イベント会場の攻防 その5
会場上空にジェットエンジンの音が響き渡る。
「なっなんで大国の戦闘機がこんなところに・・・」
信徒のリーダー格の男が呟いて、ハッと何かに気付いたかのようにルディアの方を見る。
しかしそこに既に箱入りルディアの姿はなかった。
「どこにいきやがったっ!?」
叫びながらキョロキョロと辺りを見回すと、ルディアはコッソリと人型に戻っていて、スマホを男の子に返しているところだった。
『コレ、ありがとネ。とってモ助かったワ、あと・・・格好悪いトコ見せちゃったわネ』
ルディアが男の子の手をとって、その手のひらにそっとスマホを置きながら言う。
「そっ、そんなこと・・・ないですっ!一人で立ち向かったヴァルキリーさんは格好良かったですっ!」
男の子がルディアをしっかりと見つめながら言うと、ルディアの瞳が一瞬うるっとするが、負けず嫌いなルディアは上を向いてそれを誤魔化す。
約5秒程経ち、落ち着いたのかもう一度男の子の顔を見ながら
『アナタのおかげデ勇気が出たのヨ、私の相棒も喚べたしネ。待受画面に出来るようにいっぱいカッコイイとこ見せルから、いっぱい写真撮るのヨ!』
「は、ハイッ!!いっぱい、いっぱい撮ります!!」
男の子のいい返事を聞くと、その頬に軽くキスをして、真っ赤になってる男の子に微笑みクルリと踵を返す。
そのやり取りを見て苦い顔をしている信徒達を睨み付け、不敵に笑う。
『待たせタわね』
「たったかが戦闘機が来たところで何が出来る!」
『そうネ、確か二普通は何も出来なイかも知れないワネ、コレだけ一般人がいるト、機銃も撃てなイしネ』
ルディアが喚んだ戦闘機は上空でホバリングしている。
「あ、あれってハリアーⅡなのか?初めて見る機体だけど・・・」
観客の誰かがそう言うとルディアが訂正する。
『ちょっト、あんな欠陥ダラケの機体と一緒にしないデちょうダイ。私の相棒の機体はハリアー改ヴァルキリーって言うノヨ』
ルディアが説明するとハリアー改は嬉しそうに機体を揺らす。
『ソシテあの子ガ来た私ハ無敵ヨ!アナタ達が馬鹿にシタ機械の力ってヤツを見せテあげルワ!接続!!』
ルディアの身体から無数のケーブルが延びて、上空で待機していたハリアー改に繋がり、引き上げられてキャノピーが開いたコックピット滑り込む。
『融合!!』
今度は身体が溶けたように見えるほどのケーブルが身体から沸き出し、機体の隅々まで這っていく。
そうして機体の全てに自分の神経が通ったのを確認したルディアは三度叫ぶ。
『変形!!!』
大人の事情で一部伏せられた台詞と共に、ガシャガシャと戦闘機は人型に姿を変えていく。
メカフェチな観客達から大歓声が起きる。先程の男の子もスマホの連写機能で目をキラキラさせながら写真を撮りまくっていた。
ものの数秒で明らかに道理に合わない変形を終えたルディアが、背面のバーニアを噴射して軽やかに地面に降り立ち信徒達を見下ろす。
『ドウ?コレなら踏みつけル事だっテできるわヨ?』
信徒達は既に腰が引けていたが、リーダーの男だけは違った。
「こんな事もあろうかと、持ってきておいたんだぁっ!!」
リーダーの男が一体何を考えてそんなモノを持ってきていたのか判りかねるが、背中の長いケースから出したものはロケットランチャーだった。
「コレでも食らいやがれ!!」
躊躇なく男はルディアに向けて引き金を引くと「シュッポッ」と少し間抜けな音をたて点火されたロケットが加速を始め、ルディアに向かって勢いを増し始める。
「かわせば後ろの観客が死ぬぞ!!ひゃははははあ!!」
最早とある世紀末を舞台にした漫画のザコが吐くような台詞を言い出す信徒のリーダー。
迫るロケットを見つめてルディアは溜め息をつく。
『ヤレヤレ、私も舐められタものネ』
そう言って右手をロケットに向けると、指先から無数の糸のようなモノがロケットに向かって延びていく。
よく見るとルディアのケーブルなのだが、一本一本が蜘蛛の糸のように細いため、見た目には某蜘蛛男が手首から出す糸のようにしか見えない。
糸ケーブルがロケットに達すると、ロケットの勢いはまさに蜘蛛の巣にかかった虫の様に速度を落としていく。
そうやってふんわりとキャッチされてしまったロケットは、先端の弾頭部分に衝撃が無いので爆発することもできなかった。
そして、糸ケーブルが這い回るとみるみるうちにバラバラに解体されて、ルディアに吸収されてしまう。
「ばっ馬鹿な・・・」
『馬鹿なのハどっちヨ。私は守護者、それモ金属と機械を自由に操る事ガ出来る能力を持っタ11番目の守護者ルディアよ!まだサッキみたいナ銃弾の方ガ私にハ効いたわヨ?ああ、もうこの身体二なったカラそれも効かナイけどネ』
ルディアが格好よく言い放って芳ばしいポーズをとると、カメコ&メカフェチ達のカメラフラッシュによって、ピッカァッ!!と無駄に神々しい光を放つ。
「あ・・・ああ・・・こんなはずじゃぁ・・・」
ガクリと膝をつき項垂れるリーダー。
誰かがそんなリーダーの肩を優しくポンポンと叩く。
リーダーが叩かれた肩の方に視線を向けると、そこには満面の笑みを浮かべたヒカルがいた。
「ヒィッ!!」
リーダーは逃げようとしたが、ヒカルに肩をガッシリ掴まれていて身動きが出来ない。
「こーんな可愛い子を見て、悲鳴をあげるなんて失礼しちゃうなぁ」
「はっ放せえっ!ば、バケモノがっ!!」
「ふぅーん、まだそゆこと言っちゃうんだ?」
ヒカルは不満そうに唇を尖らせながら、リーダーの顔を正面から見つめる、もちろんその目は爛々と妖しく光っている。
最初は抵抗していたリーダーだったが、しばらくすると蕩けた様な表情になり、抵抗をしなくなる。
「ね、リーダーボクたちのこと大好きダヨネー?」
「ひゃ、ひゃい!だいしゅきれすぅー、守護者様ばんじゃーい!!」
(ちょっと、力入れすぎて呂律回って無いけど、こいつさえどうにかなっちゃえば他の人たちなんて・・・)
「みんなもボクたちのこと大好きでしょ?」
と、言いながら信徒達を見つめる。
「「「「モチロンでーーーす❤」」」」
「じゃあみんな武器なんて捨てちゃって、楽しいことしよーね」
「「「「はーーーーい❤」」」」
いい返事をして武器をぽいぽいと捨て始める信徒達。
『えーッと、エイ』
ルディアがそんな信徒達に糸ケーブルを飛ばして、縛り上げていく。
信徒達は目を❤マークにしたまま転がされ、スタッフが通報して到着した警察に引き渡されるのだった。
『ふウ、いい仕事したワ。じゃ、じゃア私はコレで・・・』
ルディアがかいてもいない汗を、拭うような仕草をしてそそくさと飛行形体になろうとする。
「ルディアもまだ帰れないんじゃないかなぁ」
ヒカルがポツリと言う。
『い、いえ長居シテもいけないンで早々二帰らさせテいただくワ』
「だからー帰してくれないってば、真理ちゃんが」
ギィィィィィィンン
上空に響く新たなジェットエンジンの響き。
『あーあー、ソコの不審なメカ守護者に告ぐ。大人しく我々と一緒に来て田所女史に叱られなさい』
ルディアはイヤイヤとフルフル首を振って飛び上がると、一気に飛行形体に変形して逃げようとする。
「あっ!!コラッ!!逃げるんじゃない!アンタを連れて行かないと俺たちが怒られるだろ!!」
『イヤッ!!あのウメボシグリグリされる位なら地の果てマデ私は逃げるワ!!』
「ヒカ・・・守護者ちゃんっ!後で美味しい焼肉屋連れてくから捕まえてくれッ!!」
「はい、つーかまえた♪」
一瞬でヒカルの力場によって捕らえられるルディア。
『ねっ姉さんヲ使うなんテ卑怯ヨッ』
「逃亡者相手に卑怯もへったくれもあるか!」
『お願いダカラ見逃しテ!姉さん!!』
「えっへへーおにくぅーおにくぅー美味しいおにくぅー」
『愚妹よ、諦めなさい。こうなったご主人様は容赦有りませんから』
「じゃ、ちょっと基地まで連れて行くねー、おにくぅー」
『イヤァァァァァァアアアアァァァ・・・』
観客が茫然と見守るなか、ルディアの悲鳴を置き去りにして、ヒカルは一瞬で音速を突破して見えなくなった。
「「「「守護者様パネェ」」」」
観客の心がひとつになった瞬間だった。
「はぁー今日はホンとにスゴかったなぁ」
イベントに参加した男の子は家に帰ると、スマホに撮りまくったルディアの画像を見て、ニヨニヨと締まりの無い顔をしていた。
そして思い出したかの様にルディアに口付けされた頬に触れる。
「近くで見ても綺麗だったなぁ、ルディアさん」
熱っぽい溜め息をつきつつ、スマホを操作していると画面の隅っこの方に見慣れないアイコンを見付ける。
「これ・・・なんだろ?デフォルメされたルディアさんみたいな・・・」
男の子はおそるおそるアイコンに触れてみる。
アプリが起動して、勝手にメッセージが流れる。
『やっと気付いてくれたわね。これは貴方と私だけのホットラインよ。今日は本当にありがと、私借りを作るのって好きじゃないのよね。だから貴方が困ったとき、ここで連絡して、私は可能な限り駆けつけるわ』
「え?本当に本物なの?」
男の子は文章を読んで呟く。
『あら、疑うの?本物よ』
スマホに打ち込んでないただの呟きに文章が答えた。
「うわっなんだろ!寒イボ立ったんだけど!スゴいッスゴいヨッ本物のルディアさんなんだ!」
『だからさっきからそう言ってるでしょ、フフ』
「あの、ぼっ僕と友達になってもらえませんか?」
男の子がやや緊張気味に提案する。
『いいけど・・・なんで?』
「だって、困ったときしか連絡出来ないんじゃなんか寂しいから・・・」
そんな男の子の困ったような顔が見えてるのだろうか、ひょっとしたらスマホのカメラを介して見てるのかもしれないルディアは楽しそうに書き込む。
『そんな顔されたら断れないじゃない。良いわよ、今日から私と貴方はトモダチね』
「や、やったぁーーーーーっ」
『あ、でもこのラインのことは他の人には内緒よ』
「え、な、なんでですか?やっぱり迷惑ですか?」
『違うわ・・・ばれたらうるさくてこわい女性が来るのよ・・・』
「あー・・・そんなに痛いんですか・・・ウメボシ」
『今日・・・1時間の間に三回位お母様の元に還っちゃうかと思ったわ・・・・グスン』
「ぼ、僕だけの秘密にしておきますね」
『うん、ありがと・・・じゃあおやすみなさい』
アプリを終了したあと、男の子はベットに仰向けになって天井を見ながら呟く。
「守護者も色々大変なんだなぁ・・・」