振り向けばヤツがいる
すこし短めですが。
今まで自分に有効な攻撃を仕掛けていた敵の気配が無くなったことが解るのだろうか。
巨人級は触手フリフリご機嫌な様子である。
すでに友里達が泊まっていたホテルは、触手から出るレーザーによってほとんど見る影が無くなっていた。
幸いだったのは、その建物に人の死体らしきものが一切見当たらなかったことだろうか。
「はやくっ!なるべく島の反対側に行くんだ!」
島の住民たちは各々自家用車や、役場のバス等の移動手段で避難をしていた。そん中、修学旅行生や、旅行客は、避難誘導から外れてしまいどうしていいかわからず立ち往生していた。
せめて自衛団が機能してくれればいいのだが、沖合にいる未確認生物のせいで、こちらに係わるだけの余力が無いらしい。
これが本島であれば近隣の県から動員されてくるのだろうが、ここは島なのでそれもなかなか間に合わないらしい。
友里たちはそんな中でも無傷でホテルから逃げ出すことが出来ていた。理由は空に浮かぶ三枚の盾のおかげであるのだが、その盾も今や弱弱しく明滅を繰り返して消えそうになっていた。
今もまだ無差別に撃たれるレーザーを、友里たちに被害がありそうなものだけ弾き飛ばしていた。そして今弾き飛ばした盾がとうとう淡雪のように空気に溶けるように消えていった。
残りは二枚。それも恐らく一発くらいしか弾けないだろうと思われる。
「とうとう、一枚消えちゃったね・・・」
真弓がポソリとつぶやく。
「いやいや、がんばってくれたでありますよ、私たちが無事脱出出来たのですから、感謝せねば」
薫子が務めて明るく答える。
「・・・・・・・」
友里は何も言わない、ただ唇を噛みしめてジッと沖合にいる巨人級を睨み付ける。
「ゆうり・・・だいじょぶ?」
真弓は労わる様に友里を後ろから抱きしめつつ問いかける。後ろから回されて腕にそっと触れて友里は答える。
「だいじょうぶだよ・・・ヒカルちゃんはあんなことくらいで死なない、きっと帰ってくるよ」
「「・・・・・・・・・・・・・」」
二人はその言葉に答えることが出来なかった。だってそうだろう、先程のヒカルの状態を見ていて帰ってくるとはとても信じる事ができなかった。それもしょうがない、二人はまだほんの少ししかヒカルの事を知らないのだ、とてもじゃないけど、胸から上しかない人間が生き返るなんて信じられるわけが無い。
まあヒカルが普通の人間だったなら、だが。
何やら逃げてる地元民が騒がしい。かなりパニックになっているようだが・・・。
「デカいクラゲが!!クラゲがくるぞぉぉぉぉ!!」
「ばかっ!!未確認だ!!ありゃ沖にいる奴の仲間だ!!にげろ!!!」
「いやだ!食われたくない!!あいつさっきパイロット食ってたんだぞ!食われるぞ!!」
「足に触手が!!嫌だ!あっあっあっ足があああああぁぁあ溶けてるぅぅっ!!」
「いだっぁあぁぁぁあああああ俺の腕があぁあああああああ!!」
先程ヒカルに刺さっていたクラゲが三体合体したのかもう少し大きめになって上陸しているらしい。
さすがに、水中にいるわけじゃないので、沖合にいる巨人級のようにレーザーを撃ってくるわけでは無いのだが、その触手を使って捕食を始めているらしい。しかも器用に陸地を歩いて。
その姿は友里たちのいる場所からも確認出来た。かなり海辺の方だが屋根の間に見え隠れする丸いソーダゼリーのような物体。沖合にいる生物をかなり小さくしたような生き物が、ゆっくりとだが移動しているのが解った。しかもその半透明な体の中には、何やら人間のようなものが浮いている。しかもまだ生きているのか苦し気に動いているが、徐々に溶かされているのか赤黒い汁が所々からにじみ出ている。
「うわっ・・・あれ食べられちゃってるよね・・・?」
「完全に消化中でありますな・・・」
「あれがヒカルちゃんを・・・」
「っていうかあれって・・・」
「こっちに近づいてきてる・・・まさかね?」
そのまさかであった。巨人級の小さいのなので小人級とでも言おうか。奴はさっき友里たちがいるほうに飛んできているヒカルを見ていたのだ。まだ塵になって消えたところを見てないのだから、止めを刺しにきたのだろう。
そしてそのことには友里達も気づいてしまった。
「アイツ・・・まだヒカルちゃんを・・・しつこい!」
徐々に大きく見えてくる小人級の姿、さすがに周りの人間たちは完全に逃げ去ったのか、体の中に取り込んだ人間を消化しながらズンズンと近づいてくる。
「ちょっやばいって!逃げないと!」
「これは流石に観察とか言ってる場合じゃないですな!」
消えかけてた盾が最後の力を振り絞るかのように激しく回転して、小人級に突っ込んでく。すでに盾としては役に立たないと思ったのだろうか、特攻である。
盾は二枚とも小人級の触手を切り落としながら、その体に切り込んでいった。
多少は奴らの魂を壊すことに成功したのだろうか、小人級の大きさが少し縮んだような気がした。まああくまで気がした程度なのだが。
しばらくダメージのせいか、立ち止まっていた小人級だが、しばらくすると再起動したのかまた触手フリフリ動き出す。しかもなぜか目標が友里たちに設定された気がする。なぜかそういう視線みたなものを感じるのだ。
「と、とりあえず逃げよう!いいから逃げよう!!」
「ですなっ!!逃げましょうぞ!」
「ううう!!くやしぃよぅ!!」
「ゆうり!いいから!とりあえずにげよっ!!」
「ううー……ごめん二人とも……、今は、にげよう」
小人級はその触手をゆっくりとだが友里たちに向かって伸ばしてきた。
「うわわわわわ!きたきたきたー!食べられちゃう食べられちゃう!!」
「うはーすでに先客がいますぞ!四名様が骨みたいになってますぞ!!」
友里は腕輪を見る。そこに残っている珠はあと二個。まだ使えるのだろうか?
「お願い!出てきてっ!!」
そういって右手を上に向かって突き出す。すると水の珠と土の珠が光り出して、精霊が現れる。今度は飛んで行ってしまったわけじゃないのではっきりとその姿が見えた。友里達に目の前に青いドレスを身にまとった妖精と、金色の甲冑のようなものを着こなす妖精がふよふよと浮かんでいる。
「無理させちゃってごめんね。足止めお願いできる?」
と友里が聞くと、妖精二人(?)はコクコクと頷きあい、小人級をキッっと睨み付けると、勢いよく飛んで行った。
「あんなちっちゃいのにだいじょうぶですかな……?」
「なんかちょっと可愛いだけにもったいないね」
「うん……さっき守ってくれたので疲れてるのに……でも私達じゃなんにもできないから……」
妖精二人は小人級のそばに来ると攻撃を開始する。まずは土の精霊が地面から民家の壁から無数の槍を生み出すと、小人級に突き刺してその動きを止めた。
「おお、すごい!がんばってくだされ!!」
そして今度は水の精霊が空中にいくつもの水の球を浮かべると、小人級に叩き付けた。おそらくあの速度で叩き付けたら水の球はボーリングの球くらいの硬さになってるであろう攻撃。
「かわいいけど、すごい・・・」
三人は逃げるのも忘れて妖精たちのバトルを魅入ってしまっていた。はよ逃げろと言いたい。
しかし小人級はそんな攻撃など効いてないかのように動き始める。そのゼリーのような身体を土の槍からぬるりと抜きつつ、移動を開始する。
「あ、あれ?なんか平気そうだ・・・ね?」
「そうですな・・・はっ逃げないとですぞ!!」
「やっぱ二体じゃ大変なのかな・・・」
「とりあえず、頑張ってくれてるウチに逃げよう」
とりあえず、まだ動きが遅いうちに三人は走り出したのだが、その三人の前に遠くからレーザーが撃ち込まれる。今度は跳ね返す盾が無くなってしまっていたので、ホテルの壁に直撃してその一部を崩れさせる。
崩れた壁は友里達の上から降り注いできた。走り出したばかりの三人は落ちてくる壁に対応できずに上を見上げるしかなかった。
それほど大きな破片では無いが、当たればタダでは済まないだろう。
三人は頭を抱え込みなるべくダメージの無いように体を丸めることしか出来なかった。
『そいやぁ!』
友里はなんとなく聞き覚えのある声、他の二人にとっては初めて聞く声が頭上の何かを蹴り飛ばして飛び越していった。
三人は恐る恐る頭を抱えた手をほどきながら、声が過ぎていった方向を見る。
そこには頭の横からツインテールを生やした灰色の人影が立っていた。
「だ、だれ?」
『はぁーーーぃい!石人形姫エレスちゃんでぇーす!!』
友里以外の二人は唖然とするしかなかった。
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