がーでぃあんふぃーばー
ボクたちのPVが発売された翌日のこと。
世の中はどえらいことになっていた。
結果から言うと『守護姉妹』のPVは発売直後約1時間で売り切れ、もちろんネット予約分も完売、ちょっとビビりながら作った10万枚のDVDは一瞬でなくなり、手に入れられ無かった人はとりあえず増産待ちで、そちらの予約も延び続けているようだった。
ニュースやワイドショーの話題は守護者という存在が明らかになったことに朝から晩まで大騒ぎ。
にちゃんねるではあーでもないこーでもない、人類の敵だ味方だと考察やなんかでサーバーに過負荷を与え一時メンテナンスを余儀なくされた。
さらに、以前投稿されたぬこぬこ動画の埼玉の動画は、今回のPVの先触れとして、再燃焼し再生回数は天元突破していた。
バラエティー番組では「がーでぃあんちゃんを探せ!」なんてタイトルで、自薦他薦問わずコスプレしたりアイドルユニットみたいな女の子たちが出てきて完全に守護者関係ないじゃん!みたいなつっこみ待ち状態になってる。
ボクはリビングでテレビを見ながら膝の上で丸くなってるノワを撫でつつぼーっとしていた。
「これ、ボクの正体がバレたら表歩けなくなっちゃうね」
隣でボクの膝の上を独占しているノワに羨ましそうな視線を送りながら、同じようにテレビを見ていた友里が答える。
「だいじょぶじゃない?ほら偽者って言い方もあれだけど、いっぱい便乗した人達出てきてるし、変身したときのヒカルちゃんの素顔なんてほとんど出てないし。わたしとか知ってる人間が情報を漏らさない限りだいじょぶだよ。さすがにわたしも家の周りに人垣が出来るのはやだしね」
「真理さんもその辺は戒厳令をひきますって言ってたから、きっとだいじょうぶよ、ヒカルちゃん、ハイ、ココア」
そう言いながらボクの前に、特製ココアを置いていく優。
「んーありがと」
「だけど、このPVの出演料ってどうなるの?ヒカルちゃんにもギャラみたいなの入ってくるのかなぁ?」
「真理ちゃんの話によると出演料は当然の権利だから入ってくるって言ってたよ」
「えーいくらくらいくるんだろうーいいなぁ」
「まあ一枚2000円で売ってて、その5%が出演料になるとして100円だからーそれカケる10万枚で1000万?」
「・・・すごいね?」
「すごいねぇー」
「でも、テレビとかの出演依頼とか来ても断るんでしょ?」
洗い物を終えた優が友里とは反対側のボクの隣に腰を下ろす。
「うん、今回のだってぬこなまの動画を誤魔化す為に撮ったようなもんだしねー、ただちょっと売り出し方間違えちゃって、『世の中にはこんな超生物がいるのです』みたいなト○ロっぽい売り文句になっちゃったから、誤魔化すどころか捜し始めちゃってるんだけどね。まあ今まで通り守護者としての活動はするけど、さすがにテレビに出ようとは思わないなぁ」
まあ後ろ楯になってるのは一応国の機関だしね。何かしらあっても全力で誤魔化してくると思われ・・・ボクの逆鱗に触れないように気を使ってくれてるもんね。
ボク滅多に怒らないのにねー。
だけど不思議なのは、発売してからこっち侵略者絡みの事件が全く起こらない。
偶然なのかな?まさか侵略者あの映像見て、ボクと戦ったら死んじゃうとか思ってるのかな?だとしたらPV出した価値もあるってもんだけどねー。
とある大邸宅の一室。
そこで黒髪の少女はテレビの画面を見ながらプルプル震えていた。
「葵・・・」
少女がか細い声を震わせて、近くにいるメイド姿の少女に声をかける。
「はい、どうされました?香澄お嬢様」
「・・・・める」
「え?すいませんよく聞き取れなかったのですが?」
「・・・やめる」
「え?やめるって何をですか?」
くるっとメイドの方を向いた少女は目をうるうるさせて半泣きで叫び出す。
「もうやだぁぁあ、こんあのに勝てるわけないじゃあああん!もう侵略するのやだぁぁあー平和にのんびりと暮らすのぉおおぉ」
「お、お嬢様!?お気を確かに!!?」
「たしかだもんーこんな分身したり合体したりするやつらに勝てるわけないじゃんーでっかくしても一撃頭を撃ち抜かれたしーむりだもんー」
おいおいと泣き続ける少女を屋敷のみんなで落ち着かせるのに1時間以上かかったらしい。
まさか本当に敵がビビってしまうとは、このPV作成に携わった人達のだれも意図してない部分で役にたったのであった。