エレスvsくもちゃん
建物全体に拡がった振動が収まり、不気味な静けさが場を満たしていた。
なにか大きなものが、高いところから落ちたようなそんな音だったような気がするのだけれど、その前にエレスが言った『来ますよ』と言う言葉から、きっと侵略者なのだろうと予想はついていた。
もともとエレスが起きたのだって、次元の干渉を感じとったからだと言っていたしね。
しばらくすると、皆我にかえったのかざわつきはじめた。
先程の男性達の方からも混乱した声が聞こえる。私はエレスに確認してみた。
「エレスちゃん・・・来たってアイツらが来たって事でいいのよね?」
するとエレスはエントランスの方に視線を向けたまま答えた。
『はぃ、間違いなく奴等ですぅ、こちらに向かってると思われますぅ』
ちょっ、かなりヤバイじゃん!幸いにも火葬場は街から少し離れた山の中に建っている。
取り合えず、ここにいる人達が避難すれば、被害は最小限に抑えられるだろう。
それにしても、なんだってこんな人気の無い山の中に現れたのか。
私達はいい迷惑だが、人類的にはラッキーと言えるかもしれない。
「エレスちゃん、取り合えず私はみんなの避難誘導に回るわ、それほど人が多いわけじゃないし、裏の方から出ればなんとかなると思うの」
『そうですねぇ、じゃあそっちの方は任せちゃってもいいですかぁ?』
「ええ、任されたわ。それにしても、こんな山の中に出てくれて良かったわね」
そう言うと、エレスは不思議そうな顔でこちらを見た。
『えっとぉ、ひょっとすると言い忘れてたかもしれませんがぁ、アイツらはワタシの近くにでるんですよぉ』
はい?ナニそれ?聞いてないよ?
「ちょちょちょ、どゆことなの!?アナタがアレ引き寄せてるって事!?」
『はいー、正確に言うとちがうんですけどぉ、大まかな感じではそうですねぇ』
「エレスちゃんー、怒らないからちゃんと教えてくれるかな?」
友里がそう尋ねると、エレスはホントに怒らない?みたいな感じで私のことを見た。
私は怒らないからも言ってみと手を振って、話の先を促す。
『正確にはエネルギーが多いところにくるんですぅー、ワタシってば一応お母様が元素の力をコネコネして作ってくれたぁ、最大の原子であり最小の惑星みたいなモノなんですよぅ。まあ、奴らの特性を逆手に取って無差別にコッチにこられるよりは、ワタシの近くに出てくれたほうが楽かなぁって、お母様が考えてくれたんですよぉ』
お母様…自分の娘を『侵略者ホイホイ』にしちゃうとか…なんか鼻の奥がツーンとしてくるわ。
うん、しょうがないエレスは悪くないでもね、私はエレスの頭を小脇に抱えると、こめかみの辺りに拳を当ててグリグリする。
『痛い!痛いですぅ!!ワタシ痛覚無いはずなのに心にダメージが発生してますぅ!!』
「うん、ごめんねー怒ってないからねー。これはいわゆる八つ当たりってやつだからー、怒ってないからセーフなのよ」
「うわぁ…よくパパもやられてたやつだぁ…」
と、なんとも言えない目で友里が見ている。
「ところで、ママ。エレスちゃんとじゃれてるのもいいけど、避難しなきゃいけないんじゃないの?」
おおう、ヤバイ状況だったのをすっかり忘れてた。
慌ててエレスを解放すると、呆然と事の成り行きを見守っていた係員さんに尋ねる。
「今の話聞いてましたよね?他の遺族の方の誘導を手伝ってほしいんですけど、お願いできますか?」
係員はハッっと我にかえるとコクコク頷きながら言った。
「わ、わかりました。館内放送で建物に残ってるお客様は全て裏口から出るように伝えます!」
「ええ、それでいいです。こちらは恐らくこの子が頑張って引き付けてくれると思いますので」
そこまで伝えると、エントランスの方からガラスの割れる派手な音がした。
私達が音のした方に一斉に振り返るとそこにいたのは大きなハエトリグモだった。
虫が苦手な私はその圧倒的な迫力に、一瞬意識を手放しかけたが、横にいた友里が慣れた手つきで私の背中を支えると、「フッ!」と渇をいれて蘇生してくれた。
あぶないあぶない、もう少しでお荷物になっちゃうとこだった。
すでに係員さんは誘導にいったのか、姿が見えなくなっていた。
エレスを見ると何やらブツブツ言ってるが、腕を振り上げハエトリグモを指差したかと思うと、おもむろに言った。
『お前の名前は「タテランテラ」に決定ですぅ!!』
どうやら名前を考えてたらしい…なんだろう、緊迫感無いわねー。
その時館内放送が流れる。
『場内にいらっしゃいますご遺族の皆様、緊急事態です、緊急事態です、速やかに建物北側にある従業員出入口より、避難してください。絶対にエントランスに近付かないで下さい。繰り返します・・・』
よし、これで後は少しの間エレスに頑張って引き付けてもらって、私達も誘導しながら逃げよう。
友里の手を引き行こうとすると、少し抵抗があった。友里を見ると、悲しそうな目で言った。
「エレスちゃん置いてくの?あんなにちっちゃいのに?一人で戦わせるの?」
そうきたかー、変なとこで優しいこの子の悪癖が出たわ。
「友里よく聞いて。あの子は奴らと戦う為に生まれたのよ。だったら負けるはずないじゃない」
「でもさっき、本来はサポートだって言ってたじゃない!!おっきくなれないって」
そう言えばそんなこと言ってたような・・・と、エレスを見ると正にタテランテラに肉薄する場面だった。
エレスは、腕を前方に拳を上にしてガッチリ固めて、猛ダッシュしていた。
あ、あれは某ボクシング漫画の主人公がよくやってる、ピーカーブースタイル!!旦那の漫画で読んだから知ってる、私!
そのまま流れるようにタテランテラの懐に潜り込んだエレスは、さらに沈み混み勢いを付け右拳を突き上げた。
『くぅらぃやがれぇ!!ギャラ○ティ○マグ○ム!!!』
なんで!?違う漫画の技になった!?そこはガ○ルパンチでしょうが!!
ズドゥム!!と、エレスの腕が肘まで埋まり混む。カランカランと散らばる石の欠片のようなもの。
ん?石の欠片?なんでそんなものが・・・?
腕を引き抜き素早く離れるエレス。
そして、その右腕は肘から先が無くなっていた。どうやら殴った衝撃で木っ端になったらしい。
エレスはこちらにくるーぅりと振り向くと、申し訳なさそうに言った。
『すいませぇん。どうもワタシじゃ、コイツ倒せないみたいですぅ』
うん……なんとなくそんな気はしてたよ?
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