雷人とらぶる?
おかしい。
巨人級は沖合で思案していた。
折角あそこまで大きくなっていた自分の身体を分けてまで細分化して、島の生物を喰らうために放った同胞達の反応は一斉に消えた。
最初は何体も生物を捕食していた感じがあったのに、途中から無くなってプツリとリンクが途絶えたのだ。
これは異常だ、今までこんなことは無かった。
かなり昔の事だが、まだ今と同じくらいの大きさだった頃、岩の巨人のようなものが自分の前に立ち塞がったことがあった。その時も殴ってくるばかりで大した攻撃をしてくるわけでは無かったが、勝ち目がないと悟ったのか自分に覆いかぶさって岩の中に閉じ込めてきた。
不覚にもそのせいで数年は動くことが出来なかったが、岩に出来た隙間から少しづつ分離して封じ込められた海底から抜け出して、再び一つになった。
その際に自分たちと同じ存在がいることに気づき、長い時間をかけて取り込んでいった。
大きくなった自分はすでに海底に敵無しだった。時にはとても大きな鋭い歯を持った魚や、長い10本の足を持った軟体動物など、様々なものと戦い取り込んだ。その間にもこちら側に来た同胞と一つになりながら、ジッと海底で力を蓄えてきたのだ。
大きさも力も魂の数も、自分以上の存在はいなくなったはずだ。
現に鉄の鳥などいろんなものが攻撃を仕掛けてきた。最初は海底の敵との攻撃の違いに少し驚いたが、結局自分には少しのダメージも無かった。迷わず叩き伏せた。しかし、鳥の中から出てきた生き物を食べた時にとてつもなく満たされる感覚があった。そしてそれと同時に思い出したのだ、自分の、いや自分たちの使命を。
あまり知性の無い生物に憑りついたせいなのか、魂が肉体に引かれて知能が落ちてしまっていたらしい。
今身体を構成する魂を原初の魂に帰属させることによって、知能を引き上げる。色々なことを思い出した。
自分が何故ここにいるのか、自分が何故喰らうのか、そして本当に喰らい殺さなければいけないのは、地上にいる大きな魂の持ち主たちだと言う事を。
今の自分なら大いなる目的をすぐにでも達成することが出来るはずだ。鉄の鳥なんて問題にならない、多少海底の敵よりも素早くておかしなものを飛ばしてくるだけだ。まるで問題にならない、ならないはずだった。
突然現れたアレはなんだ?鉄の鳥よりも遥かに小さく、鳥の中の生物よりもまだ小さいのに自在に空を飛び自分にダメージを与えてくる。少しづつだが魂が消耗させられた。
今までダメージは与えられても、魂が消されることは無かった。いや違う。一度だけあった。
自分を海底に封じた岩の巨人、あいつに殴られた時は確かいくらか魂が消された覚えがある。あの頃は解らなかったが、今なら理解できる。あいつと今目の前にいる小さき者は恐らく同じ物、つまりは自分たちの天敵だ。
何度かの交戦があり、自分の分身を撃ち込むことに成功した。これであいつは中から溶かされ消滅するだろう。自分もかなりの魂を消滅させられたので、本来なら捕食して自分の糧にしたかったが、あれ以上戦っていたら消滅させられてしまうところだった・・・。
しかし、この長い時間を生きてきて二回しか遭遇していないのだ、今度会う事があるとしてもかなり先の事だろう。それまでにまた力を蓄えればいい、手始めに目の前の島の生物、いや魂を喰らうとしよう。
そう思って身体を分けたのだが、おかしすぎる。一体や二体は小さい個体なので攻撃によってやられることもあるだろう。しかし一斉に消え去るのはおかしい、あんな攻撃力は無いはずだ・・・奴ら以外は。
そう考えたときだった。
「いよう!待たせたな。今から消し飛ばす、いいよな?」
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巨人級を前にして、俺は昂ぶるのを抑えきれない。
今から新しい力の試し打ちをさせてもらう、もう負ける要素は無い。なので今後の為の試運転だ。
下に見える奴はどこに目があるかわからんからなぁ、俺の事見えてるのかな?見えてるよね?じゃなきゃさっきの自分の台詞、ちょっと恥ずかしい。
だけど奴の雰囲気が変わったのが解る。何か考え事をしてたのか微動だにしなかったのが、触手ウネウネし始めたからな、わっかりやすい奴だな。
無抵抗なヤツぶちのめしても後味悪いからな、臨戦態勢大いに結構!かかってきなさい!
ぶおおおんっ!!
奴の触手がいきなり横合いから迫ってきた。
『ご主人様、避けないのですか?』
「エレスも人が悪いな、わかってるんだろ?前よりもスペックが上がってるの」
そう言いながら右手を軽く持ち上げる。
バッチィィィィン!!
ぶつかってきた奴の触手が、俺に触れた部分から消滅する。一瞬何が起こったのか解らなかったのか、奴は自分の切れた触手の先を気にしている。
『ご主人様、今200倍までの倍率を計測しました。素晴らしいですね、新しい身体は』
「ああ、今度はちゃんと考えて構築したからな、まだ上げれるはずだ。それに今纏ってるのも外骨格だからな、これだけでもだいぶ上げられる。前に言ったよな?強さは俺の想像次第だって。今更ながらにそのことに気づいたって事かな、だからもう大丈夫だ。俺は負けない」
『あぁ・・・可愛らしいご主人様もいいですが、やはり包容力のある今のご主人様もいいです』
「ふふ、そうかい?まあ安心して見てればいいさ。もう消化試合みたいなもんだからな」
奴は触手の先をこちらに向けてくる。バカの一つ覚えの水のレーザーか?やれやれだな。
俺に向かって何百というレーザーが降り注ぐ。今度は力場を展開するまでもない。
「雷陣壁」
一言静かに技名を告げると、俺の周りにブゥンッという音がして不可視の障壁が張り巡られる。迫りくるレーザーは障壁に触れると、その方向をあらぬほうに変えてことごとく外れていく。
『ご主人様、これは・・・?』
「ん?ああ、これはな電気の力で水が持つ静電気を使って反らしているんだ。水道の蛇口から細く水出してその近くに自分の指を近づけると、落ちる水の位置が移動するだろ?あれの強力なヤツだと思ってくれ」
『なるほど、こんな能力の使い方が・・・』
「何も大出力でぶっ放すだけが力じゃないさ、小手先の技こそ大事ってな。俺は格ゲーでそれを学んだ」
いくらレーザーを照射しても当たらないことにイラついたのか、奴は直接殴ってきた。さっき消滅したの忘れたのかね?拳に雷を纏わせて腕を一振りする。
「雷陣鞭!」
腕の振りに合わせて雷の鞭が奴の触手に絡みついていく。無数にある触手を絡めとると一声叫ぶ。
「雷砕!」
奴の触手すべてと繋がった鞭が光り輝き空へと昇る。昇った鞭は雷雲から充電すると一気に駆け下りる。
雷光に包まれる巨人級の巨体、叫び声を上げる間もなく、奴の足は消し炭となって消滅する。
「さて遊びすぎて痛い目合うのは御免だからね、そろそろ決めるぞ」
『ご主人様お手伝いすることはございませんか?』
「うん、もうさっきエレスが作ってくれた雷雲があるからな、だいじょうぶだ」
『では、その雄姿見届けさせていただきます』
「ああ」
俺は30mほどに縮んだ奴を睨み付けながら、右腕を高々と天に向ける。
「雷充電!!」
掛け声とともに俺の身体に雷が落ちる。しかし一切のダメージは無く身体に力が蓄えられる。先程エレスが使っていた技は雷を誘導させる技だったが、この技は雷を纏って直接叩き込む技だ。
これで終わらせる。
奴との間合を一気に詰めると、引いた右腕の籠手が変形して二本の杭が突き出される。
「雷迅粉砕拳ッ!!!!」
拳を叩き込むと、奴の身体に杭が突き刺さる。そしてその杭を起点に雷の嵐が奴の身体の中に吹き荒れる。
『ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッ!!!』
声にならない奴の絶叫が響き渡り、ブルブルとその身体が波打つ。
「ぬん!!!」
すべての雷を流し込み奴を焼き尽くす。腕を引き抜くと透明な身体の中で雷の龍が泳いで奴の中の塊魂を喰らい尽くそうと暴れまくっている。
すべての魂を喰らったのか、満足そうに奴の身体から龍が天に戻っていくと、奴の巨体が光り始め消え始める。すべての奴が消えた後には、小さなクラゲが一匹浮いてるだけだった。
『終わったようですね、素晴らしい技でした』
「まあ、技名は昔のロボットアニメからもらったんだけどな」
『そうなのですか?今度メモリーを漁ってみます』
「それって俺の脳内メモリーのことだよね?変なとこまで見るんじゃないぞ?」
『え、ええもちろんですよ?当り前じゃないですか』
「なんで動揺するんだよ・・・まったく」
バカな話をしながら俺たちは、友里のいるビルに向かった。
「パパ!!やっつけたの!?」
と、言いながら走ってくる友里達三人。俺は武装を解除しながらビルの屋上に降り立つ。
ぽふん!と俺の胸に飛び込んでくる友里。
「ただいま、もちろんやっつけたさ、お前たちを怖がらせた悪い奴はもういないよ」
笑い掛けながら、頭をなでる。くすぐったそうにする友里を見ていると真弓ちゃんが聞いてくる。
「ゆうりぱぱさんってこの間・・・亡くなったんじゃなかったんですか?」
「確かにこの前友里どのは忌引き休みを取ったはずですぞ」
うう、説明しづらいこと聞いてくるなぁ。しかもなんで真弓ちゃん顔が赤いんだろ?
「ま、まあ死んだというかなんというか。さっきからの不思議なことがあるんだからそれこそ俺が生きてても不思議じゃないだろ?」
「いや不思議じゃないかもしれませんけど、生きてる生きてないは別問題じゃないですか?」
まあそりゃそうだな、でもどこら辺から説明したらいいんだろう?
「二人とも!実はパパは改造手術を受けてたの!死んだと見せかけてね!」
「「か、改造!?」」
「そ、そうよ!改造よ!だからすっごいことが出来るようになったっていうか・・・ね?」
なんで自信なくすの?そこまで言ったなら最後まで誤魔化してよいつもみたいに!
俺に抱き着いたまま俺の方を見上げてくる友里。その顔が如実に物語っている。
『どうしよう、うまい事いいわけ思いつかない』と
はぁーと溜息ついて頭をガシガシかくと、エレスが追い打ちをかけるように伝えてくる。
『ご主人様、大変です。どうやら誤魔化すのが限界の様です』
それは今現在限界だよ、現在進行中だよ。これ以上どう誤魔化せって言うんだよ。
『いえ・・・その、お母様にバレたようです』
はい?なんですって?
『ですから、お母様が男の身体になったことに気づいちゃったみたいです・・・』
ええええええええええええええええええええ!?どうなるの?
『おそらく・・・』
と、エレスが言いかけると
ポムン!と俺の身体から煙が出る
むにゅん!あれなんだか懐かしい感触。
『女体に戻されるかと』
煙が晴れるとボクの目の前に友里の頭がある。さっきまでかなり下の方に見えてたのに。友里はというとボクの胸に顔をグリグリして「でへへへへへヒカルちゃんのおムネ~~~」と言いながら人様に見せちゃいけない顔になってる。
ああ、これダメだ。もうだめだ誤魔化せないわ。
「「ひひひひヒカルさん!!??」」
ボクを指刺しながらパニックになってる二人のご友人。
また、ボクの秘密を知る人ができちゃったなぁ・・・。
それにしても・・・結局戻ったの30分も無かったなぁ・・・ちっくしょう。
せめて嫁さんに会いたかった・・・元の身体で。
クスン。(涙)
たぶんあと1話で修学旅行編終わるかと。
感想、ブクマなどしていただけると小躍りします。