いまそこにある危機 その3
短めです。
ここ数か月、この辺り一帯では朝と夕方に観測される不思議な現象がある。
何故かその現象は、月曜日から金曜日、時々土曜日にあることもあるのだが、同じような時間に起きるのだ。毎朝のように起きるその現象は、それを見ることが出来る住人たちにとっては、神様的なナニカなんじゃないかと思われるようになっていた。
その現象とは、北から南に走る飛行機雲。それに伴い太鼓を叩くような「ドォォォン」というような音。
毎日のように起こるそれはなぜか皆に『神渡り』などと呼ばれ親しまれていた。
当然、そんな噂話が流れれば躍起になって調べる輩も出てくる。
その中にはもちろん彼もいた。
『防衛省未確認生物対策部 観察調査室』 所属の彼だ。
彼は、本来未確認生物を観察するために、いつでもビルの屋上でカメラを構えていた。だがこのところ、噂話の確認のために『神渡り』とやらが起きる空を眺めていた。
「はーこんな毎日毎日飛行機雲ばっか撮って役に立つのかねぇ」
『神渡り』という現象は、ほぼ必ずと言ってもいいほど同じところに出るので、写真に収めることはとても簡単だった。ただその『神渡り』という飛行機雲を作り出す存在が撮れないのだ。
そもそも飛行機雲は勝手にできるわけではない。その名の通り飛行機が飛ぶときに、排出する燃焼ガスか何かの温度差によって、氷の結晶のようなものが出来て、それが雲のように白く見えるのだ。
と言う事は、飛行機雲を作ってる何かがいる。上司はそれを確かめろというのだ。
「とはいってもなぁ、映らないんだよなぁ・・・」
男はもう一週間ほど毎日のように撮り続けていた。実際に雲が出来る瞬間も取れてる。なのにだ、シャッタースピードを最高に設定しても、もちろんムービーでも撮ったのに映らない。謎である。
ただし、まるっきり収穫が無かったわけでは無い。「ドォォォォン」という音の正体がわかったのだ。
「まさか空気の壁を破った時の音だとはなぁ・・・」
ということはやはりナニかが飛んでいるのだろう。とてつもないステルス性能を持ったナニカが。
「こんなん早く終わらせて女子高の調査に行きてえな・・・」
男はつぶやいて、空を見張り続けるのだった。
その張本人はそんなことになってると知らずに今日も超音速で帰宅するのだった。
「たっだいまー」
「「おっかえりー」」
ボクがスリッパをはいてキッチンに行くと、優と友里の二人でご飯の用意をしてた。
「おーなになに?今日は二人で作ってるの?」
「なんかねー友里が、少しはご飯作れるようになりたいんですって。誰か気になる男の子でもできたのかしらね?」
「ちょっ!ママ!そんなわけないでしょ。わたしはヒカルちゃん一筋なんだから!」
それはそれで問題だらけだよ?友里。
「あら友里ママに挑戦しようっていうのね?いい度胸だわぁフフフフフフ・・・」
「うう、負けないもん!今は全然敵わないけど、いっぱいママのいいとこ吸収しちゃうんだから」
「ぷっ。あははは、がんばりなさいよー、ママはそう簡単に超えられないわよー」
「あははは、なんかまだまだ優のほうが余裕だね。まあ料理とか覚えて損はないもんね、頑張れ友里」
「むぅーなんか二人とも子供扱いしてるぅー、ふんだ!」
まあ実際子供なんだけどね?今のボクじゃ欠片もそんなこと感じられないだろうけどさ。ああ、あの男に戻れた三十分が懐かしい・・・。
「ちなみに今日のご飯はなぁに?」
「んー今日はねーカレーとシチューと肉じゃがよ」
「全部材料同じなんだね・・・。まあ練習だもんね?」
「そそ、どれも今日食べ終わらなくても美味しくなるから寝かせるのもアリかなー?なんて」
「おお、そだねー二日目のカレーとか食べたくても一日目で食べちゃうから、なかなかできないもんね」
「うんうん今日はわたしたちが腕にヨリをかけて、三種類作ったから、食べきることがないでしょ?」
「ふふーなんかうれしいねぇー明日土曜でお休みだし・・・」
あれ?なんか忘れてることある・・・あああっそうだ!
「そうだ!忘れてた!!明日って休みじゃんね?どうしよう・・・」
「なになに?どうしたの?なんか忘れ物?」
「うん・・・忘れ物っていうか、明日休みなの忘れて約束しちゃったんだ・・・」
「誰と?」
「子猫と」
「「子猫ぉ?」」
「うん、子猫。最近会社に来るからご飯あげてたんだけどさ、今日優に飼っていいか聞こうと思って」
「あら、オス?メス?何色?」
「色は真っ黒で、目は金色でさすっごいかわいいの。性別はどっちかなーメスっぽいけど・・・」
「メスだといいわねー」
「なんで?オスだとだめなの?」
「んーダメじゃないんだけどね、私が実家で飼ってた時オスは結構どっかいっちゃうのよね。あとどうしても匂い付けするからね。しょうがないんだけど。だからどっちかっていうと、どっかに行っちゃわないメスがいいかもって」
「なるほどねー、ボク犬しか飼った事ないからなぁ。でもめっちゃなついてるんだぁ」
「子猫って事はまだちっちゃいんだよね?わたしも見たいなぁ」
「ふふー足にスリスリしてくるんだよー、猫缶あげるとウニャウニャ言いながら食べるんだよー」
「なにそれ!かわいいー、ママーウチで飼おうよー」
「いいけど、飼い主さんいないの?」
「うん、ボクが沖縄行った後に来るようになったんだけど、どうもいないみたいなんだよね?飼い主さ
ん。親とか兄弟もいないみたいだしねー。捨てられちゃったのかな?」
「まあ子猫の時点で兄弟とか親がいないってことはそうなのかもね・・・可哀想だけど」
「じゃあ、きっとウチにくる運命なんだよ、その子!」
「「あははっそうかもね」」
思わず優とハモっちゃった。
「むぅ、なんか悔しいなぁ、自然にハモるとか」
「で、明日来たら迎えにくるねーって言って帰ってきちゃったの」
「ああ、なるほど。それで休みなの忘れてたってことなのね」
「うんうん、そゆことなの」
「じゃあ、猫ちゃん二日間ご飯もらえないってことなの?」
「うう・・・そゆことなの・・・」
「猫ちゃん死んじゃわない?」
「い、一週間しかご飯あげてないから、それまでは逞しく生きてたと思うんだけど・・・」
「だけど?」
「やっぱり自分の都合でご飯あげたりあげなかったりはよくないと思うんだー」
確かに平気で生きていけるかもしれないけど、でも中途半端に手は出しちゃだめだと思うんだ。
「んー、じゃあ明日みんなで会社行ってみる?どうせ何にも用事ないし」
「え?いいの?飛んでく?」
「いやいやいや、普通に車で行くわよ。私運転するし。飛ぶって一緒に飛ぶつもりだったの?」
「・・・たぶん飛べるよ?」
「飛ばないよ?私高所恐怖症だからね?私と飛びたかったら殺すか寝かすかしてね?」
「う、うんわかったよ?」
「じゃあ、明日は猫迎えにいってー、こないだわたし抜きで行ったロコモコ屋でご飯食べようよー」
「あら、いいわね。じゃあそのプランで」
「ふふーよかった。あ、ホームセンタで色々猫のものも買わないとね」
「意外とちゃんとしたお出かけになっちゃったわね、ふふ」
とりあえず、明日猫ちゃんが会社に来てますように。
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