邂逅しちゃった その7
アリンコ編終わりです。
ガシンッと打ち合わせた拳からは火の粉が舞い上がり、螺旋を描きながら空へと昇っていく。
どうも精霊を付与させると、性格も少しばかり付与させた精霊に引かれるらしい。
空のときは激しく、風のときは軽やかに陽気に、水のときは癒しの心で穏やかに、そして火のときは熱血で好戦的に、と言ったように。
なので、ボクの中で爆炎フォームと名付けられたこの姿になると、目の前の敵と戦いたくてウズウズしちゃうのだ。
「気を付けて!みんな離れてください!!あれは破壊神モードですよ!!ああなったヒカルちゃんは手加減とか出来ないので近付いてはいけませんよっ!!」
何やら真理ちゃんが失礼なことを叫んでるなぁ。ちょっと前に侵略者倒すとき、コレになって辺り一帯をマグマの海にしちゃっただけじゃんねー。
初めて使ったんだもんまさかあんな事になるなんて思わないじゃんねー。
まあ、少しばかりはっちゃけ過ぎちゃったのは認めるけどね。この姿は攻撃特化だからしょうがないな!うん。
ボクが女王蟻だったものに1歩踏み出すと、奴は少しビクッとして身じろぎする。約50mほど離れてるけど、熱波が届いたのだろう。
「さーて、覚悟はいいかな?」
ボクはニヤリと笑うと、一気にダッシュして間合いを詰める。逃げようとしたのかボクに背を向けて、触手をくねらせて少しでも離れようと足掻いている侵略者。
断然ボクのダッシュの方が速いので、奴との距離はもう10mも無くなっている。
ボクは右の拳を引きながらグッと力を込めるとボウワッと炎がたち昇る。さらに間合いが詰まり、拳を突き出したらヤツの背中を撃ち抜けるんじゃないかと思った時、ボクの鼻を揮発性の匂いがくすぐる。
加速する意識の中で思い出した。
そう言えばこの辺めっちゃガソリン撒かれてたっけ・・・?
右拳の辺りでチリチリっと音がしたような気がした。
ッドンッッッッ!!!!
空気が一瞬膨れたような衝撃が走り辺りを震わす。
その後は某タツノコプロのアニメに出てくるような黒煙と炎が渦巻き、さながら焦熱地獄がこの世に現れたのではないかと思うような風景が、呆然とする防衛隊員たちの目の前に広がっていた。
女王蟻から出てきた肉の塊は、苦しげに触手をくねらせてもがいているが、遠巻きに見ていても蒸せかえる程の熱量に抗えるはずもなく、その身を焼かれている。
ボクはと言えば、自分自身が熱の塊みたいなもので、しかも出火元。この程度の炎でどうにかなるわけもなく、中途半端に打ち出しかけた右手をどうしようかなーっと思いながら、すでにほとんどが炭化している奴を見ていた。
チラッと、真理ちゃんたちの方を見ると、みんな揃ってアゴがガクーーンと落ちてしまっている。お人形のような幼女すら、眼をかっぴらいて固まってしまってる。
もうこのまま何もしなくても死ぬだろうけど一応ねーみたいな感じで、少し照れ隠し気味に「えいっ」とほぼ炭の塊になっていた侵略者に、止まっていた右拳を打ち下ろして、塊魂ごと完全に消滅させる。
まだ、辺りに熱が籠っていたので、ボクは熱を掌に吸い取るように集めて辺りの温度を下げた。
ボクは爆炎モードを解除しながら、真理ちゃん達の方に近づいて、頭ををかきながらポツリという。
「いやぁ、まさか引火するなんてね♪てへ」
「やっぱり破壊神じゃないですかぁ!!」
一応隊員たちによってあとの処理とか、色んなサンプルの採取が行われてる中、ボクと真理ちゃんは幼女とのコミュニケーションを試みていた。
「お名前言えるかなぁ?お家の人はどうしたの?」
「ほーら、飴ちゃんあげますよーお腹空いてるよねー」
さっきから二人で話しかけてるのだけど、まるで無視されてる感じなんだよねー。でもほっぺに飴はしっかり入ってる。
「やっぱりあれなんじゃないですか?ヒカルちゃんが怖いんじゃ・・・」
「ええーなんでさ!ボクは見つけて保護したのにーあのまま走ってたら今頃チョンパされちゃってたかもしれないよ?」
「いやいやいや、さっき燃え盛る炎の中で悪魔みたいに笑ってたじゃないですか。あれ見たら知らない人は怯えちゃいますって」
「そ、そんなことないよねー?お姉ちゃんのこと怖くないよねー?」
そう言いながら幼女と視線を合わせるために、首を傾げて覗き込んだんだけど、フイッと思いっきり眼を逸らされた。
しかもなんかプルプルして泣きそうになってる!?
「ほらっ!泣いちゃいそうになってるじゃないですかーもぅ。よしよしこわくないからねー」
真理ちゃんの胸に顔を埋めている幼女の背中を、彼女はポンポンしながらあやしてる。
うぅーボクの方が泣きそうだよぅ。
「お嬢様ー!!すいません!この辺りに幼い女の子はいませんでしたか!?」
おお、何やらこの辺りでは見かけないセバスチャン的なおじさまと、彼に付き従う数人のメイドさんたち。
何やら人を捜してるみたいだけど、もしかしてこの子?
「あのーすいません。もしかして捜してるのってこの子ですか?」
「すみません、ちょっとよろしいですか・・・おおっお嬢様!!ご無事でしたか!!」
聞き慣れた声が聴こえたせいか、幼女は埋めていた顔を上げると、セバスチャンの方に手を伸ばす。
手を取り合うとひしっと抱き合う幼女とセバスチャン。
「ふわぁっこわかったよぅっ!!」
「あれほどはぐれてはいけませんぞと申したではありませんか!万が一の事があったら私共はもう旦那様に顔向け出来ないところでしたぞ!」
「ご、ごべんなざぁーーいぃ」
「よいのです、ご無事だったらよいのです!爺は爺は!フグゥッ!!」
なんだかさっきまでの寡黙な幼女はなんだったの?と思うくらいに激しく感情を表している。
しばらくして落ち着いたのか、セバスチャンは幼女を抱き抱えたままこちらに向き直り深々とお辞儀する。セバスチャン器用だな・・・。
「この度は当、斎王寺家の香澄お嬢様を保護していただき誠に有り難う御座いました。去年まで病で意識が無かったのですが、突然意識が戻り此方の地で療養させて頂いてたのですが、なにぶん元気になりすぎてしまった部分もありまして、少しばかり目を離すと、遊びに行ってしまわれるのです。しかもまさかこんな怪物たちが現れるなんて思いもしなかったものですから、本当に助かりました。この事は主の方にも報告させていただきますので、何かしらにお礼があるかと思います。我ら一同もう一度心からお礼を言わせていただきたい。有り難う御座いました」
「「「有り難う御座いました!!」」」
セバスチャンにならって、メイドさんたちも深々と頭を下げてくる。
「いえいえ、此方は皆さんの安全を守るのが仕事ですのでっ。当たり前のことをしただけですし。むしろまだ人が避難しきれていなかったのを見過ごしていた此方の責任でも有りますので。本当にお気になさらずお顔を上げてください!」
真理ちゃんが慌てたようにすると、ようやく皆さん顔を上げてくれた。
セバスチャン達は真理ちゃんに名刺を渡すと、滞在してるらしい近くの別荘に帰るための準備をはじめた。
ボクは最後に香澄ちゃんと仲直りしたくて、隠すためにつけていた顔のバイザーを外してにっこり微笑みかける。
「本当に怖がらせちゃってゴメンね。今度会えたら遊ぼうね」
そう言って彼女の頭にそっと触れた後、バイバイと手を振っておいた。あんまり馴れ馴れしくしてもね、さっきまで怖がられてたし。
香澄ちゃんは驚いたような顔をしたけど、一応バイバイと返してくれた。
ボクはバイザーを着けて、真理ちゃん達の方に向かって歩き出した。
そんな後ろ姿を微笑みながら見つめているセバスチャンの腕の中で、香澄はじっと観察するようにヒカルを見つめていた。
「・・・アイツがオレの本当の敵か・・・ククク」
瞳の奥に紅い光を灯して、誰にも聞こえないように呟いていた。
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