閑話休題 ある日の合衆国&姉妹
閑話休題になりました。
某合衆国、国際防衛総省の会議室。
中央にある巨大な四面モニターには、巨大な半透明の怪物が映し出されていた。
「・・・以上が日本の沖縄海域に出現した未確認生物のデータです」
眼鏡をかけた若い真面目そうな職員がそう締めくくった。
モニターの周りはテーブルで囲まれており、緊急時には対策本部として使われたりするため、部屋全体はかなり広く作られている。
そんなテーブルでについてモニターを見上げる、各部署の役員や所員たち、約30名程が何とも言えない顔で唸っていた。
「しかし、300mとは・・・何とも言えないデカさだな」
「恐らく今まで確認された奴らの中では最大じゃないか?」
「我々のデータベースの中では最大級ですね、次が30mのウミウシですから、一気に記録更新と言うわけですね」
「嫌な記録更新だな・・・しかし、コイツのベースは結局クラゲでいいのか?まあ見た感じそのままっちゃそのままなんだが・・・」
「恐らく、同じ種類の未確認生物がより集まって、ネットワークを作り、一個体として活動していたと推
測されます」
「ちなみに一匹分の大きさって解るのか?」
「過去のデータから参照しますと、クラゲベースの未確認生物がいました。その大きさは約2m程だったそうです」
「ちょっと待てよ・・・コイツらいったい何匹集まって出来上がってるんだよ。そんだけ『コア』があったってことだよな?」
「計算上では4000程が集まっていたのではないかと・・・まあ不定形ですので、あくまで推測ですが」
室内に沈黙が流れる。
「ちなみに、一匹のクラゲの化け物やっつけるのにどれくらいの被害だったんだ?」
「ソレ自体は元がクラゲだけにあまり動きませんでしたから、一般人の被害は在りませんでした。ただ、捕獲もしくは殺傷に向かった隊員は5名の、負傷者が出ました。幸いにも死人は出ませんでしたが」
「どうやって殺傷した?」
「最終的には任意爆破のミサイル弾でした、銃や感応式のミサイルはゼリー状の身体には通用しなかったらしいので」
「日本在中の航空部隊のミサイルが、最初喰われちまったのとおんなじって事か・・・」
「そうですね、最終的には日本も、任意爆破に切り替えていましたが、なにせあの大きさです、効いてるかどうかも定かではありませんね」
「では、次の資料を御覧ください」
画面が切り替わり、怪物が画面の半分ほどを占めたアップの画像が映し出される。残りの半分に映し出される海面と、光る翼を生やして飛んでいる小さな人影。
「こちらが今回、巨大未確認生物と闘っていたと思われる物体です」
「人のようにも見えるが、人ではないのかね?」
「そうですね、人のようなシルエットではありますが、現在羽を生やして自在に飛び回る人類は、確認されておりませんので、人と呼んで良いかは解りかねます」
「ふむ、ではコレは一体何なんだね?」
「ハッ!日本が隠し持ってるヒトガタロボットとかじゃねえの?アニメ大国だからな、冗談みたいなもの本気で作りかねないしな!」
「そうですね、確率的にはその辺が一番妥当ですが、あれだけの未確認生物と殴りあうような兵器を持っ
ているとなると、条約に触れてしまうので、すぐにでも圧力をかけ、この兵器を解体させるか、同等のモノを世界各国に配備させるかしなければいけません」
再び沈黙が流れる。
「しかしコイツは本当に殴ってこのでかい奴を退治したのか?」
「いえ・・・正確にはこの個体は、未確認生物の攻撃で撃破されています。ある程度までは奴らのコアを、減らしたようですが、途中奴が発射したミサイルのようなモノで破壊されたようです。実際に退治したのは、そのあと未確認生物が分隊を造りだし陸に上がった直後に現れた、こちらの個体となっております」
そう言うとモニターが切り替わり、かなりの倍率で細部までわかる程の写真が映し出される。
「これは・・・騎士なのか・・・?なんか甲冑を着こんだ人間のように見えるが」
そこには、腰まである銀髪をなびかせ、フルフェイスのヘッドギアを着け、紫色にほんのりと発光している鎧を着た戦士の写真が映し出されていた。
「これはロボットには見えませんね、生き物特有の躍動感みたいなものが感じられます」
「ちなみにこの戦士が、陸に上がった怪物たちも一掃したものと思われます。その攻撃方法は『雷』そのものを自在に操るようです」
「天候兵器を使うってことか?」
「いえ、どちらかと言うと雷自体を自在に使っているようです。身体に確認されているスパークはその余剰部分ではないかと思われます」
「雷の電力が一体どれだけの熱量になるかわかっているのか?自在に扱うなんて代物ではないぞ!?」
「ええ、そんなものを扱えるからこそ、あの巨大な未確認生物を倒せたのではないでしょうか?現に最後に彼が使ったと思われる技は、落雷のエネルギーをそのまま身体に蓄積して、未確認生物に直接的打ち込んでいます。その際、雷龍のような生き物が未確認生物の身体から、天に昇っていくのが確認されています」
「まさに竜騎士ってことか・・・」
「彼の正体はわかるのかね?」
「それが、最後の技の余波で半径1キロ以内のドローンが電磁波により壊されてしまい、追跡することが出来ませんでした」
「そうか・・・これは彼女にも意見を聞いてみる必要がありそうだな」
「「「彼女??」」」」
「これは、キミの仲間かね?戦乙女よ」
最高責任者らしき男性が誰ともなく声をかけると、今までそこに無かった気配が生まれる。
最初からそこに存在していたにもかかわらず、誰も認識出来ていなかったのだ。
『そうネ、恐らくだけど私の姉だワ』
気配の方から少し無機質な、それでいて機械的ではない女性の声が答える。
「一体誰なんですか?あれは」
所員の一人が押し殺したような声で責任者に問いかける。
「あれなんて失礼な呼び方をするもんじゃない、レディに向かって。彼女は戦乙女。20年ほど前に私たちの前に現れた守護者だ。俗称はルディア、最高機密にして我々の仲間だ、今のところはな」
「今のところってどういうことです?いつか敵になるってことですか?」
男達が警戒心を露にする。
「慌てるな、ばかもんが。元より彼女は人類の守護者では無いのじゃ」
「そ、それじゃ一体何を守っているんですか?」
責任者は地面を指差しニヤリと笑う。
「地球じゃよ。彼女が言うにはお母様と呼ぶらしいがな。我々がいまだに地球に公害を垂れ流しにしておったら、この地球から消去されたのは人類だったかも知れぬよ?幸いにも現在は各国が様々な対応策にて、地球の事を考えて行動するようになってきたからの。ギリギリ及第点をもらっているという状態かの」
『まあ、今のところはあなた達が滅ぼされるということはないわネ。今現在優先度は侵略者のほうがずっと上だしネ』
彼女は暗闇からゆっくりと歩みだしてダウンライトの下まで進み出る。
その姿を目にした所員の達は思わず感嘆の溜め息をつく。
彼女は美しかったのだ。生き物とは思えないほどに。実際よく見ると少し肌の質感が人間では無いことがわかったかも知れない。
「機械人形・・・?」
誰かが呟く。
『失礼ネ、私は別にあなたたち人類に作られたわけじゃ無いのヨ?「機械」なんてあなた達が作った物の名前を入れないでほしいワ』
「ほっほっほ、手厳しいのう。彼女は超生命体じゃよ。地球が侵略者と戦うために産み出したな。彼女はあらゆる金属と融合することが出来るのじゃ。彼女と融合したものは例え空母だろうと一瞬で彼女の意のままに動き変形する」
「それってトランスフォ・・・・」
言いかけた男の口を人差し指でルディアが止める。その動きは誰も目で追うことが出来なかったのだが。
『ソレ以上は言っちゃダメヨ?色々な大人の事情がからんできちゃうかラ♪イイコにしてなさい、ネ?』
男は顔を赤くしてコクコク頷くしかなかった。しかし赤くはなったものの、唇に触れた彼女の指の冷たさに、誰よりも彼女が人間で無いことを理解してしまった。
後に彼がものすごいメカフェチに目覚めてしまうきっかけになったのだが、それはまた別のお話。
「話を戻すが、『姉』ってことは守護者なのか?えーと、彼っぽいけど」
『ええ、間違いないワ。私とは違う能力だけど、本質が一緒だもノ。なんで男になってるかは謎だけどネ』
「どういうことだ?」
『基本的にお母様って女の子が大好きなのヨ。だから私たちは同じような存在が何体かいるのだけれど、
「姉妹」しか存在しないのヨ。だから姉が男の姿になっているのが凄く謎だワ』
そしてチラリと竜騎士と呼ばれた彼の写真を見て心の中で思った。
(ちょっとカッコイイかもネ。お姉ちゃんじゃなかったラ口説いちゃおうかナ)
「じゃあ姉ってのはおかしいんじゃないか?彼はどう見ても男だと思うぞ?」
『ええそうネ、今度日本に行って調べてみようかしらネ』
「不法侵入する気か?」
『失礼ネ、私は元々どこの国にも属してないわヨ。不法侵入になるわけないでしョ』
「まあ、どちらにしてもこちらの重要人物は日本を中心に活動しているらしいですので、きっと正体もそのうちに明らかになるでしょう。未確認生物・・・侵略者と言ったほうがよろしいですかな?」
『どちらでもよいわヨ』
「でわ、正式に侵略者と呼びましょうか、奴らと戦っていると言う事は敵ではないと思われますので、接触の方はルディア嬢にお任せしてもよろしいですか?」
『ええ、よくってヨ。きっと戦いになったらあなたたちじゃどうにもならないでしょうかラ。ちょっとあの彼が出てきたら私でも危ういかもだけド』
「ちなみにだが、彼女は何番目の姉じゃね?」
『おそらく能力的にいって、一番最初の姉かもしれないワ。ちなみに私は末っ子ヨ、今のところだけどネ』
「あんた・・・いやルディア嬢は何番目なんだ?」
『確か11番目だったと思うワ。一番新しいから機械や金属と融合する能力になったのかもネ』
「君たちみたいな存在が11体も・・・本気でエコ活動しててよかったと思うぜ」
「それでは本日の情報報告会議を閉会させていただきます。尚、ルディア嬢の事は口外されぬよう、一応極秘扱いとなりますので。ルディア嬢は日本に向かわれる時は、お止めはしませんが一応報告だけしてください。それとGPSの入ったブレスレットもお持ちください。よろしくお願いします」
『わかったワ』
そう答えると再び溶け込むようにその姿は消えていった。
「一体彼女達はいつまで人類と共に闘ってくれるんでしょうね」
「まあワシの勘じゃがなな・・・我々が死ぬまでは敵にはならんと思うぞ?」
「何故ですか?」
「ワシがルディアに聞いた話じゃ彼女らの一番最初の姉とやらは、人類が生まれる前から戦っておるらしいからの。ワシらの、いや人類史なんぞ彼女らには瞬きほどの時間じゃろうな。そして奴らはそんな昔からこちらに来ておると言う事じゃ。にも関わらず滅ぼすことが出来ておらんのじゃぞ?あの強大な力をもってしてもな。じゃからワシらの敵になるなんてことはまず無いのじゃよ。ほっほっほ」
最高責任者の笑い声が響く中、その部屋にいた他の者たちは、あまりにスケールの違う時間の戦いの概要を聞いて口を開くことが出来なかった。
姉妹11人出てくるのかな・・・?とりあえず1人目です。
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