友里、修学旅行に行く その10
少し短めです。
『ご主人様・・・生きてますか?』
いちおー生きてるよー、肺も分解されちゃったから声出せないけど、エレスならわかるでしょ?いつも勝手に心の声聞いてるもんね?
いやぁ、それにしてもこっぴどくやられたねぇ・・・まさか再生しようとしても分解されてままならないとは・・・おまけにこっちの分解はなぜか受け付けない・・・なんでだろ?
『どうやら、あの脚一本に百体くらいの魂が凝縮されてるのではないでしょうか。分解はできてるけど向こうの攻撃の手数の方が、多くなってる為にこちらの攻撃が無効化されてるような状態だと思われます』
なるほど・・・無駄じゃないけど、打ち負けてるわけだ・・・これは詰んだかなぁ・・・。
『ご主人様!あきらめたらそこで試合終了ですよっ!』
なんの試合だよっ!っていうかダメじゃんもう手も足も出ないし・・・ほんとに手も足も無いし。
『でも、何か方法があるはずです!私も一緒に考えてあげますから!ほら!出来ますよ!』
ちょっとテンション高めのエレス、ウザい。でもそれだけ切羽詰まってるって事なんだろうなぁ。
突き刺さっていた一本が形を変えてクラゲ形態になっていく。そして数十本の足をボクの無事な部分、つまり胸に伸ばしてくる。まあこんな溶けかけたおっぱいどうでもいいけど・・・ビジュアル的になんかやだなぁ・・・。
『ほらっご主人様!奥様以外の触手に触られちゃいますよ!きゃーがんばってー!』
いや、その言い方だと、ウチの奥さんにも触手があるように聞こえるからね!?あと奥様以外ってしょっちゅう友里にも揉まれてるからね!まあだからって触られていいって事でもないんだけどね。
ウネウネと伸びてくる奴の触手、まあ狙いは胸じゃないって解ってるけどね?ズブズブと触手が胸の中に入り込んで何かを探してる感じがする。でも残念でしたーボクのコアはそこじゃない!
ボクは少しだけ残ってる肩から翼を生やす、左右一枚しか生えなかったけど十分!分解される前に羽ばたくと、何とかクラゲから離れることに成功する。
ボクを見上げるクラゲ、他の二本の足もクラゲに変化し始めている。奴らから離れても、まだ毒や消化液が残ってるのか、再生が出来ないみたいだ。飛びながらも少しずつ分解していくボクの身体が空気中に塵になっていく。
『ご主人様。どうなさるおつもりですか?』
わかんないよ。だってもうほとんど身体が残ってないんだもの。
『どこに行かれるのですか?』
せめて・・・友里のそばまで行って逃げてって伝えなきゃ・・・。
『伝えたところで逃げれないかもしれませんよ?それどころか、ホテルはすでに一度奴らに目を付けられていますので、捕食されるかもしれません』
それはいやだなぁ・・・優に怒られちゃうし・・・あ・・・生きて帰るって言ったのになぁ。
フラフラと飛んでいるとドチャっという音と共にホテルの壁にぶつかった。
「なに?なんかぶつかったよ?」
「なんかすごく嫌な感じの音でしたなぁ・・・」
「お肉を壁にぶつけたような感じの音だったね?」
「ゆうり、あんた家でそんなことしてるの?」
「してないよっ!なんか外から音きこえたよね?うわっなにこれ・・・人の頭・・・ヒカルちゃん・・?」
あーよかったーなんとか辿りついたよー消えちゃう前でよかったー。
「ヒカルちゃん?ねえヒカルちゃんってば!!やられちゃったの??どうしちゃったの!?返事してよっ!ねえってば!!やだよぅ!死んじゃやだよぅ!!ねえ!!!返事してよぅ・・・」
『友里様すみません、ご主人様はすでに発声することが出来なくなっており返事をすることが出来ません。私がご主人様のメッセージをお伝えします・・・。「逃げて、そして生きて」だそうです』
「ばっばかじゃないの!ヒカルちゃんが負けたらもう食べられちゃうに決まってるじゃん!そんなことより立ち上がってよ!再生とかできるんでしょ??ねえってば!!」
ウチの娘さんは無茶ばっか言うなぁ、ボクにかまってないで早く逃げてほしいんだけどなぁ・・・。
『友里様、ご主人様はこうしてる間にも敵の毒と消化液によって分解されています。後数分もすれば跡形も無く塵になってしまいます・・・。なので、意識があるうちに一刻も早くお逃げください』
ありがとう・・・エレス。あの子は甘えん坊だから強く言わないと言う事聞かないんだ・・・。
「うぅ・・・うわぁあああああああああああん!!」
「ゆうり、だいじょぶ??わたしと逃げよう?ヒカルさんも逃げろって言ってるんでしょ??ひぐっ」
「ヒカルどの・・・すみませぬ・・・我々が逃げないばっかりに・・・ヒック」
いいんだよ・・・みんな・・・友里をお願いね・・・。
『おそらく最後のメッセージです。皆さまありがとう、友里様をお願いしますとの事です』
三人は抱き合ってわんわん泣いている、まだ館内に残っていた他の学生も、その声が気になったのか集まってくる。やばい、そんなに集まっちゃうと生命力が奴に感知されちゃう・・・。
奴が動くのが分かった、すでに元の態勢に戻って触手をこちらに向けてる。
エレス!翼!一枚外にあった翼を!防御して、お願い!!
『了解しました!!』
バチィィィィィィィッ!!
同時に外で何かがぶつかる衝撃音が響き渡る。衝撃破で割れるガラス窓。破片が廊下に降り注ぐ。
「「「きゃあああああああああああああ!!」」」」
混乱した学生たちが悲鳴を上げる。
『友里様、力場もいつまでも持ちません、早くお逃げください』
「やだっやだよぅ!ヒカルちゃん置いてけないよぅ!!」
何とかボクを回収しようとする友里。
『いけません!友里様。毒がどんな作用を与えるかわかりません!友里様まで分解されてしまったら、私はもうご主人様に合わせる顔がありません!!』
「でも!でもぉ・・・」
『いい加減にしてください!!ご主人様の想いを無駄にするおつもりですか!!』
ビクッとする友里。ボクに延ばしかけた手が止まる。
そう、それでいいんだよ・・・早く逃げて少しでも可能性があるうちに・・・
『ご友人様、お二人に押し付けて申し訳ありませんが、友里様を連れて行ってください』
「はい・・・」「了承であります・・・」
再び響き渡る衝撃音。
エレス・・・最後の力であと二枚翼を出すから・・・お願い。
『ご主人様!?それではほとんどのエネルギーが!!」
答えは聞かないよ・・・。
ボクは翼を出すと切り離してエレスに制御を任せる。これで盾は三枚、なんとか時間稼ぎくらいできるだろう。
ほとんど見えなくなった眼で友里が、真弓ちゃんたちに引きずられて遠ざかっていくのを見て、ほっと安心する。
あーぁ、優に怒られちゃうなぁ・・・せめて友里だけでも生き残ってほしいなぁ・・・
なんか、後一手足りてれば勝てたのかな・・・あ、エレスごめん・・・仇とれなかったね・・・
『いいんです・・・そんなことはもう・・・』
よくないけど、どうしようもないね・・・ごめん
意識が闇に飲まれていく……そしてボクは崩れて塵になった……
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