ぬこ生超らいぶ♪ その4
その姿は他の行列からも見えたのか、アリーナ全体を揺るがすほどの騒ぎになる。
「なにあれ!?野外イベント?きいてないよ?」
「映画会社の宣伝のバルーンじゃないの??」
「こっちのイベント関係ないっしょ?」
「でもさっきの地震みたいなのって本物じゃないの?」
「あ、こないだ沖縄で出たのと一緒じゃね?やばくね?」
「俺たち並んでるけど、避難しなくていいの?」
「えーーイベント中止ってこと?ありえなくない!?」
憶測やら何やらで怒声や悲鳴が混ざり会う。
外の騒ぎを聞き付けて、スタッフたちがゲートから外に出てきて、騒動の原因を確かめにきたようだ。
「何事ですか!?静かに並んでくれないと困るんですけど!」
そう言って行列の観客達に睨みを効かせるスタッフ。そんなスタッフに並んでいた観客の一人が声をかける。
「騒いだのは確かに僕たちが悪いですけど、アレ見てください。避難しなくて大丈夫ですか?」
その観客の男の子が指差す方向を見て、スタッフは目を疑った。
「・・・・・ゴ○ラ?」
それは前回みんながやったよ。っていうか、なんでみんな○ジラって言うんだろうね?特に外人さん。
よーくみて?あれはどう見てもでっかいトカゲだよ?ちょっと変質してる部分があるから、純粋なトカゲには見えないかもだけど。
スタッフさんが慌てて無線機で中の偉い人と連絡を取っている。
「すっすいません、外の様子見に来たんですけどゴジ○が出てきてみんなが騒いで避難しなくていいんですかね?」
おちつけ?多分向こうでも同じこと言われたのか、もう一度わかるように言い直してるっぽい。
それにしても変だなー、トカゲ・・・か。あんなに大きいものなら元のトカゲも結構な大きさだったろうに、よく憑依出来たなぁ・・・。
いくら動物でもある程度の意志が有れば憑依できないはずなんだけどなぁ。この前の女王蟻といい、最近の侵略者はどうもおかしなことだらけだね。
進化や適合とは違う、実験的な何かのような気がしてしょうがない。
『私もご主人様に激しく同意です』
・・・エレス、こういう会場だからってはしゃぐんじゃないよ。
『あ、あれ?駄目ですか?使い方間違ってましたか?』
「うふふ、エレスちゃん合ってるとは思うけど、普通にしゃべっていいのよ?」
「そうだよ、っていうかここはぬこ動画の会場であって、2チャンネルの集会じゃないからある意味間違ってるしね」
『そ、そうだったのですか・・・(*ノ▽ノ)』
をい、いくら肉声で話て無いからって、顔文字使ったよ?なんかエレス最近進化した?
『いえ・・・最近出番が少ないのでどうしたら、もっとご主人様に話しかけて貰えるかと、模索中でして・・・』
・・・そ、そういえば、あんまり喋りかけなかった・・・かも?
「わ、悪かったよぅ。コレからはもう少し話しかけるから普通に戻って。いつものクールビューティーなエレスさんに戻ってください」
『わかりましたご主人様。それにしても今までの侵略者では爬虫類は初めてですね。やはりこの間ルディアやアニマがいっていた人間に憑依した奴等が関わっている可能性が有りますね』
やっぱりそうなのかな。だとしたら不味いな。元になったトカゲがどの位の大きさかわかんないけど、ここから見た感じで50mはある。手のひらサイズのトカゲがアレになったとしたら、哺乳動物、例えば犬なんかに憑依して巨大化したら、一体どの位の大きさになっちゃうんだろう?
考えただけでも恐ろしい。っていうかそんなことになったら地球終わっちゃうんじゃないの??
『まあ、ご主人様がいる限りどんなのが来ても大丈夫ですよ。あの巨人級ですら倒したのですから』
「エレスがデレた・・・」
「デレたわね・・・」
『・・・・・・・』
「それにしても、動かないねアイツ」
「そうね、それがかえって不気味だけど」
『恐らくですが、いきなりあの場所に出現しましたので、まだ体が変質したばかりで、馴染んでいないのではないでしょうか』
「なるほどね、じゃあ早めにやっつけた方が良さげだねー」
ギャオオオオオオオオオオォォォォォゥ・・・・
そう思った途端、ヤツが雄叫びを上げた。そして何故かコッチを見た。
「あれ・・・なんかコッチ見てない?」
誰かが呟く。
「ヤバイぞ、食われる前に逃げろ!!」
そして、他の誰かが叫んで動き出したことで、恐怖が伝播する。
ワッと乱れて何千もの人達が一斉に動き始める。そんな人の波に友里たちも飲まれそうになる。
「ママァ!!ヒカルちゃぁん!!」
「いたっ痛いですぞっ!!」
うちの子たちが突き飛ばされるのを見て、頭の中が真っ白になる。
たかだかトカゲ風情に怯えてナニしてんの?オマエラハ!!
息を大きく吸い込み、怒りと共に声を吐き出す。
【鎮まれええええええぇぇぇぇぇ!!!】
アリーナ全体を震わすほどの大音声。なのにしっかりと皆の耳には届いたようで、その瞬間逃げようと走り出していた人達の動きがピタリと停まる。
いや、停まるというより動けなくなってる?ナニコレ?
さっきの声はボクが出しているのに、ボクが出してる感じがしなかった。なんだ?今の?
『新しいスキルですね、その名も「覇王しょ・・・」』
ちがうだろ!?っていうか言わせねーーーよ??
『チッ』
舌打ち!?柄悪っ怒られるのエレスじゃ無いんだからね!?気を付けてよね?ボクも気を付けるけどさ!
『「魅了」のような精神操作系のスキルです。その名も「支配」とでも言いましょうか』
・・・・ザーッっとボクは口から砂を吐いてしまった。
「ナニその恥ずかしい技名?「支配」て」
『仕方ないじゃありませんか、私が付けてる訳じゃありませんし』
「じゃあ誰が付けてるのさ!」
『そんなの・・・一人しかいないじゃないですか・・・』
「またか!またお母様なのかっ!!あーもう!!」
よかったよ、本当に良かった。技名を口に出さなきゃいけない設定じゃなくて・・・。
「おい、これどうなってんだ?体が動かないぞ!!」
おっと遊んでる場合じゃないや、友里達は優が助けにいって今はボクたちの近くに避難してきている。
すぅっと息を吸って、今度は普通に大きい声を出す。
「落ち着けッ!今からボクがアイツを倒す!!だから鎮まるんだ!!」
その言葉を聞いた途端、みんなの硬直が解けてその場にへたり込む。そう、まるでボクに向かって平伏すかのように。
さっきまで、ボクの撮影をしていたカメコの一人が呟くように言う。
「女神様・・・助けてください」
それを皮切りにボクを見上げるようにして皆が口々に「助けてください」と呟き始める。
ふー、と息を吐き出しつつ皆を見ながらボクは言う。
「安心して!ボクが守るから!イベントだって中止にさせない。だけど今から起こることはナイショだよっ♪」
勿論「♪」の部分には「魅了」と「支配」を思いっきり付与させて。
「「「「「ハイッ!勿論です!!!」」」」」」
んーいいお返事できましたねー。じゃあ頑張りますか。
いまだコッチを見ながらも動かないトカゲに向かって歩きながら、ボクは戦闘フォームになっていく。
服はスーツに、そして外骨格が包んでいく。さながらヒーローが変身していく様にボクの姿は一歩ごとに変化していく。その姿を見た誰かが言った。
「沖縄の竜騎士・・・」
ざわざわと皆が騒ぎ出す。そんなみんなに向かってウィンク1つ、人指し指を口に当て「ナイショね」とジェスチャーする。
男も女も関係無く顔を真っ赤にしてコクコクと頷くしかなかった。
竜騎士なんて名前も出たし、今日はちょっと試したい遠距離技があるからそれでいってみようかなぁ。
ボクは空の精霊を外骨格に付与させる。白かった装甲が、深い紫色に変化していく。腕や足の装甲もそれに合わせて変化して、沖縄で戦った時と同じ姿に変わっていく。
『今日はどう言った技で倒すのですか?』
エレスがワクワクしたような口調で聞いてくる。
「なぁに?気になるの?」
『はい、とても。遠距離の技なんていつの間に考えていらっしゃったのですか?』
「いや、考えたって言うよりも、何となく出来るんじゃないかなーって言う感じだけどね。まあ失敗したら殴りに行くし」
『えっと・・・私が言うのもなんですけど大丈夫ですよね?』
「ダイジョブジョブだよー今までボクが失敗したことある?」
『えっと・・・これ私はボケたほうがよろしいのですか?』
「むぅー失礼だな。まあ見てなって」
トカゲがボクの存在を確認したのか、超ガン飛ばしてきてる。まあそのおかげで、周りに被害が出てないのが幸いだけど。
「ちなみに今日の技は省エネだから雷呼ばないからね」
『そうなのですか?』
「まあ、外れたら呼ぶかもしんないけどね」
ボクはアリーナの一番北側の少し開けたところまできた。
ボクの後には期待に満ちた目で見つめてくる何千もの観衆。ヤバ、ちょっと気持ちいいかも。
ボクは翼を分離させると、さらに4枚に分ける。分かれた左右4枚づつの翼は、ボクの前にトカゲに向かって矢印の様に等間隔に配置される。ボクの肩幅より少しだけ広く、2m位の間隔でトカゲに向かって。
前に向かって両手を突きだし、両手を組み合わせると、両腕の装甲がガシャガシャと組合わさって少し大きめの杭のような形に変型していく。
踵の部分に付いてた短いブレードを、ガシャンと下向きにしてコンクリートに突き刺さし、ボクは腰を落として踏ん張れるような体勢をとった。
『ご主人様・・・コレは一体・・・何をなさるんですか?』
「まあまあ、見てて」
そう言うと、前に配置されてた翼の間にジジッとスパークが走る。途端にボクの腕の装甲が引っ張られるような感覚になるので、グッと足に力を入れて持ってかれないようにする。
『これはまさか・・・?』
「ふふーわかったかなーそろそろ何するのか」
さらに激しいスパークが翼の間に走りかなり耐えるのが大変になってきた。そろそろいいかなー。
「いっっけぇぇぇぇえ!!!」
ボクは腕の装甲のロックを外す。溜めていた力が一気に解放されて、杭状の装甲は空気を切り裂き、その摩擦で赤熱化しながらトカゲに一瞬でたどり着き、こちらに向けられていたヤツの頭が「ボシュッ!!」となんともいえない音を出して焼失する。
ピッシャアアアアアアァァァァ・・・ァン!!!
雷のような空気を切り裂く音が後から空気を震わす。
頭部から胸の辺りまで一瞬で失ったトカゲは、グラリと体が傾き、倒れながらスゥッとその姿を消した。
『まさか・・・電磁砲を技にしてしまうとは』
「いやーなんとなく出来そうな気がしてたもんだからねーでもやたらと試し撃ちもできないしさーふふー」
『あの飛んでいった腕の装甲は大丈夫なんですか?』
「ああ、杭に構築したときに、ボクの装甲とは違う組成にしたからね。摩擦熱で燃えちゃったと思うよ。トカゲの後には被害が出てないでしょ?」
『ほんとですね・・・しかも本当に省エネでしたね』
「でしょー、コレで大丈夫なのわかったから今度はもっと速く撃ち出せるしね。前回の蟻みたいに消えないと不味かったかもだけど、今回のは侵略者だから塊魂が壊れたら消えると思ってたしね」
『そこまで計算に入ってたんですね、惚れなおします。ちょっとジュンッてなってしまいました。責任とってくださいね?』
「そんなん知るかっ」
後ろからワッと空気が震えてボクの体に、叩きつけられる。
なんだ!?と後ろを振り向くと、アリーナの周りの人達がボクに向かって手を振りながら叫んでるようだ。
その顔はみんな笑顔で溢れていた。
『たまには、家族以外を守ってみるのも案外悪くないって思ってませんか?』
エレスが何やらニマニマした感じで聞いてくる。
「べっ別に、家族が一番大事なだけで、それ以外を蔑ろにするつもりなんて・・・ないもん」
『ふふふ、そのうち生きとし生けるもの全てが愛おしくなりますよ』
「いや、それはない、ゴキとかそう言うのも含まれてるお前の博愛精神にはボク絶対なれないから!!」
軽く家族のついでに守っただけなんだけど、それでも守って良かったなぁってちょっとだけ思ったのだった。
次はデートです。