戦乙女 その1
アニマ、いやノワがウチにやって来て1週間が経ち、次の日曜日。
今日は特にお出掛けする用事も無いので、皆家で思い思いに過ごしていた。
優は鼻歌混じりに洗濯物を干して、友理は何やらケーキの材料を、真剣な顔で計量している。
ボクはと言えば、今はただの猫に戻っているノワを背中に乗せて、ソファーの上で足をパタパタさせながら、ラノベを読み耽っていた。
ノワはご機嫌なのか喉をゴロゴロ鳴らして、これまた仰向けになって伸びまくっている。
キッチンの方からは何かいい匂いがしている。
「友理ーなに作ってるのー?」
「んー今焼けたのはシフォンケーキー。ちなみに今計ってるのはパウンドケーキー」
「へぇー二種類も作ってるの、すごいねー。いつでもお嫁さんに行けちゃうねぇ」
「行かないし」
「へ?」
あれなんか今お嫁に行かないって聞こえたよ?ああ、あれかまだ高校生だから行くわけないって話かな?まあまだ相手もいないしねー・・・いないよね?そこんとこなんか親としては複雑な心境なんだけど、実際彼氏とか連れてこられても素直に手放しで喜べるかって言うと、男(?)親としてはなんとなく"彼氏"って存在に嫉妬してしまうと言うか・・・うーん結婚はしてほしいけど恋人はちょっとなーって矛盾してるねー。
そうだ、連れてきた男の子に魅了して平気だったら認めよう、そうしよう。うんうん。
「そ、そうだよねー、まだちょっと早いよねーお嫁さんになるとかねー」
「・・・あたし結婚しないもん。ずっとここにいるもん」
「そ、そうなの?ま、まあいいと思うよ?」
ちょっと怖い雰囲気を感じ取って曖昧に肯定してみる。
「ほんと?いいと思う?よかったー♪」
途端に明るい雰囲気になる友理。・・・ん、きっと今は何となく楽しいから家に居たいだけだよね?きっと好きな男の子でも出来れば、すぐに心変わりしちゃうよね?
まあ先送りできる問題は今つつくのやめとこう・・・うん。
ちょっと冷や汗を流しながら、ラノベに意識を戻すと、不意に背中のノワのゴロゴロ鳴っていた喉の音が止む。
そして
「リンリンリン リンリンリン リンリンリンリンリンリンリン」
三三七拍子の鈴の音がした。
「アニマ?」
『そうにゃ、1週間振りにゃ』
「ちょっと待って!?この前の普通に喋ってたよね?この1週間で何があったの!?」
『あ、ああごめんなさい?ちょっと迷子の子供をあやしたりするために、不思議な喋る猫ちゃんの演技をしてたもんだからつい出ちゃったわ』
「それってどんな状況なの!?」
『まあ、たくさん端末があるとね、ごっちゃになっちゃうわよね』
「どうせなら、ウチに来るときも最初から語尾それでやってくれれば良かったのに・・・」
『嫌よ。だってヒカル様がもしアタシみたいな能力が有ったとして親兄弟の前で「にゃ」とか語尾に付けられる?』
「むぅ・・・確かにちょっと恥ずかしいかも?」
『そうでしょ?アタシはあの時お姉さまに会いに来たんですもの無茶言わないでくれる?』
「うーわかったよぅ。で?今日はどうしたの?」
『あ、そうそう、あの子がこっちに向かってるみたいよ?』
「あの子?あの子って誰?」
『アニマ、まさか・・・』
『そう、そのまさかよ。ルディアがこっちに向かってるわ』
「ど、どうやって?っていうかその子どんな格好してるの?」
『まあ、パッと見は綺麗な女の子なんだけど、お人形みたいな感じね。ちょっと作り物臭いっていうか、お姉さまみたいな本当の人形って感じじゃないんだけど、ちょっと生き物っぽい感じがしないみたいな感じかな?』
いやだなぁ、そんなのが玄関前に立ってたら、ちょっとしたホラーじゃないか。ボクそういうのダメなんだよね。
『あの小娘・・・どうしてくれましょうか』
なにやらエレスから闇が漏れだしている。仲わるいのね、同じ姉妹でもアニマの時とえらい違いだね。
ピンポーーーん ビックゥっとソファーから数センチ浮く。
「ななななな何!?」
「ヒカルちゃんどしたの?そんな怯えて」
そう言いながら手を拭きながら友里がインターフォンに出る。
「はーい、どちら様ですかー」
ああああ、でちゃったーあの子が来るかもなのにー。
『あ、すいませーん、サハラ急便です。お荷物の受け取りお願いしまーす』
あれ?なんか普通の宅配のお兄さんだったみたい。驚いて損したよ。
「はーい、今いきまーす」
友理は引き出しからハンコを取り出すと玄関に向かう。ボクも気になって後を追いかける。
玄関を開けるとそこにはニコニコ笑顔のお兄さんが、50センチ四方の段ボールを持って立っていた。
「じゃあ、ここにハンコ押してもらっていいですか?」
「はーい」
「じゃあ、ここに置きますね。ありがとうございましたー」
「どこから来たの?その荷物」
空の洗濯かごを洗面所に戻しながら、優が聞いてくる。
「うーん・・・と、え?合衆国??」
「あれ?なんでそんなとこから荷物が・・・?」
カタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタ・・・
何やら変な音が箱の中から聞こえてくる。
「なんかやばくない?コレ?」
「そ、そうね」
「取り合えず二人ともボクの後ろに隠れて!」
ボクはそう言うと、力場を展開して、前方に何重にも重ねていく。
ガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタ・・・
音はよりいっそう激しさを増して、箱が振動でちょっとずつ動いてさえいる。
ピタッ
不意に振動が止んだ。あれー?と思いながらそーっと力場の陰から様子を伺う。
プッシュゥゥゥゥゥゥゥゥーッ
今度は排気音と共に蒸気のようなものが噴き出す。
「もーーっなんなのーーっ!風精壁!!」
ボクは蒸気がどんな成分か解らないので、風の壁で遮断する。
蒸気がこっち側に来ないせいもあって、玄関側に蒸気がドンドン溜まって箱がうっすらとしか見えなくなる。
ガシャガシャガシャンガキョッウィーンガッガッガガッシャンギギギッガッシャンガッショッガチャガチャブッシュー
なんだか、某金属生命体が変形の時に出す音に類似した音を響かせ、段ボールの箱のシルエットが変化していく。
ボクたちは呆然と見ていると人形がカツカツと硬質な足音を響かせて蒸気の中から歩み出す。
おかしいよ!?明らかに箱だった時より質量増えてるよね?
と、つっこみたい気持ちを必死で抑え込んで様子を見る。
蒸気が無くなりその全身が露になる。
人形の様に美しい少女がそこに立っていた。大きな瞳、スッと通った鼻筋、ぷっくりと程よい厚みの唇、どこから見ても非の打ち所のない美少女だった。
でも、時間がたつにつれ整いすぎている作り物めいた印象が強くなってくる。
じーっとボクたちが様子を見てると
『そんなに見つめないでヨ。恥ずかしくなっチャうでショ』
外見からは程遠い、無機質だけど感情的という、何とも表現しがたい言葉が出てきた。
ボクは力場を解除して彼女と、相対する。
「君が、ルディアなの?」
『アラ、意外と情報ガ早いのネ。そうヨ、私が戦乙女ルディアヨ、姉上その姿はいったい何?』
「何ってどうゆうこと?」
『だって姉上ハ自然物にしか融合できなかったじゃなイ?それがなんデ肉体を持っているノ?しかもそんな可愛い容姿デ』
ああ、そーゆーことか。この子もボクの事をエレスだと思ってるのか。
『今の私は、私であって私ではないからですよ。ルディア』
あれ?なんだろうちょっとエレスがご機嫌な感じがする。
『・・・どういうことなノ?』
『ンフフ、どうもこうも私は貴女が知っている私ではないと言うことです。そう!レヴェルが1段階上がってるのですよレヴェルが!!ウフフ』
おーノリノリだねーよっぽど脳筋呼ばわりされたこと根に持ってるなぁ。
『くぅっ・・・なんカ記録映像見た時かラおかしいとハ思ったのよネ・・・。と、ところで姉上、あの竜騎士様ハどこ二?』
「『????」』
ボクとエレスの頭に疑問符が浮かぶ。
『ホラ!!あの大きなクラゲにとんでもない技デやっつけタ、あの素敵な竜騎士様ヨ。知ってるんでショ?』
あれー、なんかモジモジしたこのルディアの態度、もしかして?
『まさか、貴女あの方の事を?』
『べっ別に好きとかそんなんジャないわヨ!?ただあの雷の制御の仕方とかちょっト興味があったかラ聞け
ればなぁと思っテ!全然映像を繰返し見てるウチに好きになったとカそんなんじゃないからネ!?』
なんて判りやすい子なんだ・・・ちょっと可愛い。
そんなボクの思考を読んだのか少しエレスが不機嫌になる。
『フッ教えてあげないこともありませんが……貴女、私に結構失礼なアダ名とか付けてくれましたよね?』
『そ、それハ・・・ご、ごめんなさイ!!もう言いませんカラ!』
あれ?意外と素直だ。だけど黒いオーラを発してるエレスがこれで終わるわけが・・・
『まあ、いいでしょう。以前の私は脳筋と呼ばれても仕方ないような存在でしたからね』
『そ、それじゃア・・・』
ルディアが手を胸の前で組んで乙女のようなポーズをとっている。うんなかなかに可愛いけどね、無表情なんだなぁ。
『ええ教えて差し上げますよ。貴女の好きな竜騎士様は』
プルプル小刻みに震えるルディア。
『貴女の目の前にいる、可愛らしい私のご主人様ですよ』
『エ?』
『だから、目の前の可愛らしい女性ですよ』
ああ、エレスが仕返しとばかりに上げて落とした。
『・・・・・・・・・』
あ、あれ?なんか動かなくなっちゃったよ?
ノワ、もといアニマがテクテクと近づいて、ぴょんとルディアの肩に飛び乗り、顔を覗き込む。
『・・・・・・あー、ショックで自閉モードになってるわ』
ドンだけショックだったんだ。
取り合えず意識が戻るまで玄関の横で、等身大のフィギア化するルディアだった・・・。
しまった・・・ルディアの台詞が思った異常にめんどくさい・・・(。´Д⊂)
感想、ブクマなどしていただけると小躍りします。