ヒカル偶像化計画 その3
みんなのスマホが同時に鳴り響く。
最近時々ある現象にみんな顔を見合わせた。
「またやらかしましたかね・・・」
渋い顔をしながら真理ちゃんがつぶやく。その手に持っているスマホには緊急速報の文字、そしてその内容は隣国からのミサイルが発射されたと書いてある。
「最近多いよね・・・ほんとになにがしたいんだろ」
不安げな顔で友里がつぶやく。
「たぶん周りの人が止めないんでしょうなぁ・・・、しかし今日はどこに向かって打ち上げたのやら」
テレビの画面もさっきまでやっていた番組から、緊急放送に切り替わったのかアナウンサーが深刻そうな顔で速報を読み上げている。
リビングの側で丸くなって寝ていたノワの耳がピクンっと動いてたちあがる。そして自分の手で首元にある鈴を「りんりんりん りんりんりん りんりんりんりんりんりんりん」と三三七拍子で鳴らしだす。
あれってああやって自分で鳴らしてたんだ・・・。
妙なところに関心してると、ノワがこっちにグリンと顔を向けて
『ヒカルにゃん!緊急要請にゃ!!』
「・・・アニマ、またどこかで不思議な猫のフリしてるの?語尾が・・・」
『はっ!そんなことはどうでもいいに・・・のよ!ルディアが大急ぎで手伝いに来いって言ってるわよ』
「は?ルディア?なんで、あの子今どこにいるの?」
『ミサイルと追いかけっこしてるみたい』
「なんで?どうしてルディアがそんなことしてるの?」
『さあ?いい加減頭に来た大国の要請じゃないかしら』
頭に来たからってルディア派遣してどうしようってんだろ?
『たぶんあの子の能力なら機械関係はどうとでもなるから、ミサイル反対にそのまま打ち返すくらいの事する気じゃないかしら?』
「そんなことできるんだ?まあとりあえず行ってこようかな・・・そんなに時間無いだろうし。エレス、ルディアのいる方角って解るの?」
『はい、大体の方角ならわかります。ご主人様』
「ん、じゃあいってくるねー」
ボクは買い物でも行くかのような気軽さで庭に出ると、一瞬で飛び上がってルディアのいる方向に向かって一気に加速した。
『間に合えばいいんだけど・・・。あ、お母さんねこまんまください。おなか空いちゃった』
「はいはい、そういうと思ってこないだ買ってきた青魚のフレークかけたわよ」
『んん!!これおいしいぃぃ!!なんでノワの時はくれないの??』
「え?だって美味しいか不味いかわかんないんだもの。いつもんみゃんみゃしか言わないし」
「・・・なんで・・・猫がしゃべってるんですかな?」
薫子ちゃんがノワ、もといアニマを指さして油が切れた機械のような動きで友里に聞く。
「ああ、その子ね普通の猫なんだけど、時々アニマさんって守護者が憑依するの。なんでもアニマさんは世界中の動物に融合してるみたいで、それが能力なんだって。本体はアフリカかどっかにいるらしいんだけどね。自分の身体を少しづつ他の動物に融合させて端末みたいにできるんだってさ」
『まあ少しは強化できるけど、侵略者を倒すことはできないのよね。まあ諜報活動が主だった役目かしら』
しばらく黙っていたかと思いきやフリーズしていた真理ちゃんも動き出す。
「なんですかこれ!なんなんですか!?可愛いけど私こんなの聞いてませんよ??この家に結構遊びに来てるのに初めて聞いたんですけど??」
「あら、話してなかったかしら?でも、久しぶりに来たものね、アニマちゃんだって。たぶんヒカルちゃんも忘れてたんじゃないかしら、アニマちゃんのこと」
『お母さん確かに久しぶりに来たけど、それはそれで傷つくよ??』
「え?ちょっと待ってください?さっきルディアがどううとかこうとか言ってましたよね?それってあれですか?大国に所属してる守護者のことですか?戦乙女のことなんですか?」
『え?それ以外にいるの?ルディアって』
「まさか・・・ここに来た事なんてないですよね?」
「「『・・・・」」』
何も言わずに微笑む二人と一匹。
「なんで何も言ってくれないんですかぁ!!ちょっとおおぉぉぉぉ!!」
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少し時間は遡ってヒカルちゃんたちの元にアニマが現れる約20分前。
日本上空2000m付近
『はぁ、なんデ私がこんなとこまデこなきゃいけなイのよ・・・』
「姉さん、俺の後ろでぼやかないで下さいよ・・・小旅行だと思ってください」
戦闘機のコックピットの後部座席に収まった小柄な人形のような少女が、ぶつくさ言ってるのに対してパイロットは慰めるように言う。
『大体あのバカがミサイルヲ馬鹿みたいに打ち上げるカラ、こんな風に私が出テこなきゃいけなくなったンじゃないの?』
「まあそれはそうなんですけどねぇ。あ、あれそうじゃないですか?」
パイロットはルディアに適当な相槌を打ちながらもレーダーとにらめっこしていて目的のモノを見つけたらしい。
「思った以上に速いな・・・これは。飛ばしますよ!姉さん」
そう言ってパイロットは出力を最大に上げて一気に加速する。ちなみにこの戦闘機は大国の最新鋭機で、速度は他の追随を許さないのだが、その加速に耐えられるパイロットがなかなか育たず、唯一彼だけが耐えれたので彼の専用機としてあてがわれていた。
「ううううひょおおおおおお!!たまんねえええええぇぇぇぇぇ!!」
まあ他の者に言わせるとただの重力中毒者なのだけれど。
『うるさいわネェ、このくらいの加速デ大騒ぎしてるんジャないわヨ』
出てる速度はマッハ4、普通のパイロットなら気絶しちゃってる速度である。
「見えてきたぜえええ姉さぁぁぁぁあん!!」
操縦席のシートの横からルディアが顔を出して確認する。確かに鉛筆みたいな恰好のミサイルが確認出来た。
『じゃアあれを止めるカラ側につけなさい』
「はいぃぃ?止めるってどうやって??」
『私が触れバそれだけでこちらで制御できるワ。だから手が届くとこまで近づいて』
「それ無茶だろ??ちょっとでも接触したら吹っ飛んじまうよ!?」
『でも今回のガ弾頭を積んでるカモしれない以上やるしかないでショ?』
そんなことを言いながら追いかけてるうちにミサイルに変化が訪れる。鉛筆の真ん中より下半分が分離し始めたのだ。
「まずい!一段目切り離した!軽量化と再噴射で加速するぞ!」
『んもウ!だから早く近づケって言ったでショ!』
「んなこと言ったって!無理だろぉぉ!実際今近づいてたら、分離した部品の巻き添えだったじゃん!」
二人が言い争ってるウチにミサイルは加速し始める。
「ああ、ダメだ。もうこっちの加速じゃ追いつけないぞ、あれには」
『・・・しょうガないわね。融合!』
そういうとルディアの背中や首の付け根からケーブルが伸び始めて、戦闘機のコクピットの中でのたくり始める。
「ちょっとちょっとちょっと!!姉さん何してんの?ちょっと!あ!!そこダメ!後ろは初めてなの!」
『変な声出すんジャないわヨ!ケーブルが股の間抜けただけでショ!今からこの機体は私よ!加速するからあなたハひたすら耐えなさい!」
すでにルディアの姿は後部座席にびっしり這い回るケーブルの束に埋もれて、顔だけかろうじて見える状態だ。
そしてすでに最高速度まで加速したはずの機体がさらに加速し始める。
「ぐぅううううぅぅぅぅぅぅ・・・」
パイロットから変な声が漏れ始める。いくら重力中毒者とはいえさすがに人としての限界はあるらしく、もうすでに意識を半分以上手放していた。
『・・・ック、こんな事なら最初かラ一人だけで来ればよかったワ・・・』
「・・・姉さん・・・俺にかまわず加速してくれ・・・カヒューカヒュー」
『・・・すぐに捕まえテ楽にしてあげるカラ頑張るのヨ』
「・・・・・・・」
しかし既にミサイルお速度も加速しきったのか、一向に差が縮まらない。
『そうだ!ここ日本じゃないノ!姉さんがいたじゃナい!姉さん聞こえル?ちょっと姉さんっテば!』
『どうしたにゃ?そんなに慌てて?』
姉さん違いである。
『アニマ!ちょっと早くエレスにつないデよ!いま日本の上空でミサイルと追いかけっこしテるのよ!手伝えって言っテ!!』
『なんだか大変だにゃ!急いで知らせるにゃ!』
一応なんで語尾が猫になってるか気にはなったのだけど、時間が無いのであえてスルーした。
それがルディアクオリティ。
感想とかもらえたりしちゃうとツイストおどりますよ。見せられませんけど。