石人形姫エレス参上
エレスが久しぶりに頑張ってます。
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「「はぁっ??えれすぅっ!?」」
驚きを隠せない友人二人。エレスと言う名前には聞き覚えがある。友里の不思議なブレスレット(数珠)を作った人の名前だ。
しかし目の前でキャルーーン、クルリーーンとアイドルさながらに、ターンしてキラッ☆と目元にVサインをかざして星を飛ばして、なぜか心の奥底をイラッとさせるモノは、どう見たって人間じゃない。
「え、エレスって言ったよね?あのエレスさん?」
「お、自動人形ですと??」
オタクな薫子がマニアックな呼び方をする。
するとエレスは右手の人差し指を立てて左右に振ってチッチッチとしながら高らかに訂正する。
『ノンノンですぅーわたしはぁ自立型の支援石人形ですぅーあんな自己再生も出来ないようなお人形さんと一緒にしないでくださぁーい』
その石なのに表情が豊かな仕種に、再び三人はイラッとしながらも、殴ったら自分が怪我するだろうなぁと思い堪えた。
「サポートって・・・何をサポートするの?」
『それはぁ勿論ご主人さまに決まってますぅ。むしろご主人さま意外どうでもよいですぅ』
メリハリ効きすぎてるエレスのキャラに二人はちょっと引きぎみだが、そんな中じっと黙っている友里がいた。
その事に気づいたエレスは、うつむき加減になっていて表情が読めない友里の顔を、下から覗き込むように見る。
『えーっと、友里さま?だいじょぶですかぁ?生きてますかぁ?おなか痛いんですかぁ?』
目をつぶって肩をプルプルさせている友里の目がカッっと開くと、目の前で自分の顔を覗き込んでいるエレスの肩をガッっと掴む。
エレスは心の中で思った。
『あれ?なんかデジャブっていうんだっけ?こういうの。すごいイヤな予感がとまらない』
思った次の瞬間、その予感は的中することになる。友里は掴んだ肩を、母である優に勝るとも劣らない勢いでガックンガックン揺さぶり始めたのだ。
「えれすちゃぁぁん!ヒカルちゃんわぁ?どうなっちゃったのよぅ!?」
『ちょっまっまっって、くっくびっっ、もげっっちゃう、あっあっ、なんっか、ミシっってくびっぃ!!』
「ゆうり!!ストップぅ!!それ以上はヤバイ!エレスさんの首もげちゃうってば!!」
慌てて真弓が友里を後ろから羽交い締めにして、殺人級のガックンガックンをなんとか停める。
「はー、はー、はー・・・」
友里はまだ揺さぶり足りないと言わんばかりの眼光で、エレスをジッと見つめているいる。
『はぁぁぁあぶなかったですぅ、くび、わたしの首まだちゃんとついてますよねぇ?真弓さまありがとうございますぅ、わたしの救世主さまですぅ!』
エレスはエレスで、余程恐怖だったのか止めてくれた真弓の足にすがり付き、感謝を身体中で表していた。
「でっ?」
友人の足にすがり付いているエレスをジッと見つめながらがら、友里は短く問い詰める。
エレスはキョトンと小首を傾げながら頭に「?」マークを浮かべて(どうやっているのかは謎だが本当に浮いている)聞き返す。
『で?と言われましても、わたしにもわからないのですが?』
と答えかけたエレスの肩を、いつのまにか羽交い締めから抜け出した友里が、再びガッっと掴む。
『ひぃぃっ!?』
「もうっ、ヒカルちゃんは?生きてるのダイジョブなのもうっどうなってるのよぅ?」
エレスにしか見えてないが、光が消えた眼で見詰めながら、友里はエレスに問いただす。
エレスは肩を掴んでる手をチラチラ見ながら、首をイヤイヤと振りつつ、涙目で答える。
『だ、だって気づいたらこの姿で座ってたんですぅ、前の時(光一が生まれ変わった時)もそうでしたけど、ご主人さまが意識なくなると、こうなるみたいなんですよぅ。わたしのせじゃないんですぅ。実際わたしが出てきても殆ど能力使えないから役立たずなんですぅ』
「・・・そなの?じゃあ仕方ないか・・・」
友里はやや、気落ちした様子で肩を落として、エレスから手を離すと、ハァと溜め息をひとつついて友人二人に説明するために振り向く。
「あれ?」
そこにいたはずの友人の姿はなく、少し離れたところで何か叫んでいる。
「ゆうりーっ!うしろーっ!!」
「早く逃げたほうがいいですぞーっ!!」
友里とエレスは、仲良くギギギッっと首を回して後ろを振り向くと、そこには触手がうねうねと迫ってきていた。
「『のおおおおおおおぉぉぉぉぉぉ!?」』
急いで逃げ出す二人。しかしある程度距離が出来るとエレスは180度ターンを決めて小人級に突っ込んでいく。
「エレスッだめっ戻って!?」
『友里さまはぁそのまま逃げてくださぁい、わたしが足止めしときますのでぇ』
「だってあなた能力使えないって・・・」
『それでもこの国の防衛隊よりは強いからだいじょぶですよぉ、それにこの子たちちょっとお借りしますねぇ、っていってもわたしがあげたんですけどねぇ、水と土よわたしの手にぃ』
エレスが走りながら両手を左右に拡げると、右手に水の妖精、左手には土の妖精がそれぞれ納まり精霊珠に戻る。
それを、胸にあてがうと珠がエレスの胸の部分に半分程埋まり固定される。
伸びてくる触手を、サイドステップでかわすと触手に向かって右腕を振りながら叫ぶ。
『流水斬波ぁ!!』
すると、薄い水の膜がエレスが腕を振った軌跡に沿って、シャァァァッと走った。
触手しばらくうねうねしていたが、やがて動きを停めるとズルリと水の膜が走ったところから、ずれるように地面に落ちてジワリと溶けて消え去っていく。
『どうやら、小さいクラゲ一匹分だとぉ地面の上に落ちたら死んじゃうみたいですねぇ』
こんな状況でも分析することは忘れない。
そんなエレスを脅威とみたのか、複数の触手が槍のように突き出される。
エレスは、そんな触手を見ながら慌てずに左手を空中で掴むような形でかざして叫ぶ。
『地殻牙砕ぉ!!』
地面から壁がせり上がって、迫り来る触手の槍を受け止める。壁に突き刺さった触手は、尚もエレスに向かって進もうとうねるが、それを見ながらエレスは掴みかけている左手を、グッっと握り締める。
すると、触手を受け止めていた壁が、中ほどで折れて触手を噛み砕いた。まるで肉食獣が咀嚼するかのように、グッチャグッチャと音をたてながら。噛み砕かれた触手は、斬られた触手と同様に、土の顎の中で溶けて消えているようだ。
「エレスどのやりますなぁー魔法・・・いやアレは精霊術なのですかな?カコイイですぞーっ!」
何やら1人テンションあげあげの薫子だが、他の二人はどことなく心配そうにエレスを見つめている。
そんなエレスは友里の方を振り返り質問してきた。
『友里さまぁ、他の精霊珠はぁどうされたんですかぁ?』
友里は防御に使った時の事を思い出す。
「えっと、赤の珠は奴の水を食らって消えちゃって、緑の珠と紫の珠は、消えてないんだけど、どっかに飛ばされちゃってわかんなくなっちゃって、残りの珠は今エレスが使ってるその子達だけだよ!」
『ふむぅ、ありがとうございまぁす』
エレスは考える。赤の珠は火の精霊だから、水をかけられて消えてしまったのだろう、緑と紫は風と空
だ。そして風の精霊は先程沖合いでの死闘の際、ご主人さまを守ろうとして消化液に溶かされて消滅している。と言うことは、まだ空の精霊はどこかにいるはずだ、と。
『空の力の使い方は解りませんけどぉ、よく考えたら精霊その物に聞いたらぁよかったんじゃないですかぁ』
何故こんな簡単なことに気づかなかったんだろう、きっとご主人さまに報告したら怒られるんだろうなぁと、思いつつエレスは天に右手をかざして喚ぶ。
『空の精霊珠ぁわたしの手にぃ!!』
あれ?反応ない?ひょっとして飛ばされて消滅しちゃった?
だとしたら、この右手をかざしたわたしってばめっちゃ恥ずかしくない!?などと無表情の下でエレスが汗をダラダラ流しながら待つこと10秒。
遠くの方から横に閃光が走ったかと思うと、エレスの上げた右手の上に紫色の燕尾服のようなスーツを来て、髪の毛が逆立った目付きの悪い精霊がふよふよと浮いていた。
『あ、あなたがぁ空の精霊?ですかぁ?』
エレスが恐々尋ねると、空の精霊はチラッと一瞥してフンと鼻を鳴らして、コクリとしょうがなさげに頷く。
『自分で造っといてなんですけど、初めてみましたぁ。あなたのぉ能力ってなんなんですぅ?』
エレスにそう聞かれた空の精霊は、ガーンとちょっとショックを受けたような顔になったあと、今度はアレ?という顔になり、腕を組んで考え込んでしまう。
エレスと空の精霊がこんな話をしている間もがっふがっふと土の顎は一生懸命触手を咀嚼している。しかし、そろそろ奴等の消化液が溜まりだしたのか、鋭かった牙もポロポロと崩れ始めていた。
『まさか・・・自分が何を出来るのかぁわかってないんですかぁ?』
エレスがド直球で空の精霊に聞くと、先程の強気な態度はどこにいったのか、少しシューンとしてしまう。
そんな空の精霊を見てエレスは微笑みながら抱き締める。
ちょっとビックリする空の精霊。そんな空の精霊にエレスは語りかける。
『わたしはぁこんなんですけどぉみんなのお姉ちゃんみたいなモノですぅ。お姉ちゃんのほうがぁみんなの能力をちゃんと知らないのがいけないんですぅ。だから、ゆっくりと何が出来るのかやってみましょう?ね?』
空の精霊はそんなエレスを胸の中から見上げるとコクリと頷く。そしてそのまま珠に戻ると、エレスの胸に埋まっていく。
それと共にエレスは、一体となった空の精霊の能力を理解する。
『空っていうのはぁそういうことだったんですねぇ。これじゃご主人さまも解らないわけですぅ』
そう言うとエレスは左手を小人級に向け技名を叫ぶ。
『地蛇封縛鎖ぉ!!』
地面から数十匹の蛇が立ち上がり鎌首をもたげると、一斉に小人級に襲いかかるり、その身体を縛り上げて固定する。触手にも噛みついたり絡み付いたりして動きを制限していく。
『蛇ちゃんたちぃ、大技使うのでぇしばらく抑えててくださいよぉ』
そう言うとエレスは足を前後に開き、腰溜めの姿勢をとる。胸の空の精霊珠に語りかけるように力を開放していくと、後ろに引いた右足がうっすらと光りだす。
徐々に徐々に力を高めていくとやがて発光していた右足から、パチッパチッと空気が弾けるような音がし始め、段々とパチパチからバチバチッという強い音に変化していく。
その頃にはもう力の片鱗が可視化できるようになっていた。
「電気・・・?ひょっとして空って!」
友里は言いながら空を仰ぎ見る。そこには先程までと変わらぬどんよりとした雨雲があったが、その形を変え始めていた。ただの雨雲だったものが渦巻くように密度を増していき、雷雲へと変わり始める。雲の隙間に時折ゴロゴロという音と共に、稲光が見え隠れしている。
『そうですぅ、この子の能力は「空」つまり「空」に関する事象全ての力を司る事ですぅ。道理でフワッとした感じで解らないと思いましたぁ。力が大きすぎて認識できなかったんですぅ。そしてこの技ならきっと奴らを滅ぼせますぅ』
空の雷雲は黒々して、重く頭上にのしかかるような圧力をもっていた。エレスは自分の右足の帯電を確かめると、風の精霊の力で百メートル上空まで一気に飛び上がる。
『喰らうですぅ!稲妻強襲蹴ッ!!』
叫びながら小人級に向かって蹴りを放ちながら落下してくるエレス。そんなエレスに向かって新たに生やした触手を数本ではあるが伸ばして撃墜しようと試みる小人級。だが、そんな小人級が突如ビクビクッと痙攣する。まるで電気ショックを受けたように。
小人級を感電させた電気は空中にいるエレスに向かって下から上に向かって伸び始める。そしてエレス到達すると、今度は上の雷雲が溜まりに溜まった雷を、落下するエレスを後押しするように吐き出した。上下の雷が重なり合うと、エレスの身体は残像を残すほどの勢いで加速し、動けない小人級に右足が突き刺さる。
ピッシャァァアアアアァァアアアアアン!!!
空気そのものを切り裂くかのような雷鳴が轟き、辺りを真っ白に染め上げる。
近くにいた友里達も、音と共に膨張した空気に押し倒されてしまう、そして網膜に光の残像が残ってしまい、しばらくの間何も見ることができなくなる。
『某エースパイロットの技の勝利ですぅ』
などと言っているエレスの声が聞こえて、少しずつ視力が回復した友里達の眼に映ったのは、少しばかり触手の先端が残っただけの、小人級が、余りの熱量に焼き付いた地面と、その真ん中で腰に手を当て、右手でブイサインをしているエレスの姿だった。
久しぶりにエレス書いたら楽しかったです。
感想、ブクマなどしていただけると小躍りします。