ヒカル偶像化計画 その8
車を降りると防衛隊の隊員達がビシッと並んでお出迎えしてくれていた。
ボクは降りる前に真理ちゃんに「例のマスクしといてください」と言われていたので、この前の赤いものが好きな少佐のマスクは止めて、シューマッハ(サイバーなんちゃらの)的な大きめのサングラスをしている。
ちなみに優達は陽射しがキツかったので、鍔広のマダム帽子に認識阻害効果のある黒ヴェールで顔を隠している。
客観的に見るとちょっと異様な感じだけど、養蜂所の人には見えないからおっけーとしよう。
ちなみにルディアは一人だけ素顔のまま堂々と腕を組んで立っている。
その姿を見た隊員達がちょっとざわついてる。
「お、おいあれって大国の?」
「俺初めて見たけど、あんな美人なの?」
「ばっか、うちらのがーでぃあんちゃんだってめっちゃ可愛いだろうに!」
「いや、また可愛いのと違ってちょっと冷たそうでいいっていうか」
「あ、わかるわかる!俺も踏まれてみたいもん!!」
「「「「おまえのは絶対に違う!!」」」」
なんだか好き勝手な事を言ってるけど、ルディアは我関せずと言った顔をしている。
『まったクどこの軍隊もソウだけど、どうしテ男っていうノは容姿ひとつデ大騒ぎスルのかしらネ』
それはね、女ッ気がないからだよ、許したげて。
向こうの方からちょっと隊の人っぽくない人が、手を振りながらこっちに小走りでやってくる。
「Marryさーん」
と、真理ちゃんに手を振ってるらしいけど、明らかに発音が違う感じの名前で呼んでる気がするよ?
そしてそれに軽く手を挙げて答える真理ちゃん。いやMarryサンかな?
「犬養Pその名前ではもう呼ばないでください。私はもう足を洗った身ですので」
なんだか真理ちゃんの口から堅気の人じゃなかったような台詞が出たよ!?
「あ、ああごめんごめん、つい・・・。じゃ、じゃあやっぱり復活するわけじゃないんだね・・・」
「ええ、今は防衛隊の仕事に燃えてますしね、それに私自身が萌えられる相手を見つけましたしね」
と言いつつボクの方をチラッと見てくる真理ちゃん。なんで耳が赤いの?
「じゃあ、この子が言ってた例の?」
「ええ、ヒカルちゃん、ルディアさん紹介しますね。こちらが今回の演出を担当してくださる犬養プロデューサーです。犬養Pこちらが日本が有する守護者のヒカルちゃん、そしてそちらにいるのが現在は大国に所属している守護者のルディアさん通称ヴァルキリーです。今回は姉妹という事で特別に出てくださることになりました」
「ど、どうも」『よろしくネ』
ボクはちょっとドキドキしながら、ルディアは品定めするかのように挨拶する。
その時になってボクたちの事を初めてちゃんと見たのか、犬養さんはちょっとぽーっとしている。
10秒程経ったところで、真理ちゃんがコホンと咳払いをすると、ハッと我にかえって再起動する。ダイジョブかな?
「これは・・・うんうんっいいっいいねっ!!確かに萌えるねっ」
なんだかテンションがアゲアゲになっちゃってるけど、業界の人ってみんなこんなのかな?
「いやぁ、あのアリーナの投稿動画とか見たけど、ホンとにアレが出来るんだよね?なんの画像加工も無しで!」
「え、ええ、はい出来ますよ」
『私なラもっと見映えのする映像も撮らせてあげルわヨ』
「ああーそうだね、確かにルディアの能力は見映えいいかもねー」
「じゃ、じゃあMa・・・真理さんに言われて書いたあの絵コンテみたいな無茶なこともホンとに・・・」
「もちろん出来ますよ」『朝飯前ネ』
「うおおおぉぉぉっ!真理さんありがとう!!ホンとに俺を選んでくれてありがとう!!」
なんか男泣きしてるけどダイジョブ?ちょっと困ってしまって真理ちゃんの方を見ると、優しい笑みを浮かべていた。
「彼はこのCGが当たり前の特撮現場で、本物だけを使う映像にこだわってきたんです。だから今の仕事に限界を感じ始めてたんですけど、ヒカルちゃん達のおかげでやっと本物だけでCGを負かすような映像が撮れるのでうれしいんですよ。やっと私も昔お世話になった恩返しが出来そうです。ヒカルちゃん、ルディアさんありがとうございます」
なんか改めてそんな風に言われると照れくさいやらなんやら、ルディアは何故か男泣きしてる犬養さんの背中をポンポン叩いて、ヨシヨシしてあげてる。
なんだかんだ言ってもルディアっていい子だよね、ちょっと涙ぐんでるし。無表情だから分かりにくいけど、めちゃくちゃ感情表現するしね。
ようやく落ち着いたのか犬養さんはプロデューサーの顔に戻っている。
「じゃあ軽く戦闘機のシーンのリハーサルしたいけどいいかな?」
「俺たちならいつでもいいぜ」
と隊長さんらしき人が近づいてくる、ってあの時の隊長さんじゃないの?この人って。
「や、やあ守護者ちゃんあの時は悪かったな、そんでもってありがとよ。今回はいい映像撮れるよう頑張るから任せときな!!」
と言って握手を求めてきたので、キュッと握り返すと何故か真っ赤になって目を逸らしてしまう。
んー?と思って回り込んで見つめると、耳まで真っ赤になっている。
「ヒカルちゃんダメですよあんまりからかっちゃ。隊長さんはあの一件からアナタの大ファンなんですから」
へーそうなんだ?でも人に好かれるって事はいいことだよね。そう思ってボクは隊長さんに微笑みかける。
「えへへ、ありがとうございます。今日は頑張りましょうね、お互いに」
と、言うと感極まったのか隊長さんもオイオイと泣き始めてしまう。
それを遠巻きに見守っていた他のパイロットさんたちが集まってきた。
「もー隊長ダメじゃないっすか、せっかく守護者ちゃんと話出来たのに泣いちゃぁ」
「そうですよ、いくら大好きだからって泣いてちゃ何にも伝わりませんよ?」
「会ったら言いたいこと有ったんでしょ?ほら言わなきゃ」
隊長さんはみんなに励まされてウンウンってしながらなんとか息を整える。
なんだろう?サインくださいとかかな?ボク練習してないから普通に名前書くだけだけどね。
隊長さんは自分の荷物をゴソゴソやって何か紙みたいなのを持ってくる。
やっぱりサインかーと思い待ってると、モジモジしながら隊長さんが紙とペンを勢い良く差し出してきた。
「えっと、守護者ちゃん!!」
「は、はいっ!」
勢いに釣られて思わず返事をしてしまった。
「最初から決めてました!!俺と結婚してください!!」
「・・・はい?」
縁が茶色の婚姻届の紙とペンを、思いっきり差し出して下を向いてる隊長さんの後頭部を見ながらボクは思った。
普通に名前書く方だったかー・・・と。
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ヤル気ですけどね!