込むには、思ってきた年月が長過ぎて。

小さい頃から育ててきた恋心が、悲しくて。

少しでいいから、気づかなくていいから。

──届けたかった。


嘘、ついて、でも。

渡せただけ、上等だよね。

たとえ、途中で捨てられても、上等!



「さーて、ウチの宿屋の後継ぎになってくれる婿でも探すかぁ。」


村の女の適齢期は短いんだ。

泣いてる暇なんてないから。

明日から、頑張ろう。


大きく伸びをして。

幼なじみが去っていった方向に向かって、幼い恋心にもさよならをした。







以前書いた「勇者様は今日も愛を囁く」の勇者の幼なじみ設定で書き始めたけど、なんかキャラが違った。

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