邂逅しちゃった その2
蟻の巣の水攻めは男のロマン。
避難指示から約五時間程が経った頃。
「んーそろそろいいかなー?真理ちゃん市内はどんな感じー?」
ボクは空中から全体を見渡して、市内の様子を見に行った真理ちゃんにスマホで聞いてみる。
『こちらも、ほぼ避難完了ですね。いま隊の人間が最終確認してますけど問題ないかと』
ボクが飛んでる地点から約10キロ以内には、一般人が居ないように避難してもらってる。
本当は50キロ位の予定だったんだけど、さすがに避難に時間がかかりすぎると逃げられちゃうのと、蟻の大きさから専門家が考察した巣の大きさが10キロ圏内だろうということで意見がまとまったんだよね。
下には石切場の窪地があって、さっき倒した蟻の残骸がそこらじゅうに転がってる。
「じゃあ、そろそろやってもいいかなー?」
『そうですね、いま最終確認が終わったのでいいですよ。やっちゃってください』
よしよし、お許しが出たのでやっちゃいますかね、水攻め。
ボクは水の精霊力を高めると、両手を上に掲げる。空気中やら空の雲から、どんどんと水分が集まってくる。
最初はバレーボール位の大きさがみるみるうちに大玉送りの玉くらいになりと、どんどんその大きさを増していく。
「そろそろいいかなー?」
すでに水球の大きさは直径100mを越えた位だろうか?まさに某龍球格闘アニメの魔神に放った元○玉位の大きさ位かな?
遠くにいる真理ちゃん達もその水球が確認できたのか、ハンズフリーのイヤホンからは『ありえない・・・』という呟きが聞こえてくる。
「いっくよー」
『は、はい!どうぞ!!』
ボクは掲げてた腕を下に向けてゆっくり下ろしていく。するとその動きに合わせて、巨大な水球は音もなく静かに窪地に沈みこんでいく。
まだボクが制御してるので球状を保ったままプルプルしてる。
「じゃあ流しまーす」
ボクはまるで流し素麺をしているかのような軽ーい掛け声のあと、制御を解く。
すると水球は、その輪郭がブルンと崩れて、窪地が大きな湖のようになる。
しばらくすると、水面のあちらこちらからぼこぼこと、少し大きめの泡が湧き始める。石切場の中にある、巨大蟻の巣穴にうまいこと水が入り始めたみたいだ。相当広い巣穴なのか、水位がみるみる下がっていく。
「こっちは水が順調に減ってるけど、そっちはなんか変化あったー?」
『こちらはまだですねー、しばらく様子を見てみましょう』
「はーい」
どんどん減ってる水を見ながらエレスに話しかける。
「これで奴等でてくるかなぁ」
『恐らく奴等の大きさと、数から考えると、相当なコロニーを形成してると思われるので、この水が丁度無くなるくらいで巣穴が水で満たされるかどうかですね』
「ふむ、じゃあまだ水あるからもうちょっと待とうかな」
それから10分くらい経った頃だろうか、スマホのスカイプに着信アラームの音が鳴る。繋ぐと少し興奮した様子で真理ちゃんが話始めた。
『すごいですよ!街の手前の山の斜面から水が噴いてます!』
「街中は大丈夫なの?」
『はい!手前のところから綺麗に噴水みたいになってます。あっ!なんか山の中に動くものいました!蟻だと思われます』
おお、大変じゃん、早く行かなきゃ。
「じゃあそっちに向かいまーす」
『はい!了解です。・・・え?それは本当ですか!?』
何やら焦ってる?どうしたのかな?
「どしたの?なんかあった?」
『・・・それがですね、どうやら反対側の山の中腹あたりにも、蟻の姿が確認されたみたいです・・・どうしましょ?』
えーまさか巣穴がまーるく拡がってたってこと!?どうしよう。
「さ、殺虫剤でも撒く?でかいだけでアリンコだし」
妙な沈黙が流れる。
『それ、いいかもですね。とりあえず、反対側の斜面はまだ隣町まで距離があるので、とりあえず、こちらに来てもらってもよいですか?』
「りょうかーい」
ボクは真理ちゃんのいる方角に向かって飛び立った。
しばらくすると山の麓で交戦してるのか、発砲音やら小爆発やらがちらほら見えてくる。
「真理ちゃーんだいじょうぶー?」
『あんまり大丈夫じゃないですー。さっきいなかった兵隊蟻が混じってるので本体ってことでしょうか。女王蟻は見当たらないですけど、兵隊蟻自体は少しさっきのより大きいです。あと顎が大きくて脚に刺々がついてます。固さはそれほどじゃないんで、我々でも一応牽制位は出来てますけど、倒すのは少し大変です』
ふむー、やっぱり防衛隊の装備じゃ倒せないのね、まあしょうがないね、足止めしてくれるだけでも十分助かるもんね。
兵隊蟻相手なので少し強化しとこう、そうしよう、痛いのやだしね。今日は風の精霊を試してみよう。この前火の精霊を外骨格に纏わせたときは、危うく一帯がマグマになりかけたからね。あれは攻撃力特化なので使いどころ考えないとね。
そんなことを考えながら風を纏わせると、フォルムが変化していく。
色は深緑色に変化して両腕には少し幅が広くて薄刃のブレード、丁度飛行機の尾翼みたいなのが付き、脚は地面に立つことを考えてないようなスラスターに、背中にも小さめのスラスター付の翼が生えた。
ん?翼?コレあるってことは力場要らないってこと?
試しに力場を解除してみる。惰性で飛び続けてるけど、徐々に落ち始めたので、背中の翼と脚に力を少し込める。するとスラスターから勢いよく空気が吐き出されて飛ぶことができた。
慣れないうちはちょっと難しかったけど、脚の噴射の使い方に慣れたら、力場を使って飛んでいるときよりも、飛び回ってる感じがして楽しい!慣性制御が無くなってるから注意は必要なんだけどね。
おっとあんまり楽しんでる場合じゃ無かった。
少し先を見ると丁度防衛隊の数人が兵隊蟻にアサルトライフルで応戦しているのが目にはいる。
ボクはくるんと、小さく宙返りをして、一気に兵隊蟻目掛けて降下する。
ぐんぐんと近付いてくる敵影にすれ違い様に右手のブレードを一閃する。すれ違うときに一瞬ボクに気付いたみたいだけど、時すでに遅く兵隊蟻に身体は胸の辺りから斜めにずり落ち始めていた。
防衛隊の人が一瞬誰だ!?みたいな顔をしてたけど、よく見てボクだと気付いたのか片手を上げていた。
彼らの側に脚のスラスターを調整してフワフワとホバリングする。
「おつかれさまー、あとどの辺りにたくさんいるの?」
「向こうの林のなかで田所女史の指揮下で交戦してると思われます」
「了解ー、ありがとね。あんまり無理しないでねー」
それだけ言ってボクは真理ちゃん達のいる方に急いで向かった。何故か隊員さんたち鼻の下伸びてたけど・・・油断しないでね?お願いだから。