いまそこにある危機 その1
少し短めです。
ここんとこなんやかんやと物騒だったりなんだったりしたけど、この一週間はとっても平和だー。
午前中の業務を終えて、今からお昼ご飯だよー。今日は優がお休みだったからお弁当作ってくれたんだー。しかも夕べから煮込んだ角煮がはいってるぅー♪まあちょっと女の子が食べてたら若干引かれちゃうようなお弁当かもだけど、まあ中身おっさんだし?好きなものは好きだし?なーんて思いながら会社の電子レンジでチンしてみた。
パカッと密閉容器(ジップ〇ック万能!)を開けると、少し臭み消しのショウガの匂いがフワッと薫る。
ご飯もあっためよーっと、ご飯のタッパーをレンジに入れたところで鷹山が事務所に入ってくる。
「お、いい匂いだなー、今日の弁当はなんだ?嫁さん製か?」
「うん、角煮ー、あとサラダー」
ボクはちょっとだけ警戒する。
「へえ、角煮かーちょっ「ダメ!」って、かぶり気味みにっ!?まだちゃんと言ってないのに」
「だっていつもお肉の時、正臣ボクのお弁当狙ってくるんだもん!」
「えーだってお前の弁当うまそうなんだもんよー。俺なんて今日も出前の日替わり弁当だぜ?」
「自分で作ればいいじゃん、お肉料理得意でしょ?角煮なんてじっくりコトコト煮込めばできるよ?めんどくさかったらコーラで煮てもできるよ?」
「いやいやいや、自分で作るなんて寂しいだろ?俺は作ってもらった料理が食いたいの!」
「いやいやそれ(日替わり弁当)だって十分手作りじゃん?食堂のおばちゃんの愛がたっぷりとこもってると思うよ?前に集金に来たときに正臣と話してるおばちゃんめっちゃ蕩けた表情だったもん。アレは落ちてるね!」
「そーゆー問題じゃねぇ!おばちゃんの愛はいらねえんだよ、俺が欲しいのはもっとこう!そう!愛だよ愛!!」
なんだよ、そのひと昔のお酒のコマーシャルみたいな台詞。
「おばちゃんのも十分愛だと思うんだけどな。あ、そうだ!結婚しなよ結婚、そしたら作ってくれるじゃん、そのまだ見ぬ嫁さんが」
「・・・その嫁さんが影も形もないんだけどな・・・はははははは」
なんでこいつモテるのに結婚できないんだろうなぁ・・・変な呪いでもかかってるんじゃないか?
「あのお客さんとこの娘さんとかダメなの?確か正臣のこと気に入ってたような気がするんだけど?」
「お客さんの娘さんとくっつけるわけないだろう?なんかあったらどうするんだよ・・・」
「じゃあ、機械メーカーさんとこの事務員さんは?絶対脈ありだと思うんだけどな」
っていうか大概のウチに係わってる女の人って、正臣のこと好きだと思うんだよなぁー、後は正臣の問題だと思うんだけど。
「だから、俺があの子と結婚するとするだろ?そうすると事務辞めちゃうだろ?そしたらあそこの社長さんにも恨まれちゃうだろ?ただでさえ彼女が俺に色目使ってくると、社長めっちゃ機嫌悪くなるんだぞ?あの社長さん彼女のことめっちゃお気に入りなんだからな。そんなんと結婚できるわけねえっての」
ボクは角煮をもぐもぐ食べながらどうしたもんかなーと考える、うはーお肉柔らかー。
『結局会社関係はダメと言う事ですよね?ではいっそのことお見合いでもしてみたらいかがでしょうか』
おお、なかなかいい事言うねエレス、もぐもぐ煮卵うまぁー。
「エレスちゃんはドライなこというなぁー、まあ確かに会社関係じゃないからいいのかもなー、でもなー俺結婚するなら恋愛結婚のがいいなー」
コイツ絶対結婚する気無いだろ?大根もうまいなー味がしっかりとしみてるぅー。
「じゃあさー完全なお見合いじゃなくて結婚相談所とかどう?どれなら出会いはともかく結婚するまではちょっと恋愛気分も楽しめるかもよ?」
「結婚相談所か・・・あれってなんかサクラが混じってるって話じゃなかったか?それに結構お金かかるって聞いたぞ?なんかお金で紹介してもらうってのもなぁ・・・まあそれで結婚してる人たちもいるから一概に悪いとは言えないけどなぁ」
うん、わかった。コイツ絶対結婚する気ないわ。この煮汁どうしよう・・・あ、ご飯にかけちゃお、ズルズルズル・・・んーおいしー、お行儀悪いけどやめられないー。
「まあ、あれだ正臣。とりあえずがんばれ。ごちそうさまでした」
「ん・・・ああ、ってあああああっ!!コイツしれっと食いやがった!全部食い終わってる!!」
「だってお昼休み終わっちゃうし、冷めちゃうし。お肉あげたくないし?」
「少しくらい分けてくれてもいいじゃん!あー食べたかったなぁ角煮たべたかったなぁ!」
「大の大人が恥ずかしいよ?角煮ひとつで騒ぐの」
「お前に言われたくないわ!角煮一個もくれなかったお前に言われたくないわ!!」
・・・もう、しょうがないなぁ・・・ボクはお弁当の袋をごそごそ探る。
トン。プラスチックの容器をテーブルの上に置く
「はいどーぞ。好きなだけ食べたらよいよ」
「お?おおおおお??これはぁ!!」
実は優にお弁当を作ってもらう時に、いつも正臣にとられそうになることを話したら、もう一つ正臣用のタッパーを持たせてくれてたのだ。素直に渡すにはちょっと恥ずかしいので一芝居うったんだけど・・・。
正臣泣いてない?大げさだなぁ・・・。
「うまい!うまいぞぉ!!いいなぁお前毎回こんなうまいもの食ってるのか・・・ちくしょう」
ボクはハァと溜息をつく。
「わかったよ、じゃあ今度から正臣の分も多めに作ってあげるよ」
「うん?作ってあげるって、お前が作ってるみたいじゃないか、作ってもらうだろ?」
「あのね・・・角煮はボクの当番料理なの!だからソレ作ったのはボク!そんなにおいしそうに食べてくれるなら、作ってあげるって言ってるの。・・・別にわざわざ正臣の為に作るわけじゃ無いからね!少しお肉の量増やすだけなんだからね」
あ、アレ?なんでこんなにあっついんだろ?心なしか顔が赤くなってる気がするよ?むぅ変なの・・・。
なんか正臣がポーッとお箸咥えてこっち見てるし・・・。
「まあそういうことだから!とりあえず早く結婚相手見つけなよ」
「あ・・・ああ、そのうちな・・・」
なんか変な雰囲気になっちゃったけど・・・ 「ニャー」
あ、きた!
ボクが裏口のドアをあけると、そこには黒い子猫がいた。ボクが沖縄から帰ってきた翌日から来るようになったんだけど、可愛いんだぁ。なんか足にスリスリしてくるし。
今日は猫缶買って来たんだよー、食べてくれるかな?
猫缶を開けて、小皿の上に半分ほど出して残りはラップして冷蔵庫にしまう。子猫の前に小皿をコトリと置くと、食べていいの?みたいな感じで小首を傾げてボクの顔を見上げてくる。かわゆすぐるぅー。
「食べていいよー」
ボクは抱えたヒザの上に顎をのせて、にっこりと微笑みながら言う。なんだかちょっと呆けたような顔をした後、ハッっとなってウニャウニャウニャと言いながら食べ始める。
なんで猫っておいしいもの食べる時、ウニャウニャ言うんだろうね?かわいいけどさ。
からーんころーん
ここら辺の地区の時間を知らせる鐘の音がお昼の終わりを告げる。
「あ、しまったお弁当洗ってないや。じゃあゆっくり食べてていいからね。」
そう言ってボクはお弁当を洗いに事務所の洗い場の方に向かう。
「ニャー」
子猫はそう返事をすると、ヒカルの後ろ姿をジッと見つめていた。
感想、ブクマなどしていただけると小躍りします。