エレスvsタテランテラ
今日も暑かったです・・・
タテランテラがエレスを叩き潰そうと脚を振り回す。
身体の強度は足りないが、動きは石で出来てるとは思えないくらい滑らかでかなりすばしっこいため、ブンブンと大振りされる脚を、エレスはかなり余裕をもって、ヒョイヒョイとかわしている。
エレスは残った左手で、エントランスにあったパーティション用のステンレス柱を、つかんでは投げてタテランテラを牽制しつつ、隙を見て優達に近付き話しかける。
『とりあえず、倒せないまでも負けること無いと思うのでぇ、避難しちゃってもらえますかぁ?お二人になんかあって、ご主人様に怒られるのも嫌ですしぃ』
それを聞いた友里が何か言いたげな顔をしたが、優がそれをさえぎりエレスの顔をじっと見る。
「例え負けなくても、危ないと思ったら逃げるのよ?いい?」
と、子供に言い聞かせる様に念押しした。
エレスは少し思案し、うなずき返す。
そして、肘から先が無くなった右腕を、床の大理石に向けると一枚分の大理石のパネルが、粒子になって右腕の切断面に集まっていき、エレスの右腕が再び形作られる。
『ここはぁ、らっきーなことにぃ、身体の材料がいっぱいあるのでぇ、そんなに心配しなくてもダイジョブですよぉ』
と、言って治ったばかりの右手を二人に振って見せる。
そして、二人は頷き合うと裏口の方に避難して行った。
一人残されたエレスは、タテランテラに向き直ると誰ともなく言う。
『まあ、みんなが逃げ切ってくれれば今回は、ワタシの勝ちですよねぇ。それにしても、ご主人様はなんで起きないんでしょうねぇ』
そう言いながら近くにあるステンレス柱を掴み、タテランテラに再び肉薄する。
それを迎えうつために脚を振り上げるが、いかんせん大振りな動作のため、小学生くらいの小柄な体型のエレスにはかすりもしない。
タテランテラの関節に向かってステンレス柱を叩き付けるエレス。
力自体は標準的な人間よりかなり強いのか、叩き付ける度に轟音が鳴り響き、ステンレス柱がみるみるひしゃげていく。
エレスは攻撃し放題なのだが、ダメージが通らず、タテランテラは、一撃でも当たれば粉砕できるほどの攻撃なのだが当たらない、と言った奇妙な膠着状態になっていた。
しかし、不意にそんな均衡状態は崩れる。
エレスの足が止まったのだ。
スタミナ切れとかそういった感じではなく、その場に縫い付けられたかのように動かなくなった。
急な制動をかけられたエレスは、つんのめって転びそうになるが、手に持ったステンレス柱を杖にすることで、何とか転倒するのは堪えた。
『なんなんですぅ?』
エレスは、呟きながら縫い付けられたように動かない自分の足元をみる。
するとそこには、キラキラとした無数の網目の様な模様が、5m四方程の広さに張り巡らされていた。
タテランテラがニヤリと嗤うように、口許の毒牙を歪めるのを見て、エレスは驚いた。
今までも蜘蛛に憑依した侵略者と、戦ったことが無かった訳では無かった。
しかし、奴らは今までコチラの生物に憑依しても、その生物の特性や、能力を使って攻撃してきたことが無かったのだ。
恐らくそれは、コチラとアチラの生物の違いから、そう言った能力を知らなかった、もしくは使いこなせなかったのだろう。
『そう言えば、前回のカニゾルゲもいきなり前に進んで来ましたっけねぇ』
今までは割りと瞬殺していたために、気が付かなかったが、侵略者達も実は進化して、憑依した生物の能力を使いこなし始めていたのだった。
足が止まったエレスを見て嘲笑うかのように悠々と背を向けるタテランテラ。
そして、いままで反対に向けていた糸の射出口、つまり虫で言うところの腹の先端をエレスに向けると、そこからキラキラとした糸が無数に吐き出される。
なんとか持っていたステンレス柱に、糸を巻き付け凌ぐエレスだったが、吐き出される糸は尽きることなく噴出される。
ステンレス柱はすぐに綿飴の様になってしまい、役に立たなくなってしまう。そうなればもうエレスに避ける術はなく、瞬く間に糸まみれになって、自由だった上半身も身動きできなくなる。
目元以外が真っ白な糸まみれになって、す巻き状態で転がって身動きが取れないエレスに、タテランテラが巨大な身体を揺すりながらゆっくりと近づいてくる。
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優達親子が、まだ残っていた人達を誘導しながら裏口から外に出ると、そこには目を疑うような光景が拡がっていた。
先に出たはずの他の遺族や係員が、白い壁のようなモノに縫い付けられていたのだ。
それは、よく見ると糸でできた壁だった。
皆、必死にもがいて抜け出そうとしているのだが、余程強靭な糸なのかびくともしない。
中には機転を利かせたのか、着ているものを脱ぎつつ抜け出したようだが、ついには脱ぐものが無くなったのか、下着姿で動けなくなっている者もいた。
優は思い返す、そう言えば大きな音がした後、アイツは何故すぐに攻撃してこなかったのだ?と。
その答えが目の前に拡がる光景だった。
罠だと思い至った瞬間に優は友里に言った。
「友里よく聞いて。母さんエレスのとこに行ってくる。あんたは、網が張ってない出口を探して、逃げるのよ」
友里はイヤイヤと首をふる。
「やだよ。ママまでいなくなったら私どうすればいいの?」
優は友里を抱き締めて、小さい子をあやすように背中をポンポンと、優しく叩きながら落ち着かせる。
「だいじょぶよ。私は死なないわ、あんた残して死んでなんかいられないわ。パパだって死んでないって聞いたんだから、尚更死んでなんかいられないっての。でもきっと、エレスは糸が出ること知らないわ。じゃなきゃあんなに、近距離で戦うわけ無いもの。だから間に合うかどうか、わからないけど知らせてあげなきゃね」
そう言うと、ほとんどの背の大きさが変わらなくなった、愛娘の目を見て微笑んだ。
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友里と別れた優は、エントランスに向かって走っていた。さっき、エレス達が戦っていた場所まで近付くと、何か固いものを叩いている音がする。
まだ戦っているのだろうかと、柱の影からそっと覗きこむ。
そこにはすでに戦うどころか、蹂躙されるエレスの残骸らしきものが散らばっており、タテランテラはエレスの胴体とおぼしき塊に向かって、その杭のような爪先を叩きつけていた。
優は思わず「ヒッ!」と声をあげてしまった。
エレスに叩きつけられていた爪がピタリと止まり、ゆっくりと視線を上げるタテランテラ。
しかし、そこにいたのがただの人間とわかると、興味を無くしたかのように後ろ向きになり、優に向かって勢いよく糸を射出した。
あまりに一瞬の出来事に、反応できず優は柱に固定されてしまった。その様子を感じ取ったのか、停止してるかと思われたエレスが声を上げる。
『なんで戻ってきちゃったんですかぁ!ワタシだけならどうなろうと、被害は最小に抑えられたのにぃ!オクサマはアフォですかぁ!!』
ひどい言い種である。せっかく糸のことを教えようと、戻ってきたというのに。優は怒っていいのやら、情けないやらで、顔を赤くしてプルプルしていた。
そして、タテランテラは捕らえた獲物は興味がない、とでも言いたげに、再びエレスへの攻撃を再開しようと、脚を振り上げた。
その時だった。糸まみれの芋虫のようなエレスの体がビクンッっと跳ねあがる。
タテランテラも驚いたのか、降ろしかけた脚がビクッっと止まる。そして恐る恐る爪先で、エレスをチョンチョンとつつく。
「・・・・・・・・・・・したな」
動かないエレスから聞き取れないような呟きがもれる。
動かない事に安堵したのか、今度は勢いをつけて脚を降り下ろそうとしたその時、エレスから激しく天井まで焦がすかのような、真っ赤な火柱が立ち上がった。
そして、再び驚き中途半端なところでとまっていたタテランテラの右脚を、火柱の中から生身の腕が突き出され、その爪先を掴む。
そして更に、有り得ないことに、爪先を握りつぶした。
痛みの余り爪先を抱え、もがくタテランテラ。
うずくまって床スレスレにあったその顔を、今度は生足が蹴り飛ばし、エントランスの外まで吹っ飛ばした。
そして、火柱から出てきた人物はかわいい声で叫んだ。
「よくもボクの嫁さんに手を出したなぁ!!!」
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