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いまそこにある危機 その2

 「んーー今日もよく働きましたーっと」


 ヒカルは机の上を片付けると、両手を組んでぐぅーーっと上に上げて伸びをする。

 その時に、意外と立派なお胸が強調されて、事務所にいる他の男共が、ドキドキしちゃったりしてるのだが、そんなこと気にしてないのか、よいしょっと立ち上がる。

 

 まだ、他の社員が働いているので、一応鷹山に声をかける。


「社長ー、何か手伝えることある?」


 鷹山の側に近付いていって、机の横で首を傾げつつ聞く。

他の社員がいる時は、ちゃんと「社長」と呼ぶようにしている。ヒカルは空気が読めるのだ。


「ん?おお、もうこんな時間か、特にないと思うけどなぁ、帰っていいんじゃないか?」


「そう?じゃあ工場にいる人に一声掛けてくるね」


 そう言って、事務所を出て工場に向かう。


 パタンと、ドアが閉まるとキム公が鷹山にチラッと視線を向ける。


「社長いいっすね・・・ヒカルさんと気軽に話せて」


「んー、なんだキム、喋りたかったら喋っていいんだぞ?別にヒカルちゃんは俺のでも何でもないんだから。ああ強いて言えば優さんのだけどな」


「俺、最初によく『結婚してください』なんて言えたと思いますよ。あの頃の自分を誉めてあげたいですね」


「まだキムさんは話してる方だと思うっすよ?俺も話してる方だとは思うっすけど。沢村兄弟なんて話したくて話したくて仕方ないのに接点が殆んど無いから、もう隠し撮りしたスマホの待ち受け画面で満足しちゃってるっすよ」


「お、おいおい?ソレ犯罪な?隠し撮りはダメだろ?本人たちに言っとけよ?あいつらの管理はタクの仕事だからな。あとヒカルちゃんに絶対言うなよ?」


「了解っす」


「・・・・ソレにしてもヒカルさんますます可愛くなってませんか?最近ちょっと艶っぽいというか、なんと言うか、仕種が普通に女の子ですよね?」


「ああ、ソレ俺も思ったっす」


「ま、まあ俺も時々ドキッとすることはあるかな、と、時々だぞ!うん」


「なんか、この間沖縄行って帰ってきた辺りから特にやヴぁいですよね・・・」


「「ああ・・・」」


 実は、再構築したことにより、色々バージョンアップしたためと言うことは、誰も知らないのであった。


**************************************************


「ふっふーん・・・」


 鼻歌混じりに工場の中をテクテク歩いていくヒカルは、そこで珍妙な風景を見ることになる。

 ひとりの社員が機械の配線をしてるらしいのだが、なんだか躍りを踊っているように見えるのだ。

 しかも、時々腕や足が増えるように見える。まるで残像でも残すかのようなそんな感じで次々と、配線を繋ぎ合わせていく。

 不思議に思ったヒカルは手を後ろに組んでテクテク近づいていく。そして近付いて行くと、二人いることが理解できた。顔がそっくりな双子の沢村兄弟である。シンクロでもしてるのか二人がまるで一人の人間であるかのように、線を束ね、圧着し、基盤に繋ぎ合わせていく、その姿はまさに踊っているとしか形容できなかった。

 二人は作業に集中しているのか、結構近付いてるヒカルに気づかない。


「祐樹、後ろのロックタイ(配線を束ねるバンド)とって」


「ん」


 幸樹が言うと、短い返事を返し、祐樹は幸樹の脇の下から手を伸ばして作業台の上にある、ロックタイを取ろうとする。

 運が悪かった、としか言えない。いや、祐樹にとっては幸運だったのかも知れないのだが。


 まず、ヒカルは後ろに手を組んでいた、つまりお胸を若干突き出すような姿勢をとっていた。そして二人の作業風景を初めてちゃんと見たため、少し見とれてしまい油断していたのだ。祐樹はというと、配線を見ながら勘で手を伸ばしたため、ヒカルが居ることに気づいていなかった。

 そして、最後の不運は、ヒカルが作業台と祐樹達の間に立ってしまったことだろう。


 その結果なにが起こったか。


むにゅん。


「ふわぅっ!?」


 祐樹は思った。なんだ?この今まで触ったことのない極上の柔らかさは?しかも柔らかいだけじゃない、柔らかさの中にしっかりとした弾力がある。(この間、約0.2秒)


 確認のため何度か手を閉じたり開いたりしてみる。ぶっちゃけ揉んだだけなのだが。


「ふぅ、ふわぁ!?」


 しかもなんだ?この愛くるしい声は。そこで初めて祐樹は兄である幸樹の肩越しに、自分の右手がある位置を見てみる。

 そこには自分達の憧れのひとが、顔を真っ赤にして、何かを我慢するようにプルプルしていた。

 なんで、こんなとこにヒカルさん?と、情報処理がしきれない祐樹は逆に冷静になってしまっていた。そして、視線を下ろして自分の右手を見ると、なんとヒカルのお胸を鷲掴んでるではないか。

(あれ?俺大変なことしてない?)と思いつつも、何故か手が離せない。それどころかニギニギしたりしてしまう。


「ふわわわぁっ」


「もうなんだよ、祐樹は早くロックタイくれよ」


「こ、幸樹、後ろ、後ろ見て」


「あん?なんだよ、手が離せないからお前に頼んだんだ・・・ろ・・・?」


 幸樹は、後ろにある顔を見て硬直する。そこには何故か顔を真っ赤にして、ものすごくエロい感じになってるヒカルがいた。エロく見えるのはあくまで幸樹の主観だが。


 実はヒカルはただ少し涙ぐんでいただけで、祐樹の手を払い除けたい衝動を我慢していただけだったりする。今の自分が力加減をセーブ出来ない気がするからだ。そんな自分が祐樹の手を振り払ったりなんかしたら、彼の腕はちぎれてしまうに違いない。なので必死に我慢していたのだった。


 幸樹がヒカルのお胸に目をやると、そこにはよく見慣れた弟の右手が。


「お、おまっ!?なに揉んでるんだよっ!」


「ハッ!すっスイマセンッ!?あまりの柔らかさに手が離せませんでしたっ!!」


 やっと離れてくれた手に、ほっとしつつ胸を両腕でガードするヒカル。少し後退りながらフルフル首を振って何とか平静を保ちつつ答える。


「んんっ、だ、だいじょぶ、だいじょぶだよ?こっちこそごめんね?作業の邪魔しちゃって。ソレにおっさんの胸なんか揉ませちゃってごめんね?」


「いえっ!そんなことないっす!!極上でしたっ。もう右手一生洗いませんっ!」


「いやいやいや、ちゃんと洗って!?あそこにもポスター貼ってあるでしょ!?」


 ヒカルは壁に張ってある、保健所から送られてきたインフルエンザ予防のポスターを指差し言う。

 それを聞いた祐樹は


「えー・・・・だめなんですか?洗わなきゃだめなんですか・・・」


 なにやらブツブツと未練がましく言っている。


「当たり前だろ?そういうこと言ってるとマジでヒカルさんに引かれるぞ?そうですよね?」


 いきなり振られたヒカルは「う、うん。まあね」と微妙な顔で頷いていた。


「わかりました。手は洗います。代わりに一緒に写真撮ってください」


「ほへ?写真?別にいいけど」

 

 よっしゃぁぁあ!と心の中でガッツポーズをする祐樹。


 そして、ナァイスゥゥゥ!!と心の中で弟にサムズアップする兄、やはり双子は仲が良い。


 二人はいそいそとスマホを出すと何も言わずにお互いに渡し合う。息ピッタリである。


 そして言い出しっぺの祐樹がヒカルの横に並ぶと、幸樹が祐樹のスマホで何枚か写真を撮り、入れ替わっておんなじことが行われる。

 そして、ひとしきり撮り終えると満足したのか、ヒカルに向かって深々と頭を下げる。


「「ヒカルさんありがとうございましたぁ!一生の宝物にします!!今日はお疲れさまでした!!」


「い、いえいえ、こちらこそこんなんで満足してもらってありがとうございました。じゃ、じゃあボク上がりますね?」


 そう言ってヒカルは事務所に帰っていった。


「・・・・いいなぁ、お前。触れて」


「いやいや、一歩間違えばセクハラだよ!?よかったぁ、ヒカルさん優しくって・・・・可愛かったなぁ・・・」


「そうだなぁ・・・よしっエネルギーフル満タンだし、もう少し頑張るか!」


「おうっ!!」


 その日、二人の修理時間のタイムレコードが、大幅に短縮されたのは言うまでもない。



*************************************



ガチャ


ドアを開けて、ヒカルが事務所に戻ってくる。


「なんだ?結構時間かかったな、誰かの手伝いしてたのか?」


「ううん、手伝いじゃないけど、沢村兄弟と話してたのー。なんか記念に写真いっぱい撮られちゃった♪あの二人なんか面白いねぇ」


 そこに居合わせた男達は思った。


(((あいつら、隠し撮りじゃなくてちゃんとしたの撮りやがった・・・スゲエ・・・いいなぁ・・・)))


「じゃボク帰るねー、また明日ー」


 そう言いながら裏口を開けると


「にゃー」


「わ、びっくり。まだいたんだ?ふふーウチの子になっちゃう?キミ」


 そう言いながら、子猫の喉をコリコリすると、途端にゴロゴロと喉を鳴らす。


「んーかわいいなぁ、帰ったら優に聞いてみようっと。明日も来たらウチに連れてってあげるかもよー」


「にゃぁー」


「ふふーそうかよしよし。あ、お昼の残りあげるからちょっと待ってて」


 ヒカルがそう言って冷蔵庫に行って猫缶を持って帰ってくると、何故か猫はいなくなっていた。


「あれー?待ちきれなかったかなー?まあいいか、明日も来るだろうし」


 ヒカルは再び猫缶を冷蔵庫にしまうと


「それでは今度こそ帰りまっす」


 と言いながら敬礼して、裏庭にでていった。

 後ろの方で「おつかれさーん」と誰かが言っていた。


 一応周りに人が居ないか確認して、ヒカルは一瞬で上空に飛び上がり、フッと力場フィールドで姿を消してしまう。それから数秒もすると、遠くの空から音速を突破した『ドオォォン!!』といった音が鳴り響いてくるのだった。



 そんなヒカルが飛び去ったであろう方向を見つつソレは呟いた。


『いやいや、お姉さま。音速とかありえないでしょ・・・』

ヒカルちゃん災難続きです。

感想、ブクマなどしていただけると小躍りします。

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