女心って?
あやかちゃんを追いかけようとしたらお風呂場の出口にはニヤニヤした顔のまどかさんが仁王立ちしていた。
「まどかさんの差し金ですね……やけにタイミングがバッチリだと思いましたよ」
考えてみれば簡単なことだった。自分に取って面白くなるようなことはなんでも利用する人だったこの人は……きっと会話を全部聞いていて良いタイミングであやかちゃんに適当に「恭介君とさやかが喧嘩してて大変なの!あやかちゃんからも何か言ってあげて!」とでも言ったのだろう。さやかの事が大好きなあやかちゃんはそれを聞いてダッシュでお風呂場に向かったらまぁあーなってたってたわけだ。ほんとごめんなさいあやかちゃん。
「ふふ、なんのことかしら。後あやかならもう寝る時間だから謝るなら明日にしてね?あ、さやか戻って来たし恭介君自分の家戻ったら?」
「まどかさんも謝ってあげて下さいよ……あー確かにそうですね。じゃあ帰りますわ。服は洗濯して後日返しますので」
「はいはーい。じゃあおやすみ恭介君」
「おやすみなさい。失礼します。そういえばさやかは?」
「さっき2階上がってったの見えたから自分の部屋じゃないかな?家帰ったら連絡してあげて」
「わかりました」
俺はこうして風美家を後にした。なんとかさやかとは和解出来たのかな……それだけで風美家に行った意味はあったし、まどかさんには感謝しなきゃなんだけど、なんであそこで止めたんだよおおお!!風呂の蒸気でさやかの顔は熱を帯びてて色っぽくなってて形の良い胸とか足も全て見てこれからだって時にあの人は……多分俺の気持ちがちゃんと出るまではそういう事はやらせないってことなんだろうな……早く自分のこの気持ちがなんなのか分かればいいんだけど未だに答えが出てこないや……考えると疲れがドット来るから早いとこ家帰って寝よう。
家に帰るともう一度シャワーを浴び直して布団に入ってさやかに電話をかけた。
電話をかけて2コール目でさやかは電話に出た。
「なに?」
なんかまだ言葉に棘があるのは気のせいだろうか……俺はこれ以上怒らせないように言葉を続けた。
「さっきはその……勢いに任せてなんか変な雰囲気になっちゃってごめんな。まだ、俺ちゃんとさやかに中途半端な返事しかしてないのに、そういう事だけしようとしてほんとゴミだわマジでごめん」
「は?」
電話の向こうで何かが壁にぶつかる音がした。
「え……?」
「ほんと鈍い。あのさ?女の子の覚悟舐めてるよね恭介。男の子の初めての価値は知らないけど女の子の初めてってほんと人生で1番印象に残るってぐらい大事なことなんだよ?それを私は、恭介に上げたいって思ったからいいよって言ったの。それを何?雰囲気に流されてごめん?ふざけないで。私は流されたつもりはないし恭介が欲しいから言ったの。今後そういう事絶対言わないでよね。ほんと私の一方通行みたいになっちゃうじゃん……ごめんね、私わがままだよね」
そこまでさやかが思ってくれてるとは思わなかった。俺はそんな覚悟を台無しにして逃げるように風呂場から逃げたのかよ……ほんと最低だな俺。
「ごめん。そんな覚悟があって言ってくれてるなんて思わなくてお前の気持ち台無しにしたよな……ホント何してんだろ俺。さやか傷付けてばっかりじゃん、ごめんなほんと。なんで謝るんだよ。100%悪いのは俺だよ。こんなん嫌われてもおかしくないのに、それでも好きでいてくれるさやかは優しすぎるよ」
「ちょっとテンパリすぎだよ。ほんとあんたは責められるのに弱いんだね。嫌いになるわけないじゃん。恭介が鈍感な事なんて小学生の頃から分かってるよ。それじゃそろそろ寝るね、おやすみ。また明日恭介の家の前集合ね」
「そりゃさやかには嫌われたくないからな。そう言われるとまぁまぁ傷付くわ……おう。おやすみ」
結局最後までさやかに怒られっぱなしな1日だったな……女心ってこんなに難しいものなんだな……今まで女性経験がないなんて言い訳にならないもんな。多分さやか以外と付き合ってたら数日で別れてたのかなと思うとゾッとした。女心わからない彼氏とか最悪だもんね。
俺はこれ以上考えると虚しくなってきたから寝ることにした……
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『おはようクソ童貞!はぁ!?まだ寝てんの!早く起きなきゃその汚い顔踏みつけるわよ!おはようクソ童貞!はぁ!?まだ寝てんの!早く起きなきゃその汚い顔踏みつけるわよ!』
「んん、朝か……さやか様ありがとうございます、今日も頑張れそうです」
親が見たら泣くだろうなこの光景。罵られながら気持ちよく起床してお礼を言う息子を見たらどう思うだろうか……
さやかとの待ち合わせ時間に遅れないようにしなきゃ。昨日の今日で遅刻したらマジで嫌われるかもしれない。俺は待ち合わせ時間の10分前にその場所へと向かった。まぁ俺の家の前なんだけどね……
「きょーすけぇ!おはよ!」
さやかはいつも通りの笑顔でこちらに走ってきた。よかった。どうやら怒ってはないようだ。
「おはよ、じゃあ行くか」
「うん!手繋いでいいよね?付き合ってるんだし」
「お、おう。もちろん構わないよ」
「ふふ、昨日の教育ちゃんと効いてるみたいでよかった」
「俺も何回も間違え繰り返したくねーからな」
こうして俺達は手を繋いで大学へと向かった。途中途中の嫉妬の目がめちゃくちゃ辛かったけどね……