イベント会場の攻防 その3
ステージ上ではただ一人、白いコスチュームに身を包んだ薫子ちゃんが注目を集めている。
『どうしてこのコスチュームを造ったんですか?』
『それはでありますな、このコスチュームがいやベースフォームこそが守護者様の原点であり、最初の変身なのであります!』
『おっとぉー!このコスはベースフォームと言うのですか?オフィシャルにも出ていないのですが、どうしてその名前に?』
「そ、それはですな・・・実はさいたまの時に助けられて少しお話が出来たのでありますっ!」
ちょっと苦しい言い訳な気がするけど、まあ助けられたのは間違いないし、少し話したのも嘘じゃないなぁ、いつもウチに遊びに来たとき話してるし。
『おっとぉ、じゃあ実物に会ったことがありそして助けられたんですね!スゴーイ!!そしてこのクオリティに愛を感じますね、どこか苦労した部分ありますか?』
『そうですね、実物を採寸・・・じゃなくって、見たまま作ったんですが、胸の部分がちょっと小さくって作り直したとこでありますかね?』
うん、確かにボクの採寸したあと胸がちょっと・・・っていいながら作り直してたの知ってる。
『た、確かに立派なモノをお持ちの様ですからね・・・』
『い、いえいえそんな滅相もないであります』
そう言いながら両手を体の前でフルフルしている薫子ちゃん。
合わせてお胸がポヨンポヨン踊りまくってえらいことになってる。
それを見て盛り上がる観客たちの約半分(主に男達)。
・・・一言言わせえもらえば、薫子ちゃんが大きいだけなんだからね!?ボクだって余裕でCはあるんだからね?お胸は形が大事なんだからね、悔しくなんてないんだから!
『ご主人様、そんなに悔しがらなくても、ご主人様は美乳ですよ。ご安心ください、私が保証します。それにしてもすっかり心まで女性のようになってきましたね。可愛らしいですよ』
「エレス、人の心の叫びに答えるのやめてよ!」
「ど、どうしたの?ヒカルちゃん。突然大声だして」
隣の友里がビックリして聞いてきた。
「う、ううんなんでもないよぉ、全然問題ないよぉ、だいじょぶじょぶ」
「そ、そうなの?それならいいけど」
ステージでは最後の組のお披露目まで終わり、司会のお姉さんだけが立っている。
『さあ、みなさんの投票により12名のレイヤーさんたちが選ばれました!この中から各色一人ずつを選ばせていただきます!が、すでに一人ずつしかいない色もいますね、白の100番さんと紫の90番さん、お二人とも前にお進みくださーい』
会場から割れんばかりの拍手と歓声が起きる。
『では、残りの赤、青、緑、金を選びたいと思いまーす』
それを聞いて黙ってられない人がいた。
『ちょっト!どうしテ銀色の戦乙女は選ばなイのかしラ?』
紫の竜騎士コスをした、その戦乙女その人だった。
あー自分のコスプレしてくれてる人がいるのに、選ばれなくて悔しかったんだなぁ、多分。
『まったく、大人しくしておけばいいものを、あの愚妹は』
「あはは、まあ自分だってPV出てるからねーしかもイベントは姉妹だもん悔しいんでしょ」
「でもさ、このイベント見るとどうもヒカルちゃん一人で姉妹って表されてるような気がしない?ひょっとしたらあれじゃない、ルディアって戦隊もので言うところの敵が巨大化した後に出てくるロボット枠なんじゃないの?」
そう言えばあの子調子に乗って合体とかしちゃってたから、本人映ったのってホンとに一瞬だもんね・・・でっかいルディアは結構映ってたけどね、あ、だからみんなコスチュームに戦闘機の翼みたいの付いてるんだ!いまごろ納得だよ。
『すいません、銀色の戦乙女は巨大ロボットなので姉妹には選ばれないんですよー』
それを聞いたルディアは分かりやすいくらいにガーン!!とショックを受けていた。
『な、な、ななんてことなの・・・私が巨大ロボ扱いだなんて』
『だ、大丈夫ですか?』
何やらブツブツいい始めたルディアを、心配そうに覗き込んでいる司会のお姉さん。
「あーあれはかなりショック受けてるなぁルディア」
「だよねぇ、だって流暢に喋ってるもんね」
司会者のお姉さんが、一生懸命ルディアを励まし、それを観客たちがが生暖かい目で見守ってる時だった。
「きゃああああああああぁぁぁっっ!!!」
会場の片隅で悲鳴が上がる。
「おらああああ、ここかっ!神の名を語る守護者とやらの集まりは!!我等は真神教の信徒である!!神の名を語る不届きな奴等に神罰を与える!!」
大声をあげながら近くにいたレイヤーさんを捕まえて、刃物のようなモノを突きつけている。
『えっと、スミマセン・・・そんな仕込みありましたっけ?』
司会のお姉さんが戸惑ったように訊ねる。
「まったく、この集会は神の名を語る馬鹿どもしかいないのか!よくそれで神の守護者などと言えたものだな!神の守護者は我等のような信徒にこそ相応しいのだ!」
どうやら本格的にイっちゃってるカルト集団のみたいだ。
『一言物申す!!』
オロオロしちゃってる司会のお姉さんからマイクをひったくり、薫子ちゃんがいい放った。
「なんだ!?貴様は!!そんな聖女様を模したような格好でイヤらしい体つきを見せつけおって!恥ずかしくないのか!!」
いや、イヤらしいってオジサンどう見ても、薫子ちゃんのお胸に視線がいってるよね?しかも聖女って・・・どんだけよ。
『私は別にイヤらしくないし、この格好は聖女何てものではありません!!大体あなた達は勘違いも甚だしいですぞ!!』
「なんだとぉっ!!?」
『そもそも守護者は神の代行者何てものではないですぞ!守護者は神様なんて目に見えないものではなく、私たちが今まさに立っているこの地球が産み出した守護者なんですぞ!!そんな訳の分からない神様なんてものと一緒にしてほしく無いですぞ!』
「・・・地球だと・・・!?」
会場もなんだかざわつき出す。
「え?守護者ってそういうものなの?」
「地球生命説か!?」
「それはそれで、いいけど、なんか俺らも駆除対象になるんじゃ無かったっけ」
さすがオタクさんたち、色々な意見が出てくるねぇ。
『みんなも聞いてほしいのですぞ!この地球は守護者はずっとずっと1000年以上も侵略者と戦い続けてくれていたのですぞ!確かに私たちなんて地球自身を守るついでに守られてたかも知れませんが、神様なんて目に見えない存在なんかよりも、よっぽど身近なとこで見守ってくれてるのですぞ!!』
薫子ちゃんちょっと最後の方は感極まったのか涙声になっちゃってる。
「じゃあ、今、我等がしてる行いを見て罰を与えに来るというのか?かははハッそれは傑作だ!我等も地球上の生命なのだが守る価値は無いというのか?守護者はそんな風に救うモノを選ぶというのか?ハッ偉そうに!!」
『聞き捨てナラないわネ!守護者はお前の言うようナちっちゃイ視野で考えテなんかいないのヨ!』
ずずいっと薫子ちゃんの肩に手をかけルディアが信徒たちにいい放つ。
「なんだ貴様は!そんな鎧を着たから強くなったつもりでいるのか!?」
男はそう言うと手をサッとあげて合図を出す。すると男と同じような法衣に身を包んだ信徒が、武器のようなモノを持って会場を取り囲んだ。
中には小銃のようなモノを持ってるやつまでいる。
あれ?ここ日本だよね?
男は銃を持っている男に目配せして
「おい、あの小賢しいやつにわからせてやれ、本当の力というものをな」
言われた信徒は軽くうなずき返して、銃を構えルディアに照準する。
「ほら、どうだ?恐いだろう?今ならまだ許してやるぞ、命乞いするがいい」
『ハッ!おととい来やがれレだわ!!』
「・・・やれ」
男が舌打ちしながら命じると、銃を構えた男の人差し指が引き金を引いた。
ダァンッッ!! カィーーーンッ!!!
弾が当たったらしくルディアが後ろに吹っ飛んだ。
「きゃあああああああぁぁぁぁ」
会場に誰のものともつかない悲鳴が響き渡る。
「くははははあっどうだ!これが力だ!何が守護者だ!」
うーん、オジサン達ちょっとやりすぎじゃあないかな?
『ヨクモヤッテクレタワネ』
底冷えするような声が響き、ムクリと起き上がるルディア。
「あーあ、ルディアマヂ切れだよ、あれ」
「へ?そうなの?なんで友里がそんなことわかるの?」
「まあ、詳しいことは内緒だけど、全部カタカナはマヂ切れだヨ」
・・・その詳しいことが心配すぎて気になるよ!?友里一体ルディアに何しちゃってんのさ?
「貴様ッまだ生きてるのか!?」
『アンナ 豆鉄砲デ死ヌワケ無イデショ。ソレヨリモ、ヨクモ傷ツケタワネ・・・』
「なん・・・・傷だと?」
男がそう言うとルディアは自分の側頭部の辺りを指差しながら
『ココニ傷ガツイチャッタジャナイ!!!』
「はぁ?貴様は馬鹿か?死ななかっただけでもありがたいと思え、そんなハリボテでも役に立ったじゃないか!よかったな!!」
あーあ、そんな事言ったら・・・
『・・・キャストオフ』
ルディアがボソッと呟くと、竜騎士のコスチュームがガシャガシャと音をたててルディアの何処かにしまわれていき、その本体が剥き出しになる。
『この戦乙女を怒らせタ事を後悔スルがイイ!!』
ルディアはどうやらもう正体を隠すのを辞めたらしい、隣で薫子ちゃんが「え!?ルディアなんですかな!?」と驚きを隠せない。
薫子ちゃん気づいてなかったんだね・・・