俺!復活!?
「ふわぁーすっごいねぇ・・・」
『いえいえーそれほどでもぉ』
エレスは冷めやらぬ熱によって陽炎が揺らめいている場所から、友里たちに向かって歩いてくる。
「今のって結局なんだったの?すっごい雷だったってのは解ったんだけど・・・」
いまだに少し目が見えにくいのか、目を擦りながら友里がエレスに聞く。
『あの技はですねぇ、結局簡単に言っちゃうとぉ自分の思ったところに雷を落っことすっていう技ですぅ』
「簡単に言い過ぎでありますなー」
「あんなすごい技だったのにねぇ・・・」
「でもなんか下からも雷出てたよ?」
『もともと雷っていうのはぁ、地上からお迎えの雷が出てからそこに向かって落ちるんですぅ。わたしがぁそのお迎えの雷を誘導して雷雲からの雷と合わせて目標に叩き付けるっていうとんでも技ですぅ」
「「「ほおおおおおぉぉぉぉ!!」」」
『そんなに褒めないでくださぁい、照れますぅ』
そう言いながら照れて頭をかく仕種をするエレス。
ぽろり
突然その手が肩から取れて、地面に落ちるとザァッっと塵になる。
「「「え?」」」
さすが仲良し三人組驚きまでハモる。それに対してあちゃーといった感じで残ってる手で頬をポリポリとかくエレス。
『やっぱりぃこの技はぁわたしの身体ではぁ負担が大きすぎたみたいですぅ。ほとんどのエネルギーが無くなっちゃってぇ、身体の維持ができなくなっちゃったみたいですぅ』
そう言いながらも少しずつ崩れ始めるエレスの身体。
「ちょっとちょっと!死んじゃうの?エレスさんも?」
『いえいえ死にませんよぉちょっと身体が無くなっちゃうだけですぅ』
「かるーく言ってるけど大事ではないですかなー?」
『いえいえぇ、ご主人さまが復活するまで友里さまたちをお守りできたんですぅ大事無いですぅ』
「ヒカルちゃんも、復活できるの??」
『あったりまえですぅ!ご主人さまをなんだと思ってるんですかぁ?ご主人さまですよぉ!』
「でもさっき首から上しか無かったし、塵になっちゃったんじゃないですかな?」
『毒に侵されてましたからねぇ、細胞は助かりませんでしたが、私たちがいるのはコアです』
徐々にエレスの口調が変わり始める、そしてエレスの身体が崩れてただの瓦礫に変わりつつあった。
『コアになっている精神球はこの世で一番大きな原子です。これ以上は壊れることは決してありません。例えブラックホールに飲み込まれて超圧縮されたとしても、砕けることはないのです。なので奴らの毒が壊せるのは私たちの外側だけです。コアだけになったときご主人様は精神力を使いすぎたために眠ってしまいましたが、以前の時と同様に何かのきっかけを待ってるようにも思えます』
「きっかけってなに??」
『それは私にも解りかねます。ご主人様の考えることが従僕たる私になんて理解できるはずもありません。ですが、きっとご主人様は以前よりも強く美しく生まれ変わるに違いありません』
完全にエレスの身体が崩れて虹色の珠がエレスの頭があった部分にふよふよ浮いている。
「これが・・・エレスさんのコアなの?」
「なんだか綺麗ですなぁーずっと見ていたい気分ですなぁ」
「そういえばわたし、この状態の時火葬場で見てるわ・・・なんか一個の原子っていうのも聞いた気がする・・・取り乱して恥ずかしい///」
『いえいえしょうがありませんよ、たぶんご主人様も死んじゃう感出しちゃって今頃身もだえてるんじゃないかと思いますから。たぶん自分が死なないってこと・・・忘れてたんじゃないでしょうか』
「え?ちょっと待って?火葬場ってなに?なんで火葬場?それって友里のパパのお葬式の時の事じゃないの?あれ?なんだろ、よくわかんなくなってきた」
「ううむ、そうですなぁ、今してたのはヒカルどのの話であって、友里どののパパ上の話では無かったですなぁ」
「あーあぅあぅ、それはね、ちょっと難しい話でして、きちんと説明が必要といいましょうか」
「なんで敬語になってるの?」
「怪しさ満点ですなぁ」
『ええ、取り乱しすぎですね。可愛らしい』
「エレス!あんたがいうな!!全部あんたのせいでしょうが!」
『そんな昔の事は忘れました。ええ忘れましたとも』
殴りたくても先程の話を聞いた後だと精神球を殴りたくないし、技をかけたくても身体が無い。むぅーとほっぺをふくらませて友里は精神球を睨み付けていた。
先程の稲光を見てから行動が停まっていた沖合の巨人級が、思い出したように動き始めた。
そして再び飛来する航空部隊。未確認生物が謎の飛行物と戦って、その大きさが小さくなったのを確認したのだろうか、これを好機と追撃に来たらしい。
『いくら小さくなったとはいえ、まだまだ十分な戦闘力が残ってると思うのですが、無謀ですね』
「また、やられて食べられちゃうのかな・・・?」
「まあ、空気読めって感じだけど、守るために戦ってくれてるんだから死んでほしくはないよね」
「先程よりは小さくなってますからなぁ、がんばってほしいものですな」
地上から女子高生たちにいいように言われてるとも知らずに、航空部隊は頑張って攻撃を仕掛けていた。
今度はミサイルも変更したのか、先程のように飲み込まれる前に爆発している。
「ほほう、どうやら主導で任意に爆発するように変えたらしいですな。自衛団も考えましたな!」
ダメージがあるのだろうか、激しく苦しんでいるように見える。
「あれ?効いてる感じ?あれで倒されちゃうのかな?」
『ご主人様の目覚めがいつになるかわかりかねますので、あれで倒されるなら倒されてくれてもかまわないのですが・・・あまり楽観はできませんね』
ひとしきり爆炎に包まれもがいていた巨人級だったが、炎の向こうからレーザーが発射される。
またも網目のような攻撃に逃げ場を無くした航空部隊が切り刻まれる。
「あちゃーまたやられちゃったよ・・・」
「さすがにパイロットさんたち生きてないですよね・・・」
『何人かは脱出したようですが、いまパラシュートにて落下中なのでまた捕食されてしまうのも時間の問題かと・・・』
「助けたいけど、あんな沖合じゃ無理だもんね・・・エレスもこんなだし」
『こんなとは失礼な・・・先程お守りしたというのに・・・』
「ま、まあ、さっきは助かったけどねぇ、ほらゆうり拗ねちゃう前に謝っときなよ」
「むぅ、さっきはありがとーございましたー」
『なんだか棒読み臭いですがまあいいでしょう。しかしどうしましょうか・・・やっぱりご主人様起こしましょうか?』
「ありがと。でも今は、いいよ。起こして起きるなら苦労しないでしょ?ヒカルちゃんはちゃんと起きてくれるよ。きっと」
三人とエレスは沖合に目をやる。そこには活発にウネウネしちゃってる巨人級がいた。
巨人級は考えた、このままでは向かってくるものしか捕食できない、滅ぼせない。どうしたらいい?どうしたら食料にありつける?そういえばさっきあのうるさい敵に打ち込んだ分身はどうした?陸地に上がってずいぶんと暴れてたようだが・・・あの大きさならいけるのか?今は体が大きすぎて浮力がない地上では歩くこともままならないが、小さくなったら歩くことも出来るのか?では今ある体を半分にしてその半分をまた半分にしてさらにまた半分の半分の半分の半分の半分の半分の半分の半分の半分の半分の半分の半分の半分の半分の半分の半分の半分の半分の半分の半分の半分の半分の半分の半分の・・・・・
沖合にいる巨人級がいきなり真っ二つに分かれた。一つの大きさが50mほどだろうか。
そしてそのうちの半分がまた半分になるとあとは雪崩のように崩れて5m級のクラゲがたくさん生み出される。その数約100匹ほどだろうか、しかも小さくなったためか動きがやたらと速い。
「うわわわわ、なんかいっぱい来たよ?あれやばくない?」
「どうやら本体がさっきやっつけた奴の行動を見て、小さくなると陸に上がっても動けるって学習したみたいですな」
『ええ、大変不味いです。まさかこんなに早く学習して行動に移すとは・・・早くお逃げださい。もう精霊珠も消失してしまったので、今度こそ守る手段がありません』
「よし逃げよう早く逃げようとりあえず高いところに逃げよう!!」
友里のその声を皮切りに三人は走り始めた。
ぞくぞくと上陸して手あたり次第に見つけた生き物を捕食し始める。それは人間だけでなく、犬猫、果ては触手に捕らえた鳥ですらその身体に埋め込み消化していく。
5mの身体は道幅いっぱいで逃げるものを追い立てては捕らえ、捕らえては食べる。島民はほとんど島の裏に逃げてしまっていたが、逃げ遅れてしまっていた旅行客は土地勘も無い故に、すぐに小人級に囲まれて絶望する。
友里達も固まって怯えていたクラスメイトと合流し、上に上に逃げようとしている。しかし、100匹もいる小人級の包囲網はどんどん狭くなっていく、しかも思考がリンクしているのか、その行動は無駄が無く連携が取れている。
怯えきっていた女子高生達が、追い込まれるのは時間の問題だった。
「はぁはぁ、やばくない?なんか追い込まれてる感じがするよ?」
「おそらくそうなのでしょうなぁ、どうも奴らの連携が良すぎますぞ」
「ちょっとエレスどうにかなんないの?」
『少々お待ちください、友里様のスマホとリンクさせていただきます』
「壊さないでよ??」
『このまままっすぐ進んで二つ目の角を右に曲がったところに三階立てのビルがあります。そこになら全
員立て籠もることが可能かと思われますので頑張って移動してください。あと5分で奴らの包囲に捕まってしまいます』
「みんなー!あの角右に曲がったとこにビルがあるからそこに逃げ込んで!!」
友里たちの集団は女子高生ならではの瞬発力を持って、ビルに到達する。しかしビルの入り口の自動ドアが閉まっている。
「エレスどううしよう!閉まっちゃってるよ!」
『私を思いっきり投げつけてください』
「うんわかった!!」
エレスの指示に躊躇なくその本人を投げつける友里。ほんと容赦なく全力投球。
そして世界最大の原子を誇るだけあって、その強度はお墨付き。強化ガラスにぶち当たると一瞬で粉々にした。
「みんな早く入って!!入ったら最上階まで上がって!!」
学生たちは最上階、そして屋上に上がるドアを開ける。
屋上の柵にたどり着くと、友里たちは下を見る。全方位から迫ってくる半透明の生物たち。5mほどの大きさなので二階に届くかどうかだが、安心はできない。何故なら触手があるからだ。たどり着いた一匹、また一匹と触手を伸ばし始める。
「きゃあああ、化け物が登ってくる!」
クラスメイトの一人が騒ぎ出す、たちまちパニックが伝染する。
「だいじょうぶ!!大丈夫だから!!よく見て!あいつらの触手は届かないよ!!」
友里たちはみんなを落ち着かせるために叫ぶ。実際に触手は届いていなかった精一杯伸ばしてもどうやら二階の上部までしか届かないようである。
「ほら、よく見て!届かないでしょ?ね?」
「ほんと・・・だ・・・じゃあ大丈夫なの?よかったぁ・・・」
そんなクラスメイトの言葉に三人は顔を見合わせる。
出た!死亡フラグ!!あの子言っちゃったよ!安心しちゃったよ!!?
再び柵から下を見下ろす友里達。先程までは二階の丈夫だった触手が少しづつ上がってきてる気がする。
その答えは周りから押し寄せる小人級達だった。最初に取りついた小人級に後から来た他の個体がぶつかり合体し始めているのだ。
少しづつその体積を増やしつつ触手を伸ばすと、ついに屋上の柵まで届き始めた。
「きゃああああやだやだ!!上まで来たじゃん!もうやだぁ!!!」
そう言って三階に降りる為の扉を開け階下に逃げ出す。一人逃げれば後に続くのは集団心理の恐ろしさ。
三階が安全かどうかもわからないのに、みんな続いて扉に向かって行ってしまう。
「あたしたちも逃げたほうがいいんじゃ・・・」
真弓がおろおろし始めるが、友里が落ち着き払って言う。
「三階だってもう触手が来てるかもしれないし、だったらまだ見えてる屋上のほうがマシだよ」
そういってるウチに三人以外の最後の生徒が中に飛び込みながら
「あんたたちが囮になればいいんだ!」
といいながら三階に降りる扉を閉めると、ガチャリと鍵を閉めた。
「なっ!!鍵しめることないじゃん!!」
真弓は慌てて扉に取りつきノブをガチャガチャと回すがすでにビクともしない。
迫りくる死の恐怖は簡単に人間性を捨てさせる、例えそれが昨日まで隣で笑いあっていた仲間でも見捨てるほどに。
友人のあっけない裏切りに、悔しさから唇を噛みしめる友里。
「まぁ、やはり級友は友、もしくは親友にはなりえないということですなぁ」
励ますかのように薫子がポンポンと友里の肩を叩く。
「くやしいぃよぉ・・・」
「わたしたちがいるじゃん。だいじょぶだいじょぶって言ってもいられないかな?」
周りを見ると柵を超えた触手は、すでに屋上に5mほど侵食し始めていた。
「さすがに・・・わらってもいられないかな?ははは・・・」
「まあ三人そろって逝ければ、あっちでも楽しいですぞ!きっと」
「二人ともごめん・・・わたしのせいで・・・」
「友理のせいじゃないよ、友理がいなかったらもっと早く食べられちゃってたかもよ?」
「まあ、私は少なくとも後悔はしてないですぞ!二人といられて楽しかったですからな!!」
「二人とも・・・ありがと・・・、あ、そうだ!ヒカルちゃん!まだ起きないの!?起きてよ!!今起きないと後悔するよ?あたし達触手にとんでもなくエロイ事されちゃうかもよ?いいの?ほら!やばいもうやばいってば!起きてってば!」
ピクリとも反応が無い。
『申し訳ありません・・・ウチのご主人様が寝坊助で・・・』
すでに触手は目前までせまってきている。三人はギュっっとくっついて抱き合っている。さすがに三人とも先程体内で溶かされた人間を見てしまっているので恐怖で震え出し、奥歯がカチカチと鳴っていた。
「・・・・けて・・・ぱ・・・すけて・・・助けてぇ!!ぱぱぁ!!!」
ふよふよ浮いていた精神球がカッ!!と眩い光をあふれさせる。
友里たちが眩さに目を細めていると、徐々にその輪郭がはっきりと表れ始める。
180センチはあろう大きな身体、逆光で顔は見えないが友里には見覚えがあるその姿。
そしてカタカタと震える友里の頭の上に置かれる大きな手。
「よくがんばったな。後は俺に任せとけ」
「ぱぱ?ぱぱなの??」
「ああ、俺、復活だ!」
その人物はニカっと子供のような笑顔で笑った。
久しぶりに戻りましたね。
感想、ブクマなどしていただけると小躍りします。