いまそこにある危機 その4
少し早めのお昼をロコモコ屋さんでとり、会社目指して車を走らせる。
ちなみに今日食べたのは、ボクがダブル煮込みハンバーグ、優はやっぱりアボガドまみれ、友理はサラダハンバーグ(いわゆる一番オーソドックスなの)だった。
友理は食べきれない分をボクのとこに入れてくるから、ボクも最後の方はオーソドックスなのになってた。
いくら食べても太らないって解ってるけど、さすがに食べ過ぎた。ちょっと眠くなっちゃった。
でも優が運転してくれてるから起きてなきゃね。まあ、ここから会社まで10分くらいだからねー、だいじょぶだいじょぶ、って後ろの友理寝てる!さっきからなんか静かだと思ったら!まあもうすぐ着くからいいか・・・。
会社の駐車スペースに優が車を停車する。ここはボクが生まれ変わる前によく停めてたところ。特に場所が決まってた訳じゃないんだけどね。なんとなーくみんな定位置が決まってたんだ。今のボクはいらなくなっちゃったんだけどね。
あれ?会社誰かがいる。たまに、自分の仕事で片付かなくて気になっちゃうと、出てきて仕事する子がいるんだよねー。
職人気質っていうのかな?ウチの社員さんは今時珍しいくらいに仕事好き。あんまりやり過ぎると労働基準局に怒られるから、しちゃダメっていってあるんだけど、言い過ぎると『自分の仕事っすから』って言って残業の届け出さなくなっちゃうんだよねー。
でも今日は工場のシャッター閉まってるし、来てるとしたら正臣かなぁ?なんか溜まった事務仕事してるのかも。
ボクたちはそーっと事務所のドアを開けて、中を覗き込んだ。
あれ?事務所いないじゃん。でも奥の方からなんか話し声が聞こえる。正臣の声だねー、でも相手の声が聞こえない。
なんでだろ?と思ってそーっと奥の方に行ってみる。
何やらボソボソと喋ってた正臣の声が段々とハッキリ聞こえてくる。
「・・・・・・・んーーなんで今日もきちゃったのかなぁー?今日はヒカルちゃんお休みでちゅよー?それともおじちゃんに会いに来たのかなー?おじちゃんねーウチに居ても暇だからねー会社に来ちゃうんですよー。会社に来てるとねーたまにお客さん来てお話もできるしねー、エアコンも家のより大きいから快適なんでちゅよー」
「にゃー」
まさか・・・子猫と喋ってる!?
「あ、おじちゃんごはん買ってきてあげるの忘れちゃったなぁー。ヒカルちゃん昨日あげようとしたらねこちゃん居なくなってたから、残ってるごはんあるかもねー、あったらヒカルちゃんにあげていいかきいてみまちゅねー。どれどれー?お、ありましたよー♪じゃあちょっとヒカルちゃんに聞いてみまちゅねー」
そういうと正臣はポケットからスマホを出して電話をかける。多分ボクに・・・。ちなみに後ろ向いたままだから事務所に立ってる僕たちには気付いてない。
ブルブルブル・・・・あ、さっきのロコモコ屋でバイブにしたままだった。
受話ボタンをピッと押してスマホを耳に当てる。目の前に居るからそんなことしなくても聞こえてるんだけどね。
「お、もしもしヒカルか?休みんとこ悪いな。いま猫が来ててさ、エサ欲しがってるんだよな。冷蔵庫の昨日の残りあげてもいいか?」
さっきまでの猫なで声とはうって変わったようなイケメンボイス。差がありすぎて、もう笑えない。
ボクは必死に笑いをこらえながら、あえて直接声が聞こえないくらいの音量で答える。
「う、うん、あげていいよ」
後ろの方からも笑いを必死で堪える二人の気配がする。
「お、ありがとな」
「いえいえ、どういたしまして」
「あれ?俺ハンズフリー押しちゃったかな?なんかさっきからヒカルの声がステレオみたいに聞こえるんだけど」
「そう?そう言えばボクもなんか聞こえるかも」
「はっはっは、なんだお前もかしょうがないヤツだなあ」
と、いいながらしゃがみこんで子猫をナデナデする。
すると、子猫がボクに気付き「にゃー」と言いながら事務所に入ってくる。
子猫を追いかけるように正臣の視線も、自然と事務所の中に向けられる。
そこで、スマホを耳に当てているボクと視線があった瞬間、正臣が石化の呪いにかかったんじゃないかと思うくらいに、ピシッっと音を立てて止まった。
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「やぁ」
ボクはニコリとエンジェルスマイルを浮かべて片手を挙げる。
「にゃー」とボクの足にすりすりしてる子猫。
ギギギギと片手を挙げて「ヤァ」と錆びた機械のような動作で答える正臣。
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「い、イツカラソコニ?」
「ん?今さっき来たとこダヨ?」
「ど、ドコカラキイテタ?」
「んーなんで今日もきちゃったのかなぁー、辺りからカナ?」
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「・・・・・・・くれ」
「ふえ?」
「・・・・・・ろしてくれ」
「きこないにゃー?」
ボクは子猫を目線まで上げてニャンとさせながら聞く。
「ころしてくれええええええぇぇぇぇ」
「あははははは正臣恥ずかしがらなくても、意外と可愛いもの好きなの知ってるし」
「うああああああ、恥ずかしすぎるぅううう」
「だいじょぶだよー、ボクらしか聞いてないし」
「え?ら?今、ボクらって言った?」
正臣のその言葉を聞いて、気まずそうに優と友理が出てき扉の陰から出てきて
「た、鷹山くんやっほー」
「おじさまこんにちわ」
と、二人とも挨拶をする。
「なぁんでいるんだよおおおおおおおぉぉぉ」
「みんなでこの子を迎えにきたにゃん」
「あーもうだめだー俺終わったーもうだめだー」
「鷹山くん、ダイジョブよ?人間可愛いものを目にすると8割の人が赤ちゃん言葉になるそうよ?ぷっ」
「絶対嘘だっ!!しかも最後の笑ったし!!」
後ろを見ると優が向こうを向いて肩を小刻みに震わせている。あーツボってる。だめだこりゃ。
「おじさまおじさま。わたしたちの間でもギャップってすごいモテるんですよ。今のおじさまみんながみたら、ぷっモッテモテですよ!」
「せめて最後まで言ってから笑ってくれえええぇぇぇ」
正臣は顔を膝の間に挟んで蹲ってしまった。意外と身体柔らかいなー。
「まさおみーだいじょうぶだって、むしろ入ってきたのがボクらでよかったじゃん。だってボク正臣のそうゆうとこ知ってるし、結構好きだよ?さっきのギャップ萌っていうの?」
「鷹山くん冗談よ冗談。私たちだって、いつもヒカルちゃんから聞いてるし、そんな浅い付き合いじゃないんだから」
「へ?いつもヒカルちゃんから聞いてるの?」
正臣が頭を起こして聞いてくる。
「え?ええ、正臣って猫としゃべってるとき可愛いんだよぉーっていつも言ってるわよ?」
「えへ、ごめん言っちゃった」
「ごめんじゃねぇわばかああああぁぁぁぁぁ」
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「・・・・・・・で?子猫つれに来たって?」
ひとしきり騒いだことで落ち着いたのか、正臣が聞いてくる。
「うん、どうせならウチで飼おうってことになったんだ」
「しかもメスだし、申し分無いわね」
優が子猫を持ち上げてお股の部分を確認している。何故か子猫が妙に恥ずかしそうに、股の部分を前足で隠してる。
「そっか・・・そいつは良かったな」
正臣は煙草をフーーッと換気扇に吹いて寂しげに笑った。
「・・・・もしかして、さみしいの?」
「ばっ、別にさみしくないし?俺どっちかっていうと犬派だし?ヒカルが小動物みたいだからペットみたいなもんだし?」
「人を勝手にペット枠に入れないで欲しいんですけど?」
「おじさまたまにご飯食べがてら遊びに来ればいいんじゃない?そうすればねこちゃんにも会えるし。しかも今のウチに来るとハーレム状態だよ?ねこちゃん含めて。にひひ」
「ボクを女として数えていいもんかね?」
「「いいに決まってるじゃない」」
おお、今度は母娘でハモった。
「だってよ?正臣。良かったねー念願のご飯もゲット出来たじゃない。ふふー正臣もウチの子になっちゃう?」
「ばっ!ほんとにっおまえはぁーなんでそゆこと言うかなぁ」
「「「あはははははははは照れてるーー」」」
でも、正臣も一緒に住んだらそれはそれで面白いかも・・・ね?
あー猫飼いたいなぁ・・・・
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