いまそこにある危機 その7
帰る道中色々あったけど、取り合えず無事に帰宅。
やや1名心に深いダメージを負ったのか、黙りこくったままなんだけど、まあ時間が解決してくれるんじゃないかな?
ボクらは、買ってきたものをリビングに並べて、ノワの居住スペースを整えていく。
「ねね、これって入り口こっち側でいいの?」
友理がトイレを組み立てながら首を傾げてる。
「んー、踏み台がこっちについてるから、合ってるんじゃない?」
どうやらこのトイレ、入り口にふたがついていて、ねこちゃんのプライベートが守られるようになっているらしい。
最近のペットグッズすごーい、人権、いや猫権が立派に守られてる。確かにボクだって同じ立場なら周りから見られてたら落ち着かないもんねー、どんなプレイだよって感じだよ。
アニマは一応さっきのやり取りの後引っ込んで、今はノワの意識が表に出てるので、至って普通の猫になってる。
「ノーワ、ほらほらー」
ボクはノワを呼びながら、さっき買ってきたばかりの猫じゃらしをわさわさと動かす。
「にゃ?」
一応興味は示してくれたんだけど、遊ぶ感じではないね・・・なんか手の先っちょでチョンチョンするだけ、思ってたのと違う、むぅ。
「んっふっふっふーヒカルちゃんも猫に関してはまだまだねー、ちょっと貸してちょうだい。ふふふ、猫をその気にさせるのはこうするのよっ」
優が猫じゃらしを、まるで指揮者のタクトのように緩急織り混ぜて、時には止めてノワが注目した瞬間にまた別の場所に素早く移動させて止める。
次第に眼を爛々とさせて、猫じゃらしを顔ごと向けて追いかけるようになり、しまいにはお尻フリフリ今にも襲いかかろうとしている。
「ふわーすごいねー、ボクの時と全然違うよ。なんか狩人みたいになってる。優上手いねー調教師みたい」
「ふっふっふー、猫に関しては昔から飼ってるからねー。遊び方じゃ負けないわよー♪」
そんなことがいってる間にも、ノワは優の猫じゃらしにいいように踊らされてる。ちょっと悔しいけどこれから上手くなっていっぱい遊んであげればいっか。
友理はトイレの砂を入れようと頑張ってるけど、ちょっと重たかったのか、苦戦してる。
「あ、友理、ごめんごめん。ボクやるよ、重いでしょ?おっきいの買っちゃったからさ」
「あ、ありがと、ヒカルちゃん。この半分くらいなら余裕なんだけどなぁ」
「ふふーボクは見た目よりも全然力が強いからねー。あんまり気にしないで」
おからで出来た猫砂をトイレに敷き詰めると、おからの匂いなのかフンワリといい匂いがする。
その匂いに気がついたのか、それともずっと我慢してたのか、ノワが遊びを中断してトイレの扉から中を覗き込んでいる。
「あ、姫様、おトイレでございますか?どーぞどーぞ」
友理が少しふざけた感じでトイレから離れる。同じように離れようとするボクの顔を見てノワが
「にゃ??」
まるで、使っていいの?みたいに聞いてくる。
うはーなんだこの可愛さは。ねこってみんなこんなことするの?可愛すぎるー、なんか今まで猫飼わなかったのって、すっごい損してない!?いや、犬もかわいいよ?確かにかわいい。あの従順なとことか、散歩してるときもチラチラこっち見てくるとことか、かわいいよ?
でもこれはまた違うわ、何て言うか本能に訴えて来る感じ?一言で言うならズルいっって感じ。ズルいけど、わかってるけど騙されてもいっかーみたいなのだ。
そんなことを考えてたら、ノワはスッと中に入って行った。しばらくすると、「ザッザッザッ」と砂をかける音がする。
猫って賢いねぇ、まだトイレって教えてないのにわかるんだね。まあノワが賢いだけなのかもしれないけど。
ボクは優が用意してくれた、冷えた麦茶をコクコクと飲んだ。
トイレの入口の蓋が中から押されてノワが顔を出した。
『あ、そう言えばいいわすれてたんだけどね』
ブッフウウウゥゥゥ!!正面にいた友理に麦茶を吹き出しちゃった!
「なんでいきなり代わってるのさ!?ナチュラルすぎてビックリだよ!」
「そうだよーおかげで思わぬご褒美だよーペロペロ」
・・・・友理?それ変態さんのすることだからね?例え好きな彼氏が出来てもしちゃだめだよ?特殊な性癖でもない限りドン引きだからね?
『いや、ごめんごめんーこの子にトイレ覚えさせなきゃって思ってたのよ。取り合えずトイレ行ったからいいかと思って、出てきちゃったのよ』
「ああ、気を使ってくれてたんだね・・・ごめん。でも普通に合図みたいなのは欲しかったよ。ウチの娘の変態度が増し増しだよ」
『あははは、それはアタシもちょっと引くかも。まあ自然界じゃ当たり前だけどね。それはそれで置いといて、すっかり言うの忘れてたのよ、ここに来た目的を』
「ふえ?エレスの様子がおかしかったから見に来たんじゃないの?ついでに位階がどうやったら上がるか勉強しにきたんじゃ・・・」
『いやそれもあったんだけどね、一番の目的を忘れちゃってたのよ。実はね、侵略者に異変が起きてるの』
「異変?どゆこと?この前の巨人級みたいなのじゃなくて?」
『んーあれは異変っていうよりは異常で済ませられる範囲かな?ただ単に偶然が重なって同じ種類の侵略者がくっついて少し知恵を付けた程度だしね。恐らく人類でも最終的にはどうにかできたと思うしね。あの辺一帯を焦土にする覚悟があったならだけどね』
それはきっと使っちゃいけない爆弾なんだろうね・・・。
ちょっとだけ、自分が倒すことが出来て良かったと思ったよ。
「じゃあ、異変ってなに?」
『それがね・・・奴等の人間タイプがちらほらと発見されてるらしいの』
「え?だって人間は精神力が強すぎるから、奴等が乗っ取ることが出来ないって、エレス言ってなかった?」
『ええ、確かに言いましたしその筈です。だから、奴等は精神力が未熟な虫や節足動物、その他本能だけで生きているような生物に憑依するはずです。ある程度自我がはっきりしている鳥類や哺乳類等には憑依出来ない筈ですよね、アニマ』
エレスしれっと復活したし。
『ええ、お姉さま。確かにその通りなのよ。だけど明らかに奴等の魂の波動を持った人間がいるのも事実なのよ。しかも奴等はどうやら塊魂を憑依する前に保護して、同じように仲間を増やしているかもしれないのよ』
『どうやったら・・・まさか!』
「エレス何か思い付いたの?」
『え、ええあくまで推測なのですが、奴等が憑依出来ないのは精神力が高いからだと言いましたよね?』
「うん、言ってたね・・・もしかして?」
『ご主人様も、思い当たることがありましたか?そうです、世の中には意識がなく、寝たままの人間もいるのです。恐らく最初に生まれた人間タイプの侵略者は偶然の産物だったのかも知れません。しかし器の能力が上がれば、奴等は知能が高くなります。クラゲでもあの大きさになると知能が上がってましたよね?あれは分析するとあの塊が脳のような働きになって、繋がり合うことによって知能を上げていたのではないかと思われます』
「じゃあ、それが元々知能が高いモノ・・・人間に憑依したとなると、何か仕掛けてくるってことかな?」
『まあ、今のところ大人しくしてるけど、何か企んでいることは確かだと思うわよ?』
「アニマはその人間タイプが何処にいるか把握してるの?」
『残念ながら私は見たこと無いのよ。ルディアが変な生体反応する人間がいたけど、見失ったって言ってたわ』
「それってそのルディアって子の勘違いとかじゃなくて?」
『まあ、生体反応だけなら勘違いで済ませていいんだけど、その後を追いかけたルディアが見失ったって言うのが異常なのよ。あの子が融合してるレーダーや監視衛生から逃げ切るなんて、それこそちっちゃいのにステルス機能を持って超音速で飛びまわるヒカル様位しか無理じゃないかしらね』
「あはは、なんかボクが化け物みたいな感じだねぇ」
『実際に位階を上げた、あなたたちの能力は桁違いよ?しかもこの間の巨人級との戦いで更に強くなったでしょ?いくら守護者でも、あのスペックはないわーって感じね』
『私とご主人様の愛のぱうわーですよ。アニマ』
『まあ、話聞いたら偶然の産物みたいなものだからアタシ達が狙ってなれるものでもないしね。まあちょっとだけ注意が必要ってことなのよ』
「ふぅーむ、人間タイプかぁ・・・・」
『一応奴等は「災厄級」って分類を付けたわ。今のところ動きは無いけど、動いたらきっととんでもない災害になるだろうってとこからね』
『災厄級ですか・・・』
『取り合えず伝えたかった事は伝えたからね、アタシ一応この子にもいるけど、本体で各分体の情報集めないといけないから、これからは用があったら呼び掛けてね』
「ああ、ちゃんと本体がいるんだね」
『ええ人形のアメーバみたいなのよ。そこから小分けに動物に融合してるのよ。じゃないと情報集めるの
に効率悪いでしょ?』
「なるほどねー、まあ用があったら呼ぶけどなんかあったら一応教えてね。あ、来るときは自分の首輪の鈴を三三七拍子で鳴らしてよ。そしたら驚かなくて済むし」
『めんどくさいわね・・・まあいいわ、じゃあお姉さまも頑張ってね』
「にゃー」
ノワに戻ったらしく、妙な人間臭さが消えた。
でも災厄級かぁ・・・なんかすごい嫌な予感がするなぁ・・・。
巨人級といい、ちょっとずつ奴等も変わって来てるってことだね、ボクとエレスがそうだったように。
ボクは膝の上に「にゃ」といいながら載ってきたノワを撫でながら、まだ見ぬ敵の事を考えるのだっ
た。
猫は常駐です。
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