運命的な出会い
冷たい雨の雫にぐっしょり濡れて、鈴美は、瞳を潤ませていた。数時間前まで、こんな濡れ鼠のような
気分になるなんて、想像も出来なかった。鈴美は、顔をゆがめて見せた。冷たいドールのように整っていると言われる鈴美の顔。鼻筋の辺りが、悔しげに歪んだ。様々な思いが頭の中を駆けめぐる。何もかもが汚く思えて、鈴美は、顔を覆った。吐き気がする。
私は、世間知らずの甘ちゃんだったのだ。鈴美は、そう自身に言い聞かせてみるが、ぽっかりと空いたような胸の中の空洞に、虚しさを感じて、頭の後ろの辺りや、鳩尾の辺りにむかむかとした不快感が広がった。
……馬鹿にして!馬鹿にして!馬鹿にして!
悔しくて、虚しくて、何より、悲しくて、鈴美は、立っていられなくなり、その場にしゃがみ込んだ。温い涙が、雨と混じってぽとぽとと地面に伝って落ちる。
このまま、死んでしまえたら、どんなに良いだろう……。苦しさから紛れるように頭の片隅で、そう、鈴美が思考した時、ふと、雨が伝って来なくなった。
え?と、違和感を感じて、上を見上げると、人の良さそうな顔をした優男が、困ったように眉を八の字に下げて、鈴美を見下ろしていた。
え?鈴美は、もう一度呟いた。
「あなた、不幸せ貯金に当たりましたねぇ」
私を介抱し、バスタオルを手渡した優男は、相変わらず、困った顔でそう言った。話は、温まってからしましょう。と、優男に温泉に押し込められると、私は、訳も分からず、奇妙なこの男の言いなりになって、温泉に浸かった。投げ遣りな気分であったし、いざとなったら、逃げられる根拠の無い自信も持っていた為、私は、男に従順だったと思う。
言われるままに身体を温めて、先に上がったのか外で涼んでいる男の傍に座った。よく見ると、奇妙な優男は、彫りの深い整った顔立ちをしている。男性にしては、華奢で細長い体躯が昔童話で、夢中になったあしながおじさんのようだと思った。