祭りの後
ひさぶしり更新!
結局、嫌がるルディアを真理ちゃんに引き渡して、隊長さんには地元で評判の高級焼肉店に連れて来てもらった訳なんだけども。
ちなみに、優たちも誘ったんだけど、わざわざ迎えに行ったのにやんわりと断られてしまった。
なんでもガチムチな隊員たちは好みじゃないとかなんとか。
中でも優はボクの事をじっと見つめてきて
「いい機会だから隊長さんの誤解を解いてきなさい」
と言って微笑んでいた。
これっぽっちも目は笑ってなかったけども。
ボク理解した。
これ以上あの隊長がボクに求婚してきたら、絶対あの人社会的に抹殺されるって。
そんな訳で、おとなしくボクは一人で隊員達に囲まれて、高級霜降り肉を焦がさないように丁寧にひっくり返していた。
そんなボクの姿を片時も見逃さないかのように、微笑ましく見詰めてくる隊員たち。
特に隊長からの圧が強い。
「あ、あのー皆さんも食べてね?ボクだけじゃ食べきれないからね?」
圧に堪えきれなくなったボクはやんわりと微笑みながら、言外に『肉焦がしてんじゃねえ、さっさと食え』というニュアンスを滲ませて伝える。
「いや、いいんだ。がーでぃ・・・いや君がお肉を一生懸命モグモグゴックンしてる姿を見てるだけで、ご飯10杯は食べれそうだよ」
隊長が嫌に清々しく普通の女の人だったらイチコロなんじゃないかなと言うような微笑みを浮かべながら、その清々しさの数百倍は気持ち悪くて台無しにするような台詞を吐く。
同じテーブルに着いてる他の隊員もいまの台詞を聞いて
「隊長、今のはさすがにキモいです。ないわー、それはないわー」
と言ってるんだけど、真っ直ぐボクを見据えてる隊長の耳には届いていない。
こんな状態の人に『ボクは結婚してるんです(女性とだけど)』とか、『中身はおっさんですよ(戸籍的にも)』とかいって納得してもらえるのかと、不安になってくる。
そんなボクの不安を見抜くかのように、隊長さんはじっと見つめて次なる攻撃を繰り出してきた。
「がーで・・・んっうん。食べきれないなら君が焼いたお肉を、俺にアーンしてくれてもいいんだぞっ」
そう言って半目になり、まるでエサを待つ雛鳥のように口を開け、今か今かとお肉が放り込まれるのを待っているようだ。
ゾワワーっと鳥肌が立った。
涙目で他の隊員に助けを求めるも、顔の前で手を合わせて「スミマセン、何とか切り抜けてください」みたいな表情を作られる。
えー・・・こんなことなら来るんじゃ無かったなぁ、真理ちゃんいないし。
真理ちゃんが居たら絶対こんなこと許さないのに。
はっ!そうだ、真理ちゃんならきっとこうするはず。
口のなかで舌をウネウネと動かしながら待ちわびてる隊長をなるべく見ないようにしながら、丹念に焼いてたお肉の一枚をぎゅーーーっと鉄板に押し付け最後の一焼をすると、タレも何も付けずに隊長の口にポイっと放り込む。
肉が放り込まれた瞬間にパクっと閉じる隊長の口。
こわっ!絶対お箸くわえようとしてたでしょ!
ボクは別に間接キスとかそう言うの気にするほうじゃ無いんだけども、全然平気なんだけども。
隊長はなんかヤダ、生理的に無理になってきたー。
箸ごと狙ってた隊長は、熱々お肉の威力を時間差で思い知ることになる。
「あづぁああああああっ!!み、みずぅ!」
慌てて自分の頼んだビールをごっきゅごっきゅ飲む隊長を、みんなが白い目で見てる。
今更ながらそんな視線に気づいた隊長は、他の隊員を見回した。
「ど、どうしたんだ?お前たち。そんな恐い顔して・・・」
ふー、とため息をつきながら副隊長さん(メガネクール)が諫めるように隊長に言う。
「隊長、やりすぎです。我々でもかなり引きますよ?今のは。っていうかそもそもがーで・・・彼女に好かれるつもりは有るんですか?嫌われようとしてるようにしか見えませんよ?」
「うっ・・・も、もちろんあるさ。大真面目だよ俺は」
あーいるよねーこういう風に好きな女の子とかに好かれようとして、やることなすこと全部裏目に出ちゃう人。
「真面目なら真面目にやってください。そもそも今日のセッティングだって、田所女史が居ないところで隊長が彼女と話したいって言うから、絶対に彼女が付いてこれない状況を利用したって言うのに」
そんなにまでして、何をしたかったのか・・・。
副隊長さんに怒られた隊長は真面目な顔になって、ボクに向き直り、咳払いをする。
「うっうん、あーがーでぃ・・・」
「もう、めんどいからヒカルでいいよ」
「え?いいの?名前聞いちゃっても」
隊長さんも他の隊員を今まで身元バレしないように、名前を教えてもらえなかったので、目を丸くして驚いている。
「いいよ、その代わり少しでもボクのこと調べようとしたら、真理ちゃんに言いつけるからね」
「りょ、了解。それであのその、ヒカルちゃん」
「なぁに?」
「前に俺が言った事は真面目に考えてもらえないだろうか」
あーやっぱりそっちに話題が行っちゃうのかー、まあケリつけるように優にも言われてるからなぁ。
「交際とかの話なら前にお断りしたはずなんですけど」
お、すごい、敬語しゃべれた!.エレスが介入しなかった?
『さすがに私も限界ですので、ケリをつけて欲しいです』
なるほど、情報を共有してるもんね、そりゃ限界だよね。
「いや、そこをなんとか!」
言いながらテーブルに手をついて頭を下げて懇願してくる隊長さん。
そんな隊長をうわぁって顔で見ている隊員たち。
顔は悪くない、悪くないんだけどなぁ・・・なんだろう劣化版の正臣みたいでなんかイラっとするんだよねぇ。
あれ?なんでボクが正臣の事でイラっとしなきゃいけないんだろ?変なの。
「そもそも、ボクなんかのどこがいいの?一回助けてあげたけど、その前に結構酷いことしたと思うんだけど」
モジモジしながら頬を赤らめて隊長が言った。
「顔とお尻」
浅い上にサイテーな返しだった。
「ごめんなさい、やっぱり無理です」
「そんな!いいじゃないか!外見から好きになったって!」
「顔はいいけど、お尻は外見とかじゃないよね?」
ボクが他の隊員さんたちに同意を求めると、みんながウンウン頷いていた。
「まあ、私もお尻はいいと思いますけど、この歳になって外見から入るのはいかがなものかと」
あれー?まともだと思ってた副隊長さんまで怪しいこと言い出したー?とりあえずスルーするけどね。
「大体ですね、ボク結婚してますよ?」
「「「「は!?聞いてないよ???」」」」
うん、言ってないからね、っていうかなんで副隊長さん以外の全員焦った顔になってんの?
「もうこの際言っちゃうけど、ボク元々人間だし中身は男、それもおっさんだからね!」
はっはー言ってやったー、これでみんなドン引きでしょ。
「是非とも私と交際を」
1人おかしいのが食いついてきたし。
副隊長さんやっぱりあなたそっちの方だったんですね?
「おかしいでしょ?なんで中身がおっさんの時点で食いつくの?ガチホモとかにしたっておかしいでしょ!?」
「私は難儀な性癖でして・・・心は男性しか愛せないのに、体は女性じゃないとダメなんです」
なんだ?そのめんどくさい性癖・・・。
「ヒカルさんはその点完璧です。男性として心から愛せますし、愛でやすい容姿なので」
もうやだ、この人たち。
誤解を解いてケリつけるどころか、新たなる驚異にさらされてるよぅ・・・しかも隊長より副隊長さんのが絶対にめんどくさいタイプだよ。
ボクが悶々とどうしようか考えてるときだった。
「お?ヒカルちゃんこんなとこで何してんだ?」
聞き覚えのある声に、一瞬心拍が跳ね上がる。
「ま、正臣?」
ドキドキしつつ、振り向くとそこには頼りがいのある笑顔を湛えたナイスガイが格好いい私服で立っていた。
「おう、どした、そんな潤んだ目で見てきて。なんかあったのか?」
そう言いながらボクを取り囲んだこの状況どもに若干の警戒をしつつ、ボクの頭を撫でてくる。
ボクに対するそんな気安い態度を黙って見てられるような面々じゃなかった。
「あんた、ナニ者だ?彼女に嫌に馴れ馴れしいが・・・関係者か?」
隊長及び他の隊員から殺気ともなんとも言えない気配が漂う。
そりゃそうだ、ボクは彼らにとっては本来国の機密に関わる人物なのだから、本来馴れ馴れしい態度なんて取りたくても取れないのだ。
「んー関係者っていうか、保護者みたいな者だが?あんたらこそなんだ?」
正臣の口からでた"保護者"という台詞に少したじろぐ隊員たち。
その姿を見てボクはハッと思い付いてしまった。
この状況すべてにケリをつける方法を。
「そう!保護者って言うか旦那様なんだよ!正臣は!!」
一瞬の沈黙のあと、各々が複雑な表情になった。
特に正臣が。
「おま・・・」
と言いかける正臣の口を塞ぐかのように、抱きつき喉を締め付けて、余計なことを言わせないようにして耳元で囁く。
「大体状況わかってるんでしょ?余計なこと言わないの、今度角煮いっぱい作ってあげるから。ね?」
苦しいのか胸が当たって嬉しいのか、顔を真っ赤にしながらコクコク頷く正臣。
「じゃ、じゃあそちらがさっき話してたお相手で・・・?」
「そうだよ!名前しか教えないけどね。夫の正臣です」
「えっと、妻がいつもお世話になってます?」
「「「「い、いえいえこちらこそ?」」」」
なんか変な挨拶の応酬になってるけど。
「それでヒカル、どうなってるんだ?」
「いやまあ、仕事のお礼で焼肉ごちそうになってたんだけど、ボクが結婚してるって話になってね。うそだーって言われたんだけど、偶然にも正臣が通りかかってくれたから助かっちゃったーアハハ。これって以心伝心かなぁ?ダァーリン♪」
そう言いながら正臣の右腕にしがみつき、ここからそのまま持ち帰ってと懇願する。
「そうかーそれはそれは、まあこんな若くて可愛い子が結婚してるなんて思いませんよねーははははは」
下手くそか!棒読みにも程がある。
そんな正臣の様子に怪しげな視線を投げ掛ける奴、そう副隊長さん!
「先程ヒカルさんから、中身はおっさんとお聞きしたのですが、その辺はご存知なんですか?」
キラーンと光るメガネをクィッとしながら聞いてくる。
「ん、ああ話しちゃったのか、その辺も。もちろん知ってますよ。でも関係ないですよ俺は外見だけで好きになったわけじゃ無いんで。それに元々のこいつもそんなオッサンなんて呼べるような外見じゃ無かったですし」
と言いながら、ニカッと男らしくも爽やかな、俗に言う良い笑顔を振り撒き、店のウェイトレスの女の子もですらも、通りがかりにハートを射ぬかれている。
見慣れたはずのボクも少しぽーっとしちゃったじゃないか!まったくもう。
隊員たちもそんな正臣の笑顔と、口からなんか魂みたいなものが出ちゃってる自分達の隊長を見比べ、こりゃ勝てっこないわなと納得した顔でウンウン頷きあう。
「ふっ、男だった時から愛し合っていたのならもう何も言いませんよ。隊長は私のほうで何とかしますので、どうぞ彼と幸せになってください」
「あ、ありがとうございます?」
それだけ言うと、ボクらは店を後にしたのだった。
「いつまで腕にしがみついてるんだ?まさか離れたく無くなっちゃったのか?」
からかうように正臣が言ってくる。
「そんな軽口叩くとメガネかけるよ?」
「ごめんなさい、ほんとスミマセン」
真顔で謝ってきた、ほんとメガネでなんかあったの?
「あーそう言えば焼肉食べに行ったのに何も食べさせずに出てきちゃってゴメンね?なんか食べて帰る?付き合うよ?」
「ああ、まあ元々お前捜しに行ったから良いんだけどな、ラーメンでも食って帰るか?」
ん?捜しに来た?なんで?
「な、なんで捜しに来たの?」
うつむき正臣に顔が見えないように聞く。
なんか心臓がドキドキして顔が見れないよー絶対にボク顔が赤くなってるもん。
「いやな・・・お前の嫁さんから電話があってなぁ。あの焼肉屋でお前が多分困った事になってるだろうから、ちょっと行ってくれって言われてな」
頬の熱がサァーと引いてく。
「そっかー優かーさすがウチの嫁さんスゴいなぁーアハハ」
ボクは掴まっていた正臣の腕を離しスッっと離れる。
「それでも来てくれてありがとね。ほんとに助かったよ。よく考えたらそうだよね、そんな都合よく来るわけないもんね」
まるで王子様か騎士みたいに。
「あ、ああ。ヒカルちゃん?ダイジョブか?」
そう言いながらボクに手を伸ばしてくる正臣。
その手をスッと交わしてくるーりと回りながらベーっと正臣に舌を出す。
「だいじょうぶですよーだ!あ、よく考えたらそろそろ優たちも帰ってくるから、ウチに帰らなきゃ、ゴメンね正臣。今度作ってあげる角煮で勘弁してね」
そう言ってボクは、一気に上空に飛び上がる。
正臣がなんか言いかけたような気がするけど、これ以上顔を合わせてるとなんか泣いちゃいそうだったから。
なんで最近正臣の事で胸がチクチクするんだろう・・・